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    餅@94

    @Oh_moti94

    遥か昔に成人済みのお腐れ。 拳ミカがメインで官ナギ、ロド、ヨモサテ、真ヘル辺りが偶に出てくるかもしれない。相手左右固定の民なので逆やリバ、上記のキャラの他の組み合わせ等が出てくることはありませんがモブは気軽に出てくる。

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    餅@94

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    クルップで連載してたドラクエ3のプレイ日記的なお話のまとめ。
    基本👻くん視点でラストの番外編だけ✊兄視点。
    ✊👙前提です。アリアハン大陸出るまでのネタバレ有り。
    勇者👁‍🗨ちゃん(ロマンチスト)、魔法使い👻君(抜け目がない)、魔物つかい👙(セクシーギャル)、遊び人✊兄(きれもの)のパーティーで冒険してます!

    勇者あっちゃんの冒険「異世界転生」と言うジャンルがある。
    大雑把な説明をすると、現世で死んだら剣と魔法のファンタジーな世界に生まれ変わっていました、みたいなやつ。
    そして俺、吸血鬼下半身透明こと透は、死んだ覚えもないのにどうやらこの度異世界転生を果たしたらしい。

    「うぉ!? なんじゃこのバカみたいな格好!!」
    「ビ、ビキニ……私のビキニはどこへ!?」


    それも兄貴二人と共に。


    「えー、状況整理しよう。昨日俺んちで皆んなで鍋食って寝た。で、目が覚めたらここにいた。オッケー?」
    「おー、オッケーオッケー。俺の認識でもそう」
    「ここはどこなんだろうか……服装も変わってしまっているし、なにより能力が一切使えないなんて」

    頭になんかよくわからない動物の骸骨っぽいものを被ったミカ兄が不安そうに辺りを見回す。
    どうやらここは酒場の二階らしい。
    ラウンド型のテーブルについて額を付き合わせて状況確認している俺らの他にもファンタジーでよく見る冒険者って感じの格好の人達がチラホラ見えた。
    つーか、これ多分あれだ。ドラクエの世界だ。
    下半身を透明にする能力が使えなくなった代わりにメラ使える気がするもん、俺。
    多分、「メラ!」って唱えたら火の玉が出る。理屈じゃなくて「使える」って感覚がある。
    と、言うことはだ。状況から考えてここはおそらく……。
    「たぶんだけど、ここはアリアハンのルイーダの酒場だと思う。これ、ドラクエ3だ」
    俺の言葉にミカ兄は「それは何だ?」と小首を傾げ、拳兄は「ドラクエって、ファミコンの?」と目を丸くした。
    「うん。俺、メラ使えるみたいだからね。危ないから試さないけども。だから魔法使いだと思う。なんかわかんないけどその自覚ある」
    実際、俺の今の格好はドラクエの魔法使いでお馴染みの緑色のローブだし。
    「拳兄はその格好遊び人でしょ?」と問うと、ド派手なシマシマ模様の服を着たピエロ姿の長男は「おう、なんか俺もそんな気がするわ」と頷いた。
    普段から遊び人みたいなもんなのに、何も本当に遊び人にならなくても……と思いつつ、たぶん拳兄は後々賢者に転職するための遊び人なんだろうと予測する。
    いわゆる上級者にあたる賢者に転職するには「さとりの書」って専用アイテムが必要なんだけども、唯一遊び人だけはさとりの書無しで賢者に転職できるから。
    でも拳兄、催眠も結界も使えない状態でさらに職業が遊び人かぁ……今の時点じゃあんま戦力になんないなぁ。
    んで、だ。問題なのがミカ兄だ。
    ミカ兄の格好は黒のピッタリとしたノースリーブのインナーに毛皮のケープ、同じ毛皮の腰巻きにくすんだ赤のサルエルパンツ。
    極めつけは謎の動物の牙状のアクセサリーと頭に被った動物の骸骨だ。
    正直、ドラクエ3で見たことの無い格好なんだけども、これってもしかして……?
    「ミカ兄は、自分が何の職業かわかる?」
    「あ、ええと……私はまもの使い、だな」
    「うわーーーやっぱりかぁ〜〜!」
    頭を抱えてテーブルに突っ伏す。
    新職業だ! つーことはこの世界は最新版のリメイク準拠だ!!
    「あの、透。私の職業はなにか不味いのだろうか?」
    「あー、違う違う。最近出たリメイク版から追加された職業だから俺も性能がわかんなくて作戦立てづらいなってだけ。でも多分能力高めに設定されてると思うから気にしないで」
    とはいえ、どんなスキルがあるか、そもそも物理向きなのか魔法職に近いのか、それすらわからない。
    そこはもう実際戦闘してみるしかないのか。
    「私はそのドラクエのことはわからないんだが、ここは本当にそのゲームの中なのか?」
    「わかんない。ゲームの中にしてはなんて言うかリアリティがありすぎるし」
    酒場の内装も、ここにいる人達も当然ながらドット絵なんかじゃない。ちゃんとした三次元だ。
    異世界転生物のセオリーでも、転生先がゲームとか小説の中の世界だとしても、生きている人達はプログラミングされた通りの動きをするんじゃなくてちゃんと普通の生きている人間みたいな挙動をするもんだし。
    「まあ、ここがゲームの中だろうが異世界だろうが俺らの常識が通じない場所って意味ではそう大差ないだろ。それよりもどうしたら元の世界に戻れるか、だよな」
    「ゲームと言うならやはりクリアしなければいけないんじゃないのか?」
    難しい顔で腕組みした拳兄の言葉に、同じく難しい顔で腕組みをしたミカ兄が答える。
    うーん、クリアかぁ。
    ここがリメイク準拠の世界として、だ。俺、ファミコン版とスーファミ版はプレイしてるけども、さすがに出たばっかりのリメイク版はまだ手をつけてないからどんな仕様変更があるのかも全然わかんないだよな。
    ストーリーもシステムも大筋は変更ないだろうからスーファミ版までの知識があればクリアする分には差し支えないだろうけども。
    とはいえ、その知識を活かすには俺らが勇者パーティーに入らないと話にならない。
    ここがドラクエ3の世界ならこれは勇者の物語だ。
    とにもかくにもなんとか勇者から呼び出されなくては……と、ここまで考えてハタと気がついた。

