Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    nigiyakashi3

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 10

    nigiyakashi3

    ☆quiet follow

    ※ids強火担のjhがjwdsの報告を受けてhjwを呼び出し、五寸ばりの釘を刺す話です。
    ※ドラマだけの情報で書いているので、jhの過去はすべて妄想です。
    ※この世のありとあらゆる差別に反対いたします。

    #jwds

    熾火それを聞いた時はじめに湧き上がったのは、「お前に何がわかる」という怒りだった。
    人生の大半を共に過ごしてきたし、家族のように肩を寄せ合い、友人として時にはぶつかり合って歩いてきた。なんでも話せるから言わないでいることもあるし、他の誰にも言えないことをお互いにだけは笑って話せることもある。なんでも知っているなどとは思わないが、何を知らないかはわかっている。それで良いと思っていた。
    ジファは、携帯をデスクに放り投げた。何人かの部下の肩が跳ねたのが見えた。
    「……どうかしたんですか」
    「手が滑っただけ、気にしないで」
    優秀な部下たちは、それでもうすべてを察してパーテーションの向こうに縮こまると、二度とこちらを見なかった。萎縮させている自覚はあるが、頭の中に発生した小さな竜巻が思考を巻き上げて蹴散らしていく。
    こんなことでは仕事にならない。額に落ちてきた髪をかき上げ、ジファは再び携帯を手に取った。開いていたメッセージを閉じて、別の宛先にメッセージを送った。
    『話は聞いた。今晩十時に会いましょう。あんたに言っておきたいことがある』
    場所は何度か部下と行ったことがあるくらいの、特に思い入れのない店にした。そういう予定は一応ないが、念のため二度と行けなくなっても良い所にしておいた。
    それを送ってしまうと少し落ち着いたので、ようやく元のメッセージに返事をした。短い文を打ちながら、電話ではなくメッセージで、こんな平日の真っ昼間に送ってくるところに、こちらがどういうスタンスで来るのか少なからず身構えているのが察せられた。馬鹿野郎め、昨日の夜にでもさっさと電話をすれば良かったのに。どんな言葉を吐くと思われたのだろうか。どんな想像もし尽くして、悩みぬいた挙句に送られたメッセージであったろう。それは杞憂だと笑い飛ばしてやりたい。あの猫背を小気味良く叩いて、バッカじゃないの、と思い知らせてやりたい。それで安心したあいつがちゃんと笑うのを、見届けてやりたい。
    だがそれもまずは、あの男に会ってからだ。
    ジファは、今度は気をつけてそっと携帯をデスクに伏せると、深呼吸を一つして頭を切り替えた。予定ができてしまったのだから、仕事はきっちり終わらせなくてはならない。一方的かつ何の配慮もなく決めた予定だが、向こうはおそらく万難を排し車を飛ばして必ず来ると確信があるので、返事なんか見なくていい。だからとにかく、今は仕事だ。
    まもなく何度か携帯が小さく身震いしたが、ジファは仕事を終えて職場を出るまでその返事を見なかった。


