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    nigiyakashi3

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    nigiyakashi3

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    jwdsが同級生だったら?と考えてみたけど、やっぱり初めはギスギスして全然仲良くなれなそうで笑っちゃった。

    #jwds

    栗を踏むでかい欠伸をするのと同時に、後ろで蝶番の錆びた鉄扉が開く音がした。うるさいなあ、と思って振り返ると、隣のクラスの秀才くんが入ってくるところだった。あいつ、知ってる。名前は確か。
    「ハン・ジュウォン、あんたも屋上なんか来るんだなあ」
    そいつは、ものすごく嫌そうに顔をしかめてドンシクを見返した。
    「…馴れなれしく話しかけないでくれる?僕は君を知らない」
    「おう、そりゃ失礼しました」
    ドンシクが肩をすくめて見せると、ジュウォンはフンと鼻を鳴らして離れた柵の方へ行ってしまった。その定規が入っているみたいにぴんと伸びた背筋を、毬栗みたいだなあと思う。あんなのでも、顔立ちがきれいだから女にはモテるのだ。勝ち組ってのは、何から何まで初めから持っている。羨ましい限りだ。
    また元のように柵にだらりともたれる。今日はほどよい曇り空で、初夏の風が爽やかに吹いていて、昼寝をするのもボーッとするのもなんでも気持ちがいい。こんな日に狭い教室に押し込められているのはもったいない。ドンシクは、朝一の授業に遅刻して出ただけで、二時間目からずっとサボり続けている。もうすぐ午前最後の授業が始まるなあ、と思っていると、話し声が聞こえてきた。
    「…はい、わかってます。…いえ、今は休憩時間で、もうすぐ次の…はい、はい、わかりました。それでは」
    もっと風が強ければ聞こえなかっただろうに、今日は本当に天気が良いから聞こえてしまった。誰と話しているのか知らないが、なんとなく父親かなと思った。すごく他人行儀だけど。
    柵に肘をついて、そっぽを向いておく。聞かれたと思われたくなかった。歌でも歌うかなあ、でも先生に見つかるとマズいしなあ、とまた欠伸をしながら考える。人生勝ち組のお坊ちゃんも、なんだか知らんがいろいろあるのかもしれない。まあまったくどうでもいいけど。
    「ねむ…」
    寝てもいいが、今からだと昼飯を食いっぱぐれる恐れがある。弁当を持って来なかったのが敗因だな、とズボンのポケットに手を突っ込むと、携帯電話しか入っていなかった。こんなもんより、弁当を持ってくるんだったな。ついでに携帯の画面を確認すると、妹からメールが来ていた。
    『またサボってるでしょ。いい加減にしないと、進級できなくなっちゃうよ』
    「学校なんかどーでもいいよ」
    べ、と舌を出して携帯を閉じる。
    「どうでもいいなら、なんでこの学校に来たんだ。親に申し訳ないと思わないのか」
    後ろから威圧的な声がして、なんだなんだと振り向くと、勝ち組お坊ちゃんのハン・ジュウォンが肩を怒らせて立っていた。
    「なんだよ、いきなり」
    「この学校は進学校だ。嫌ならわざわざ選ばなければ良かっただろ。親が金を出してくれているのに、期待に応えようという気はないのか。さっさと教室に戻れ」
    言うだけ言うと、ジュウォンはさっさと踵を返してどしどし歩きながら屋上を出ていってしまった。ドンシクは、なんにも反応できないままそのトゲトゲツンツンした背中を見送った。
    「なんだ、あいつ」
    話しかけるなと言ったくせに、何が気に障ったか知らないが自分から突っかかってきていたら世話はない。生きるのが大変そうだなあと同情はするが、だからって何も知らない奴に的はずれな説教をされて嬉しいわけがない。今後あいつには一切関わらないと決めて、また柵にもたれて目を閉じるとすぐに元の平穏を取り戻した。うとうと微睡む頃には、もう隣のクラスの秀才くんのことなどすっかりどうでも良くなっていた。


