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    ゆうら

    @08yurayuratti22

    主に鯉鶴・うさかど・菊トニ・尾白が好きですが
    かなり雑食
    色々書けていけたらいいな~
    どうぞよろしくです!

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    ゆうら

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    8月に出した「たむけの花」のエピソード0.1です
    前回のお話(エピソード0)はこちらhttps://x.com/08yurayuratti22/status/1833013249186632147?t=QhCbOX3-bqTgSe0dyxaKqQ&s=19

    秋祭りの夜。
    門倉少年が不思議な少年に、再び出会うお話。

    #うさかど
    houseFrontage

    たむけの花 エピソード0.1【秋祭り】祭囃子が聞こえてくる。提灯の赤や黄色の光が、遠くでぼんやりと揺らいでいる。
    両親は家におらず、一人でも行きたいとせがんだら、遅くならない事を条件に許された。そして何故か母さんが張り切ってまい、白い浴衣を着せられてしまった。きっと動きにくい格好にしてしまえば、無茶は出来ないという考えなんだろう。おかげで走り回ったりは出来なくなったが…
    秋の夜の森は、虫の音に包まれている。落ち着く音色に耳を傾けながら、遠い記憶が頭を掠めた気がした。
    ……不意に甘い香りがした気がして、立ち止まった。覚えのある匂いだった。
    「あれ?」
    いつの間にか、右手に白い花を握っていた。見覚えのある花だった。
    「これ……」
    なんで、忘れていたのだろう。とても大事な贈り物だったのに、いつの間にか失くしてしまった。白い花は、先ほど摘んだかのようにみずみずしく右手で咲いている。

