【毒占欲】
腕の中に収めた彼をしっかりと抱きしめ、昼の陽光をいっぱいに吸い込んだようなキラキラした髪にキスする。次はこめかみ。次は頬に。それから──。
次々と、あちらこちらへ唇を落としていく。すると、僕のカーディガンをゆるく掴んでくすぐったそうにもじもじしていた彼が、手のひらで胸をぽんぽんと軽く叩いてきた。
「お、おい類、いきなり何なんだ!」
「ん? ……キス以外の何に見えるんだい?」
「そそそ、そうではなくだな! ここは学校の屋上だぞっ。そういうことは──!」
「食後で、君も満腹だろう? 犬がじゃれついてるとでも思ってくれればいいよ。軽い運動さ」
いつもはキリッとつり上がっている眉がハの字を書く。同時に、訳がわからないと言わんばかりに首を大きく傾げられたが、ゆるいアーチを描いたその白い首筋にも場所をずらしながら二度三度と口付ける。
こうしていれば徐々に熱く早くなっていく彼の吐息も、時折もれる圧し殺す声も、あさましい欲に蕩けていく顔も──僕しか知らない。僕だけの『天馬司』だ。他の誰にもこの場所を譲りたくないし、顔も想像できない誰かの腕の中で彼が無防備に身を委ねている姿を想像するだけで、はらわたが煮えくり返って頭がどうにかなりそうだ。
……僕が日々こんな醜悪な想いをたぎらせているなんて彼が知ったら、どう思うんだろうか。
(想像できない……いや、したくないな)
片手で彼のネクタイをはずし、襟元をゆるめて首の付け根に吸い付けば、耐えきれず零れたらしい艶かしい声が昼の陽気に溶けた。その可愛らしい高い声につい微笑してしまう。
と、いよいよ恥ずかしくなってきたらしい。首まで赤く染めた彼は、自分の口を押さえながら頭を左右へゆるゆる振って、目で制止を訴えかけてきた。……その瞳はもう熱に潤んで、ひどく扇情的であるのにも気付かずに。
胸の奥で渦巻く独占欲が、一層どろりと濃さを増すのがわかる。もっとだ。もっと全部を僕のものにと、欲の泥の中で別の自分が叫ぶ。
(……それは出来ないよ)
でも──思う。
触れる度に、口付ける度に、この醜く淀んだ欲が彼の心を猛毒のように侵してしまえばいいのにと。そうして彼も僕と同じになってくれたなら、何処までも彼を貪って僕だけのものにしていられるのにと。
だから。
(早く僕まで堕ちてきて──司くん)
そんな身勝手な願いを込めて。
あらわにした鎖骨に、深紅の花弁を一枚散らした。