この後鬼の力でなんとかしました 呪術師。その仕事は恨みを買われるもので、呪われることなんてしょっちゅうだ。そのたび解呪し、なんてことない風を装う。今回もそのはず、だった…。
「厄介だなぁ」
高くなった声が、ぼくの耳に届く。明らかに自分の声なのに、違和感が酷い。それもそのはず、今は普段の自分の体と違うのだから。狭い肩幅に心もとない手足、柔らかく膨らんだ胸から呪いをかけられたことは明白で。
「でも、なんでこんな意味もない呪いを?」
今の体は、どこから見ても女の子になっていた。恐らく昨日退治した男に呪われたのだろう。ご丁寧に捨て台詞まで吐いていたから。厄介なのは解呪法がわからないことだ。こんな呪い、かけられたこともないし自分でかけようと思ったこともない。ハッキリ言って手詰まりだった。
「ハァ…数日だったら戻ってたりとかしないかなぁ」
ごろんと布団に身を投げ出し、式神を見やる。こんなことをしたからといって、事態が好転するわけではないということはわかっている。ヴォックスに相談でもしようか、と思ったところで下腹部に鋭い痛みを感じた。まさか、と思いトイレに走ろうとするが、力の入らない体がそうはさせなかった。
「最悪…」
布団には赤いシミが出来ており、足は凍ったように冷たい。よろよろと立ち上がりトイレに何とか辿り着くが、出血はどうしようもなくて。男ばかりのシェアハウスには生理用品なんてものもない。なんとかトイレットペーパーで応急処置をし、その場を後にする。あぁ、買い物に行かなくちゃ。このまま垂れ流すわけにはいかないし…。
ふらりと体が揺れる。血が足りていないのか、目の前がチカチカとうるさい。あ、倒れる。そう思ったが、覚悟していた痛みは来ず…。
「だ、誰?! え、ええと、大丈夫?!」
「る、か…?」
ぼくの体は、ルカに支えられていた。
「シュウ…に、似てるけど、ご家族? ええと、シュウはどこに…」
「ここだよ、ここ」
ルカの暖かい体が心地よい。身を任せると、ルカはぼくの体に手を回した。
「シュウ…? もしかして、呪われたってこと?」
「はは、理解が早くて助かるよ…。 それで、生理みたいで…よかったらナプキンとか買ってきてくれない? 動くのキツくて…」
「わかった! ええと、ベッドまで運ぼうか?」
「お願い出来る…?」
わかった、と返事され姫抱きされる。あぁ、とりあえずどうにかなりそうだ。安心したところで、フッと意識が遠のいた。
「シュウ、シュウ」
「ん…」
肩を揺すられ、目を開く。心配そうな瞳がこちらを覗いていた。
「どれがいいかわからなかったから、とりあえず色々買ってきたけど…って、わ?! ち、血まみれ…!」
「んはは…慣れてるでしょ」
「俺が慣れてる血は怪我の方だよ! ええと、とりあえずシャワー浴びれる? 浴びた方がいいよね。 あっ、下着も買ってこればよかった…!」
「大丈夫だよ、なんとかなるし」
先程よりはマシになった痛みに安堵しつつ上体を起こせばルカが先程のように抱き上げてくれた。
「血ついちゃうよ?」
「そのぐらいいいよ! 薬も買ってきたから、飲んでね」
「ありがと、ごめんね…」
「気にしないで、解呪は出来なかったの?」
「それがてんでわからなくて…困ってるんだよね。 ヴォックスに相談しようかと思ってて」
「早く治るといいね」
「うん」
ゆっくりと床に下ろされ、生理用品を受け取る。
「それじゃ、また何かあったら呼んでね」
「うん」
「……柔らかかった」
ルカのその呟きは、ぼくには届かなかった。