    拳兄が遊び人で、ミカ兄がまもの使い。そんでもって俺が魔法使いとしてルイーダの酒場に登録されている。

    ———じゃあ、勇者は一体誰だ?

    (そんなの、この面子がここに揃ってんだから考えるまでもないじゃないか……っ!)

    「ケンさーん! ミカエラさーん! トオルさーん! ご指名よー」
    まるで謀ったかのようなタイミングで下から声がかかる。
    椅子を蹴倒す勢いで階段に向かって走り出し、ほとんど滑り落ちるようにして降りた一階の酒場カウンターの前に居た勇者は俺が予想した通りの人物だった。
    「あっちゃん!!」
    「お にいちゃ ゃぁ ん!!」
    俺の顔を見た途端、泣きながら飛び込んできた勇者の格好のあっちゃんを抱きしめる。
    やや遅れて降りてきた拳兄とミカ兄も「あっちゃん!?」と後ろで驚きの声を上げていた。

    ◆◆◆


     わんわん大泣きするあっちゃんを見かねてか、この世界では勇者が小さい頃からの顔馴染みって設定らしいルイーダの好意で用意してもらった個室に場所を移す。
     これまた好意で出してもらったドリンクにも手をつけずにポロポロ泣くあっちゃんを宥めつつ、ここまで何があったのかを聞いていくと、それはまんまドラクエ3のオープニングイベントの内容だった。
    「よく わ かんな かっ た けど、旅 に出る 前に ルイー ダの 酒 場って とこに いっ て 仲 間をあ つめ てきな さい って 言わ れ て、 そし たら おに いちゃ ん たちの おな まえあっ た から……」
    「うんうん……一人でよく頑張ったね」
    「大変な目にあったな、あっちゃん。さぞ心細かったろうに」
    「ここで合流できて良かったわ。怖かったよな。可哀想に」
     起きたら知らない家に一人ぼっちで、状況を把握する間もなくいきなりポッと出の母親にお城に連れてかれて王様から「魔王を倒して来い」なんて言われるんだもん、きっとすごくびっくりしたし心細かったろう。
     しかし、これでここはドラクエ3の世界で確定だ。
     そして勇者はあっちゃん。勇敢なる勇者オルテガの娘、あっちゃん。世界観むちゃくちゃだな。
    「念の為に確認しておくけども、ドラクエ知ってる人ー」
     挙手をしながらの俺の言葉に拳兄は「お前がやってる横で見てたくらい」と答え、ミカ兄は静かに首を横に振り、あっちゃんは「やっ たこ と ある子も い る けど あん まり おぼえ て ない」と申し訳なさそうにした。
    「あー、あっちゃん気にしなくていいよ!念の為に聞いただけだから! 俺が一から十まで全部覚えてるから!」
     ニカっと笑って「伊達にFC版もSFC版もクリアしてないよ! 大船に乗った気で任せて!」と胸を叩くとようやく泣き止んだあっちゃんがちょっと笑った。
     うん、やっぱりあっちゃんは泣いてるより笑顔の方が絶対良い。
     あーー全く! どこのポンチの仕業だか知らないけどウチの可愛い妹不安にさせやがって!
     シンヨコに戻ったら絶対許さないからな!
    「じゃ、全体の指揮はお前に任せるわ。よろしくな、透」
    「うん、任された。では今後の方針決めるための作戦会議といきますか」
     パン! と手を叩いた俺の言葉に全員が真剣な顔で頷く。
     俺も皆に頷き返して口を開いた。
    「じゃあまずは当面の目標だけれども———」