    どうでも良いとはいえ、ドンシクはわりと記憶力が良い方である。すっぽりそいつのことだけ忘れるなんていう特技もないし、突然絡まれたのもつい昨日のことだ。眉を吊り上げて睨む顔さえ忘れられないうちに、これかあ、とドンシクはしばらく様子を伺うことにする。
    学校近くの公園を横切って帰る途中、ベンチとトイレしかない寂れた園内の一角に、他校の集団がたむろしていた。同市内だが、素行の悪い生徒が集まりやすい学校の制服だったので、無駄に絡まれないよう足早に通り過ぎようとした。のに、四、五人に取り囲まれた真ん中に同じ制服が見えた気がして、ドンシクは思わず確認してしまったのだ。お人好しすぎたとすぐに反省した。
    それが、どうやらハン・ジュウォンだった。
    むっつり黙って偉そうに腕組みをしている姿は、どう見てもいじめられているようには見えないが、周りの様子はそうではなさそうだ。数と人相で散々威圧したようだがジュウォンがこの態度なので苛立っているのだろう、びびらせようと躍起になって地面を蹴りつけたり低い声を出したり、思いつく限りの虚勢を張っている。すごく面白くて笑うのを我慢しているうちに、痺れを切らした一人がジュウォンの胸ぐらを掴みにかかった。
    「うわあ」
    大振りに殴ろうとしたらしいが、ジュウォンはくるりと腕を回して掴まれた手を外し、頭を引いてへなちょこパンチを避けた。勢いあまって体勢を崩した相手は、情けない声をあげてたたらを踏んだ。
    「てめぇ調子のんなよ!」
    「やんのかコラァ!」
    よろけすぎて地面に手をついた体幹無し男君は言うに及ばないが、そのほかも一連のやり取りを大人しく見守っていた様子を見るに、武道の心得がある者は一人もいないようだ。だからなのか、今まさに容易く仲間がやり込められたというのに、次々と拳を振り上げてジュウォンに向かっていく。力の差もわからないくせに、なぜ喧嘩をしたがるのかさっぱりわからない。出る幕がなさそうで安心した。
    ところが、ジュウォンはそれを避けたりいなしたり躱したりして、一向に反撃しない。そのまま相手が疲れるのを待つつもりかと見ていると、それはさすがに上手すぎたらしい。一人に後ろから抑えられると、痛そうなパンチがつるつるの顔面に決まった。あれはアザになるだろう。やんやと囃し立てる取り巻きに煽られて、もう一発と拳を握っている。一度抑えられてしまうとキツい。さすがに四対一を見守ったと知れたら、妹と親友にボコボコにされそうだ。
    ドンシクはその場に鞄を捨てると、目標を定めて走り出した。ジュウォンがこちらに気づいたのがわかったが、他は頭に血が上っていて気づかない。そのまま踏み切って、ありがたく狙い通りのところへ飛び蹴りを叩き込む。回すと死んじゃうかもしれないから、優しく素直に蹴るだけにして地面にぶっ倒した。とりあえず一人。
    「なんでやり返さないの?」
    我ながら漫画みたいな登場だなと思いつつ、トドメとばかりに倒れた奴の背中を踏みつぶして見せると、残りの三人はすっかり固まっていた。ジュウォンもさすがに少し驚いたような顔をしていたのに、すぐに仏頂面に戻って答えた。
    「…君には関係ないだろ」
    「関係ないけど、もう来ちゃったから」
    「お節介だな、僕は友だちなんかいらない」
    「お前と友だちになるつもりないから安心して」
    そう言うとジュウォンは、なぜかよくわからない顔をした。それがどういう顔なのか考える前に、ようやく処理が追いついたらしい雑魚(推定)が一斉にかかってきた(そこでジュウォンを離してしまうところが本当に雑魚だ)ので、とりあえず順番に確実に急所に蹴りを入れて遠ざけると、向こうが体勢を立て直さないうちに素早くジュウォンの手を掴んだ。
    「逃げるぞ」
    「え」
    目を白黒させているのには構わずに、地面に落ちていた高そうな革製の鞄を拾って押し付け、手を引いて駆け出しながら途中で自分の鞄も拾って肩に引っ掛け、駅の方とは違う方向へ全速力で走った。後ろから何度か「待て」とか「テメェ」とか意味のない怒号が聞こえたが、すぐに聞こえなくなった。おそらく追ってきていないだろう。それでもしばらく走ってはしって、あれちょっとここどこかわかんねぇなというところまで来たので、ようやく走るのをやめた。ちょうどコンビニと交番が見えたので、まあここまで来ればさすがに大丈夫だろうと手を離した。
    「…な、なん、きみ、ぼく、なんで、こんな」
    「ちょっ、ちょっと待って、いま、ちょっと、はなせない…」
    最近なまっていたので、ドンシクの肺はすごい音を立てて必死に酸素を取り込もうとしている。頭の中もぐるぐるしていて、落ち着いて話せるような余裕はなかった。二人してよろよろコンビニの前に倒れ込むと、そこではじめてジュウォンを見た。普段は運動の時でも澄まして汗も見せないお坊ちゃんが、どばどば汗を垂らして地面にしゃがみ込んでいる。いつものスカした顔からは想像できないくらい、苦しげに顔をしかめて忌々しそうに汗を拭った。そんな顔もできるんだ、そりゃそうか、と思うと、なんだかおかしくなった。
