街路灯が照らす夜道で 久しぶりに休日が重なり、朝から一緒に出掛けて、夜ご飯は家で二人でゆっくりと取ることが出来た。早い時間に食べたこともあり風呂やスキンケアなどナイトルーティーンも早いこと終わった。久しぶりにゆっくり出来た休日の最後には冷めない熱を吐き出すように肌を重ね、過ごした。一通り情事が終わり天城が後片付けや着替えなどをしてくれたおかげであとは寝るだけ、というところだった。重い体を動かすことができず、横になっていると頭を優しく撫でられて心地よい。このまま寝てもいいなと考えてしまう程だった。
「あ~…ワリ、喉乾いたから水取ってきていい?」
ふと頭上から声をかけられて振り返る。そう言えばあれだけ動いてたら疲れるし喉も乾く。怠い体を起こして続ける。
「俺もいく」
大丈夫?と聞かれると思ったが大丈夫じゃないのは分かりきってたのか何も言わず、手を出される。そうやって気をまわすことがお上手で。そのまま手を受け取り支えになってもらいながら歩こうとすると腰に腕を回されエスコートされてるかのような歩き方になる。
「そんな事しなくても歩け、」
「ないだろ、大人しくしとけって。」
はぁとため息をついてお言葉に甘える。リビングにつくと座ってろと言われ椅子に腰掛けて待つ。夏の終わりと言えど数時間エアコンをつけてないリビングだと暑さが目立ち、余計に喉が乾く。
ジャーと水道から水が吹き出る音が響き、透明のコップの中にみるみるうちに水が溜まり始める。1度も水を止めることなく2つ目のコップに移りかえたせいで外側側面に水滴が付いている。コトンとテーブルに置いて目の前に座る。
「ちゃんと飲めよ」
「言われなくても飲みますが」
ありがとうございますとだけ零してコップを口にする。
「ぬるい」
「そりゃそうだろ、すぐ出した水だし」
段々部屋の暑さをヒシヒシと感じ始めて、水をゴクゴクと飲んでしまう。同じようなことを考えていたのか、向かいの人間がニィと悪い笑みを浮かべ口を開く。
「コンビニ行かね?」
「HiMERUもそう考えてました。すぐ準備するのでちょっと待って下さい。」
ポケットに財布と携帯だけ入れてキャップを被る。最後にマスクをつけて、軽く服のシワを伸ばすようにトントンと払う。
「行きましょう。」
おうよーとだけ口にして廊下から外へ出る。戸締りをしたことを確認して、エレベーターのボタンを押す。
外に出ると夜でも湿った空気感で熱帯夜ということをヒシヒシと感じる。等間隔に並べられた街路灯の下にはこんな夜中では人一人いなくて新鮮な気持ちになる。誰もいないのが余程楽しいのか、道路の真ん中を歩き始めた天城を見て、21にもなる大人が何やってんだかと思うが釣られてその斜め後ろを歩いていた。機嫌がいい天城はユニットの代表曲を口ずさみ、ポケットに手を入れたまま歩く。サビ前の俺のパートになると気づいたら一緒に歌い始めてしまい、二人のパートで声を合わせてやや本気めで歌って盛り上がってしまった。深夜なのでそこまで大きな声は出せないが軽く振りも付けながら天城は歩いてて思わず笑ってしまった。そんな夜も楽しくて。
鼻歌交じりに歩いているとお目当ての店に到着し、やっと歌が止まる。ウィーンと静かな夜を破る音が響く。扉が開くと中の涼しさがおもむろに外にやって来てこんなにもコンビニは魅力的だったかと外の暑さを感じさせた。カゴを手に取り特に目当ても無かったからどうしたものかと考えていると、早々と2Lのお茶を2本持ってきてカゴに入れようとする。一気に比重が掛かり腕に圧が来る、と構えると無言で腕の中にあったカゴを奪われた。何も言わず周りを見渡してズカズカと先を歩いていく。
「何買う?」
「……アイス?」
「おっ、珍しい」
わさわざ深夜にコンビニにまで出て特に欲しいものもないが暑かったので何となくアイスが食べたかった。深夜でカロリーも大幅にアウトだがまぁHiMERUは完璧だから計算は合わせられる。何にしようかとアイスのボックスを眺めている間に天城は違うコーナーに居た。身長の関係で棚と同じくらいなので向かい側の棚から赤い髪がチラチラと見えた。
アイスを決めて、この暑さなので最後にカゴに入れようと考え天城のところへ戻る。
「決まりましたか?」
「うーん、メルメル、ツマミならどれがいい?」
「俺は飲まないしツマミも食べませんが。」
「じゃあメルメルも食べられるさきいかとー、チータラね」
「だから食べないって言ってるでしょう」
「俺があーんってしたら口開け、いたっ」
口が減らない連れの足に軽く蹴りを入れる。痛いと言うほどでもないのに大袈裟すぎる。
最後に数本ビールとレモンサワーを入れて会計に進もうとするので止めて急いでアイスを取ってきて戻ろうとすると通りすがりに期間限定のチョコと目が合ってしまった。コンマ三秒悩んだ結果それも手にして天城のもとに辿り着きカゴに入れる。会計に進むと眠そうにしている店員に「らっしゃせ~」となんともやる気のない挨拶をされる。俺がカゴに入れたアイスとチョコの大体の金額を出そうとすると札を二枚先に出されてサクサクと会計が進んでしまう。あっという間に袋に商品が詰め込まれ、先程の挨拶とは裏腹に丁寧に手持ちを合わせられ、渡してくる。レジ袋を受け取り、天城が財布をしまったのを確認し扉前まで歩くと「あざしたー」とまたもやる気のない声を耳にし、店を後にする。
「はい、重いです」
「なんだ持ってくれるのかと思ったわ」
「持つの好きでしょう」
「好きってわけではないんだけど…」
ほぼ天城の酒の重さだしと言い訳して全部持たせる。買った2Lお茶は俺も飲むが、まぁ黙っておく。大人しく持った袋を横から漁り、アイスを取り出す。コーヒー味の2個セットのアイスを買ったので取り出してフタを取る。
「はい、天城の分です」
「いやそれフタ……」
「日頃の行いでは?この中にもアイス入ってますよ。」
「あざァす…」
冗談で渡したのに本当にフタの部分をガジガジ噛んでいるので正直引いたが。
「冗談です。どうぞ。」
「メルメルってば照れ屋さん~♪さんきゅ」
「俺が2個食べるので返せ」
「キャラブレブレだけど大丈夫?」
「うるさい」
早くフタ渡せと開けた袋を差し出すとポイっと捨てられる。もう片方のアイスもフタを取り、フタの中にあった僅かなアイスをちゅっと吸う。暑い夏にはもってこいでこの僅かな量でも美味しく感じた。袋に同じくフタを入れて口を縛り、ビニール袋に戻す。アイスを口にして先程よりも口に広がるアイスのひんやりした感覚に感動してしまう。コーヒー味と謳っているが程よく甘くて深夜にはもってこいの味だった。さっきまで冷凍庫に居てキンキンに冷えていたのにもう揉めるくらいには柔らかくなり、結露もポロポロと現れてきた。あっという間に溶けてしまいそうだ。
「真夜中に食ってるからこそうめェな~」
「美味しいですね」
真夏の夜は暑くて嫌になるが真夜中に買いに行くアイスだけはやっぱり格別に美味しくて捨てがたいとも考えたりする。
明日からも完璧な"HiMERU"であるように意気込み、アイスを堪能する。しかし口を閉じてしまった袋を思い出して、空になったアイスを持ちながら「あっ」と声に出すのは数分後の話。