    「———うん、こんなもんかな。じゃ、おさらいするよ。目指すのはこのゲームのクリア条件である大魔王の討伐。レベリングと装備をしっかり整えて、絶対に無理をせず、不測の事態に備えて全滅だけは避ける。もし誰か一人でも死んだらすぐに街に戻って教会で生き返らせる事。オッケー?」
     しばらくあーでもないこーでもないと意見を交わした結果、当面の方針が決まった。
     と言っても簡単な話だ。
     とにかく、敵にやられないように気をつけてゲームのストーリーにそって旅をする。ただそれだけ。
     もっとも、なんの情報もない今の状態ではそれしかできないんだけなんだけどもさ。
    「あと、単独行動も避けた方が良くないだろうか? 知らない世界なんだ。何があるかわからない。特にあっちゃんは絶対一人にはさせないようにしないと」
     ミカ兄の指摘に確かにそうだと頷く。
     ゲームだと基本的にパーティーがバラバラになることはないけども、ここでもそうとは限らないもんね。
    「ああ、うん。そうだね。じゃ、単独行動は避けること。他にはなんかある?」
    「あ、んじゃ俺からも」
     スッと拳兄から手が上がる。
    「なるべく全滅はしないように、って話だけどな。それ以前にお前らは絶対に死なない事を最優先にしてくれ。———後から生き返らせられるってわかってても、目の前でお前らに死なれたら俺が正気でいられるかどうか自信が無え」
    「情けねぇ話だがな」と拳兄が皮肉げに口元を歪めて笑うらしく無いその姿に、俺は思わず言葉を失ってしまう。
     上手く応えることができなくて、一瞬シンッ……と重くなりかけた空気を破ったのはしかめ面をしたミカ兄だった。
    「正気を疑うような格好をしている今の貴様にそんな事を言われても全く心に響かんな」
    「お前なぁ……仕方ないだろー。俺だって好きでこんなバカみたいな服着てねぇんだよ。この服は遊び人のユニフォーム!」
    「普段の格好とそう違いは無いが?」
    「全然違いますぅー! 普段の格好の方がかっこいいですぅー!!」
    「まったく……そんな壊滅的なセンスをしているからあんな世迷言を吐くんだ」
    「はぁ? 世迷言って、お前。俺は真面目に……」
    「……まさか無意識なのか? だったらなおのことタチが悪いぞ、愚兄。貴様、今『死なない事』の対象から自分を外していたじゃないか! それを世迷言と言わずしてなんと言うんだ! この愚兄!!」
     しかめ面を崩さないミカ兄の指摘に今度は拳兄が言葉を失った。
    「と言うよりもだな、どう考えても私達の中で一番死ぬ確率が高いのは貴様だろう」
    「ええ〜? そんな事は……」
    「無いとは言わせんぞ! 貴様の事だ、結界も催眠も使えない、そんな状態でも私達を敵から庇おうと前に出るだろう?」
     それは……まあそうだろうな、と幾度となく拳兄の背中に守られてきた俺も思う。
     たとえ自分自身に身を守る手段がなくても、きっと拳兄は俺達を守るためなら躊躇いなく敵の前に飛び込んでいくんだろう。その姿は簡単に想像できた。
     拳兄自身も否定できないのか微妙な表情で黙りこくってる。
    「……兄さんが私達が傷つき倒れる姿を見たく無いと思うように、私達も兄さんが傷つくところなんて見たくないって、思っているのに、なのに、兄さんはいつも……いつだって……う、うぅ〜〜」
    「あー! お前、さては訳のわからん状況でビキニも無いもんだから結構メンタルにキてたな!?」
     言葉の途中で詰まって子供みたいに顔をしかめてぼろぼろと涙をこぼし始めたミカ兄を大慌てで抱き寄せ、「悪りぃ悪りぃ。全然気づいてやれなくて」と平謝りする拳兄。
     そんな拳兄の胸に顔を埋めて、ミカ兄が「うるさい。ばか。人の気も知らないで」とぐすぐす鼻を鳴らしながら悪態をついている。
     うーん、珍しい。酔っ払って前後不覚になってるときならまだしも、シラフの状態のミカ兄が俺らの前でこんなにもあからさまに拳兄に甘えるなんて。
     俺ら弟妹の手前、なんでも無いように振る舞ってたけど本当は色々不安でいっぱいいっぱいだったんだな、ミカ兄。
     この人、人一倍メンタル繊細だし。
    「まあさ、ミカ兄の言うこともわかるよ。ここでは俺らも戦えるんだから、いつもみたいに拳兄が無理して守ろうとしなくても大丈夫。っていうか、むしろ職業的にこの中で拳兄がぶっちぎりで弱いからね!?」
    「なんたって遊び人だもんなぁ」とミカ兄を抱きしめたままの拳兄が苦笑する。
     そんな俺らの会話に反応したミカ兄が「じゃあますます私達を庇ったりしたらダメじゃ無いか!」といっそう拳兄にぎゅうぎゅう抱きついて大泣きしだしてしまった。
    「もー! ミカ兄落ち着けって!」
     せっかく泣き止んだあっちゃんまでつられて泣きそうになっちゃってんじゃん!!
     あーあ、責任とって慰めろよ、お兄ちゃん!
    「え? 宿屋とか連れ込んで良い?」
     良いわけあるか馬鹿野郎!