    「あ、ははは、おまえ、汗すごいな」
    「…君こそ、滝みたいだ」
    「あははは、いや、すっげぇ走った」
    「なんで、逃げたんだ。僕は、逃げるつもりなかった」
    「だって、勝てそうになかったし」
    ジュウォンが、よく切れる刃物みたいな目で睨んだ。
    「僕が弱そうだったってことか」
    「殴り返さなきゃ、勝てないだろ」
    当たり前のことなのに、ジュウォンは言葉に詰まった。しばらく黙って、だんだん息が整ってきた頃、ようやく口を開いた。
    「それは…、僕の父が、警察官僚だから」
    「え、警察の子どもって喧嘩したらダメなの?」
    「ダメとかじゃない、親に迷惑がかかるかもしれないだろ」
    「でもどっちにしろ怪我はするだろ、だったら勝った方がいいんじゃないの」
    「そういうことじゃない、勝ち負けとか怪我とかじゃなくて、親の顔を潰すことになるかもしれないってことだ」
    「だから殴られても殴り返さないわけ?」
    「警察官はそうあるべきだろ」
    ドンシクは思わず笑ってしまった。
    「おまえは警察官じゃないだろ」
    ジュウォンは、昨日屋上で怒った時と同じ顔をして立ち上がった。
    「僕は、僕も警察官になるんだ。…父さんみたいに」
    「もう決めてるの、すごいね」
    「僕は生まれた時から決まってる。君とは違うんだ」
    今や体中から棘が突き出しているように見えた。やっぱり毬栗だな、とドンシクは思う。
    「栗拾いしたことある?」
    「馬鹿にしてるのか?」
    「してないけど、まあ、同情はした」
    ドンシクも立ち上がると、はじめて正面から向き合った。目線は同じくらいだった。突き刺すような視線を浴びながら、よくできた妹の隣に並ばされている時の自分もこんな目をしているのかな、とふと思った。
    「父親とおまえは違う人間なのにな」
    同じように生まれてきた双子でさえ、同じ人間ではないのだ。出来損ないの兄、ろくでなしの方、物心ついた頃からずっとそういう言い方をされてきた。あるいは双子でさえなければ、ここまで言われることもなかったのだろうか。妹が立派なのは、別に兄の分まで奪ったからじゃない。誰も本当のことは知らないし、見てもくれない。
    俺たちは自分自身にしかなれないってのに。
    「…何を言ってるのかわからない、そんなの当たり前だろ。勝手に同情するな」
    「なんだよ、助けてやったのに。おまえお坊ちゃんのくせに口が悪いな」
    「君に愛想よくする必要がない。助けたのだって君のお節介だ。僕はお礼なんか言わないからな」
    投げ出していた鞄を拾って持ち直すと、ジュウォンはいつも通り背中をぴんと伸ばした。でも髪はぐちゃぐちゃだし、制服のシャツもよれよれだ。ドンシクは、たぶんやっちゃいけないだろうなとわかっているのに、笑ってしまった。
    「あははは!お礼なんかいらないよ、おまえのためにやったわけじゃない。友だちにもならないし、安心して帰れ。じゃあまたな、ハン・ジュウォン」
    ひらひらと手を振ってやると、ジュウォンはまたよくわからない顔をした。でも今度はすぐにぎゅっと顔をしかめて、いかにも不機嫌そうに言った。
    「…またなんかない」
    「あははは!もー早く帰ったら?」
    ドンシクも鞄を拾い上げると、さっさとジュウォンに背を向けた。シャツの胸元をバタバタやりながら、コンビニへ向かう。久しぶりに喧嘩なんかしたから、アイスでも食べないと帰れない。そこで、あ、と思い出して振り返ると、あっちも歩き出すところだった。
    「ハン・ジュウォン」
    呼ぶと律儀に振り返って睨むので、やっぱりドンシクは笑ってしまう。殴られていたのがどっちだったか思い出して、頬を指さして見せる。
    「すぐ冷やさないと腫れるよ」
    ジュウォンは、さらに眉間に皺を寄せた。
    「言われなくてもわかってる」
    言い捨てるや足早に歩き去る後ろ姿を見送りながら、ちゃんと足を止めて返事をするところがお育ちの良さなんだなあとドンシクは妙に納得した。
    「また」はなくてもいいのだけれど。
    明日は隣のクラスを覗いてみようと決めた。
    あのつるぴかのご尊顔に青タンができていたら、遠くから大笑いしてやろう。できてなかったら、できなくて良かったねって言ってやろう。そうして忌々しそうにしかめっ面をしたら、さっさと逃げてやるのだ。別になんにも意味はないが、あの仏頂面はきっと父親には似ていないような気がした。
    ドンシクはコンビニでアイスを物色しながら、帰ったら片割れの妹にこの武勇伝を聞かせてやろうと思った。ちょっと脚色してスリル満点にすれば、きっと妹は笑うだろう。そしたらドンシクもつられて笑う。違う人間に生まれて良かったと思う。ぜんぜん違う顔で、一緒に笑い合える。そんなの当たり前だ。でも、その当たり前を、わかってない奴が多すぎる。
    あのお坊ちゃんもトゲトゲの殻が脱げたら、中から甘い栗が出てきたりするのかな、とふと思った。