    「お久しぶりですね。門倉さん」

    驚いて顔を上げると、同い年くらいの着物の少年が立っていた。坊主頭に大きな目。白い肌に両頬の黒子。
    「…う、宇佐美?」
    「はい。そうです」
    つやつやの唇がニッコリと笑った。
    三年前、引っ越しで分かれた友だちだった。でも何故か、今の今まで忘れていた存在だった。
    「約束しましたもんね。また会いましょうって」
    「あ……う、うん」
    約束……そういえばあの時、宇佐美と俺は…
    顔がみるみる赤くなるのを感じた。どうしよう。また会えたのに、あの時の事を思い出して、すごく照れてしまう。
    「ウフ、大きくなりましたね」
    そっと、頬を撫でられて、思わず飛びのく。あの頃と違って、自分も相手も背が伸びたからだろうか。あの頃ぼんやりと感じていた心の疼きが、はっきりとした感情に変わってしまいそうだ。あわててそんな考えを追い出すように頭を振り、宇佐美の事を改めて見つめる。
    「お、お前も背が伸びたよな」
    「そうですか?」
    なんだが他人事のように言うから、首を傾げてしまう。
    相変わらず肌が真っ白で綺麗な顔をしてる……って、俺は何考えてんだか。宇佐美は以前と同じように紺の着物を着ており、黒い狐のお面を頭の左側に被っていた。
    「浴衣、似合いますね」
    「あ、ありがと…」
    なんだか恥ずかしい。宇佐美は着物だが、何となくお揃いみたいだと思ったからだ。
    「一緒にお祭りに行きましょうよ」
    そう言って、俺の頭にお面を被らせた。
    「これ…」
    「僕からの贈り物です」
    そう言って、ニコニコと笑う。その笑顔が本当に嬉しそうで、釣られて笑った。
    「なんだ? …狐のお面か」
    「ええ。お揃いですよ」
    宇佐美と違って白い狐のお面。少し本格的でちょっと怖い。けれども宇佐美からのプレゼントだからと思い直して、顔に被った。
    「どう?」
    「いいですね。でも、あなたの顔を見ていたいので…」
    そう言って宇佐美の手が俺の耳に触れる。思わず体が固まってしまった。宇佐美は俺のお面を調整しているだけなのに…
    「きつくないですか?」
    「…う、うん」
    なんか変な感じだ。なんでこんなにドキドキしてしまうのだろう。
    やがて宇佐美は俺の左手を握ると、ゆっくり歩き出した。あの時と変わらない手の温もり。森の中はひんやりとしているからなのか、汗一つかいていない手。逆に俺は手汗でびっしょりだったから、ちょっと申し訳なかった。
    「…宇佐美は、この辺に住んでるのか?」
    「どうでしょうね」
    また、曖昧な言いようだった。以前よりも大きくなったから、その言い方に強い違和感を覚える。でも、それを指摘するのはなんだか億劫だった。余計な事をして、それが別れの原因になるのは嫌だった。
    「ふーん、まあいいや。またいっぱい遊ぼうな!」
    「ええ。遊びましょうね」
    でもきっと、また親の影響で引っ越して離れ離れになるのだろう。だから、それまでは一緒にいたい。思わず宇佐美の手を強く握ると、握り返してくれた。右手に握っていた白い花が揺れるのが、視界の端に見えた。あの時に貰った白い花だった。名前は分からないけれど、とても綺麗だ。
    「ずっと持っててくれたんですね」
    「あ……いや…」
    いつの間にか失くしてしまった花。そう、宇佐美の記憶と共に…
    「ウフ…咲き誇るのは、まだまだ先ですね」
    「何のこと?」
    クスクスと笑う声が、なんだか俺を子ども扱いしているみたいに聞こえる。ちょっとムスッとしたら、宇佐美がさらにおかしそうに笑った。そして俺の右手から花を取り、
    「そのままじゃ動きにくいでしょうから…」
    と、言いながら右の手首に結ばれた。白と十字の葉をもつそれは、ブレスレットのようにしっかりと手首に固定されてる。
    「あ、ありがと…」
    「いえいえ」
    男なのに花なんて、そんな言葉が頭を過ったが、すぐに首を振る。せっかく宇佐美がくれた花だ。今度こそ無くさないようにしないと…
    いつの間にか、屋台が並ぶ参道に来ていた。焼き物の香ばしい匂いに、腹が鳴る。
    「何か食べませんか?」
    「うん。あ…お金…」
    左手をポケットに突っ込むと、昨日もらった小遣いの硬貨が出てきた。
    「何か食おうぜ!」
    「奢ってくれるんですか?」
    「おう!」
    目に入ったソースせんべいの屋台に向かい、店主のおっさんに声をかけると、ルーレットを回すよう促された。