    ◆◆◆


    「てぇあっ!!」と気合い一閃、ミカ兄の操るトゲの鞭がしなり目の前の大鴉の群れを蹴散らしていく。
    うん、さすが新規追加職。俺の読み通りステータス高めに設定されてるわ。強い強い。
    文句無しにミカ兄は今のうちのパーティーの主力だ。
    アリアハンを発つ前に、「それは窃盗なのでは……?」と言うRPG慣れしていないミカ兄の疑問の声を無視して街中のツボやタル、民家のタンスに至るまでくまなく漁った結果手に入れたちいさなメダル2枚と引き換えに貰ったトゲの鞭の存在も大きい。
    なにせグループ範囲攻撃だ。序盤でこれは強よすぎる。
    「え い!」とあっちゃんが振り下ろした銅の剣がいっかくうさぎに当たって相手が仰反る。
    すかさず俺がメラを唱えてとどめをさすと、モンスターは光の粒になって消えていった。
    後に残されたのはいくらかのゴールドとアイテムだ。
    正直、モンスターといえども生き物。平和な場所で血生臭い事とは生活を送ってた身としては何かの命をこの手で奪うって行為に躊躇いがなかったわけじゃない。
    一応俺は戦争だって知ってんだけど、先の大戦の時は俺達はアメリカに居たから悲惨な状況を直接目にする事は無かったし。
    だから死体が残らないって仕様は精神衛生上ありがたい。
    それにHPとかMPとかの残量は体感でわかるようになってるし、武器や魔法の使い方も自然と体に染みついてたから戦闘で戸惑わずにすんだのはマジで助かった。
    「あっちゃん!ミカ兄!おつかれ!」
    「ああ、透もお疲れ様」
    「あっちゃ ん レベ ル 上がっ た! いぇ ー い !」
    「イェーイ! おめでとー」とあっちゃんとハイタッチ。
    ゲームじゃレベル上がるとレベルアップのファンファーレがなって「〇〇はレベルいくつに上がった!」ってウィンドウに表示されてたけども、こっちではどうなるのかなぁ?と思っていたらまさかの脳内ファンファーレ。
    最初レベルアップしたときめちゃくちゃビビり倒したよね。何事っ!?て。
    あと、HPとMPが全回復するからレベル上がったのがわかりやすい。
    つーか、レベルアップで全回復するのびっくりなんだけど!令和のリメイク版すごいな!
    なるべくプレイヤーにストレスをかけないようにってことかな?
    なるほど、ストレスフリーな社会。これが令和か。過去作とは時代が違う。
    これが令和かと言えば、街でタルやツボを漁るのが清掃ボランティア扱いになってるのも驚いた。コンプラ配慮ってやつ?
    それでも他人の家のタンス漁る事に関してはフォローしきれないのがちょっとウケる。
    そんなわけで、思ったよりもバトル周りの環境がヌルいんで、作戦が常に「いのちをだいじに」なうちのパーティーは今のところ死ぬような目には遭わずにすんでる。
    拳兄の心配も杞憂で終わりそうだ。
    さて、ここで拳兄の現在の様子についてですが。
    「ええい! 戦闘は終わったぞ! いつまで寝ているつもりだ愚兄!」
    「んがっ!? お……おー、終わったか。お疲れさん」
    戦闘開始早々に遊び人の最大の欠点、“入力したコマンドを無視して『遊ぶ』”が発動して俺らがモンスターと戦ってる横で居眠りしていたので、ただいまミカ兄に蹴り起こされています。
    「いやー、なんか突然体が勝手な事しだすのよ。催眠で行動操られてる時の感覚に近いわ」
    「そんなとこだけゲームまんまなんだよね」
    概ねちゃんと敵に攻撃してくれるんだけども、今回みたいに眠り出したりいきなり遠山の金さんみたいな啖呵切ったりしたりとかして一定確率でまともに行動出来なくなっちゃうんだよな。
    ま、それもこれもダーマ神殿に着くまでの辛抱だ。
    ダーマに到着次第すぐに転職できるように拳兄にはルイーダの酒場にあった宝箱から手に入れたしあわせの靴を履かせてある。
    通常ならレア敵からのドロップで手に入るこのアイテムは、歩くごとに経験値が入る便利すぎるアイテムだ。おかげで俺らはまだレベル7かそこらなのに拳兄だけすでにレベルは10を超えていた。
    いやー、まさかこんなチートアイテムまで序盤からご用意されているとは。ちょっとヌルゲーすぎない? バランス的に。今時のゲームってこんななの? 一緒に各種ステータスアップの種も宝箱に入ってたし。
    マジで俺らをここに放り込んだやつ何考えてんだろ?
    まあ、こっちにはメリットしかないから文句はないんだけどさ。
    種は全部あっちゃんが美味しくいただきました。
    俺、元々ステータスアップ系のアイテムは主人公に全部突っ込む派なんだよね。
    決して種をあげた仲間が永久離脱しちゃって血涙を流したとか、そんな過去は無いよ?ホントウダヨ。
    そんなこんなで敵を倒したり落ちてるアイテムを拾ったりしつつ、テクテク歩いて我々勇者御一行は無事に日が暮れる前にアリアハンの次の町、レーベの村に到着したのだった。
    いやー、ファミコン版だったらこうはサクサク行かなかったわ。最新リメイク版サイコー!
    でも疲れたー! 徒歩でこんなに歩くのっていつ以来だろ?
    たどり着いたレーベの村はいかにも昔のヨーロッパの田舎って雰囲気ののどかなところだ。
    町の規模は当然王都のアリアハンより小さいのに何故か装備はアリアハンより良いものが売ってんだよね。そのあたりはゲームのお約束だからツッコむだけ野暮ってもんなんだけどさ。
    今回は戦闘や探索で稼いだゴールドを使ってここで装備を整える。
    なにせレーベの村の次は俺たちにとって初めてのダンジョン探索が待っているから。
    レーベの村の近くの祠からナジミの塔に入って、最上階に住んでるおじいさんから盗賊の鍵を貰うのが次の目標だ。
    早速手持ちのゴールドと相談しながら武器屋で拳兄とミカ兄、あっちゃんの防具を購入した。
    特にミカ兄は前衛だから俺らの生存率を上げるためにも真っ先に投資しとかないとね。
    ミカ兄本人は「かめのこうらなんて美しくない……ビキニが良い……」って文句たれてるけども布の服以下の面積のビキニに防御力なんかあるわけないだろ!この店の防具はそれが一番高いんだぞ!聞き分けろ!!
    武器はブロンズナイフを買って拳兄が装備。
    あと、町の近くの大木の所で拾った聖なるナイフがあるからそれは俺が装備した。
    その後、町中をくまなく回って情報収集と清掃ボランティア(笑)もすませた。
    HPもMPもほぼ満タンだし、ゲームだったらこのままナジミの塔攻略に向かうところだけども悲しいかな、今の俺達にとってここはゲームでは無く現実だ。
    HP残量と疲労度は別らしく、長時間歩いてきた体はしっかり疲れている。
    何より、あっちゃんに無茶はさせられない。
    ここは大事をとった方が良いだろうと宿屋で一泊してから出発する事にした。
    そうそう、この世界の陽の光って浴びてても気持ち悪くならないんだよ!
    もうびっくりしたし生まれて初めてまともに体験する「昼」ってやつに俺とあっちゃんは大はしゃぎ!
    青空ってマジで青いね!生で見て感動しちゃった!
    この世界にきて唯一良かった事かもしれない。昼から夕方に移り変わっていく感じとか、夕焼けの赤さとかを堪能できるのは。
    昼起きて夜寝るのってなんか変な感じだけども。
    あと、ドラクエの宿屋と言えば例の音楽!
    レベルアップした時みたいに朝になったら例の宿屋の音も脳内で響くのかなってワクワクして寝たけども、別にそんな事はなかった。
    ちょっと残念。

