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    nigiyakashi3

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    nigiyakashi3

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    ※風邪をひいたdsさんと心配しまくるjwの話です。
    ※一緒に住んでいます。

    #jwds

    サルベージ・ホーム風邪とは、正式には「風邪症候群」であり、発熱や咳、鼻汁や喉痛などの症状を伴う上気道の急性炎症の総称である。数日から二週間ほどで自然に快癒し、命に別条のないものを指す。
    頭の中にあるのはそういう情報だけで、では今目の前で臥せる人間がどんな世話を必要としているのかというような知識とか知恵みたいなものが一つも入っていなかった。思えば、実家で風邪をひいて寝込んだ記憶は何十年も前のことだし、一人暮らしで起き上がれないほど体調を崩したことは一度もない。さすがに感染症の初期症状が出たことくらいはあるが、寝込むような事態になる前に早めに服薬、あるいは医療機関を受診し、速やかに十分な栄養と休息を取るという徹底した自己管理をやってきたおかげで、ジュウォンは大人が寝込んだ時の自宅での処し方というものをほとんど蓄積しないまま、ここまで来てしまったのだった。
    「…いいから、仕事に行け。このくらい寝てれば治る」
    ベッドサイドに立ち尽くしているジュウォンに、彼はマスクの代わりみたいに布団から顔を半分だけ出して、目も半分だけ開けて言った。鼻にかかる声は聞き取りづらく、怠そうな低音が喉のあたりで掠れる。顔はほとんど見えないが、発熱しているらしく目元は赤くなっているのに顔色は悪そうで、とにかく体調が悪いということしかわからない顔をしていた。
    ジュウォンは、とりあえず携帯を引っぱり出した。
    「休みます」
    「いい、いい、薬飲んで寝るだけだ、やることないよ」
    「食事の準備とか」
    「レトルトがあるし、自分でできる。そこまで悪くない。いいから行けって」
    「でも、心配、なので」
    「携帯はいつもここに置いておくし、救急車の番号も知ってます、安心して行け」
    「でも」
    「ハン・ジュウォン警部補、行ってらっしゃい」
    そう言うと、彼は頭まで布団に潜り込んでしまった。しまいそこねた毛先だけを枕に残して、もう問答の余地はないようだった。的確に使命感を刺す名前で呼ばれると、ジュウォンもこれ以上粘れないのを知っているのだ。
    「何かあれば、すぐに連絡をください。何もなくても、何か欲しいものとか、必要なものがあれば買って帰りますから」
    「わかったわかった、早く行け」
    「……では、行ってきます」
    追い払われるように部屋を出てドアを閉めると、頭を振って無理やり切り替えた。行くと決めたのならば、仕事には邁進しなくてはならない。確実かつ過不足なく一日の務めを果たし、定時きっかりに帰路へ着くためにも。
    慌ただしく準備して、家を出た。
    今朝は彼がいつまでも起きて来ないので、昨夜遅かったわけでもないのに変だと思って部屋のドアに声をかけてみた。寝ているのかと思うほどの間を置いて、風邪ひいたみたいだから寝てるだけ、と聞いたことがないほどか細い声が返ってきた。慌ててドアを開けるとものすごく嫌そうな顔をされて、うつるから入ってくるなと怒られた。
    けれどもそんなことよりジュウォンは、出会ってからこれまで健康なところしか見たことのなかった人が不調に横臥する姿を初めて目の当たりにして、衝撃を受けてしまった。
    共に住み始めてもはや三年が経つが、風邪気味とか頭痛とか二日酔いとか、そういう細かい不調はこれまでもあった。けれども、寝込んで起きられないようなことは一度もなかった。だから、なんだか彼は病などには罹らないような、まったく信じがたいことだがそういう馬鹿みたいな思い込みが頭の片隅にうっすらと住み着いていたのだ。それが当たり前に間違っていたことに、その時ようやく気が付いた。この人だって風邪をひくし、病気も怪我もするのだ。それは全身に鳥肌が立つほど恐ろしい現実だった。
    それで大いに戸惑って思考が止まった。健康的な血色を失くした見慣れない顔を呆然と見下ろして、しばし無為に突っ立ってしまった。どう考えても正常性バイアスによるフリーズだった。あれは大変な時間の無駄だった。おかげでギリギリ遅刻した。
