祭りの話今日は万事屋と鬼兵隊のメンバーでかぶき町の祭りに来ていた。神楽が皆で行きたいっつーから高杉に話して実現したってわけ。
折角行くんだからと皆浴衣を着ている。
「また子! あっちで射的やるネ!」
「射的なら負けないッスよ!」
「それは私の台詞ヨ!」
勝負する気満々な二人を見て苦笑する。だって、こいつらが射的なんかしたら景品なくなるか破壊して終わりだろ。
「新八ィ」
「はいはい、わかってますよ銀さん」
「おー、あの二人頼むわ」
そんなやり取りをしていると、高杉が女子達の方に近付く。
「また子、神楽、これ使え」
何を渡すのかと思いきや、財布から札を数枚差し出した。
「やった! 晋ちゃんありがとう!」
「ちょ、晋助様、こんなにいただけません」
「気にすんな。今まで祭りにゃあまり行った事ねェだろ。神楽達と仲良くやんな」
そう言いながらまた子の頭をぽんと撫でる。するとまた子は照れながらも嬉しそうな顔をした。
「ありがとう、ございます」
「ふふっ、また子早く行くネ!」
「あっ、待つッス!」
「二人共、はしゃぎ過ぎて人にぶつからないように〜」
若い衆がバタバタと去り、俺と高杉はその場に残された。
「さて、俺らも楽しもうぜ、銀時」
楽しそうに笑う高杉を見て、俺も釣られて笑った。
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焼きそばを食った後、りんご飴に綿菓子、チョコバナナといった祭り定番の甘味を食べ歩きし、途中見回ってる真選組の連中に遭遇しつつも、缶ビールを買ってから花火を見る為に人気の少ない場所に移動した。
「花火見るならここは穴場だから」
「へェ、確かに良く見えそうだ」
満足そうに笑う高杉。
花火が上がるまでまだ少し時間があるから二人でその場に腰掛ける。俺は缶ビールのプルトップに手をかけた。
「高杉はさ、あの子とどうやって会ったの?」
「また子の事か?」
「うん、そういや聞いた事ないと思って。言いづらかったらいいけど」
ビールを一口飲みながら高杉の顔色を伺う。ほら、過去を振り返るのも嫌な場合があるじゃん。俺もあんま好きじゃないし。
でも高杉は嫌な顔をせずに口を開いた。
「夜一人で俺が歩いてる時にあいつが着いて行きたいって言ってきてな」
「やだ高杉君モテモテ〜」
「違ェよ、あいつの親も攘夷志士だったのさ。俺ァ断ったんだが……その時幕吏に俺と話してる所を見られちまった。で、次の日あいつが河原で処刑されそうになってたところを助けた」
「へェ……って、それじゃお前捕まるじゃん。逃げたの?」
「そん時万斉とも会ってたんだが、一緒に捕まったよ。だが、また子と話してるのを見た幕吏ってのが武市でな」
「ふぅん、武市によって逃がされたってわけか。で、んな事した武市ももう戻れないしって事で新しい鬼兵隊が結成されたんだな」
「そうだ」
鬼兵隊再結成のきっかけはまた子って事か。
それがわかって点と点が繋がった感じがする。
「テメェは?」
新八や神楽とどうやって会ったかって事だよな。思い返してみる。
「俺は店でパフェ食ってたらそこが新八のバイト先でさ。鈍臭いヤツが働いてんなって思ってたら案の定客の天人に絡まれてて。それを助けたら万事屋で働きたいって言ってきやがった」
「へェ。神楽は?」
「新八乗せてバイクで走ってた時に十字路であいつをひいちまってな。そん時はやべェって思ったけど、あいつ夜兎だろ」
「あァ」
「で、そん時神楽は犯罪組織の用心棒してたらしいんだけど、嫌気がさして逃げてたんだと」
「それでテメェが拾ったのか」
「ま、そんなとこ。定春は、ある日万事屋の下に捨てられてて、神楽が飼いたいって言ったから……」
「ククッ、賑やかなこった」
「それはお互いさまだろ」
でもまぁ、こんな俺らを松陽が見たら喜ぶだろうな。
「何笑ってんだ?」
自然とニヤけてたらしい顔を高杉に見られた。
「悪ガキでろくでなしの弟子が祭りにガキ連れて来てよ、そりゃ立派になったよなって」
「そうだな、先生も喜ぶだろ」
そんな会話をしていたら花火が上がって空が明るくなった。
「おお、すげェ。やっぱ穴場だなここ」
「あァ」
綺麗だな、って言おうと高杉の方を見たら俺を見る高杉と目が合う。
「え、何でこっち見てんの? 花火見ろよ花火」
「あァ、見てるぜ。テメェの顔越しにな」
そんな目で見られてるって思ったら、折角花火が綺麗なのに集中できねぇだろ……
「銀時、顔が赤いぜ?」
「っ、ビール飲んでるから酔ってんだよ」
「そうかィ。じゃあこいつはもうしめェだな」
そう言いながら高杉は俺の手からビールを取り上げる。缶を軽く振ってあまり減ってない中身を確認した後、嫌味ったらしい笑みを見せてきた。
「これくらいで酔っちまうのか、テメェは」
イラついた俺は缶ビールを奪取して一気飲みをする。空になった缶を片手で潰して地面に落とした。
「あー酔ったね。どうしてくれんだコノヤロー」
そんなくだらないやり取りをしている間も花火は止まる事なく打ち上がっている。
「……銀時」
真面目に呼ばれて高杉の方を向いた時には間近に顔があり、口付けされていた。
短めの口付けの後、茹で蛸のようになっている俺の顔を見た高杉は柔らかく笑う。
「酔ってんなァ、銀時」
「あのさ、花火の前で口付けとか……もうそんなに若くねェっての」
そんな事を言いながら高杉の指に触れる。言ってる事とやってる事が矛盾してる俺。
「やりたい時にできなかったんだ。構いやしねェさ」
そう言いながら高杉は手を握ってくれた。やっぱり俺の事わかってんのはこいつだけだなって思いつつ、それからは無言で打ち上がる花火を眺めていた。
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おまけ
「あの二人、うまくやってるッスかね」
「さァな。今頃花火見ながらイチャイチャしてんだろ。ま、晋ちゃんから賄賂貰っちゃったし、手伝ってやらないわけにはいかないデショ」
「そうだね。まあ、やっとゆっくり二人きりで過ごせるんだからそっとしてあげようよ」
「だな。よし、まだ金は残ってるし、花火見ながらファミレス行こうぜまた子」
「あーはいはい、上司の愚痴なら聞くッスよ」
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公式グッズの浴衣イラストを見て祭りの話が書きたくなりました。あと上司と有能な部下達のやり取りも。
しかし最後の方が難産で仕上がるのに時間がかかってしまいました。
話を書くにあたって鬼兵隊再結成のきっかけあたりの回(アメノトリフネ辺り)の原作漫画を読んだのですが、それでも解釈違っていたらすみませんです。。
補足ですが…
高杉の言ってるやりたい時ってのは若い頃=攘夷戦争時代。おそらく祭りに行く事も花火を見る事もできなかっただろうな、と。