僕らの距離※原作の両想い済み設定だけど、アニメver同様転校になったら、って言うヤツ。何でも許せる人どうぞ。
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西遠寺家から離れる日を迎えた。
前日は寝たくないを連呼し、絶対寝ない宣言していた未夢。どうしたって朝は来るのだが、その気持ちは痛い程彷徨も理解していた。明日から離れる生活が待っているからだ。最後だから、と彷徨の部屋で2組布団を敷いて結局眠り朝を迎えたのだった。
駅ホームで、クラスメイト達に囲まれ、別れを惜しむ。
「絶対電話するからね!それはGWも夏休みも絶対遊びに行く!あ、その前に春休みあるね!」
「でも、進級だよね~…受験もあるし」
「大丈夫大丈夫!」
離れた所でその様子を彷徨は黙って見ていた。自分は昨日まで散々話したし、なんなら繋がりは寧ろ強くなった。関係が変わったから、その分クラスメイト達よりは有利。なら、今回は譲って置くべきかと思っていたからである。
「彷徨はいいのか?未夢ちゃんと喋んなくて」
「いいよ。散々話したし。今はアイツらと惜しみたいだろ?」
口では何とでも言える。
「嘘つけ。顔に出てるぞ~行って欲しくないって」
「は、はぁ」
三太にだけは既に関係性は伝えてあった。何かあった時フォローに彼は転じてくれるはずだからだ。そんな長年の親友には読まれていたらしくて、自身の髪をぐしゃりと掴む。
「はぁ」
溜息1つ付いた時、未夢が駆け寄って来た。
「三太くんカメラある?皆で撮りたいって話したの」
「勿論OK!ほら行くぜ彷徨!」
「はいはい…」
ホームで2-1組全員で集合写真撮影。まるで修学旅行の様だ。誰かと一緒に撮ることや勿論、彷徨と未夢二人だけで写真も撮ることもしながら、束の間の一時を楽しみ。だが、無常にもその時は一気に足早となる。
『間もなく1番線に、快速〇〇行きが参ります』
アナウンス。これで本当に最後だ。
(時間か…)
全員が未夢と対峙した。
「みんな、本当にありがと!わたし、元気に頑張る!みんなも体に気を付けてね!あ、まずは春休み、で、進級後のGWは行くから!三太くん、さっきの写真現像したらまとめて送ってね!」
「任しといて~」
1人1人と握手や言葉を交わす。未夢が最後に彷徨の前に来た。先程まで、預かっていたキャリーケースを引き渡す。
「もし忘れもんあったら送っとく」
「彷徨…ほんとにありがと。耳、貸して?」
「ん…」
耳打ちを聴く。
「 」
未夢の顔は赤く染っている。ザワザワするクラスメイト達。
「ぶっ、はは、……知ってる。絶対ないから安心しろ」
電車がホームに停まった。出入口が開いて未夢が足を乗せようとした時、彷徨が腕を思い切り掴んで引き寄せた。背に腕が回されて、力が籠る。クラスメイト達が大声をあげた。ここでクリスがいよいよ爆発して阿鼻叫喚の悲鳴が混ざる中。それでも彷徨は腕の力を解けなかった。
「な、ちょ、ひ、人前で!み、みんな見て…」
「あー…わかってるつもりだったけど…」
離したくない、と耳打ち。ごちりと額をくっつけた。
「彷徨…」
「その内そっち行くから」
「…うん。電話、毎日していい?」
「毎日か。まぁ、いいけど…親父出たら面倒臭いな」
「…ふふっ。あ、と、扉、締まるよ!」
「…あぁ。」
名残惜しいが腕を下ろして、代わりにその額に口付けた。
「か、彷徨」
クラスメイト達へ豪快に暴露したようなもので未夢は顔から火が出そうな想いだが、名残惜しいのは未夢も同じだ。
改めて電車に乗る。扉はもう締まる直前。
「ほら」
手のひらを拡げ腕を上げた彷徨。皆は握手、でも自身は恋人同士の特権として。
何をしたいか分かる。
「じゃあな」
「うん!」
バチンとハイタッチが交わされた瞬間、電車の扉が締まり、ゆっくりスピードを上げていく。
「みんなーまたねー」
座席の窓を上げて手を振る未夢を、電車が見えなくなるまで全員で見送った。
「いやー彷徨。見事全員に交際を暴露したな」
おいおいクラス委員長さっきのやりとりは一体なんだ答えてと言わんばかりの視線が向けられている気がした。
「…はは…えーと、はい、付き合って、ます。ちょっと前くらいから」
白旗をあげクラスメイト達に白状。柄にもないことをした自覚はあった。でも、あぁでもしないと自分を保てなさそうだったのが本音。
「西遠寺くん未夢ちゃんといつの間に」
「でもお似合いだよー」
「俺らに隠れてリア充かよー」
と、祝福もして貰えたが意気消沈で息をしてないクリスに後日どう説明しようか困りものだった。
「彷徨、明日から寂しい学校生活だな?」
三太がニタニタしながら言い寄って来るから立腹ものだが、実際は本当にそう、
「……今現在進行形だから」
もう既に色々ダメージを喰らっているからである。
「うわー…彷徨がめちゃくちゃ素直で怖い。あ、そう言えばさっき未夢ちゃんなんて耳打ちしたんだ?」
「内緒」
『彷徨が大好き。絶対浮気しないでね』は、彷徨の心に深く刻まれた。
しかし、駅からの帰り道別の意味で意気消沈しそうな彷徨を見やる三太。
「…彷徨のヤツ、大丈夫か?」
「西遠寺くんにとっての光月さんは、切ってはいけないものだねえ」
三太と光ヶ丘は、これは明日の登校日は超が付くほど彷徨の機嫌悪くなるのが簡単に予想出来てしまった。
そして案の定。
翌朝の彷徨は誰にも近寄らせない凍てついたオーラを放っていた。目は人を殺さんとする睨み様である。
「ありゃー…重症だな。よし、ここは親友の俺が」
三太はクラスメイトに伝達。
「あー皆ちょっと聞いて。彷徨に今日から『遠距離恋愛』とか『光月さん』とか『未夢ちゃん』はNGワードな?今めちゃくちゃヤバいから」
と、言い始めるとクラスメイト達は途端に脅え、三太に後ろ後ろと促している。
「何?」と三太が振り向くと、広辞苑を持っていた彷徨がそれを三太に振り下ろす瞬間だった。
「あ、あぁぁぁ悪い、彷徨、いやーそんなつもりじゃ…あ、あのそれで何を………」
振り下ろされた。
「「ぎゃああああ」」
と、2-1組は引き続き阿鼻叫喚を迎えていたのだった。
END