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    @810976_an

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    蚀博♂
    なかみなし

    #蚀博
    etchingBo

    下拵えもすきずき フィディアの尾は美しい。スイッチを切り替えて、天井の照明の眩しさが抑えられると、鱗の光沢にいくつもの色が与えられる。宝石のようだとも思う。加えて、種族特有のものなのかヴィーヴルの尾とは違い、しなやかで柔らかく張りがある。ドクターは目の前のそれに夢中になった。正確には、現実から逃避するために夢中になろうとした。
     会話も何もない静かな空間で、二人の男がベッドの上で向かい合っていた。コロセラムの指先がドクターの閉じた膝に触れる。ひやりとして冷たい。それに対してドクターは先程シャワーを浴びてきたばかりだ。湯気も髪を滴る水分も全て拭き取られてしまったが、じわりと内側から発熱するように高くなった体温に掌が沈み込んだので、ドクターは思わず背筋を震わせた。
    「ドクター、そこまで緊張していちゃあ出来ることも出来ませんよ」
    「いや、わかってるんだ、だがどうしても……」
     この先のことを思うと、反射的に体は強張った。己の恋人――コロセラムに主導権を委ね、自分はただ彼の誘導のままに力を抜いていればよい。頭では理解している。それを思ったように出力できないことを誰が責められようか。勿論この出来た恋人もそれを責めはしなかった。ドクターの葛藤は、コロセラムにとっては全て過ぎたことなのである。今彼の頭の中には、この問題をどうやって解決してやればよいのか、それしかない。
    「身構えるから恐ろしくなるんです。ほらドクター、私の声に集中して。まずを目を瞑りましょう。次に体から力を抜きやがってください……こら、抵抗しない」
    「なあ、これは君を信じているからこその確認なんだが、痛くしないよな? 優しくしてくれるよな?」
    「それはドクターに懸かっていますので、私から約束できることはありません。では少しずつ力を加えますよ」
    「そんな!」
     ドクターの閉じられた足が胡坐をかくように広げられている。コロセラムの両手はドクターの両足を抑えつつ、真下へ向けて圧力を強めていった。ドクターの股関節が徐々に開く。手応えが固くなっていき、限界だと言わんばかりに反発力が強まっていった。「ストップ!」止まらない。「ぁ、ちょ、やめ、いだだだだ」しかしまだ止まらない。今やドクターの膝はベッドシーツすれすれのところにあった。「もう無理だって!」「いやいや、まだ行けるでしょう」「これ以上広がらない! ほんとに無理!!!」シーツがばんばんと手で叩かれる。コロセラムの基準からすれば、ドクターの限界値はお遊びみたいなものだ。しかしスタートラインを考えればよくぞここまで解すことが出来たと己へありったけの賞賛を贈りたくなるのも無理はない。その開かれた両足の間に自分の体を滑り込ませることさえ厳しかった過去を思うと、恋人へ施すにはあまりにも色気のないストレッチを続けてきた甲斐もあるというものである。
     一旦加える力を弱めると、ドクターは息を切らして背中から倒れこんだ。荒い呼気に合わせて薄い腹が上下する。この人は体力がない。コロセラムの想像よりもずっと。ウルサスやヴィーヴルにこそ劣るもののフィジカル面に優れるフィディアの中で、相対的にコロセラムは貧弱だ。しかし同じデスクワーカーとして扱うのも憚られるほど二人の体力には差がある。その歩調に合わせてやる必要がある。そういう時、コロセラムは決して少なくはない口数が更に多くなる。
    「先週に比べれば目に見えて効果が出ています。就寝前の柔軟を欠かさず行っている証拠です。嫌だ嫌だとごねていやがりましたが、結果はなかなかどうして悪くない。及第点としましょう」
     倒れたドクターに覆いかぶさるように、片手を顔の横についた。ドクターはまだ酸素を取り込むことに集中している。風呂上りということもあって目はとろんとしており、日中の激務による疲労が残っていることが窺い知れた。だが性質の悪いことに、ドクターは疲労だけでは眠ることの出来ない体だ。彼が自然な睡眠を取るにはもう一工夫いる。肌を擦り合わせることでこれを特効薬としても良いが、ただ隣で同じように横になって目を瞑ってやるだけでも、彼にはじゅうぶんな安心感を与えられるようである。ドクターがそれを望むのであれば、終わりかけの今日という日をそう過ごすことも吝かではなかった。だから問いかける。選択を完全に彼の意思にのみ委ねるのではなく、お伺いを立てるように熱の籠った視線でこの光景を味わいながら。
    「どうしたいですか、ドクター?」
     ドクターがコロセラムを見上げる。双眸にどういった感情が込められているのか――コロセラムは正確にそれを読み取った。であれば、以前からのドクターの要望もこの機に叶えてやるべきだろう。コロセラムが割り込んでいるのはドクターの足の間だ。成果を挙げたことを褒めるように片膝を撫でてやる。本人の意思に反して拒まれるというのはなんとも悲しいものだ。だが、時間をかけて頑なさを解すのも悪くはない。
     視線に込めた期待を受け取ったにもかかわらず一向にその先に進もうせず感慨に耽る姿に、ドクターは緩んだ唇からは放心するままにか細い問いが漏れた。「コロセラム……?」この状況で名前を呼ばれると、焦れて強請られているようにさえ聞こえる。しかし、ドクターは純粋な疑問を向けたに過ぎない。下心を邪推するのは、他でもないコロセラムがそうであってほしいと思うからである。
    「その……しないのか?」
     シーツに手をついて、上体を起こそうと試みるドクターを手で制した。
     恋人に恥をかかせるわけにはいかない。コロセラムは思考を中断して、目の前の据え膳に向き直る。
    「お待たせしてすみません。ところでドクター、これは確認ですが、先程のストレッチの目的をまさかお忘れではありませんよね?」
     ドクターの頭脳は優秀だ、目的を忘れるはずがない。この先自身の身に降りかかる未来を即座に察知するなり慌てだした。
    「ま、待て!」
     足を閉じようにもコロセラムの体が割り込んでいる。
    「する、のは、構わないが! た、態勢が……」
    「酷い人だ。ドクターが言ったんですよ、顔を見ながらしたいってね。これ以上おあずけを食らわされるのも勘弁したいところです。大人しくお縄につきやがることをお勧めしますよ」
     結局ドクターはその攻防にあっさりと負けた。
     代償に翌日、酷い筋肉痛と倦怠感に見舞われたが、平時以上に甲斐甲斐しい恋人の助けを以てして一日を終えたのだった。
     
