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    @810976_an

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    レイ穹 現パロ 後で推敲します
    続くかも

    #レイ穹

    止まり木を見つけた 腹の底をとろ火でぐつぐつ炙る茶を一杯、二杯、景気良く流し込んでいって、気付いたころには一人になっており、やたら肌触りの良い夜風を浴びながらどことも知れぬ路地裏を彷徨っていた。
     暫くすると胃が唐突に正気を取り戻し、主に理不尽を訴えた。穹は耐えきれず薄汚れた灰色の壁と向き合ってげえげえ吐く。送風機が送る生温かさは腐乱臭を伴っているようにも思えた。その悪臭の出処は足元だ。なまっちろい小さな湖を掻きまわす人工的な風、乳海攪拌ならぬ――やめておこう。天地は既に創造されている。知ったかぶりの神話になぞらえたところで、無知と傲慢を晒すだけである。自嘲を浮かべる。
     穹少年は、穹青年となっても、その類稀なる好奇心こそ失いこそはしなかったが、加齢と共に心は老朽化していくばかり。それでもって汚れも古さも一度慣れてしまうと周囲が引いてしまうぐらいにハードルが下がってしまうもので、己のこういった行いの良し悪しを客観的に評価できるだけの頭はまだ残っているというのに、なんだか他人事みたいに流してしまう。つまるところ、泥酔の末に吐瀉物を撒き散らす男なんて情けないしありえない、真剣にそう言えるくせに、それが自分のこととなると周囲の顰蹙を買うほどに要領を得ない返事と化すのである。
     穹青年は帰巣本能の赴くままにふらふら歩きだした。ここから先は碌に意識が無いが、重い扉の前までやってくると都合よく自身を取り戻す。取り戻すといっても、等速直線運動しかできない点Pから人間の皮を被った猿程度に戻った、そのぐらい僅かなもので複雑な思考など出来ようはずもない。計算しかできない電卓の方が余程役に立つ。穹に出来るのは定型化した動きだけで、彼は自身の経験に従って、お邪魔しますの合図にインターホンをピンポン鳴らして、あとは口を半開きにぼんやり時を待つのである。もしも部屋の主が既に就寝していたなら、きっと彼は足か眠気が限界を迎えるまで無心で立ち尽くしていたことだろう。幸運なことにノブが回った。おかげで凍えて死なずに済んだ夜だ。



