Life for you.(ヌヴィリオ)序曲 ― Peace with you. ―
世界が逆さまに見えた。
「何しているのかしら、公爵?」
「……見ていたからこっちに来たんだろう?」
腹の上で疲れ切ったように、微かに寝息を響かせるヒトの頭を撫でて、溜息を零す。それがひどく甘い響きだったことからは目を逸らした。
「ふふふっ。だってとっても素敵だと思うのよ。こんなにあたたかな陽射しの下、みんなが笑っていて大好きな二人が寄り添い合っている。こんな素敵な光景、長く生きてきたと思うけれど、なかなか見られない光景なのよ」
すうすうと穏やかな寝息が心地好い。身体の下には柔らかな草原が広がり、新鮮な水のにおいが辺りを満たす。肌を撫でる風はやさしく、それに乗って聞こえる笑い声。確かに、こんな光景をリオセスリ自身、想像もできなかった。その光景の中に己があるなんて、それはまるで夢のようで――実際には夢に見ることもできなかったけれど。そのくらいに非現実的な光景だった。
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