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    MOURNINGモブ視点多め
    みじかいテープ かの高名な宇宙ステーション『ヘルタ』に降り立つと、そこは慣れ親しんだ大学とは違う冷えた空気に満ちていた。空調の問題ではない。私は身も心も竦んでいた。
     世の学者、研究者にとって天才クラブの面々は憧れの的とも目の敵とも言える、非常に屈折した感情を向けられやすい相手ではあるのだが、いざカプセルの前で腕を組みこちらを見据える天才を前にすると緊張のあまり頭も口も働かない。まったく何を言えばいいのか――事ここに至っては、自身の発言など何も求められていない。それに気付きながらも尚、何かを言わなければならないという焦燥感に駆られるのは、己の自尊心が働いている証左であろう。
     ミス・ヘルタは己に実施した若返りの秘術そのもの、ヘルタ・シークエンスについて述べることで、カプセルの中の人を救う手段を提案した。一言一句が値千金ではあるにもかかわらず彼女はそれを惜しむことなく明らかにした。カプセルの中で眠る少年がナナシビトであることは既知の情報であり、彼がミス・ヘルタの研究に多大なる貢献をしたことも資料には記されていた。しかし天才に恩返しなる概念が存在していたことは、私にとっても非常に意外なことだった。けれどもその義理堅さに救われる命がある。当時の私の助手歴はまだ短く、Dr.レイシオについて知ることも伝聞が殆どではあったが、彼が自分より一回り以上小さな背丈の女性に頭を下げて協力を乞うさまは、今でも記憶に焼き付いている。
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    DOODLEレイ穹 現パロ 後で推敲します
    続くかも
    止まり木を見つけた 腹の底をとろ火でぐつぐつ炙る茶を一杯、二杯、景気良く流し込んでいって、気付いたころには一人になっており、やたら肌触りの良い夜風を浴びながらどことも知れぬ路地裏を彷徨っていた。
     暫くすると胃が唐突に正気を取り戻し、主に理不尽を訴えた。穹は耐えきれず薄汚れた灰色の壁と向き合ってげえげえ吐く。送風機が送る生温かさは腐乱臭を伴っているようにも思えた。その悪臭の出処は足元だ。なまっちろい小さな湖を掻きまわす人工的な風、乳海攪拌ならぬ――やめておこう。天地は既に創造されている。知ったかぶりの神話になぞらえたところで、無知と傲慢を晒すだけである。自嘲を浮かべる。
     穹少年は、穹青年となっても、その類稀なる好奇心こそ失いこそはしなかったが、加齢と共に心は老朽化していくばかり。それでもって汚れも古さも一度慣れてしまうと周囲が引いてしまうぐらいにハードルが下がってしまうもので、己のこういった行いの良し悪しを客観的に評価できるだけの頭はまだ残っているというのに、なんだか他人事みたいに流してしまう。つまるところ、泥酔の末に吐瀉物を撒き散らす男なんて情けないしありえない、真剣にそう言えるくせに、それが自分のこととなると周囲の顰蹙を買うほどに要領を得ない返事と化すのである。
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    DOODLE花布さんの素敵呟きに便乗しました
     指輪が欲しいなどと、口にしたことはないのだけれど。