    数分とはいえ遅刻は遅刻と心得、ジュウォンは粛々と事務作業に向かう。本日は都合良くも終日内勤である。予定しているタスクを滞りなく終わらせて定時と同時に退勤するため、意識的に集中する。思えば、昨夜から様子がおかしかった。普段は水代わりみたいに飲む酒を舐めるほどしか飲まなかったし、食後の煙草も吸わないで早々と寝てしまった。あの時すでに何かしらの症状があったのだろう。気が付いていれば何かできたかもしれない。担当の事件に区切りがついたのが一昨日で、昨日は後回しになっていた非番を挟んだので、今日中には総括を済ませてしまわなくてはならない。事件が動き出すとどうしても外へ出る方が優先になるので、事後に提出する手続きや報告書類などの事務作業は延々と積み上げられていく。彼の部屋には飲み物を中心にいろいろ置いてきたが、服薬するのなら食べ物ももっと置いておいた方が良かったかもしれない。そもそもどのような症状で何が食べられるのか聞きもしないで、カロリーを摂れた方がいいかと思って栄養補助スナックと、食べやすいかと経口補水液のゼリー飲料しか置いてこなかった。キッチンには思いつく限りのすぐに食べられそうなものを手当たり次第に出して置いてきたが、言っていないから気づかないかもしれない。メッセージを送るか。この日は特に緊急性の高い通報もなく静かな午前で、同僚たちも落ち着いてそれぞれの作業に打ち込んでいる。煩雑な書類の作成などを片付けるにはもってこいだった。こういう日には、できるだけまとめてやってしまいたい。もしかすると果物の缶詰なんかの方が良かったのだろうか。果物の多くは体を冷やすというし、何より水分と糖分が一度に摂れる。やはり発熱の有無だけでも確認してくるべきだった。体温計を置いた場所は言ったのだったか。打ち込んでいた文章に誤字が多すぎたので、丸ごと削除した。ジュウォンは眉間に拳を押し当てて強めに揉んだ。集中しなくてはいけない。彼はどうしているのだろうか?
    こんなことではいけないと頭を振り、まず書きかけていた文書を一枚仕上げて携帯の通知を確認し、次の作業に必要な資料を取りに行って戻って通知を確認し、事後提出の書類をまとめながら横目に何度か通知を確認し、腕時計も壁掛け時計もあるのにわざわざ携帯で時計を見るふりをして通知を確認し、資料に目を通しながら通知を確認し、果てはトイレに立ちながら無意識に携帯を握って行って廊下ではたと気づき、とうとう頭を抱えて立ちすくんだ。もちろん通知は確認した。何も来ていなかった。
    一体何をやっているのか。まったく仕事になっていない。これでは定時に帰るどころか、一日のタスクが終わるかどうかすら怪しくなってくる。
    ジュウォンは大きく深呼吸をした。とにかくまずは、落ち着かなくてはならない。何か異常に焦っているような気がする。そうだ、気になって仕方がないのなら、もう逆にこちらから消息を確認すればいいのだと思いついた。輝くばかりの名案のように思えた。短いメッセージを手早く打ち込むと、躊躇う前に送信した。よし、と呟いて携帯をポケットに押し込み、本来の予定であったトイレへ向かう。これで返事がなければ、いよいよ心配すればいいのだ。それまでは忘れていようと決意して、勢いよくトイレのドアを開けた。


    そうは言っても、そもそもの話どれくらいの時間返事がないときに心配すべきかというところの塩梅がまるでわからず、だってぐっすり眠っているのかもしれないし、はたまた文章を打ち込むことさえできないで苦しんでいるのかもしれないのに、それを確認する術はないのだ。様々な状況が頭をよぎって結局十分おき程度には通知を確認しながらなんとか仕事を進め、山積している無数のタスクのうちのいくつかを終わらせつつ出勤から三時間を過ごしたところでとうとう我慢できなくなって、ジュウォンは再び席を立った。
    『……はい』
    「あ、ごめんなさい、寝ていましたか?」
    『いや、どうした』
    電話越しの声には明らかに力がなく、短い言葉尻にさえ倦怠が滲む。携帯を握り直して、スピーカーがしっかり耳に当たるようにした。
    「僕はどうもしませんが、返事がなかったので、何かあったのかと」
    『へんじ…?』
    向こうでがさがさと音がして、遠くで彼が、あー、と言った。
    『ごめん、いま見たよ。大丈夫だよ』
    「そうですか。熱は測りましたか?」
    『あー、いや、まだ』
    「あまり高いようなら、受診が必要だと思います。出る前にその部屋のデスクに体温計を置いておいたので、測ってみてください。朝食は摂りましたか?」
    『うん、まあ』
    「……食欲がないのなら無理をする必要はないと思いますが、効果的に薬を飲むなら食後です。インスタントのお粥や果物の缶詰などはダイニングテーブルの方に出しておいたので、食べられそうなものを少しでも食べて薬を飲んでください。片付けは帰ったら僕がやるのですべてそのままで構いません。水分はちゃんと摂っていますか?食事は摂れなくても水分補給は必ずしてください。一度にたくさん飲まないで、こまめに少しずつ飲んで。経口補水液やスポーツ飲料だと効率が良いと思いますが飲めるのならなんでもいいので、それもいくつかデスクに置いておきましたので飲めそうなのをしっかりと」
