『えっちっち』
週末、おれの部活(剣道だ)のない休みの日を狙って、ルフィが前日から遊びに来た。
今週は金曜の夜からびっちり2泊するらしい、ルフィのリュックは何が詰まっているのやらパンパンだ。
「ゾロ! DVD観よう!」
おれの部屋へ上がり込むなり、ルフィはデンっとリュックを置いた。中にはDVDも入ってるそうだ。
「おう、いいぞ。何持ってきたんだ?」
「ん、色々だ」
コイツの説明めんどくさい病はなんとかならないもんだろうか。
ルフィがリュックを開けるとレンタルDVD数枚と、お菓子やらゲーム機やらお菓子やらパンツやらパンツやらがわらわらと。
おれはジュースを持ってきてやると「ん」と渡されたDVDをデッキにセットし、ルフィがいるローテーブルに菓子の袋を次々に開けて並べてやった。以前やらせておいたらポテチが爆発して酷いことになったので、おれの仕事になって久しい。
「ありがとう!」
ルフィはお礼だけはちゃんと言う。言うだけは言う。
ルフィがベッドに凭れて観る準備万端になると、おれはベッドにごろんと横になり、手前に座っているルフィ越しにテレビを眺めた。
DVDはアクション映画でルフィは早速のめり込み始める。おれはふあーっとあくびをひとつ。
ベッドに転がったのが悪かった。あと5分もすれば寝る自信がある。
おれはわざと画面から目をそらすと、ルフィの黒髪をなでこなでこして気を紛らわせてみたが、むしゃむしゃ食べたりケラケラ笑ったりうおー!とコーフン気味のルフィはおれになど反応してくれなかった。
「眠ィ……」
だいたい、『この週末はイチャイチャしたりエッチしよう』と言い出したのはルフィだ。あんまりイチャイチャしてない気がする。
そもそもイチャイチャするのは恋人同士の行為だから、ただのセフレ(なのだ)のおれ達がイチャイチャする必要は確かにない。
ねェけど……。
ルフィの匂いと体温が近くにあると息子が反応しそうになるのは、もはや条件反射なのか何なのか。
おれは上体だけ起こし後ろからルフィを片腕で抱き寄せると、ルフィのやぁらかいほっぺにちゅうと吸い付いた。
「こらこらゾロ、おれまだ観てる」
「そこで一時停止」
「いやいやいやふつう一気に観てェだろ?」
「………」
スルーして首筋をチュッチュと啄んで。
「ん~、後で……わわっ」
おれは強引にルフィの細身をベッドへ引っ張りあげてしまうと、添うように寝転ばせ、後ろから抱きしめてこめかみや頬や耳にキスしまくった。
手はTシャツの中に突っ込んで腹や胸を撫で回し……。
「イチャイチャしようつったのルフィだろうが」
「これはもうエッチだ」
「ぅ…」
「ニャハハ! ジョーダンだよ。これもイチャイチャだ!」
くるっとこっちを向いたルフィが抱きついてくる。相変わらずルフィはおれの腕の中にすっぽりだ。
ルフィがおれのデコや鼻の頭にぷちゅぷちゅ可愛いキスをしてくるので、おれは覆いかぶさるようにその唇を深く塞いだ。
「んっ……」
ちゅ、ちゅく、と濡れた音を立てて二人でキスに没頭し始める。コイツの唇は気持ちいい。
舌を入れるとルフィはぴくんと反応したけど、すがるようにおれの背に掴まってきた。