    「オ・ジファ警部補、遅くなって申し訳ありません」
    「あらお疲れ様です、いいえ全然構いませんよハン・ジュウォン警部補、同業だものご多忙なのはよーくわかりますよ。きっとあいつもそれはもうよーく理解してると思いますし、だから遅刻もドタキャンもきっとぜーんぜん気にしないでくれるから警部補のパートナーとしてはとーってもご都合が良いと思いますよ」
    その男は、きれいな顔を不快そうに歪めた。
    「そういう風に思ったことは、一度もありません」
    「そう、それは失礼しました。座れば?」
    何か言いたげにこちらを睨んで、そいつはカウンター席に座るジファの隣に腰を下ろした。テーブル席もある店だが、顔を見ながら冷静に話ができる気がしなかったので、カウンターにした。適当に選んだ店だったが、小洒落た静かな店ではないので、楽しくもなく盛り上がることもない話をするのにちょうど良い具合にうるさかった。
    「どっちから言ったの」
    世間話くらいしても良いかと思っていた瞬間もあったが、そのつやつやした顔面を見たら愛想がどこかへ吹き飛んでしまった。忙しくて大変そうだと聞いていたわりにずいぶん健康そうな顔をして、オンオフともにさぞや充実した日々を送っているらしいと一目でわかるそいつを見ないようにして、ジファは自分のグラスに焼酎をだばだば注ぎながらさっさと口火を切った。
    「僕です」
    「なんで言ったの」
    そいつが慎重に言葉を選んで口を噤んでいる間に、追加の焼酎とグラスが運ばれて来た。あまり好きじゃないと言っていた気がするので、たっぷり注いでやった。思っていたより頭にきているんだなと思って、口端で少し笑ってしまった。
    「オ・ジファ警部補が良い感情を持たないだろうとは、思いました。僕も本当は、はじめは、一生言わずにいようと考えていたので」
    「あは、そう、一生ね、一回聞くわ」
    「ありがとうございます」
    ジファが手ずから注いでやった酒をたった一口舐めると、そいつは事の顛末を簡潔に話した。まあだいたい予想通りの展開で、そういう呪いにでもかかってるのかと思うくらい押しに弱いあいつが、こんな一所懸命で一途な頑固者に迫られて逃げきれるはずがないのだ。
    ジファは話の腰を折らないように、理性を総動員してひたすら酒を飲み続けた。何かで口を塞いでいないと、話どころかこの男の腰を折りそうだった。話が終わったと思った瞬間にグラスを置いた。
    「私さ、あんたのこと嫌いじゃないよ」
    「そうですか」
    「正直言ってはじめは面倒だったし、あんたの父親のこと知った時は、もう関わりたくないくらい、関わってほしくないくらい、あんたのことも無理だった。私はね」
    もう何杯目かわからなくなって久しい酒を飲む。飲まないとやってられなかった。
    「あいつってね、たぶん私の初めての友だちなわけ。その前にも近所の幼なじみとかいたのかもしれないけど、覚えてない。道場のお転婆なんか誰も良い顔しなかったし、たいていの女の子が好きなものを私は好きじゃないことが多くてね。だいたい親もさ、自分たちが道場やってるくせに娘がやるのは渋い顔すんの、そのうち飽きて辞めるだろとか思ってんのバレバレだった。だからみんな私には近づかなかったし、私もそれで別に困ってなかった。でもあいつだけは友だちになったの。毎日一緒に遊んだし、喧嘩もしたし、一緒にジョンジェをさらいに行ったりした」
    「さらいに……?」
    「母親が家から出さないんだもん、遊びたきゃさらうしかないでしょ、言い出しっぺジョンジェ本人だったんだし。いつも作戦はあいつが立てて、私とジョンジェは言う通りにやった。だいたい成功したけど、毎回すぐ見つかって結局あんまり遊べなかった。でも楽しかった。あいつらと遊んでる時だけ、道場とか女とか気にしないで遊べたから」
    今だってそういうものがきれいに無くなったなんてことは全くないが、あの頃は本当に息苦しかった。女の体なんか好きで選んだわけでもないのに、この世界にはただ女だというだけで否応なしに塗りたくられる呪いに溢れていて、それを突っぱねるためには「女」を降りるしかなかった。隣近所親類縁者、家族や友人でさえ、誰一人としてジファをただの「オ・ジファ」として扱う者はいなくて、誰もが口を酸っぱくして、女なのに、女だから、女のくせにとジファを断定し、断罪し、糾弾した。誰もその先のジファそのものには興味を持たなかった。
    何者でもない同じ人間としてジファを見てくれる者は、この街にはあの二人しかいなかった。ジョンジェは常に母親の影が重すぎてそれどころではなかったから、人並みに遊べることに夢中で長らくジファが女だということを本質的に理解していない節があったし、あいつはと言えば単純にジファの性別に興味がなかった。あの頃のあいつは、いつも自分のあずかり知らぬ物差しで勝手に測られ、あいつ自身など見てもくれない周囲に辟易していたから、いつでも他人の内面ばかりを見抜こうとしていた。ジファとはちょうど利害が一致したというところだろう。
    「たぶんあいつもそうだと思うけど、私一度もあいつと付き合いたいと思ったことないわけ。一応私は今もたぶん男が好きな女だと思うけど、あいつは違う。でも愛してるの。すごく大事なの。あいつだけは幸せになんなきゃ許せない」
    そいつが何か口を開こうとした。ジファは、かぶせるように二の句を継いだ。
    「あたしはね、あいつのために親友を一人切ったの。あいつとパク・ジョンジェを天秤にかけて、これからあたしの人生に絶対に必要な方を選んだの。あの二人のおかげで、今のあたしがいるって思ってる。でもあいつとジョンジェを選ばなきゃいけないなら、あたしはあいつを選ぶ」
    喉に何かが詰まっている気がして、酒で押し戻した。味のわからない焼酎はとても苦くて、顔が歪んだ。
    女であることが人生を明るくしたことなど、ただの一度もなかった。