    『わかった、わかった、なんかあったらちゃんと連絡します。ていうか、あなた勤務中だろ?俺は大丈夫だから、気にしないで、しっかりやんなさい』
    何を言う暇もなく、切るよ、と言って一方的に通話が切れた。
    ジュウォンは、何が起こったのかわからないまま呆然と携帯の暗いディスプレイを眺めた。
    もしかしたら、いやたぶんおそらく、ジュウォンは今たしなめられたのだ。叱るとまではいかないまでも、いい加減にしろというニュアンスを大いに含んだ調子だった。
    無理もないとしみじみ思った。だって今日のジュウォンときたら、無断で遅刻してきたくせに携帯ばかり覗き込んで、挙句勤務時間中に長々と私用の電話をかけ出すのだから、数年前の自分ならば確実に軽蔑しているような仕事ぶりなのだ。それは彼だって呆れるだろう。
    しっかりやれ、と言われてしまった。廊下の冷たい壁に頭をぶつけた。ごつん、とどこか間抜けな音がした。
    こんな中途半端なことをしていては、駄目だ。しっかりやれと言われてしまったのだから、しっかりやらなくてはと決意して顔を上げた。ポケットにぐいと携帯をしまって頬をばしばし叩くと、気を取り直して猛然とデスクへ戻った。


         〇


    喉が痛い。唾を飲むだけで焼けるように痛むので、気を抜くと涙が滲むほど痛い。けほ、と力なく咳をする。静まり返った部屋が、四方から迫ってくるような気がした。
    細くため息をついて、握ったままだった携帯の画面を覗いた。今し方一方的に切って暗くなったそこには、情けない顔のくたびれた中年男がぼんやりと映っていた。本当に情けない顔だ。頭まで布団に潜っていたせいで髪が跳ね回っているし、顔はまったく冴えない。うんざりして枕元に捨てると、反対を向いて目を閉じた。
    熱を測ってみなくては、何か食べなくては、薬を飲まなくては、と思いながら布団から出られずに、とうとう朝食を諦めた。体調はいよいよ悪い。かろうじて水分補給をしているだけで、あとは暖かくして寝ている、くらいしか良くなる当てがないのだから当たり前だ。
    昼の光が、カーテンの隙間から漏れている。天気はいいのだろうか、薄暗い部屋の中からは雨音がしないことぐらいしかわからない。無意識に嚥下した喉が痛くて顔をしかめた。情けない。ため息が喉を通るだけで痛い。布団を顔まで引っ張り上げた。
    湖畔の家は静かだ。静かに暮らすよ、とあの人が言っていたからだ。そうであってほしかった。聞きたい話が、聞いてほしい話がたくさんあった。それをお互いに知っていたのに、そういう話ができるような場所がどこにもなかった。だからなのだろうか。あの人がこんなところにこんな家を用意したのは。でも、もしかしたら全然違う理由があったのかもしれない。何も知らないままになってしまった。
    もしあの人が予定通りここにいたら、何を話しただろう。
    熱すぎる茶をちびちび飲みながら、しかめ面で説教くさいことを言ったかもしれないし、顔中を皺だらけにして笑いながら昔話をしてくれたかもしれない。いろいろな話をしたかった。あの人もそう思っていたのだろうか?
    考えても仕方のないことばかりが浮かんでくる。目を閉じて夢をみれば、寒く冷たい夜に佇むばかり。潮の匂い、血の匂い、また間に合わなかったのだ。いつだって間に合わない。何をやっても何もかもが何の役にも立たなかった。
    寒い。きっと熱がある。そんなことどうだっていいと思う自分がいる。こいつの言いなりになって生きるなと言ってくれた人は、もういない。ならばもうどうにかなってしまえばいいのに、とよぎる。
    静寂が耳鳴りのように響いている。無理やり瞼を下ろして、窓の外の音を聞こうとした。でも、やはりこの家は静かなのだ。自分の咳や呼吸ばかりが耳に障る。あの人の話を聞きたい。でももう何も聞こえない。だって、ここには誰もいない。結局、誰もいやしないのだ。それがお似合いで、そうであるべきなのかもしれない、という声にばかり耳を澄ませた。
    そうしているうちに、たぶんまた眠っていたのだと思う。僅かな物音がした気がして、目を開けた。
    とん、とん、と足音を立てないようにゆっくりと階段を上がってくる音がする。それはうたた寝でなければ気がつかなかったかもしれないほどわずかな音で、慎重に静寂を刻んでいる。空き巣だろうか?さっき枕元に捨てた携帯をそっと引き寄せてのぞくと、とっくに昼を過ぎていた。それでもまだ夕暮れには遠く、いくらなんでも同居人が帰って来るには早すぎる。あいつの現在の職場はカンウォンドほどは遠くないが、道路状況によっては一時間くらいかかることもあるところだし、それにしたってそもそもまだ定時ですらない。