あー、なんでこんなに可愛いかな……。
ルフィを抱く前はただのダチだったしクソガキだと思ってたしなんなら漢前だとすら思ってたのに。
おれがルフィの舌を吸えば負けじと絡めてくるのは負けず嫌いからだろうけど、構わずぢゅうと吸ったら「んんっ」とびっくりしておれのシャツを引っ張った。
もうそういうのもヤベェんだって……クソッ。
互いの股間が熱を持つまで飽きるでもなくキスしていて、いい加減に息が苦しくなったルフィが先に根を上げた。
「はぁ……はっ、ゾロ待てっ。ふぅ~~、もーゾロはチューうまいよな~」
「そうか?」
「何でだ? あ、ゾロ彼女いたしいっぱいしてたからか」
「つーか2コ上だしな」
「え? そうなんか? 同級なのに?」
「あぁ、知らなかったのかよ。2年も何してダブったんだって当初みんなにめちゃくちゃ避けられてたろうが、おれ」
「嘘だ! 知らねェ!」
「嘘じゃねェよ……。ま、お前はガンガン話しかけてきたもんな」
少年院にいたとまで噂され怖がられていたのに、ルフィはどこが気に入ったのやらおれにくっついて回ってきて。
「おれの胸の傷知ってんだろ。それのせいだ」
「あぁここの斜めの傷なー」
そう言ってルフィがおれの服の上から袈裟懸けに指で傷を辿り、楽しそうにしししっと笑った。
こういう臆さないとこやっぱルフィだよなァ……とか思いながらも、お返しじゃないがルフィのちっちゃな乳首をTシャツの中でこねくり回して。
うん今日もつるっつる……。
「んっ、そっか、ゾロは年上だったんか。エースが3つ上で、サボも3つ上で、ゾロが2つ上で……。あ、サンジも2つ上だ。シャンクスは……知らねェや。おれ年上が好きなんかな?」
「ハァ……」
「なんのため息だよ」
「それクラスの奴らに言うなよ? そん中におれ入れると全員とヤッてるみてェに聞こえるぞ」
「はぁ!? ヤってるわけねェだろ! おれの彼ピッピはゾロだけだ」
「出た。それだよそれ。おれルフィラーにめちゃくちゃ睨まれてんだからな……」
実は先日、ルフィが教室でクラスメイトに囲まれながら(ルフィは人気者なのでいつも誰かに囲まれてる)、おれにこんなことを言いやがったのだ。
『JK用語で恋人は彼ピで、友達以上恋人未満は彼ピッピなんだと! ゾロはおれの彼ピッピだな~!』
そりゃどういう意味だ!? と詰め寄ってきた連中にルフィは追い打ちをかけるように、
『セフレだから!』
と清々しくバラしやがったわけで。
「何で言っちまうかなァ、みんないる前でよ……勇者か」
「ごめんごめん! だってゾロが隠してるって思わなかったんだよー」
「ふつう隠すだろ、男のセフレがいるとか。おれァ目の前が真っ暗になったぜ……」
言いながらもおれがルフィのTシャツを引っぺがしに掛かると、
「ほんじゃ何ならいいんだよ」
不遜な物言いでルフィが聞いてきた。ゾロの脱がし方雑、とか文句を垂れながら。
「ふつうのダチでいいじゃねェか。けどもういいよ、バレちまったもんは」
「そっか! 彼ピッピ彼ピッピ~♪」
早くもルフィが無邪気に彼ピッピを連呼して喜んでいる。絶対ェこいつコレ言いたかっただけだよな?