    この身体はいつも邪魔ばかりした。この身体でさえなければ選べた未来や、闘えたはずの場所があった。あんな男にも、きっと縋らなくとも良かった。女の身体を持たされているというだけで、リングにさえ上がれない。纏わりついた呪いを振り払う術を身に着けるために、膨大な時間を費やした。
    それでも、ジファでさえそういう怒りにはいつしか慣れた。歳を重ねるにつれ、呪いを振り払う術を知るにつれ、仕事も私事も忙しく煩雑になる毎日の中に希釈され、無理解で無邪気な大多数に向かっていちいち怒鳴り散らす空虚な時間も惜しくなった。この男に舐められ軽んじられた瞬間もあったが、その時もジファは若造の戯言だとあっさり聞き流した。
    でも、あいつはキレた。
    きっとこの男も、隣にいた優秀な部下も、あいつがあの時静かにキレていたことを知らないだろう。感情的に見せながら恐ろしく理性的で、誰が見ても気まぐれに売り言葉を買っただけのような軽薄な振舞いにしか見えなかった。でもあいつはあの時、確かにキレていた。一瞬見交わした瞳に、燃える炎が揺らめくのを見た。あいつはいつも、ジファへの侮辱を一つ残らず許さなかった。
    幸せなんか、この歳になっても一体なんなのか、どういう状態を指すものなんだかさっぱりわからないが、それでもあいつだけは幸せになるべきだと思っている。その手助けができるなら、ジファはきっと本当になんだってできる。いつでも、いくらでも頼ればいいと思っている。
    それなのに。
    「……でも結局、やっぱりあたしが女だから、あいつはあたしを選ばなかった」
    論点がずれている。わかっていたから、苦い酒をあおって口をつぐんだ。
    あるいはジファが女でさえなければ、あいつが警察官として最後の道連れに選んだ相棒は、違っていたかもしれない。そういう思いが消えない。くだらない妄想だし、自分でも馬鹿ばかしいと思う。何より、本当にそうあってほしかったと思っているわけではなかった。
    あいつが警察官としての最後の相棒に選んだのは、この男だった。ジファが伸ばした手を、あいつは取らなかった。大切だから連れて行けないと、置き去りにされた。そしてあいつは、結局一人でこの場所を去った。連れて行ったはずの相棒すら残して。
    「そうではないと思いますが」
    そいつは、何を当たり前のことを、とでも言いたげに訝しそうな顔をして言った。
    「そういう人じゃないと、あなたが一番よくわかっているはずでは?」
    酒のグラスに手も触れないで、そいつはジファをまっすぐに見つめていた。
    「オ・ジファ警部補、僕はあなたを尊敬しています。以前、あなたに対して侮辱的な発言をしたことを心から悔いています。あなたの見方を変えたから後悔しているわけではなく、他人を軽んじるような人間であった自分を恥じています。あの人に出会わなければ、僕はきっとあのまま父のような怪物になって、あなたや、多くの人たちを踏みつけて生きていたでしょう。僕は、自分がそういう人間なのだということを決して忘れません。オ・ジファ警部補の言葉も、忘れません。あなたは僕を許さないでください。もしもこの先、いつか僕の中の怪物があの人を傷つける時には、躊躇わないであの人をさらってください」
    ああ、そうだろうな、とジファは頭を抱えて顔を隠した。こいつはきっとこういう奴なんだろうなと、たぶんここへ来る前から知っていた。
    あいつはいつもジファのために怒った。それはジファが女だからではなく、正義感ですらなかった。ただ目の前の「オ・ジファ」という親友のために、あいつは怒るのだ。この席の居心地の良さを、自由を、誰の隣でも感じることはない。
    そういう奴が選んだのが、この男なのだ。
    「あんた、爽やかだね。やっぱ似てないわ、父親と」
    そういえばこの人、何歳だっけ?と唐突に思った。確か歳の離れたジファのかわいい弟よりも、さらに歳下だったはずだ。ジファは、なんだかおかしくなって笑ってしまった。
    「あなたは、ドンシクさんとよく似ていると思います」
    「あは、ええー?例えばどこが?」
    「どこ、というと難しいのですが、オ・ジファ警部補と同じことを以前言われました」
    「同じこと?」
    「僕が『爽やか』だと」
    それをあいつがいつどういう文脈で言ったのかはわからなかったが、きっと厭味ったらしく、そして心からそう思って言ったのに違いなかった。きっと初めからあいつはわかっていたんだろう。昔から人の本質を見抜くのに躍起になっていたような奴だ。なんだ、お似合いじゃないか、ふとそう思った。
    そいつの焼酎を奪って、一気に飲み干した。
    「あいつってさ、わりと普通に泣くんだけど、おっかしいよね、昔から泣くの気にしないの。長男でさ、泣くなとか散々言われてきただろうにね。だからさ、あいつ泣かしたら、許さないから。相談とかあったらしてもいいけど、たぶん一発はひっぱたくと思う。それでも良ければ、いつでも相談して」
    「……心して取り組みます」
    「ふん、頼んだよっ!」
    思いきり背中を叩いてやったのに、そいつは珍しく素直に、はい、と頷いた。ぜんぜん似合わなかったので、ジファはそいつの好きそうな酒を追加してやった。
    グラスを傾ける鼻筋に、明るい照明のハイライトが乗るのを見る。
    あいつに、こいつらに、そしてあたしに。
    どんな属性を持ち、誰を愛して誰を愛さなくても、一人でも、二人でも何人であろうとも、共に生きることができて、あらゆる差別や偏見にさらされることなく、ただここにいる一人の人間として尊重される。それだけがあればいい。そんなものを天国というのだろうか?
    この世はいまだどこもかしこも地獄だ。
    あいつもこいつもジファも、地獄から地獄へ渡っていく。
    降ろしたばかりのそいつのグラスに、ちょいとグラスをぶつけてやる。問うような視線をよこすのへ、おめでと、とついに言ってやった。
    天国なんかであってたまるか、あたしたちは今ここで生きているのだ。
    あいつの瞳に揺らめいた炎を絶やさぬように、こいつらがジファの地獄をほんの少し遠ざけてくれたように、ジファは手元のアルコールを飲み干し、この胸の熾火にくべた。