    ぎし、と階段を上りきった音がした。この部屋はすぐ横にある。どうしようかな、とぼんやりする頭に手をやって、とりあえず携帯でイチイチニでも打ち込んでおこうかとして、そこでふと、空き巣にしては足音に迷いがなさすぎる気がした。携帯を構えたままドアの方を振り向くと、いつの間にか細く隙間の開いたドアから、まだ定時すら迎えていないはずの同居人がのぞいていた。
    「……何してる」
    「寝ているかと思ったので」
    じろりと睨むと、そいつはまったく悪びれる様子もなく堂々と入ってきた。
    「何時だと思ってんだ、仕事しろ」
    「有休です」
    「そういうことじゃない、おっさんが風邪ひいたくらいで早退してくる奴があるか」
    「有休をいつどのように使おうと個人の自由です。理由を確認するのはハラスメントですし」
    「偉そうに言うな、それでも」
    警察官か、と言おうとして咳き込んだ。締まらないな、と思って、もうそれ以上言うのを諦めた。どうせ何を言っても意味はない。こいつが自覚することはきっとないだろうが、もうすっかり自分で決めてしまった時のこいつの顔というのがあって、今もそういう顔をしていた。
    「薬は飲みましたか?何か飲みましょう。それとも果物とか、缶詰があります、ゼリーでも、用意しますか」
    喉が痛くて飲み込みづらいせいでむせて咳をしただけなのだが、そいつは途端に慌て出した。表情はほとんど伴っていないのに、到底届かないようなところから手を出して駆け寄ってきて、おそらく背中に手を添えようとしたくせに寸前で躊躇ってベッドの手前でパントマイムみたいになっている。面白くて、つい笑ってしまった。
    「俺は不治の病なんですか?」
    「は?何の話ですか?」
    「いや、心配しすぎだろ、ただの風邪だってば」
    「ただの風邪だったら、心配してはいけないんですか?」
    そいつが一つも冗談の混じらない顔をして言った。何も言い返せなかった。心臓をまっすぐ殴られたような気がした。
    「何か少しは食べましたか」
    「…食べてない」
    「食べられそうなものはありませんか?」
    「……汁物なら」
    「わかりました、持ってきます。寝ていてください」
    言いながらもう背を向けるのへ、お湯入れるだけのがあったはずだからそれでいいよと声をかけようとしたのに、掠れた声を咳払いしているうちに素早く出て行ってしまった。まあ子どもじゃないんだし、わかるだろう。息を吐いて目を閉じた。そう、あいつは子どもじゃないし、まして親でも兄弟でもない。前途有望な働き盛りの若者だ。心配させて有休まで使わせて、いい歳をして何をやってんだとうんざりする。スープをもらったら、さっさと薬を飲んでとっとと治さなくては。
    そうでないならば、あるいは。などと、さっき現れたいつかの自分が頭の中に居座っている。追い払い方を思い出せずに、目を閉じた。
    それから、またしばらくうとうとしたらしい。ノックの音で目が覚めた。返事を待たずに、そいつはトレイを持って入ってきた。器とスプーンとスポーツ飲料が乗っている。鼻炎でほとんどわからないはずなのに、なんだか良い匂いがした。
    「起きられますか」
    「作ったの」
    「インスタントでないという意味ならそうですが、具を切って出来合いの出汁で煮ただけです」
    咳き込みながらずるずると体を起こすと、そいつは慌ててトレイを片手に持ち直し、空いた手をまた中空に泳がせた。その介助が要るくらいだったらたぶんもう救急車を呼んだ方がいいんじゃないかと思うのだが、このくらいで早退してきてしまうような奴にそんなことがわかるはずもない。なんだかそのままにしておくのがもったいなかったので、所在無げなその手を捕まえてやった。
    「な」
    「あんまり食欲ないんだけど、いい匂いだ。ありがとう」
    「は」
    「あ、落とさないでくれよ」
    トレイがバランスを崩したように見えた。とっさに手を伸ばそうとしてそいつの手を離したのに、なぜか離れなくてトレイもひっくり返らなかった。見上げるとそいつは、しまった、という顔をしていた。
    「あの、手が……」
    「うん」
    「……とても、熱いです」
    「そう?」
    「先に、体温を測った方が良い、と思います」
    「あー」
    「食べたら上がってしまって、正確なのが出ないので」
    「うーん」
    「うーんってなんですか?」
    体感的に熱は確実にありそうな気はするが、と言って経験上受診するほど高そうでもないのであれば飲む薬も対処もどうせ変わらないのだし、正直に言えば正確な数値を把握する意味はないんじゃないかなあと思ってしまった。端的に言えば、面倒くさかった。そういう考えを見透かしたように、そいつは握ったままの手に力を込めた。