    ◆◆◆

    「あー! ミカ兄は人面蝶を最優先で倒して! そいつら確か俺らの攻撃の命中率下げる魔法使うはず!!」
    「了解した! てゃぁ!!」
     翌朝、しっかり眠って疲れをとった俺達は予定通りレーベの村近くの祠から地下水道を経由してナジミの塔へと入った。
    「ふぃー、勝った勝った」
    「お疲れー」と最後の一体にとどめをさした拳兄がナイフを仕舞う。
    「いつもの敵に混じって初めてみるモンスターも出てきたな」
    「フロッガーとかゲーム画面でみるとちょっと可愛いのに実物は人間大の蛙だからめちゃくちゃ気持ち悪いね……」
    「スラ イム かわ いい よ」
    「ああ、たしかにアレは可愛いよね! さすがマスコットなだけはある」
    「その可愛いマスコットをついさっき細切れにしたんだけどな、俺ら」
    「嫌な言い方をするな、愚兄」
     と、雑談しつつの、宝箱を回収しつつの、エンカウントした敵を倒しつつので順調に塔を登っていく。
     敵はアリアハン周辺より種類も増えて強くなってるけども、途中にあった宝箱から手に入れたブーメランのおかげで特に苦戦することもない。
     いやー、序盤でブーメランは強すぎる。だって全体攻撃だよ?
     グループ範囲攻撃ができるトゲの鞭を装備したミカ兄と全体攻撃ができるブーメランを装備したあっちゃんが居れば大抵の敵は1ターンキルだ。楽チン楽チン。
     ナジミの塔と言えばなぜか塔内にある宿屋なんだけども、過去作では散々お世話になったあそこもスルーして良いくらいの楽チンさ。
     そうは言っても一応休憩したけど。大事を取っておくに越した事無いからね。
     そうして登って登ってたどり着いた最上階。
     椅子に腰掛けて居眠りしているお爺さんに「もしもーし」と声をかける。
     ハッ! と目覚めたお爺さんは「おお、やっときたようじゃな。そうか、あっちゃんというのか」とどこか感慨深い目をしてあっちゃんを見つめ、「わしは、幾度となくお前に鍵を渡す夢を見ていた。だからお前にこの盗賊の鍵を渡そう。受け取ってくれるな」と簡素なデザインの鍵を差し出した。
    「あ りが とう」とあっちゃんが受け取ると、満足げに頷いてレーベの赤い扉の家に向かってそこの住人に会うように伝えるとお爺さんはまた眠りだす。
     座ったままスヤスヤ眠るお爺さんにもう一度礼を言って俺らはお爺さんを起こさないよう静かに部屋を後にした。
     さあ、レーベの村へ戻ろうか。
     盗賊の鍵があれば鍵のかかった赤い扉は全部開けられるようになる。
     これを使ってレーベで魔法の玉を手に入れたらいざないの洞窟へ行って、そこにある旅の扉から別の大陸に向かおう!
     もちろん、その前に塔の宿屋で一休みしてからアイテム回収のために今まで立ち寄った場所に在る赤い扉を全部開けて周るけどね!!
     と俺が宣言すると上二人が「またかよ……」とげんなりした顔を向けてきた。
     RPGの基本がわかっていないな愚兄共!!