ピッピうるさい口を塞いでまたキスしまくって、ウエストの緩いジーンズに手を突っ込むとルフィの小さなケツを撫で回す。
「んは、あ、ゾロ……ルフィジュニアがヤベェ~」
「…誰だ?」
「おれの息子」
「あぁ……。舐めてやろうか?」
「ふお!? いきなしか? ゾロジュニアは大丈夫か?」
「躾が行き届いてるから問題ねェよ。先にいっぺんイカせてやる」
「おお~!」
キラキラした顔でルフィがおれの股間に手を伸ばして「後でな~」とイイコイイコした(ヤメロ)。お互い、もう前がもっこぉとなっている。
おれが布の上からぐいとルフィに押し付けると「あっ」と可愛い声が上がって、そのちょっと色気を帯びた表情を誰にも見せたくないと思う。
「そうだルフィ、悪い。ローション切れてんだ……。入れんのやめとくか?」
おれが初めて買って来たいちごの匂いのローションは2代目になり、それも前回なくなってしまった。それだけおれがルフィを抱いたという証拠。
「なんで? 別にいいぞ? もうだいぶ痛くなくなったんじゃねェかなァ。すんげーいっぱいヤッてるし!」
「まぁ確かに。じゃ今回はナシで試してみるか」
「うん!」
いい笑顔のルフィにおれは小さく笑い返すと、まずはルフィジュニアをイイコイイコしてやった。
ベッドで毎度のゴロゴロタイム。
セックスしたあと、おれとルフィは裸でくっつきながら他愛もない話をする。
こう言うのも恋人の特権な気もするが、おれ達は未だに彼ピッピなんだよなァ、と思うとなんだか不誠実な気がして少し凹む。
誰より好きな相手をいい加減に抱いてる気がして……。
「おれよォ」
ルフィがおれの胸元に擦り寄りながら不機嫌そうな声を上げた。ヤったあと不満を言われたことはないので(痛かった以外)珍しい。
「どうした? やっぱ痛かったか?」
「それはちっとだけだったから気にすんな。今日もめちゃくちゃ気持ちかった! それよかおれ思ったんだけど……」
「お、おう」
「おれらって付き合ってるみたいじゃねェ?」
なぜか眉根を寄せ、唇をとんがせてルフィが訴えてくる。
「それが気に入らねェのか? 確かに似たようなことはしてるが……。こやってベッタリ一緒にいて遊んだりエロいことしたり、恋人同士がやることだよな」
「うん。イチャイチャしてるもんな」
イチャイチャ、は実はおれには経験がないのでよく解らないが(元カノとはベタベタしたことがない)、ルフィはどうなんだろう。
「あ、付き合ってると言えば今日のことなんだがよ、ルフィ」
「ん?」
「知らねェ女子に告られた」
「へ!? いつの間に!」
ぷく、とルフィの頬が膨らんだ。今度はどういう了見で機嫌が悪いのだろう。妬いてんのか……て、どっちに?
「断ったぜ。その場で」
「なんで?」
「そいつと付き合ったらルフィとヤれねェだろうが。浮気になっちまうからよ」
「うむ。そりゃそうだ。だからおれも全部断ってる」
「お前こそいつの間にだよ!」
「だっておれの場合は男ばっかだからカッコ悪ィ……」
「なるほど……。最近ますますモテてんなァ。なぜだ?」
「知るか。もうほっといてくんねェかな~」
「ひっで……。待てよ、おれとセフレだってバレたからじゃねェか? 自分にも望みがあると」
望みを持たれてもルフィはおれ以外と寝ねェと思うけど……とか考えながら、ルフィの黒髪を指でくるくるして。
「あぁなるほど! ん~おれ別に男が好きなわけじゃねェんだけど。ゾロが好きなだけで」
「おれはルフィが世界で一番好きだ」
「……へっ?」
ぽかん、とルフィが見上げて来た。めちゃくちゃ意外そうな顔でちょっと心外だ。
「友達で一番じゃねェ、世界で一番だ。だからおれと彼ピにならねェか?」
「えええ!?」
突然の提案にルフィがびっくり顔。そりゃそうなると思う。
「いい加減なのは性に合わねェんだよ……」
「ゾロはそうだよな。ごめん……」
おれが強引に誘ったせいだ、と想定外にもルフィが凹んでおれは内心慌てまくった。だからわざと戯けて、
「あん時のおれはお前に抱かれる覚悟を決めたもんだ!」
「!? そうだったんか!?」
「そりゃそうだろう。ルフィだってヤる側じゃねェか」
「うんまぁな。そっかァ、そんな覚悟してたのか。ギャハハ! 想像したらおんもしれ~!」
やっとルフィが笑ってくれた。ホッとする。
やっぱりルフィは笑顔じゃねェと……。
おれはギュッとルフィを抱きしめて、
「返事は? おれのことは世界で一番じゃねェから嫌か?」
「いやおれだって世界で……う~~ん」
「悩むな……。ま、解ってたことだけどよ。世界一にはその内でいいぜ。どうせ兄貴が一番なんだろ?」
ルフィはお兄ちゃん大好きだから。
ルフィのブラコン病もなんとかなんねェかな……。
ところがルフィの返答は、
「いやいや! おれエッチしてェのゾロだけだから! 一番っつーかオンリーワンだ♪」
「なっ……ホンットたまにどうしてくれようかと思うぜ、この天然殺し文句……」
「ん? だってさー、エースやサボとエッチするわけねェし、てか3人でヤんのってどーすんだ?」
「考えなくていいぞ」
「うん。で、好きな女もいねェし、ゾロは友達ん中でも違う好きじゃんか」
「……違う?」
「エッチしたい好きなんだから違うだろ?」
「そういう肝心なことは最初に言っとけよ!」
その場であっさり負けたおれも悪ィけど!!