    「受診しない場合でも解熱剤を服用する目安になりますし、こまめに測っておくことで今後また上がるようならいつからどのように上がったか症状の変遷を記録しておく意味でも使えますし、もし急変して救急にかかった場合にも資料として提示すれば問診の時間を短縮できるだけでなく万が一なにか希少な病気で診断に迷うものであった場合にもこういう些細な記録が参考になって病名が特定でき迅速に処置を行えるという可能性もあると考えればやはり発熱時の定期的な体温の測定は有用だと思いますが」
    「わかった、わかりました、ちゃんと測ります。体温計くれ」
    それでそいつはやっと手を離すと、美味しそうに湯気が立っている器ではなく体温計をくれた。しかも適当に脇に挟もうとすると、今度は角度が違うだの持ち方が良くないだのと差し方まで細かく指導が入った。思わず、こっちは病人なのにうるさいなあ、と言うと、正式な使用方法に従って正確な数値を得る必要性について今ここで病人に解説しますか?と脅されたので黙って言う通りにした。
    「……解熱剤を飲むほどではないですが」
    「記録しといてね」
    「わかりました。では一時間おきに記録を取りに来ます」
    「んふ、ほとんど嫌がらせだな、それ」
    「冗談です」
    「冗談らしい顔をしろよ」
    「ストックを切らしていて申し訳ありません」
    「ふ、ごほ」
    笑った拍子に咳き込んで、ああそうだった風邪ひいてんだったと思い出した。喉は息をするだけで痛いし、鼻がつまって声もおかしいのだから別に本当に忘れていたわけではないが、こいつと話すのはいつでも楽しくっていけない。
    さんざん彷徨った手が、丸まって咳き込む背中へついに到達した。と思ったのに、さするでも叩くでもなく、それはただそっとそこへ寄り添うばかりで、それでこれからどうしたらいいのかを知らずに困惑しているのが体温や重さとともにしっかりと伝わってきてしまったら、もう駄目だった。
    「水、飲み物を、飲みますか」
    「ふふふ、ふふ、いや、いいです。ふふふ」
    「大丈夫……、ではないと思いますが便宜的に聞いていますが、大丈夫ですか」
    「ふふ、はい、大丈夫ですよ。ふふふ、それ食べたいな」
    「あ、はい、あの、本当に大丈夫ですか?」
    「うん、大丈夫だよ」
    大丈夫に決まっている。
    腹の底から、何か明るくてくすぐったいものがじわじわと沸き上がってくる。さっきまでそこにいた声が少し小さく遠くなった。
    器とスプーンを受け取って、ありがとう、と言うと、食べられるだけでいいので食べられなければ残してください、とまったく真面目な顔をしてそいつは言った。スープには豆もやしと卵とわかめが入っていて、一般的に体に良いとされている汁物の中でも王道の味がした。一人でのイギリス暮らしが長かったのと、実家では使用人が食事を用意していたので定番のメニューというものがなく、あちらで自ら覚えた味の方が慣れているのだと言っていた。だからこの国の家庭料理のようなものはあまり知らないのだと。そういう奴が、これを作ったのだ。薄味だが味気ないわけではなく、荒れた喉にもさらさらと入る。いつかどこかで食べたような、どこにも角のない、舌に慣れた味だった。
    こんなものを残せだなんて平然と言うのだから、鍋ごと平らげてやりたくなった。小ぶりの器はすぐに空になり、どこもかしこも冷えて固まっていた体の、そこら中で滞っていた血が一斉に巡りだすような感覚がした。
    「ありがとう、美味かったよ」
    「そうですか、もっと食べられるようなら、まだあります」
    「もらおうかな」
    「すぐに持ってきます」
    「いや、俺が行くよ。食べたら元気になった」
     ベッドを降りると、そいつはエスコートでもしたそうな素振りをするので、スキップしてやろうかと思った。あんなに億劫だった体が、今は明かりが灯ったようにあっさりと動く。
    危なげなく階段を下り、用意は任せてダイニングに座った。熱はまだ下がったような気はしないし相変わらず喉も痛いし怠さもあるが、なんとなく急速に快方へ向かっているのがわかった。
    「お待たせしました」
    「ありがとう」
    「残しても構いませんので、食べられるだけどうぞ」
    「はい、いただきます」
    少しすくって吹き冷ましながら、ゆっくり味わって食べた。わざわざ温め直したらしく、額に汗がにじむほど熱かった。一口食べるたびに、汗が出る。いい匂いの湯気が、鼻の奥に残っていた潮の匂いを押し流してゆく。
    「心配かけて悪かったね」
    「いえ」
    「このスープの作り方は、調べたんですか」
    「調べるほどの手順はありません。出汁から取るなら別ですが、粉末スープなんて分量と具材の選択を間違えなければ煮るだけですし」
    「粉末スープなんてあったっけ」
    「買ってきました。食欲があるならこういうものの方が良いと書いてあったので」
    「やっぱり調べたんじゃないか」
    「……看病は、したこともされたことも、あまりなくて」
