乙棘版ワンドロワンライ 「扇風機」夏休み中、僕たちが任務で急遽駆り出されたその場所はあたり一面に田んぼが広がり、比較的背の低い山々に囲まれたのどかな田舎町だった。
任務終わり、木造の小さな屋根付のバス停で二人きり。ベンチに腰をおろして最寄り駅に向かうバスを待つ。セミの声が混ざり合ってジンジンと頭に響く。僕は思わず制服のボタンを外してから胸元を掴んでパタパタ仰いだ。
隣の狗巻くんは自前のハンディファンを取り出して、下から白シャツの中に風を送り込んでいる。ふわっと舞い上がったシャツの隙間から白い肌とパンツ紐がチラッと顔を出して、思わず視線がそちらに向かってしまう。ソコは狗巻くんの絶対領域。パンツ紐からはみ出した腰骨とVラインが綺麗でセクシーで堪らない。至近距離でそれを覗いているハンディファンが今はすごく羨ましい。
手を伸ばして触れたい。そのままパンツの中へ。
丸くて引き締まったお尻を辿って…固くなったところをやさしく手のひらで包み込み…何度もイヤらしい声を出しながら自分の脳内で踊る狗巻くん…すると目の前でパンっと音がな鳴って我に帰る。
「すじこぉ…(何ニヤついてんだよ)」
完全にアチラの世界にイッてしまっていた僕を狗巻くんは手を叩いて呼び戻した。
「ごめんごめん……」
狗巻くんはふふっと笑うと再び外の景色に視線を戻してから首元にハンディファンを向けて涼みはじめた。
そういえばどうしてあの時狗巻くんは僕のほっぺにキスをしたんだろう。それは2週間くらい前、自転車で2人乗りをしてコンビニに向かい2人でアイスを頬張っていたあの時。
不意に至近距離で交わった視線に頬を赤らめた狗巻くん。もしかして僕と同じ気持ちを抱いているのではないかと期待してしまった。
そのあとのなんともいえない複雑な表情と頬に触れた柔らかい唇はどういう意味だったの?
気になり出したらとまらなくなってしまった。
ねぇ、狗巻くん。どうしてそんなに涼しい顔をしているの。こっちをみてちゃんと教えてよ。
ベンチに置かれた狗巻くんの手に自分の
手のひらをそっと重ねてみた。
ぴくっと反応した身体。
驚いて自分の手元を見つめている。
「狗巻くん、この間さ。僕のほっぺにチューしたでしょ。それって……」
言いかけた僕の唇にこの間と同じ感触がした。音を立てずに静かにゆっくり離れていくふたりの唇。自分の頬が次第に熱を持ちはじめ、目を合わせることすらできないまま俯き加減で触れたところを思わず指で辿ってしまった。
「ゆうた…ツナマヨ(ゆうたのことスキってことだよ)」
耳元で囁かれた言葉にしばらく
身動きがとれずにいた。