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    Lys_sw

    @Lys_sw

    エリオットに狂いだした新参ばあや

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    Lys_sw

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    カレンダー用に考えていた別話。
    またエリオット……とは思わないでください🥹

    ぼっちゃまとばあや 山積みの書類を片付けて、襟元を緩めながら革張りのソファに深く沈む。
     だらしのない姿だが、咎めるものはいない。
     疲れたと認めると体に鉛でもついたかのように重く感じ、何やら外が騒がしいが、確かめる気力も湧かない。
     未熟で親しみやすい領主、というのが不本意ながらエリオットの現状である。こんな自分を長い目で見てくれる人もいれば冷ややかな目で見る人もいるのは当然のことだ。
     毎日机に齧り付いていても、まだまだお前は足りていないのだと思い知る。
     これまで関わってきた人達の非凡さ、自分の平凡さを毎日痛いほど感じていた。
     でも弱音なんて吐いたところでなんの足しにもならない。
     そうは分かっていても、疲れたのだ。
     領主エリオットの代わりは幾らだっていて、その事実がエリオットを立ち止まらせることなく常に追い立てていた。
     でも今日はもうこのまま微睡みに敗北してもいいだろう。
    「子守唄が必要ですか、エリオットぼっちゃま」
     閉め忘れた窓から、さも自然な流れで室内に入るメイド服を着た人物が一人。
    「……随分お早い帰省だな、ばあや」
    「中秋の名月ですので、故郷の月を眺めに来ました」
     至極真面目な顔で小脇にワインを抱えてそういうものだから、こちらは頭を抱えたくなった。
     中秋の名月。夜なのに随分と明るいのも、外から聞こえる喧騒も、なるほどそういうわけかと納得する。
     この街の住人は祭り好きで、行事の復活もまだまだ追いつかない今では酒を酌み交わす機会であるこんな夜を逃すわけがないわけだ。
    「一杯いかがですか、ぼっちゃま」
     当然のようにガラス棚からワイングラスを取り出すばあや。
    「精霊も酒を嗜むとは知らなかった」
     もれなくため息付きで言葉を吐き出したのだが、そんなものは効果がないことを既に知っている。
    「こう見えてばあやは負け知らずですが、ぼっちゃまがお望みであれば勝負にお付き合いいたしましょう」
     そんな負けが見えている勝負に乗る気はない。加えて精霊と盃を交わすなんて、酔狂なことだ。
     でもなんだ。この精霊の前では何も取り繕う必要が無いのだと思うとエリオットの肩に乗っていた重圧はするりと落ちた。
    「それともやはり子守唄が必要でしょうか」
     良いのか悪いのか存外俺もこの土地に馴染みはじめたらしい。 
    「……あいにくこっちは久しぶりの酒なんだ。お手柔らかに頼むぞ、ばあや」
     そして、グラスに並々と注がれた深みのある真っ赤な液体を流し込んだ。

     かくして、ルイス・ミラーの元から三本のワインボトルが行方をくらました。
     そのうちの一本がよもやわざわざルイスが探した二人が出会った年代物のワインで、夫婦で過ごす時間の為に用意されたものとも知らずに、何も知らないエリオット・ハワードは一滴残らず飲み干した。
     
     そんな翌朝、エリオットの目覚めは意外にもよかった。
     精霊相手に溜まりに溜まった愚痴を吐き出したからに違いないのだが、当人は実はあまり覚えていない。
     そしてばあやはと言えば、
    『主に呼ばれましたので、ばあやはこれにて失礼致します』
     来訪も急であれば帰宅もである。
    「本当に自由な精霊だ」
     置手紙を読みながら、ばあやが料理人に用意させたスープを口にした。
    「今日も頑張るか……」
     
     一方その頃主に叱られるリンであった。
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