     そいつは、まるで恥じ入るように目を伏せた。
    たかが風邪の看病。しかも健康な大人たったの一人分のやり方なんかを、こいつは一体何をどう調べたのだろうか。このくらいの風邪なんかどうせ特効薬などないのだし、何をしてもしなくてもそのうち治る。看病と言っても、結局は食べられるものを食べさせて寝かせるくらいしかすることはない。そんなこと大人は誰だって知っているのに、こいつはわざわざネットの海を探し回ってさえそれを知らない。スープの味も、手を添えるタイミングも、電話やメッセージも、心配の塩梅も、もしかするとこいつは知らないのかもしれなかった。
    大きくはないダイニングテーブルの片側に、缶詰やレトルト粥やインスタントスープのパッケージが無造作に並んでいる。朝、珍しく慌ただしく出て行ったこいつが、家を出る直前に考えて手当たり次第に並べておいてくれたと思われる「病人が一人でもすぐに食べられそうなもの」の山と、美味しいスープの温かい湯気越しに、うつむき加減のそいつがいる。
    「小さい子ってな、びっくりするほどよく熱を出すんだよ」
    スープのおかげか、さっきまでの焼け付くような痛みは治まり、残滓のような鈍い痛みだけを残した喉から、するりと声が出た。
    「カン・ミンジョンさんのことですか?」
    「ミンジョンもそうだったけど、子どもはよくあるんだ。寒暖差とか、疲れたりしてもすぐ熱が出る。風邪も本当によくひいたけどな。あの子が学校へ上がるまでは、熱を出すとだいたいうちで面倒を見てた。店は配達もやってたから。母は年々動けなくなっていったし、できるときはなるべく俺が見るようにしてたんだけど、俺は料理は得意じゃなくてね、あの子は缶詰の桃が好きだったから、風邪ひくとそればっかり食わしてた。買いだめしてうちに置いてあって。あれだけはどんなに熱が高くても食べたから、食べてくれると俺も安心でね、いつもそればっかりだった」
    「桃ですか」
    「そう、ミンジョンはな。ジフニはなあ、季節の変わり目に必ず熱を出すんだよ。それでそういう日に限ってな、ジファは遅かったり帰れなかったりするもんだから、様子見に行ったり、代わりに行ってやって。あいつはな、昔っから熱出るとアイスなんだ。バニラの。風邪ひいてるからと思って、いつもちょっといいやつを買って行ってた。最近はさすがに呼ばれないけどな、でもそういえば、この間久しぶりに熱出たって、それだけ送ってきてたな。アイス送れって催促だったのかもな」
    「アイス」
    「うん、バニラのな。あと、」
     ジョンジェも、と言いかけてやめた。あいつもあのアイスが好きだった。あれからもう何年も過ぎた。刑期もつつがなく終えたと聞いた。それでも、あの男の話はまだうまくすることができない。
    そいつが少しだけ首を傾げた。それに、にっこり笑ってみせる。
    「近所のじいさんばあさんとか、たまにジェイもね、面倒を見たよ」
    「オ・ジファさんは?」
    「あー、あいつはなあ、ぜんぜん風邪ひかないんだよな。寝込んでるの、ガキの頃にでかい怪我して熱出た時くらいしか見たことないな」
    「へぇ、失礼ですけど、あまりこまめな方には思えないのですが、自己管理がお上手なんですね」
    「まあ確かにまめな奴ではないけど、昔から体力は俺よりあるし、煙草も吸わないからなあ」
    「あなたは早く禁煙してください」
    「そのうちね」
    「具体的にはいつ頃を予定していますか?」
    「そのうちだよ」
    「まったくやる気がないというのは理解しました」
    双子が風邪をひいたとき(双子は中学生くらいまではいつも決まって一緒か、交互に風邪をひいたものだった)、母はいつもあたたかいお粥やスープを作ってくれた。具や味はその時々だったように思うが、風邪をひいたときにしか飲ませてもらえなかった、何かほんのり甘くしてある茶があったのは今も覚えている。それを飲むと体があたたかくなって不思議とよく眠れて、起きるとすっかり治っていた。二人とも、甘くて特別なそれが大好きだった。でもそれは決まって風邪の時にしか出てこなくて、結局それがなんの茶で、何が足してあったのか、今はもう知らないままになってしまった。もしかしたら、母の手伝いをちゃんとよくしていたユヨンなら、知っていたんだろうか。
    スープを飲む。少し冷めていても、それは荒れた喉を撫でるように滑り落ちていく。
    看病に正解なんてものはない。それでも、子どもたちはちゃんと元気になってくれたし、このスープはこんなにも美味い。母の魔法を教わらないままでも、その味を知らなくても。
    ミンジョンの桃の缶詰、ジフンのバニラアイス、双子の魔法の茶。
    最後の一口を含むと、よく味わって飲み込んだ。
    「ごちそう様でした、いやあもうすっかり治っちゃったよ」
    「そうですか、油断せずに薬を飲んで寝てください」
