攫う久しぶりに会ったその人は相変わらず背がでかくて態度も相変わらずだった。
私が好きだったその人、クザンさんは開口一番「ぼいんなねーちゃんがいると思えばナマエちゃんじゃないの」と間延びした声でセクハラをかましてきた。
まるで毎日顔を合わせていたあの頃のように変わらない態度で接してくるクザンさんに私も思わず「大将それセクハラですよ」と返してしまった。
「もう大将じゃないでしょうが」
やれやれと溜息をついて見せるその仕草すら見慣れ切ったもので、何をどう伝えればいいのか私にはわからない。
「そう、でしたね」
「なァ話は変わるが」
パン、と手を叩いてわざとらしく話を変えようとするのは気まずさを感じさせないための配慮なのだろう。結局は優しい人だから。
「なんです?」
「おれとデートしない?」
「はい?」
あまりに突飛な提案だった。
結局私はこのクザンさんからの申し出を断ることができなかった。惚れた弱みゆえと思ってほしい。
歩幅の違う私に合わせてゆっくりと隣を歩いてくれている大きな人。この人とこんな風に隣り合って街を歩く日が来るなんて夢みたいだ。
「ぶ、くく。そんな見つめられちゃ穴開いちゃいそうなんだけど?」
「う、あ。そんなつもりでは!」
慌ててうまい言葉も返せずくすくすと笑われる。上から降ってくる声があんまり平和ボケしそうな笑い声だったので私は少しやり返してやるつもりでクザンさんに尋ねた。
「で、結局目的はなんなんです?軍の機密情報とか聞かれても知りませんからね私」
「わかってるって。知ってても教えてくれないでしょ、ナマエちゃんバカ真面目だから」
「バカとはなんですか、大体クザンさんがてきとーすぎるんですよ」
昔と変わらない言葉の応酬だった。
「まァそのなんだ、あれだよ」
「どれですか」
「んー、どれだったっけかなァ」
その瞬間クザンさんが少し視線をさまよわせたのを私は見逃さなかった。
「はっきり言ってください」
「じゃ言うけどさァ、おれナマエちゃんが心配なんだわ。新元帥殿が率いる今の海軍の居心地はぶっちゃけどーなのよ」
その言葉にぎくりとした。
「あんたにゃキツイんじゃねェの?」
珍しくきくクザンさんの真剣なトーン。軽くかわすことを許してはくれないだろうとすぐに理解できる声色だった。
「おれの気のせいで間違いでも、それならそれでいいのよ?ちゃんとまっとうに自分の信じた道を歩けてるっていうならそれでさ」
だけど、と言い置いてクザンさんはこちらを射貫くような視線をよこす。
「もし断言出来ねェならおれと来ない?要はナマエちゃんをさ、攫いに来たんだわ」
「へ」
言葉とともにその大きな手が私の額に触れた。混乱する私をよそにゆっくりと背を曲げてその人の唇が額へと落ちる。
私はこの日はじめてクザンさんの秘めた気持ちをしり、そして私の秘めていた気持ちが筒抜けだったことを知らされるのだった。