     次に穹が意識を取り戻したのは人肌に温められたベッドの中だった。驚くべきことに彼は全裸だった。
     部屋の主の名誉のために弁明しておくが、酔っ払いの吐瀉物は顎を喉を伝い、無視できないレベルで衣類を汚していた。その状態の男を部屋に招き入れた時点でその寛容さに疑う余地はない。そしてそれを脱がせて、洗濯機を回して、風邪を引かないように温かなベッドの中で眠らせてやる――おお、親愛なるDr。いったいどれほどお優しい契約を人類愛護団体と交わしたんだい? 就寝の時間が一時間以上ずれたことに神経が苛立つあまり知り合いの声で幻聴が再生される始末だ。こめかみに青筋を立てる。苦痛を慰めるためにレイシオは目の前に晒された裸のうなじに鼻先を埋めて、鬱憤を晴らすように肢体を絡めた――たったそれだけ、それ以上の不埒な行いは一切働かなかった。友人同士のそれにしては距離の近すぎる、けれど恋人同士にしたって献身の過ぎる共寝。それ以上の事実はない。
    「みず……」
     穹の訴えは尤もだが、彼の喉は使い物にならなくなっていた。口の中が渇きすぎて気持ち悪い。粘菌の繁殖場のようなねばっこさで、喉はすっかり塞がれていた。上質なシーツを引っ搔くように指先を動かすと、その僅かな身動ぎが刺激となったのか、穹を拘束してやまない男も嫌々目覚めたようだ。穹にとっては、己の寝起きの身体など、一種の軟体生物のように思えるほど脱力しているのが常なのだが、この男は違うらしかった。レイシオは意識を取り戻すとまず手足が力を取り戻すタイプなのだった。「ぐぇ」情けない悲鳴は音としては成り立っていたが、やはり喉の乾きのせいで悲鳴というより不快な引っ掻き音のようだ。
    「みず」
     唾液を飲み下して漸く言葉を発することができる。
    「少し待て」
     穹のみすぼらしい鳴き声とは正反対で、明瞭な発音だ。
     レイシオはずるりとベッドから出て行った。一人置いて行かれた穹は口の中へ唾液を生んでは喉奥へ送り出すことを繰り返す。穹はふと、自分の腕に噛り付いて、そのまま一生を生きていけるのかどうかが気になった。出血量の問題をクリアしたとしても、肉だけを食べて生きていたらそのうち本当に野生を生きる獣になってしまうのだろうな。人は知能を得る代わりに不自由になった。文明のレベルがあがるにつれ、健全な肉体と判断されるための合格点がつり上がっていくさまは、偏執的な完璧主義者を見ているようだ。斜に構えた考えだけれども、肉体の発するシグナルは案外馬鹿にならないものだということも穹は十分理解していた。唐突に野菜を大量に摂取したくなる、あの現象と同じく、自分は本能的にこの家に帰巣することを求めたのではないか。昨晩、前後不覚になる前の穹の精神状態といったら酷いものだった。飢えに飢えて、理性が答えを出せないことに痺れを切らした身体が動きだしたというなら、自分は自分の想像以上に居心地良く感じているのだろう。この空間も、その主も。足りない栄養を補うが如くである。
     と、ここまでとめどない思考を巡らせたのけれど、これらは酔いの残った脳みそが適当を吐いた結果に過ぎず、答えも無ければ間違いもない、落書きのような思考に過ぎない。この場で得た悟りもどきは形になることなくどこかへ散っていくだろう。今、レイシオが水を持って帰って来たから、その喜びに飛びついた裏で何もかもが忘れ去られたように。
     喉をじゅうぶんに潤すと、眠気は吹っ飛んでしまった。時計の針はまだ寝ていてもいいというけれど、そんな怠惰な真似を果たしてこの男が許すかどうか――ある種の諦めと共にレイシオを見上げるが、彼は適当な着替えを引っ張り出して穹に渡すなり、朝食の用意のために引っ込んでしまった。そういったルーティンを邪魔されることを嫌う男だ。穹はしぶしぶ、丈の合わないシャツに袖を通した。窓の外を見る。道を歩く人が居ないと少しだけ浮足立つ。一番乗り。好きな言葉だ。
     身体が冷えるのも構わずにバルコニーに出て早朝の空気に浸っていると、首根っこを掴まれて部屋に引き戻された。
     リビングに繋がる扉を開け放していたからか、部屋の中には香ばしいにおいが充満している。
    「お腹空いた」
     口に出すと身体もその気になったのか、腹を鳴らして復唱する。
     連れられて、軽めの朝食の並ぶ食卓の前までやってきた。穹はその中に珍しいものを捉える。トーストの隣で出番を待つジャム瓶だ。
    「これ、この間のやつじゃん。また買ったのか?」
     しかしレイシオと穹の味覚は、それ程気が合う訳でもない。先代のジャム瓶の中身は殆ど穹の腹の中に消えた。二度目はないだろうから、味わって食べたことを覚えている。
     レイシオの返答はさらりとしていた。
    「それが口に合ったんだろう」
     さも当たり前のことを口にする時の彼は、いつも、どこか素っ気ない。
     穹は、うん、と頷いたきり、それまでが嘘のように黙々と朝食を摂り始めた。食卓と手元を交互に往復する視線が、時折レイシオを盗み見る。好意は、どちらかというと毒である。人を落ち着かなくさせる。耐性を付けた者にのみ薬として作用するのだ。
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    DOODLEレイ穹 現パロ 後で推敲します
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    止まり木を見つけた 腹の底をとろ火でぐつぐつ炙る茶を一杯、二杯、景気良く流し込んでいって、気付いたころには一人になっており、やたら肌触りの良い夜風を浴びながらどことも知れぬ路地裏を彷徨っていた。
     暫くすると胃が唐突に正気を取り戻し、主に理不尽を訴えた。穹は耐えきれず薄汚れた灰色の壁と向き合ってげえげえ吐く。送風機が送る生温かさは腐乱臭を伴っているようにも思えた。その悪臭の出処は足元だ。なまっちろい小さな湖を掻きまわす人工的な風、乳海攪拌ならぬ――やめておこう。天地は既に創造されている。知ったかぶりの神話になぞらえたところで、無知と傲慢を晒すだけである。自嘲を浮かべる。
     穹少年は、穹青年となっても、その類稀なる好奇心こそ失いこそはしなかったが、加齢と共に心は老朽化していくばかり。それでもって汚れも古さも一度慣れてしまうと周囲が引いてしまうぐらいにハードルが下がってしまうもので、己のこういった行いの良し悪しを客観的に評価できるだけの頭はまだ残っているというのに、なんだか他人事みたいに流してしまう。つまるところ、泥酔の末に吐瀉物を撒き散らす男なんて情けないしありえない、真剣にそう言えるくせに、それが自分のこととなると周囲の顰蹙を買うほどに要領を得ない返事と化すのである。
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     暫くすると胃が唐突に正気を取り戻し、主に理不尽を訴えた。穹は耐えきれず薄汚れた灰色の壁と向き合ってげえげえ吐く。送風機が送る生温かさは腐乱臭を伴っているようにも思えた。その悪臭の出処は足元だ。なまっちろい小さな湖を掻きまわす人工的な風、乳海攪拌ならぬ――やめておこう。天地は既に創造されている。知ったかぶりの神話になぞらえたところで、無知と傲慢を晒すだけである。自嘲を浮かべる。
     穹少年は、穹青年となっても、その類稀なる好奇心こそ失いこそはしなかったが、加齢と共に心は老朽化していくばかり。それでもって汚れも古さも一度慣れてしまうと周囲が引いてしまうぐらいにハードルが下がってしまうもので、己のこういった行いの良し悪しを客観的に評価できるだけの頭はまだ残っているというのに、なんだか他人事みたいに流してしまう。つまるところ、泥酔の末に吐瀉物を撒き散らす男なんて情けないしありえない、真剣にそう言えるくせに、それが自分のこととなると周囲の顰蹙を買うほどに要領を得ない返事と化すのである。
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    nbsk_pk

