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    #鍾タル
    zhongchi

    ガチ恋な先生と最初はそんな気なかったタルの鍾タル「往生堂の鍾離先生は、ファデュイの執行官『公子』と付き合っているらしい」

    良くも悪くも名の知れた顔の良い男達の恋愛事情は、ただの噂ですら瞬く間に璃月中に広まった。
    渦中の鍾離本人は肯定はせずとも否定もせず、むしろ状況を楽しんでいる節がある。
    なんせこの鍾離という男は『公子』タルタリヤのことを恋愛感情で好いていたので。

    「やぁ鍾離先生、待たせてしまったかな?」
    「いや、さほど待ってはいない。」

    まるで恋人同士のような会話に、やはりあの噂は本当だったのだと周りにいた人たちは勝手に納得し、噂はどんどん大きくなっていってしまう。
    ついにその噂はタルタリヤの耳にも入るほどに広まり、部下達の困惑の声と堪えきれなかったタルタリヤの笑い声が銀行内に響いたのは言うまでもない。

    「あっは、本当に笑っちゃう…俺と鍾離先生が、ふふっ、こ、こい…恋人…あはは!」
    「食事中だぞ、静かにしないか」
    「んっふふ、ごめんごめん!でも本当におもしろいな、いっそ本当に付き合っちゃう?」
    「!!」

    目尻に涙を滲ませながら言うタルタリヤに、鍾離の表情がパッと明るくなった。

    「いいのか、よろしく頼む」
    「………ん???」

    璃月名物お騒がせカップル誕生の瞬間であった。



    それから数ヶ月
    初めは出会い頭に「やぁ鍾離先生!いい朝だね、別れよう!」なんて挨拶をされる毎日だったのだが、数ヶ月も過ぎるとタルタリヤも諦めた様子で鍾離の隣に大人しく収まるようになっていた。
    というよりもこの2人、恋人になったという事実はあるものの、距離感や鍾離からの態度が以前のものと特別変わることはなく、初めは鍾離の行動に逐一警戒とも威嚇とも取れる反応をしていたタルタリヤが拍子抜けした程度には、全く恋人らしい触れ合いはなかった。

    その変化のない関係に痺れを切らしたのは意外にも、別れたがっていたタルタリヤの方だった。

    「あのさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」

    空の所有する洞天には各地で出会った人々が行き来している。
    そんな洞天の共有スペースに入って来たタルタリヤを警戒する者も居たが、いつもと違う様子のタルタリヤを空が心配するのを見て考えを改めたらしい。

    「その……恋人って、なんだと思う……?」

    その場にいた誰もが耳を疑った。
    悪名高いファデュイの執行官の口から出たとは思えない、思春期真っ只中の少年のようなかわいらしい悩み。
    少し困ったような、恥ずかしがるような仕草も相まって、彼はとても幼く無垢な、ただの青年だった。
    そんなタルタリヤを見て、助けない選択肢があるだろうか?
    空は思わずタルタリヤの手を取り、共有スペースの真ん中に配置されたソファーへと誘導する。

    「とりあえず、そこに座って、詳しく聞かせて」
    「あ、相棒………?」
    「そんな顔されたら協力するしかないじゃん」

    タルタリヤの話に耳を傾けていた全員が同じような気持ちになったのは言うまでもない。
    普段は兄の役を担うことが多いが、タルタリヤは弟でもあるので"甘える"という行為をさらっとやってのけるのだ。天性の才能である。



    タルタリヤは動揺していた。
    意を決して鍾離との関係を、相棒と呼び慕っている空に相談しようと思った。それだけだったのに…

    「恋人と言うからには、二人きりでどこかに行ったり手を繋いだりはすると思う……」
    「食事にはよく行くけど…手を繋いだりは、ないね……」

    「キスなんかも、したいと思うものなんじゃないか?」
    「手も繋いだことないのにキスなんて……」

    「……贈り物なんかはどうだ?」
    「贈られたことはあるよ、請求書と一緒に」


    空の他にはモンドの西風騎士団騎兵隊長と、フォンテーヌのメロピデ要塞の管理者がいて、タルタリヤ以上に真剣に考え、話を聞いてくれている。
    聞いてくれているのだが、質問に答える度に3人の表情がだんだん不安そうに暗くなっていく。

    「……そういえば、お相手は聞いてもいいのかい?」
    「うっ…と、りあえず男とだけ……」

    リオセスリに尋ねられ、鍾離の名前は伏せて性別だけ伝えたのだが、空は相手を察してしまった。

    「鍾離先生なら、手を出して来ないのも納得しちゃうな…」
    「ちょっと相棒っ…!なんで鍾離先生だって……!?」

    タルタリヤの周りにいて、好意を持っていそうな人物。
    それだけの情報でも簡単に鍾離に結びついてしまうことをタルタリヤ本人はわかっていなかったらしい。
    鍾離は普段からタルタリヤへの好意を隠す気はない様子で、たまに顔を合わせる空は薄々勘付いていた。そして、今回の相談で2人が恋人として付き合っていると確信したようだ。
    なんせ、プレゼントを贈り、それを贈った相手に払わせる男など鍾離くらいしか思いつかなかったので。

    「鍾離先生は絶対にタルタリヤとそういうことしたいと思ってるよ」
    「えぇ……本当かなぁ……」
    「これは自信を持って言える。絶対に思ってる。」

    タルタリヤは気付いてないが、空は鍾離からタルタリヤに向けられる視線を、熱を、笑顔を知っている。タルタリヤの周りにいる人間に向けられる視線を、嫌と言うほど知っているのだ。

    「正直、あそこまで牽制するくらいなら早く手出せって思ってたから……」
    「あ、相棒…??」

    過去に遭遇した鍾離からの牽制の視線を思い出し、死んだ魚の眼をした空に、リオセスリとガイアから憐れみの視線が向けられていた。

    「旅人にここまで言わせるとは…あんた相当やばい相手に気に入られてないか……?」
    「やばい相手ではあるかも……」
    「……その相手に、どこまで許すつもりなんだ?」

    しばらく俯き考えたあと、少し赤くなった顔を上げてタルタリヤが小さく呟く

    「…………先生になら、抱かれてもいいかも。」

    一瞬の間をおいて、顔を見合わせる3人。
    タルタリヤは想像以上に鍾離先生とやらに絆されているらしい。

    「そういうことなら、準備はしておけよ」
    「なんならこっちから仕掛けちまってもいいんじゃないか?」
    「準備……そうだな、考えてみるよ。ありがとう!」

    何かを思いついたらしいタルタリヤが笑顔で去っていくのを見つめながら、どうすれば今後巻き込まれないかを考える3人だった。
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