    「これの作り方、俺にも教えてください」
    「作り方というほど大した手順ははありませんが、それは、もちろんですが」
    「頼むよ、あなたが寝込んだときは、今度は俺が作るからさ」
    そいつは、はあ、とよくわかっていない顔をしていた。ふふ、と笑うと、なんですか、と言う。
    「なんでもないよ」
    「なんでもないのに笑うんですか」
    「俺、変人なので」
    「僕もわりとそう言われることがありますが、理由もなく笑うのは難しいです」
    「そう、俺と違いますね」
    「違うから聞いているんですが」
    「聞いてどうするの」
    「変人が二人で暮らしているんですから、少しでも相互理解に努めた方がいいと思います」
    ああ、そうだったなあ、と思う。
    ここには、こいつがいるんだった。
    もう誰もいないなんて嘯く声は、やはり白々しい間抜け野郎に違いなかった。この声に耳を傾けてはいけない。楽な方へ逃げて、勝手に終わらせてはいけない。そういう話をしてくれたことを、あの人の言葉を忘れてはいけない。ここはあの人のくれた場所。こいつの帰ってくる家。
    スープと一緒にそいつが用意してくれたスポーツ飲料を飲むと、甘くて少ししょっぱくて、通り抜ける鼻の奥や喉を爽やかにしていった。それを観察するみたいにじっと見ているそいつの、生真面目な眉の角度がとてもそいつらしくて、愛おしかった。
    「あのさ」
    「はい」
    「風邪が治ったら、話がしたいな」
    「はあ、なんのですか」
    「なんでもです」
    「なんでも、とは?」
    どんなに脈絡や突拍子のない話でも、こいつは決して茶化さない。上っ面な処世術なんて一つも身に着けていない、まっさらな瞳を受けとめる。
    「いつでもいいので、あなたの話したいと思うことがあれば、でいい。あなたの話なら、俺はなんでも、聞かせてくれるなら、聞きたいんです。それから、もしあなたの都合が良ければ、俺の話も聞いてくれ。俺のは、たぶんとりとめのない話だと思うから、あなたもそういうのでいいから」
    こいつを大切にしてやらなきゃいけないと思う。いくらでも絶望できるだけの過去に打ちのめされながら、折れることも知らないで、一人で必死にまっすぐ歩いてきたこいつを、今度こそ大切にしてやりたい。暗い目だけを光らせた卑屈でひねくれきった昔の自分を、背中にべっとりしがみつかせたままいつまでも追い払えないでいる、そういう愚かでどうしようもない人間を、容赦なく縫い留めるこの眼差しを、裏切らないで見返し続けてやりたい。そうであるために、どんな自分であろうとも、生きていなくては。
    生きていたい、と思う。
    潮の匂いがしない。代わりに、優しいスープの残り香がある。喉も鼻も熱さえも、いつの間にか和らいだように息がしやすい。
    そいつは一向に目を逸らさない。風邪がうつるといけない、という言い訳を思い出して、その視線から少し逃げた。
    すると、逃げ切る前にぴしゃりと行く手を塞がれた。
    「ドンシクさん、最近発見したのですが、僕は今まで空がきれいだと思ったことがありませんでした」
    「…へえ?」
    「空が変わった色をしているとか、虹が掛かっているとか、そういう事象に出くわしても、多少なりとも気象の知識があれば驚くに値しませんし、仮にごく珍しい事象で驚いたにしても、後で調べるなりするだけで、そこには感動というものがありませんでした。だからわざわざ写真を撮るようなこともしたことがありませんでしたし、ましてそれを誰かに共有したことも、したいと思ったこともありません」
    うっかり目を見かわすと、そいつの澄んだ白目は青く見えた。
    「一昨日、空がきれいでした。山の方へパトロール中に休憩していた時で、晴れていて、真っ青で、風が気持ち良くて。それで、僕は写真を撮ったんです。あなたにも、見せたいと思って」
    それがこちらです、とそいつが携帯の画面をこちらに向けた。本当に真っ青な空を一面に撮っただけの一枚で、前置きを聞いていなければ何を撮ったものなのかわからないほど、青のゆるやかなグラデーションの中には一点の霞みもない。空を見上げるこいつと、その頭上に広がるこの青を想像した。
    「きれいだね」
    「きれいですか」
    「うん、きれいだ」
    「そう思っていただけて良かったです」
    「なんで昨日は見せてくれなかったの」
    そいつは、何を当たり前のことを、というような、どこか呆れたような顔をした。
    「あなたが今言ったんじゃないですか、なんでも話してくれと。そうでなかったら、昨日も一昨日も、なんて言って見せたらいいのかわからなかったんです。なんでもと言われたので、思い出しました」
    そのとき、あの人の笑顔が蘇った。そういえば、ずっとあのしわくちゃの顔を忘れていた。