    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🙏🙏🙏🙏🙏🙏🙏😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭💖😭💖😭💖😭💖😭💖💘😭😭💯💯💕💕💕😭🙏😭🙏😭🙏😭🙏😭🙏😭🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    nigiyakashi3

    DONE※まだ一緒に住んでないし付き合ってもない相思相愛のjwds。
    ※一応pixivのこれhttps://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19952717のしばらく後の設定ですが、特に読んでなくても問題ありません。
    世界はそれをジュウォンが来る。
    冷蔵庫を開けて剃りたての顎を触りながら、ドンシクは残り物の入ったいくつかの保存容器を眺めた。
    ハン・ジュウォンは、法と原則と流通期限を守る男だ。消費期限だっけ?まあどっちでもいいか。
    とにかくそういう、食べ物の期限にすこぶるうるさい。買ってあったキムチを出したら期限が一週間切れていた時なんか、信じられないという顔をして怒られたが、その時は我慢できずに爆笑してしまった。たいていのキムチには期限なんか書いてないのに、それはソウルの友人がくれたやつで、なぜかそういう無駄な仕様になっていた。本当に無駄だ。母が毎年秋口に作っていたやつなんか、何ヶ月もかけて食べていた。
    食品の期限にうるさいハン・ジュウォンは、保存期限のない手作り惣菜に関してはさらに鬱陶しい。常備菜だと言うのに、三日もすれば捨てろと言う。神経質を通り越して趣味みたいなもんなんだろうと思う。面白いので気にはならないが、単純にもったいない。ジェイの作ってくれたものくらい見逃してくれてもいいのに、ジュウォンは嘘をついてごまかしてもなぜか何日経っているか大体のところ当ててしまう。臭いをかぐとか観察するとかでなく、保存容器の蓋を開けてすぐに何日めくらいか当てる。違うと嘘をついても、嘘だとバレる。合ってると言ったら、モノによっては容赦なく捨てられる。面白い。
    8235

    related works

    recommended works