    「よし、今日こそ二十枚以上が当たれ!」
    「え?」
    きょとんとした顔をしている。
    「ん?食ったことないの?」
    「はい…そもそも見たことないです」
    もしかしてソースせんべいって、地域限定って事? そういや前に関西の方へ引っ越した時、ミルクせんべいとかいう甘いのを見た事があった。場所によっては、そもそもこういう物が無いのかもしれない。
    「そっか、じゃあ宇佐美は関東出身じゃないんだな」
    「……ええ、そうですね」
    なんだか歯切れの悪い相槌だと思ったので、これ以上突っ込むのはやめた。
    「ソースせんべいはな、ルーレットを回して出た枚数分もらえるんだ」
    俺は十枚までしか当たった事ないんだけどさ。なんか俺、昔から運が無いんだよな。おかげで他の屋台のものが食えるからいいんだけど。
    「せっかくだし、宇佐美が回してみろよ」
    「あ…はい」
    古い手作り感漂うルーレットを、そっと回す。勢いよく回ったルーレットの針が、やがてぴたりと百という所に止まった。
    「えっ! うっそ、マジで…!」
    首を傾げている宇佐美を他所に、屋台のおっさんがベルを鳴らしながら『おめでとう!』と祝ってくれた。
    「…百枚当ててる人、初めて見た…」
    いわゆる、無欲の勝利ってやつなのかもしれない。だが宇佐美は、そんなには食べられないと思ったようで困った顔をしている。結局、食べきれない分は包んでくれる事になり、後は二人で分ける事にした。
    「味はソースでいい?」
    「初めてで良くわからないので、それで」
    三十枚ずつ二人で食べる事にして、一枚ずつソースを挟んでもらう。白くて平たいせんべいに、たっぷりソースが塗られ、それを覆うように次々挟まれていく。この作業をみるのが、結構楽しい。やがて出来上がった分厚いソースせんべいを、中のソースが出ないよう気を付けて手に持ち、ベンチ代わりの丸太に座った。
    「食ってみろよ」
    「はい…」
    パリパリした所と、ソースが染みてしっとりした所が合わさって、ソースせんべいならではの歯ごたえがした。
    「ソースの所が食べ応えあるんだよな~。どう? あんまり旨くなかったら…」
    「いえ、美味しいです」
    にこっと宇佐美が笑う。嘘のない笑顔だったので、嬉しくなって笑い返した。ふと、宇佐美の唇の端にソースがついているのが見えた。思わずその口元を親指で拭って、自分で舐めとると、宇佐美が小さくため息をついた。
    「ん…? どうした?」
    「いえ…」
    なんだか顔が赤い? 白い肌だから、電灯の下でもよく見える。俺、何かしたっけ?
    「門倉さんも付いてますよ」
    そう言って、宇佐美が俺の口の端に人差し指を当てる。そのまま拭った指先を、宇佐美は己の舌で舐めとるのが見えた。赤くうねる舌先が指先を這い、ゆっくりと舐る。ちゅ…っという音と共に、唇が離されるまで、思わず見つめ続けていた。
    「…! あっ……!」
    そっか俺、いつも母さんにされているからって、宇佐美にもやってしまったが、これって何だか…こ、恋人同士みたいじゃないか。
    「ウフ、良かった」
    「な、何が?」
    「こうして、一緒に過ごせるのが、嬉しいって意味ですよ」
    それならいいか。
    三十枚のソースせんべいは中々の食べ応えだったが、まだまだ食べれる。
    「今度は甘いものでも食う?」
    「あ、じゃあ、買ってきますよ」
    そう言って、宇佐美が颯爽と人混みに紛れてしまう。なんとなくソースの付いていないせんべいを齧っていると、宇佐美が戻ってきた。
    「はい、どうぞ」
    宇佐美が俺の口に何かを押し付ける。甘くて冷たいフルーツ…でも少し表面がパリパリしたこれは…
    「…水あめの…みかん?」
    俺は、あんず飴よりフルーツ飴の方が好きだ。たまたまとはいえ、好みの味を宇佐美が選んでくれて、とても嬉しい。
    「美味しいですか?」
    「…ん…うん。おいしいよ」
    モナカの皿を受け取れば、中に漂う水あめを見て気づく。
    「あれ?みかんがまだ入ってる」
    サクランボとみかんが、水あめの中を漂っていた。
    「お店の方がオマケしてくれたんです」
    にこっと笑ってそう言う宇佐美を見て、ちょっと胸の中がモヤっとした。きっと、宇佐美が綺麗な子だから、おまけしてくれたのだろう。モヤモヤする心をごまかす様に、口を開く。
    「さっきのみかんは…」