    息を吐くと、なんだか笑えてきた。喉の痛みも気にならない。もしかするとあの人がしたかったのは、昔の話でも説教でもなく、こういう話だったのかもしれないと思った。
    「ドンシクさん?」
    「ジュウォナ、ありがとう」
    「は、いえ、写真ですか?気に入ったのなら送りますが」
    「うん、とても気に入りました。ぜひとも送ってください」
    「それは良かったです。送りました」
    「ありがとう。なあまた話してくれ」
    「空の話ですか?」
    「空でもなんでも、あなたの話を」
    「わかりました。では、あなたは早く風邪を治してください」
    「あは、そうだったな」
    本当に忘れていたような気がした。そいつが、テーブルの隅にぽつんと置いてある水の入ったコップと薬を指さした。確かにこれ以上話していたら、方便でなくうつしてしまいそうだ。
    言われるままありがたく薬を飲むと、立ち上がった。どう考えても体が軽くなっていた。きっともう本当に大丈夫だという気がした。
    「十分に水分補給をしてから寝てください」
    「はあい、母さん」
    「そこはダーリンでは?」
    「ぶはっ!あなたねえ、ストックの買い出し行っておきなよ」
    「あなたが治ったら行きます。あの、心配なので、ときどき様子を見に行ってもいいですか」
    「いいけど、たぶんおっさんがグースカ寝てるだけだぞ」
    「グースカ眠れているかの確認なので」
    「はいはい、わかったよ、いろいろありがとなダーリン、おやすみ」
    「は、あの」
    追いかけるようにそいつが立った。
    「いえダーリンは再考の余地があるとは思いますが、それではなくて。ドンシクさん、僕も、いつでもあなたの話を聞きます。聞かせてください。とりとめのない話で構いません。どんな話でも。ぜひ」
    抜けるような青空に、爽やかな風が吹き抜けていく。
    息ができる。
    こんなに簡単だっただろうか。
    体は軽く、なんだって言えそうなのに、胸がいっぱいで、うん、と言うだけで精一杯だった。
    部屋へ戻って、言われた通り水分補給をしてからベッドに横になると、またすぐに静けさが部屋を満たした。けれども、今や階下からは足音や皿の音や、ドアや棚を開け閉めする音、あいつのたてる音がひっきりなしに聞こえてくるのだ。この家には、ジュウォンがいる。
    布団をしっかりかぶりなおした。咳払いすると、思い出したように少しだけ喉が痛んだ。早く治して、元気になりたいな、と思えた。
    がたん、と椅子か何かにぶつかるような音がして、低い声がぷつぷつ何か言うのが聞こえてきた。
    ドンシクは小さく笑うと、目を閉じた。心地よい気配に耳を傾けながら眠った。


    おわり
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    Replies from the creator

    nigiyakashi3

    DONE※まだ一緒に住んでないし付き合ってもない相思相愛のjwds。
    ※一応pixivのこれhttps://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19952717のしばらく後の設定ですが、特に読んでなくても問題ありません。
    世界はそれをジュウォンが来る。
    冷蔵庫を開けて剃りたての顎を触りながら、ドンシクは残り物の入ったいくつかの保存容器を眺めた。
    ハン・ジュウォンは、法と原則と流通期限を守る男だ。消費期限だっけ?まあどっちでもいいか。
    とにかくそういう、食べ物の期限にすこぶるうるさい。買ってあったキムチを出したら期限が一週間切れていた時なんか、信じられないという顔をして怒られたが、その時は我慢できずに爆笑してしまった。たいていのキムチには期限なんか書いてないのに、それはソウルの友人がくれたやつで、なぜかそういう無駄な仕様になっていた。本当に無駄だ。母が毎年秋口に作っていたやつなんか、何ヶ月もかけて食べていた。
    食品の期限にうるさいハン・ジュウォンは、保存期限のない手作り惣菜に関してはさらに鬱陶しい。常備菜だと言うのに、三日もすれば捨てろと言う。神経質を通り越して趣味みたいなもんなんだろうと思う。面白いので気にはならないが、単純にもったいない。ジェイの作ってくれたものくらい見逃してくれてもいいのに、ジュウォンは嘘をついてごまかしてもなぜか何日経っているか大体のところ当ててしまう。臭いをかぐとか観察するとかでなく、保存容器の蓋を開けてすぐに何日めくらいか当てる。違うと嘘をついても、嘘だとバレる。合ってると言ったら、モノによっては容赦なく捨てられる。面白い。
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