緒孤は超絶晴男。眠菟は超絶雨男。かび臭い布団の上に放り出されたと思ったら、目の前が真っ暗になる。
「あんたはここから出ちゃダメ!緒弧!あんたはベランダにいなさい!!」
ギャンギャンと母親がなにか吠えている。
こういう時は、従っていた方がいい。今夜腹を空かせて眠れないなんて事態はお互いに避けたい。
さっきまで乱暴に掴まれていた腕と肩が痛い。押し入れの中で丸くなりながら、痛くないほうの肩を下にして横になった。外では、ベランダの窓が閉まる音。「洗濯もまともに出来ない・・・」と母親が小さく言う声。押し入れの湿った、冷たい空気をなるべく吸い込まないように、なるべく入口の隙間に顔をちかづける。
ふと、隙間から外を覗くと、雲間から差し込む暖かい太陽光と、ベランダの窓越しに風で揺らめく洗濯物と、その隣に兄がいる。兄はこちらに背を向けて、ベランダの柵にだらりともたれかかって下を見ていた。
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またベランダに追い出されてしまった。上着を着たままにしておけばよかった・・・。洗濯物を乾かすだけで、この家では大騒ぎだ。多分お隣も、その隣だって洗濯物くらいは静かに干す。このアパートで、1番うるさいのがウチだ。
ベランダから外を見ていると、よその家の様子がよく見える。あの家は、子どもは1人でベランダに出ると怒られる。あの家の大人は、自分と目が合うとさっさと部屋に戻ってしまう。あの家の兄弟はいつも喧嘩ばっか。
ぶるりと身震いがおこり、垂れてくる鼻水をすする。
俺たちの毎日は、あっちとは違う。
ひとつ大きな風が吹いて、冷たい洗濯物に殴られる。
早く乾け、早く乾け、と願いながら、俺は太陽を睨みつけるのだった。