コーヒーの味がしない。円の緊張も他所に、店内にはゆったりとした聞き疲れのしないジャズが流れている。円はカップを口に運びながら、ちらりと向かいの席に座る女を見た。オーダーメイドの人形である、といわれても、あっさりと信じてしまいそうなほど端正で中性的だ。よくよく彼女を眺めるか、ある程度の観察眼がなければ、少年か、少女かと、すぐにはその性は見抜けないだろう。ある種、生物的なあるいは理化学的な境界が曖昧な人間なのだと円は感じた。
好きで注文したのであろうホットチョコレートを、彼女は無表情で少しずつ飲んでいる。その視線はすぐ隣の窓の外だ。何か意図があるのか、ぼんやりと見ている様子ではない。しかし、時計を見たり、連絡をしたりする素振りはなかった。あまりに変わらぬ表情に、彼女との付き合いを苦く思う者はいただろう、と円は他人事のように感じた。
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