手のかかる友人「はぁ……貴方って人は…何をどうしたらそんなことになるんですか」
自身の目の前にいる濡れ鼠となった友人に対してバーニーは深いため息を零した。
「あぅ、バーニー」
自分が傍に居てもまだこうして彼女を虐げようとする者はいるらしい。
「……保健室に行きますよ」
「ん、でも風を起こせば服を乾かせるし……」
「馬鹿なんですか?ただでさえ冷えている体に風を当てるなんて風邪を引くに決まってるでしょう?」
「でも授業が……」
「でもでも煩いですよ」
彼女の言葉を無視して腕を引く。
モニカは腕どころか全体的にあまりにも華奢で、少し力を入れてしまえば折れてしまいそうだし、突風に吹かれでもしたら飛んでいってしまいそうなほどか弱い。
だから自分が気を付けて見ておかないといけないのだ。
保健室には誰もおらず、ひとまず棚にあるタオルを彼女に手渡す。
「モニカ、着替えはありますか?」
「えっと……」
口をまごまごとさせる仕草を見て、バーニーはまたため息をついた。
「大きいと思いますけど、僕の服を貸してあげます。取ってくるからその間に拭けるところは拭いておきなさい」
呆然としてるモニカの手からタオルを広げ、体に押し付ける。
「僕が戻ってくるまで、鍵を締めておくんですよ。分かりましたね?」
ようやくモニカがこくこくと頷いたので、バーニーは保健室を出た。
そして足早に部屋に戻り、適当な衣服を手に取る。
その道中教室に立ち寄り、先生へ事情を説明することも忘れずに。
トントン。
保健室へと帰ってきたバーニーはノックをする。
「…はい」
「モニカ、僕です」
ごそごそと中でモニカが動く音が聞こえる。
それから、「痛っ」と小さな声も。
彼女は鈍臭いからきっとまたどこかにぶつけたんだろう。
虐められる機会が少なくなっても彼女の体に痣は尽きない。
バーニーが扉に手を掛けると、がらりと扉は開いた。
「……扉を締めるようにと言いましたよね?」
タオルに足元を取られたのか、床にへたりこんでいるモニカ。
「バーニー、すぐ戻って、くると思ったから」
「はぁ……危機感というものを覚えなさい。それに貴方、髪もまだびしょ濡れじゃないですか……まぁいいです。はやくこれに着替えなさい」
少し厚手のシャツとズボンを渡して、奥の寝台に彼女を押し込むとバーニーは有無を言わさずカーテンを締めた。
こうでもしないとモニカは自分に無頓着なので、そのうち乾くだろうと言うのは目に見えている。
布が擦れる音と、それから
「ごめんね、バーニー」
と小さなモニカのいつもの謝罪が聞こえる。
「……何度言えば分かるんです? そこはありがとうでしょう」
「…うん。ありがとう」
そう、それでいい。
着替え終わったモニカがカーテンを開く。
自身がずば抜けて身長が高いわけでもないしことが幸いしたにしても、自分の服を着たモニカは実に不格好である。
でも何だかそんな彼女を見ていると、むず痒さが心を擽った。
「ま、まぁしばらくはそれで我慢しなさい」
「うん」
「後は髪の水気をしっかり取りなさい」
「? そのうち乾くよ? いつもそうだもん」
絶句した。
モニカが自分自身に興味が薄いことを理解してはいたけれど、ここまでとは。
バーニーはしばし頭を押さえたが、気を取り直してモニカに向き合った。
「そこに座って後ろを向きなさい」
「バーニー?」
モニカは不思議そうな顔でこちらを見つめながらも言われるがまま、椅子に座る。
そして、彼女からひったくるようにしてタオルを手に取ると、バーニーは甲斐甲斐しくモニカの髪を拭き始めた。
「バーニー、大丈夫だよ、このままで」
「……貴方が良くても僕が良くないんです」
「うぅ…ご、ごめんなさ……」
反射的に出そうになる謝罪にモニカはハッと口を押さえる。
ここは最後まで言わなかったことを少しは成長したと褒めてやるべきなのか……
でも、バーニーの口から飛び出した言葉はやっぱりいつも通りのものだった。
「本当に貴方って人は僕がいないとダメですね」
呆れたような口振りにモニカはちらりとバーニーの顔をタオルの隙間から確認する。
そこにはモニカの知っている優しい表情を浮かべるバーニーしかいなかった。