     と言うわけで、盗賊の鍵で開けられる扉という扉を全て開け、くまなくアイテムを回収し、最後にレーベの村で魔法の玉を譲り受ける。
     丸いピンクの球体は見た目だけなら結構ファンシーだ。実体はファンシーなんてとても言えない代物だけど。
    「か わいい」
    「ほう、ずいぶんと可愛らしい見た目だな。これが魔法の玉なのか?」
    「なんか、導線あんし、ぱっと見は爆弾ぽくね?」
    「実際爆弾だしね」
     俺の言葉に皆が固まった。
     そう、この魔法の玉の中身は火薬の詰まった爆弾。つまり俺らの世界なら扱うのに資格が必要なバリバリの危険物だ。
    「え……じゃあ、これで封印を解くってぇのは?」
    「石壁で道を塞いであるからそれを発破で崩すって意味だよ」
    「物理じゃないか……魔法ではなかったのか……?」と戸惑うミカ兄にケン兄が「ま、これくらいの文明レベルでその威力の爆弾は充分魔法だろ」と答える。
    「あぶ なくな い?」とおっかなびっくりなあっちゃんに「大丈夫だよ、たぶん」と笑って、俺は魔法の玉を大事なもの入れに仕舞い込んだ。
     ………大丈夫だよね?袋の中で爆発したりしないよね?


     そうして、やってきたのは村の南東にあるいざないの洞窟。
     池の奥の階段から下へ下へと降りた突き当たり、管理人らしきお爺さんの言葉に従って分厚い石壁の前に魔法の玉をセットして大慌てで物陰に隠れる。
     皆んなで固まって両手で耳を塞いでしゃがんで衝撃に備えていると轟音と凄まじい振動が俺達を襲った。
     うわーー! 怖ーー!! ちょっとこれ大丈夫ー? 洞窟ごと崩れたりしないー!? 本当の本当に大丈夫ーー?? とビビり倒すこちらの心配とは裏腹に、洞窟は崩落しなかった。良かった〜。
     いざ! と壁に開いた大穴の先に足を踏み入れる。
     途中、地面のあちこちに空いた大きな亀裂ににわざと落ちてアイテムを回収したりしつつ先へ先へと進んでいく。
     つーか、ゲームプレイしてる時は特に気にして無かったけども冷静に考えたらあの亀裂何? 亀裂というよりもはや穴なんだけども!
     まさか爆発による崩落? え、もしかして地盤ヤバい?
    「なあ、透。ゲームじゃこのダンジョンのそのものには危険は無かったかもしんねぇけどよ。一応今のここは現実だろ? こんだけ崩落しているとこに長居すんのマズくねぇか?」
    「透、私も早くここは抜けた方がいいと思う」
    「……だよねぇ」
     兄二人の忠告はもっともだ。万が一にもあっちゃんは危ない目に遭わせられないし、爆速で駆け抜けるか……。
     そうは思ってもアイテム回収に未練が残る。
     だって俺、全アイテム収集派なんだよ!
     でも、そうは言ってらんないよね。
     ああ、でもあとどれだけアイテム残ってたんだろ?
     ちくしょう決めた! ダーマ着いたら俺盗賊に転職する! とうぞくのはなとレミラーマのために盗賊になる!!
     そう決心して後ろ髪を引かれる思いで意識をアイテムからここを出る事に切り替える。
     それからは速かった。まあ元々そんなに規模のデカいダンジョンでも無いしね。
     遭遇するモンスターをちぎっては投げちぎっては投げしながら洞窟の最奥に鎮座している旅の扉にたどり着く。
     これが、旅の扉。
     ドット絵じゃなんか渦潮みたいだったのが実物は光が渦巻く不思議な円陣だった。
     その前に四人揃って立つ。
     さぁ、この度の扉を抜けたらそこは新しい大陸。
     つまり、これからが本当の冒険の始まりだ。
     どうして今俺達がこんな事になっているのか、いつ元の世界に戻れるのか、何もかも不透明だけども、それでもこれから始まる冒険にちょっとドキドキワクワクしてしまう。
     この先、何が起きるのか全部知ってるってのにだ。
     俺がプレイしていたゲームの中の勇者達もこんな気持ちだったのかな?
     そんな風に思いを馳せながら旅の扉に皆でせーので足を踏み入れる。
     すぐにフィィィィ……と細く風が渦巻くような独特の音に包まれて、視界がぐにゃりと歪み上下左右の感覚が失われていった
     例えるならドラム式洗濯機に放り込まれたような気分。キッッッツ!
     失われた天地が戻って地に足が着く。
     移転先に着くまでは時間にしたらたぶんきっと一瞬。
     けれども。