     例えば長期任務に出発する朝だとか、別に彼と一緒の作戦ではなかったとしても、身支度を急がせた彼は無言で私を手招きする。窓の外はまだ暗く、宵っ張りの星々でさえまだ二度寝を決め込んでいるような時間帯。もたもたとフードの紐を結び終えた私は、左手の手袋だけを外しながら促されたとおりに彼の膝の上にそろりと腰かける。そうすればとっくに準備を整えていた彼の手のひらがぐいと私の左手をつかみ、右手に持った小さな刷毛でただ一本の指の爪だけを彼の色に染め上げていくのだった。
     無論、背後から覆いかぶさられているので彼の表情を窺い見ることは難しい。無理やり身体をひねればできなくはないだろうが、そうすればこの時間は二度と手に入れることはかなわないだろう。彼よりも一回りは小さい爪は、刷毛がほんの数往復してしまえばあっさりと塗り終わってしまう。触るなよ、という言葉が降ってくるのが終わりの合図で、しかし器用に片手で刷毛を戻した彼はまだ私の左手を掴んだまま。信用がない。なさすぎる。まあ思い当たる節ならばいくらでもあるのだけれど。
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    nbsk_pk

    DOODLE転生現パロ記憶あり。博が黒猫で花屋の炎さんに飼われている。博猫さんは毛づくろいが下手すぎてもしゃもしゃにされたのを自力で戻せないので、原因にブラッシングを要求しました
    ねことのせいかつ いくら朝から店を閉めているとはいえ、生花という生き物相手の職業であるためやらなければならない作業は多い。ましてや今回の臨時休業の理由は台風、取引先各所への連絡から店舗周辺の点検と補強までひと通り終わらせたときには、すでに窓の外にはどんよりとした黒い雲が広がり始めていた。


    「ドクター?」
     店の奥にある居住スペースの扉を開けても、いつものようにのたのたと走り来る小さな姿はない。しん、とした家の気配に嫌な予感を募らせたエンカクがやや乱暴な足取りでリビングへと駆け込んだとして、一体誰が笑うというのだろう。なにせあのちっぽけな黒猫はその運動神経の悪さに反して脱走だけは得手ときている。植物や薬剤をかじらないだけの聡明さはあるというのに、頑として水仕事で荒れた手のひらで撫でられねば一歩も動かないと主張する小さな生き物に、どれだけエンカクが手を焼いたことか。だがエンカクの心配をよそに、雨戸を閉めた仄暗い部屋の中で黒猫はあっさりと見つかった。キッチンの出窓、はめ殺しの小さな窓には雨戸もカーテンもないため、今にも落ちてきそうなほどの暗雲がよく見て取れた。自身が抱いているものを安堵とは決して認めないものの、やや歩調を緩めたエンカクは窓の外をじっと見つめたまま動かない黒猫の背にそっと立つ。
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