    「門倉さんに食べて欲しくて…」
    「…じゃあ、これは宇佐美のだ」
    俺が宇佐美にとって特別みたいで、少し気分が盛り返してきた。宇佐美に残りのみかんを、楊枝に刺して唇に押し付けると、くすくすと笑いながら食べてくれた。
    「サクランボも…」
    「いいです。食べてください」
    そう言われてしまえば断るのも悪い気がして、サクランボを口に放り込み、そして残りの水あめを、くるくると練る。白く固くなった水あめ口に含めば、とろりとした甘さが舌を包んでいった。
    「甘い物は好きですか?」
    「うん。宇佐美は?」
    「僕も好きです」
    「じゃあ、今まで食べた中で一番甘いのは何だった?」
    「一番ですか? …教えてもいいですけど…その前に、僕もそれ食べていいですか?」
    そういえば、宇佐美は自分の分を買っていなかったようだった。
    「あっ…じゃあ、残りも少ないし、おごる…」
    と言いかけて、何も言えなくなった。ふわふわした唇が、俺の唇に重なる。少しだけ舌が入って、前歯を掠っていった。
    「ん…ちょ…ちょっと…!」
    慌てて宇佐美の肩を押した。さすがに人がたくさんいるところで、こんな事しちゃいけないと思ったからだ。でも周りの誰も、俺たちの事なんて気にしていないみたいだった。
    「甘いですね」
    「そ…そりゃ、水あめ…だし…」
    ああ、どうしよう。顔が熱い。
    「ウフ、門倉さん。かわいい」
    「はぁ?」
    変な声が出そうになって、慌てて口を押える。クスクスと宇佐美が笑っているのを見て、思わずムッとなってしまった。
    「俺もお前も男だろ! こんな事…普通しないもんだろうが!」
    「普通ってなんですか?」
    「ふ、普通って言うのは…」
    なんだろう、普通って。俺は宇佐美と手を繋いだり、遊んだりするのは好きだ。こうして口をくっつけるのだって…嫌じゃない…? えっ…今、何を考えた?
    「嫌じゃないなら、それは門倉さんにとっては普通なんですよ」
    「そう…なのかなぁ…」
    「そうですよ。…ああ、でも…」
    手を引っ張られたので立ち上がり、そのまま木の陰まで連れてこられる。宇佐美は、俺の手から水あめの棒を取ると、舌先で舐って見せた。なんだか…見てはいけないものを見ているようで、恥ずかしくなる。
    「人前でするのが普通じゃない…そう思ったって事ですよね?」
    「えっと…」
    確かに宇佐美とキスするのは嫌じゃない。むしろ嬉しくて、幸せだ。だから俺が嫌だったのは、それを他の誰かに見られる事なのだろう。
    「そう…なのかも…」
    ぽつりと呟くと、宇佐美は嬉しそうに笑う。
    「そうですよね? 良かった」
    そう言って、水あめを唇に押し付けられる。柔くてドロドロした者が、唇を、歯を覆い、舌に絡んだ。やがてその舌に、熱くてぬるりとした物が押し付けられる。宇佐美の舌だ。さっきと同じく唇が重なるだけでなく、舌まで触れ合っている。
    「ん…ふっ…」
    とても甘い。ほんのりとみかんの味がする。そして、熱い。宇佐美の手のひらが、俺の両頬を支えている。じわじわと背中を駆け上っていく甘い感覚がもどかしくて、思わず宇佐美の手首を握った。するとゆっくりと唇が離され、思わず正面から相手の目を見つめてしまう。
    「……なん…で」
    頭の中が混乱している。とても幸せで心が満たされているのに、何故か無性に目頭が熱い。
    「一番…甘いの、聞いただけなのに…」
    「…だから答えただけですよ?」
    ふわりと抱きしめられれば、ほとんど無くなってしまったモナカの皿が、手の中でくしゃりと潰れた。
    「…僕が嫌?」
    「…そ、そんな事…ない」
    むしろ……嬉しくて、幸せで……
    「良かった。またたくさん遊んで、もっと互いを『知りましょう』ね」
    こうやって…という声がして、再び唇が重なり、胸が淡く疼く。ぬるま湯の中で溺れるみたいだ。
    とてつもなく幸せな甘い口づけ。ああ、そうか。宇佐美にとって、一番甘い物が何なのか分かった気がする。少しだけ唇が離された時、宇佐美が小さく呟いた。

    「…そう。一番甘いのは、貴方です」

    クスリと笑って、また触れ合う唇。
    鈴虫が遠くで鳴いているのを聞きながら、目の前のぬくもりにしがみ付けば、右手の白い花が小さく揺れるのだった。
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