    おわり
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    nigiyakashi3

    DONE※まだ一緒に住んでないし付き合ってもない相思相愛のjwds。
    ※一応pixivのこれhttps://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19952717のしばらく後の設定ですが、特に読んでなくても問題ありません。
    世界はそれをジュウォンが来る。
    冷蔵庫を開けて剃りたての顎を触りながら、ドンシクは残り物の入ったいくつかの保存容器を眺めた。
    ハン・ジュウォンは、法と原則と流通期限を守る男だ。消費期限だっけ?まあどっちでもいいか。
    とにかくそういう、食べ物の期限にすこぶるうるさい。買ってあったキムチを出したら期限が一週間切れていた時なんか、信じられないという顔をして怒られたが、その時は我慢できずに爆笑してしまった。たいていのキムチには期限なんか書いてないのに、それはソウルの友人がくれたやつで、なぜかそういう無駄な仕様になっていた。本当に無駄だ。母が毎年秋口に作っていたやつなんか、何ヶ月もかけて食べていた。
    食品の期限にうるさいハン・ジュウォンは、保存期限のない手作り惣菜に関してはさらに鬱陶しい。常備菜だと言うのに、三日もすれば捨てろと言う。神経質を通り越して趣味みたいなもんなんだろうと思う。面白いので気にはならないが、単純にもったいない。ジェイの作ってくれたものくらい見逃してくれてもいいのに、ジュウォンは嘘をついてごまかしてもなぜか何日経っているか大体のところ当ててしまう。臭いをかぐとか観察するとかでなく、保存容器の蓋を開けてすぐに何日めくらいか当てる。違うと嘘をついても、嘘だとバレる。合ってると言ったら、モノによっては容赦なく捨てられる。面白い。
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