    「「「おぅえぇぇぇぇぇ〜〜〜!!」」」
    「お にいち ゃ ーーん !?」

     その一瞬で見事に酔った大人三人は、扉の先から外の草むらまで出たところで限界を迎え、一斉に四つん這いになって盛大に吐いたのだった。

    ◆◆◆

    番外
    レーベの村の宿屋にて


     ネオンも人工光も何もない、ほんのささやかな炎の灯によってのみ照らされる夜を見るのは一体どれくらいぶりだろうか。
     なんだかわからないうちにドラクエの世界とやらに飛ばされてから迎える初めての夜。
     シンヨコにいた頃ならまさしく今からがオンタイムってところなんだろうが、弟妹達は文明レベルが中近世な世界観に相応しい簡素なベッドで夢の中だ。
     俺はと言えば何となく寝付けなくて弟達を起こさぬようこっそり部屋を抜け出して外の空気を吸いに出ていた。
    (なんか、変な感じだよなぁ……)
     腕を組んで宿屋の壁に背を預けた姿勢で頭上に広がる夜空を見上げる。
     弟達の手前平静を装っていたが、実際のところこの状況に対しては不安しか無かった。
     特にこちらに来てから催眠術も結界術も使えなくなった我が身がなんとも心許ない。
     催眠術が使えないのはともかく、結界術が使えないのはかなりの痛手だ。こんな世界で冒険するなら尚更。
     戦闘中、無意識に結界を発動しようとしてはできなくて舌を打った数は数えきれない。
     ただ、能力が使えなくなった代わりに日光は平気になっているようだった。
     初めてまともに見る青空にはしゃいでいた末の弟妹の姿を思い出すと自然と頬が緩んでいく。
     いやー、若いってすげえわ。
     あっちゃんから大丈夫だったって聞いても、俺とミカエラは酒場から出るのにおっかなびっくりだったってのに、透は弾丸みたいに外に飛び出してったもんな。
     つまりは、吸血鬼としての特性が封じられて普通の人間のようになっているってことか。
     この感じだと吸血欲求も無くなっているかも知れないな。
     ふむ……もしも俺達が転化されずにダンピールのままで生きていたらこんな感じだったんだろうかねぇ。
     青空の下で陽の光を浴びて生きるも、星空の下で月明かりと共に生きるも思いのまま。
     血の支配に怯える事も無く、どこまでも自由に。