「え~言わなかったかー?」
「言ってねェよ」
「ゾロも同じだから言わなくても解んだろ」
「今は解る……」
「前は解らなかったのか? そんなんでよく男とヤれたなー」
「ルフィだからな……。おれはお前が一番好きだし一番大事なんだ。あんま性別は関係ねェ」
「おれも関係ねェ。でもおれは彼ピであって彼女じゃねェ。そろそろ女の子扱いヤメロ」
「は? そんなことしてねェ」
「気づいてねェだけだ……。おれ菓子の袋とかジュースの蓋くらい自分で開けられるし」
「いやそれは前にお前が──」
「最近は学校でも髪とか顔とか触ってくるし」
「……そりゃ無意識だった。学校では気をつけるよ……」
「おうそうしろそうしろ!」
「んなことよりルフィ、腹減ってねェか? なんか持ってきてやろうか」
おれが体を起こし、ルフィの顔を覗き込みながらその前髪をさらりと梳くと、
「もうそういうの! そういうのだろあーもー!!」
なぜか真っ赤になったルフィが顔を隠した。
「あー……。もう彼ピなんだから大目に見ろよ」
早くも開き直るおれだ。
ルフィが指の間から半目で睨んでくるけど、その手を退けてデコチューしてやると頭を小突かれた。
「腹はちっと空いた! だいたいゾロは会ったときからカッコ良くてズリィ! おれ絶対ェゾロと一番仲良しになるって決めてたもんよ」
「それでついて回ってたのか……。つーか迷子とかマヌケとか動物以下とか言いたい放題だったクセによく言うよ」
「なははは! だってだんだん可愛くなってきたんだもんゾロ~」
「可愛くねェ!!」
「でも歳上だったんかァ……そっかァ」
「言うほど気にしてねェだろ」
「うん」
「ハイハイ。それに可愛いのはお前だ」
「仕返しか。仕返しはよくねェんだぞ」
「仕返しじゃねェ、可愛いから触りたくなるし、何かしてやりたくなるんだろうが」
再び抱き寄せて素肌をゆっくりとさする。こんな甘やかで持て余すような感情は未だかつて知らないのだから、仕方ない。
「ゾロは付き合ってるヤツ甘やかすタイプか?」
「そんな風に見えるか?」
「見えねェ! だから照れる……」
ルフィがもごもごおれの胸に顔を伏せた。もしかして重いヤツーとか思われてたりして……。
いや世界で一番好きとか言ってる時点で充分重てェか(凹む)。
「ゾロが彼ピかァ……」
「微妙か?」
「ゾロはモテるからおれは心配が絶えねェな~って」
「それはこっちの台詞だなんだが……」
「あ、みんなに彼ピになったの言っていいか?」
「好きにしろよ。これ以上睨まれてもどうってことねェよ……」
「そりゃ良かった」
「良くねェ!!」
「なははは!!」
もうルフィの笑顔が曇らない内にと、おれは文句を言われても食いモンの調達をしてやることに決めた。
(おわり)