    DOODLE花垣さんの最高素敵イラストを見てくれ!!!!!!
     警戒を怠るな、なんて安易に言ってくれる。

     寝顔なんて大体の人間が間抜けな表情を晒すものだ。いくら見上げるほどの長身に引き締まった体躯、股下が少なく見積もっても五キロあるサルカズ傭兵だったとしても例外ではない。半眼のままぐらりぐらりとソファに身体を預ける男を横目に、ドクターはつとめて平静そのものの表情を必死に取り繕った。というのも横に腰かける男がここまでの醜態を晒している理由の大部分はドクターにあるため、うっかり忍び笑いひとつもらせばたちどころにドクターの首は胴体と永遠にさよならするはめになるだろうからである。
     思い返すのも嫌になるくらい酷い戦いだった。天候は悪く足元はぬかるみ、視界はきかない。そんな中でも何とか追加の負傷者を出さずに拠点まで戻って来れたのはドクターの腕でも何でもなく、今回の作戦のメンバーの練度の高さと運である。その中でもひときわ目立つ働きを見せたのが横でひっくり返っているエンカクである。傭兵としてくぐった場数が違うのだと鼻で笑われたが、なるほどそれを言うだけの実力を見せつけられれば文句など出てくる余地もない。現代の戦場においては映画やおとぎ話とは違ってたったひとりの活躍で盤面がひっくり返ることなどまずありえない。だが彼の鬼神もかくやという活躍を見てしまえばうっかり夢物語を信じてしまいそうになる。いや、指揮官がこんな思考ではまずい。当然のことではあるが、ドクター自身もだいぶ疲労がたまっているらしい。意識を切り替えるためにコーヒーでももらいに行くかと立ち上がろうとした瞬間、ごつんと右肩にぶつかる硬くて強くて重いものがあった。
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