     ———そうしたら、俺はミカエラをただの弟のままでいさせてやることができたんだろうか。


    「一人行動はするなと言った矢先から何を勝手に宿を抜け出しているんだ、この愚兄」
    「ミカエラ……」
     いつの間にか側に来ていた弟の声に、暗いところに沈みかけていた思考が引き戻される。
     俺が宿を抜け出した時は良く眠っていたから、不意に目が覚めたら隣で寝ていたはずの俺の姿が無かったもんだから慌てて探しにでもきたのだろう。
     憎まれ口とは裏腹に、俺を見る表情には安堵が滲んでいた。
     しかし、何というか見慣れない服装の弟の姿にはどうにも違和感が拭えない。
     いや、見慣れた姿=マイクロビキニなのも冷静に考えるとちょっとどうなのかとは思うが。
    「どうした? 眠れねえのか?」
    「それはこちらのセリフだ、愚兄。……こんなところに一人で何をしていた?」
    「んー……いや、ちょっと考え事」
     俺の横に立ったミカエラの腰に手を回し引き寄せると、いつもなら何かと文句をつけて抵抗する弟は大人しく俺の胸に頭を預けた。
     どうやら、昼に大泣きした名残がまだ残っているらしい。
    「考え事?」
    「おう、力が使えねぇのも、お日さんの下を歩いても平気なのも、昼に起きて夜に眠るのも、なんもかんもが変な感じだなって」
     俺の言葉にミカエラも「たしかに」と頷く。
    「……ちゃんと元の世界に戻れるんだろうか」
    「そればっかりはもう祈るしかねぇなぁ」
     なんせ原因もなんもかんもわからないんだ。
     クリアしたら戻れる事を信じて進むしか現状道は無い。
    「このまま戻れなかったらどうしよう……」
     ポツリと胸元に弱々しい呟きが落ちてくる。
    「そうさなぁ……」
     言葉を切り、ミカエラを抱きしめる腕に少し力を入れる。
     寝起きだからか、ミカエラの体はいつもより少し体温が高いように思えた。その温かさに吐息が漏れる。
     あー、落ち着くわー。
     でも、いつものビキニ姿だったらもっとダイレクトにこいつの体温を堪能できたのになぁ。残念。
     しかし……そうだな。戻れなかったら、か。
    「ま、そん時は腹括ってこの世界で生きるしかねぇわな。……幸い、あっちゃんも透もお前も皆んなここに居る。俺の心残りになりそうなもんは、全部」
     だったらどこだろうと関係無い。
     愛する家族の居る場所が俺の居場所だ。
    「お前だってそうだろう?」と胸元に伏せられていた顔を両手で掬い、上向かせると「いや、普通にビキニ達が心配だからなんとしても帰りたい」とあっさり真顔で言い切られた。
    「定職にもつかずフラフラしている貴様と違って、私と透はいわば一国一城の主だからな。部下を心配するのは当然だろう? 透も従業員達を心配していたし」
    「透はともかくお前のはビジネスじゃないだろうが。経営者を気取るのは口調だけにしろ!お前は一国一城の主っていうよりも神殿に飾られてる御神体なんだよ!」
    「……兄さんがビキニをそこまで神聖なものだと敬っていたとは」
    「違う! そう言うことじゃねぇ!」
     あー、もう! この子ったら本当に空気読まなねぇ子だよ!
     俺にビキニを褒められたと勘違いしたミカエラは「うん、そうだな。もしも本当に戻れなかったら、その時は私はビキニの帝王としてこの世界を征服して見せよう!」なんて可愛い顔してご機嫌に笑う。
    「魔王と間違われて討伐されちゃうから世界征服は諦めなさい」という至極真っ当な俺の指摘に、ミカエラは今度はムゥと不満気に頬を膨らませた。
     ややすると整いすぎて無機質な印象すら与えかねない美貌に反して、こいつの表情はクルクルと良く変わるから見ていて飽きない。
     ああ、本当癒されるわ。
     膨れたミカエラの両頬をムニュと押さえる。
     その拍子にタコのように突き出た唇にチョンと己の唇を触れさせた。
     本当はがっつりキスしたいけども、ここは一応外だしな。我慢我慢。
     一拍遅れて顔を赤くする可愛い弟の手を取り壁から背中を離す。
     訳のわからない状況に密かに落ちてたメンタルもミカエラと話してるうちにすっかりとは行かないがだいぶ回復できたし、この調子だと今度はちゃんと眠れそうだ。
     いやー、こいつの癒し効果すごいな。
     ビキニセラピー? 今こいつビキニじゃないけど。
     ミカエラが何かしら抗議しようと口を開きかけたタイミングでもう一度軽く唇を触れ合わせ、「明日も冒険に出なきゃいけねぇんだからもう寝ようぜ」と手を引くと、不満そうな顔をしながらもミカエラは大人しく俺の手を握り返した。
     ……ああ、本当に全員揃ってここに飛ばされたのは不幸中の幸いだった。
     もしも、弟達だけがこの世界に飛ばされていたらきっと俺は正気じゃいられなかった。
     野球拳も何もかもかなぐり捨てて、こいつらを取り戻そうと死に物狂いになっていただろう。
    「なあ、ミカエラ。もしも本当に元の世界に戻れなかったらさ」
    「……?」
    「俺はこの世界に野球拳を広めるとするよ。お前、その時は俺の野球拳伝道の旅について来てくれるか?」
    「断る」
     割と本気の俺の提案をミカエラは秒で切り捨てやがった。
     まったく、マジで空気読まない子め。
    「……でも、貴様のその悪趣味に付き合う気は無いが、私のビキニ啓蒙の旅のついでに、と言うのなら考えんでも無い」
     キュッと俺の手を握るミカエラの手に力が籠る。
    「兄さんと透と、あっちゃんと。みんな一緒ならどこにだって行けるし、なんだってできるさ」
     確信に満ちた柔らかな声が俺の胸にストンと落ちてくる。
     うん、そうだな。俺もそう思うよ。
    「じゃあ、世界を平和にして、それでも元の世界に戻れなかったらこのいかにも娯楽の少なそうな世界に野球拳と言う素晴らしい文化を広めようとしますかね。家族みんなで旅をしながらさ」
     ああ、うん。思いつきだけどもそれは良い考えな気がする。
     家族皆で陽の光の中、気ままに旅をするのはきっと楽しいだろう。
    「な?」と同意を求めて弟を振り返ると、きょとんと丸い目をこちらに向けてミカエラが「いくら娯楽が少なくてもこの世界で野球拳は流行らないと思う」とマジのトーンで返してきた。
     本当、空気読まない子だよお前は!
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    餅@94

    INFO2025/1/12【SUPER COMIC CITY 関西 30】発行予定の嘘悪拳ミカ新刊サンプルです。

    A5/52P/R18

    催眠の一族の当主ケンとその弟で後継者のトールと薔薇園の下の地下室に囲われたケンの妻の、いずれ嘘悪に至るお話。
    🔞自体はヌルいし少ないです。軽い睡姦有り。
    サンプルには🔞はありません。

    通販はどこにしようか悩み中。決まり次第Xで告知します。よろしくお願いします!
    Under the Rose(……あれ? ここ、どこ?)
     遊び相手もいない退屈な屋敷を抜け出して、一人楽しく森を冒険していたら全然知らない場所に出てしまった。
     それはまるで迷路のようになった美しい薔薇園だった。今が盛りの秋の薔薇が咲き乱れた空間はとても綺麗だ。
     この広い屋敷は俺の家でもあるけれども、何せ子供には敷地が広すぎて知らない場所がまだまだいっぱい有る。
     俺が今居る、屋敷の裏に広がっているこの森もその一つだ。
     結構長い探検の末に迷い込んだ森の深い所に、こんなに綺麗なところがあっただなんて全然知らなかった。
     しかし困った。適当に歩いてきたから帰り道が全然わかんないや。
     さて、どうしようかと辺りをぐるりと見渡す。とりあえず、探索するかと複雑な作りになっているっぽい薔薇園の中を進んでいった。
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