澤村さん 独白 あの日傷ついて動かなくなってしまった時計。
修理に出して動くようになって綺麗になって戻ってきたけれども、一度途切れてしまった時の流れはもう……。この汚く醜く爛れた身体にはもう、付ける事が出来なかった…。
それでも捨てる事は出来なくて。
仕舞い込んだ金庫の中。 未練がましく取り出しては撫で摩る、己が壊した時の形見。
容赦なく 残酷に 優しく 時は流れる。個人の思惑等物ともせずに無情に。
厚顔にも語りかけるコピーの時計の面。
「今日、入学式だった。おまえと過ごした学び舎に剛が今日から…」
当たり前のように返事は無い。
「あと2年で剛は二十歳になる。そうしたら」
そうしたら……。
閉じ込めてしまっていたこの時計を剛に渡したら、あの子は貰ってくれるだろうか。 おまえが僕に似合うと言ったこの時計を、私が壊してしまった時間を……。
時は又、あの子の腕に嵌まってあの子の拍動に寄り添いながら 光の下で動き出してくれるだろうか。