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    綾滝すれ違いおしまい。加筆したら支部にのせるつもり。浜三木の生産ラインでもあるのでご了承ください。

    #綾滝

    恋とはどんなものかしら⑤終 「私は失恋したんだな。」
    久しぶりに子供のように泣いたせいでガンガンと痛む頭とは対照的に、気持ちはさっぱりしていた。さっきまで途方に暮れていたというのに、イマイチ引きずらない所も自身の良さである、と滝夜叉丸は理解している。
    どうしようも無いのだから、好きでいるしかないし、結局考えてみたら何をどう振舞おうが4年間見せてきた自分を塗り替えるほどは変われないし、それにその自分だってずっと魅力的だったはずだ。いつもそうだった。結局滝夜叉丸は悩んでも、いつもの素敵な滝夜叉丸に戻ってくるのだ。だから、またその「いつも」を取り戻そうと、タカ丸の部屋にあった鏡を覗き込んだ。
    部屋の主は、さっき部屋を訪れた三木ヱ門と共に席を外していた。落ち着くまで居てもいいし、出ていってもいい、と気遣いの言葉を残して。戸の前に居たらしい三木ヱ門は少しだけ様子を伺うような素振りを見せたが、目が合うと慌てて逸らされた。不器用なヤツらしい、不器用な優しさを感じて、また少し目頭が熱くなった。
    指を目元にやると、涙が乾いてかさついていた。きっと酷い顔だ。自身のことはどんな時だって美しいとは分かってはいても、だからといって投げやりになってはいけない。顔を洗って、瞼を冷やさなければ、と、思った。手ぬぐいで鼻を抑える。まるで一年生のあの子のようだ、と少し恥ずかしくて、ひとりだというのに咳払いをした。外からは人の声も気配もしない。出るならば今だろう。
    一歩、外へ出ると、冷たい黄昏時の風が頬をくすぐった。なんだか、不思議と清々しい気分で背伸びをして、ふと、その長屋のそばの土を眺めた時に、思わず面食らって目を丸めてしまった。
    そこにはこれみよがしな大きな穴が空いていた。

    「とりあえず、頭を冷やせ」
    そう三木ヱ門に言われた喜八郎はいつもよりも小さな声ではぁい、と返事をした。それからどこかへ居なくなってしまった。
    「俺さ、喜八郎のことも、滝夜叉丸のことも、なんか良いなって思ってたんだ。」
    誰かが、ずっと側にいてさ、それに泣いたり笑ったりするの。そう彼は言葉を続けた。他人事だからそう思って居られるんじゃないの?なんて皮肉を言ってやりたかったが、その言葉が彼の境遇から発されていることを理解して、飲み込んだ。
    「守一郎にも、出来たらいいね。」
    「そうだな!」
    その時、何となく、風呂で話した先輩の言葉を思い出して、あっと閃いたように声を出した。
    「もしかしたら、自分で分かっていないってやつかもしれないよ?」
    「どういうこと?」
    もしかしたらもう居るのかも、そう言おうとした時にそれを遮るように三木ヱ門のよく通る高い声がした。
    「喜八郎!あいつはタカ丸さんの部屋にいたぞ!」
    もしかしたら、彼はそれを知っていて、わざわざ確認しに行ってくれたのかもしれない。でもきっと「僕のため?」なんて尋ねたら否定するだろう。三木ヱ門も滝夜叉丸に負けないぐらい、変なやつだから。去り際にありがとう、というと、おう、とだけ返された。
    しかし、結局まだ顔を合わせてもなんと言っていいのか、何を話していいのか、まだ整理出来てはいなかった。長屋の前で、勇気が出なかった。
    穴があったら入りたい気分。ならば、いっそ穴でも掘ってやろう、と思ってずっと連れてきていた踏子をざくり、と地面に突き刺した。
    「ごめん」、それから「言いすぎた」はちょっと違う気がする。ならば「言いたいことがある」でいいかもしれない。
    でもきっと、しおらしすぎると、アイツは調子に乗ってしまうだろうから事実を伝えないといけない。
    「ごめん」
    「でもお前、最近変だよ」
    「お前を綺麗だっていう人までいるんだ」
    「どうせ変ならいつもの変なままでいてよ」
    「恋してるの?」
    「お前、その人、「滝夜叉丸」より好きなの?」
    「変わらないでよ」
    あと多分、もう一言。
    そういう事を頭のなかで積み上げるのに比例して、地上にも土が積もった。タカ丸の部屋へ、行かなければ行けなかったのに、と頭では分かっていても気持ちは結局、いつものままだった。
    (お前がまた、探しにこればいいのに。)
    その時、まるでその心の声を聞いていたみたいに、穴の上に人影が現れて、逆光で上手く見えないその姿は輝いているみたいだった。

    無視をしようか、どうしようか、滝夜叉丸は少し考え込んでから、その穴に近づいた。誰よりも早くそれを掘ってしまえるくせに、その淵は綺麗に整えられている。四年もすればそれだけでこれが誰の手によって掘られているか直ぐに理解出来た。
    ぷっと笑いが漏れた。恋だなんだと色々考えていたけれど、結局頭を悩ませていたこの男はあまりにも変で、何となく目が離せなくて、結局どうしようもなく面白い。単純にそれだけでいい気もした。考えてみたら、忍術学園に来る前はこんなにも誰かと居られたことなんてなかったのだし、好ましく思うのも仕方がないことなのだ。
    「喜八郎」
    「おやまぁ」
    穴に向かって声をかけると、その底で喜八郎が踏子を抱えて座り込んでいる。泣かされたのは私だというのに、何故お前が不安そうな顔をしているのだ、と言ってやりたかった。でもきっと、それを他の人が見たら「いつもと変わらない表情にしかみえない」と言われるだろう。
    「何をしてるんだ、そんな所で。」
    「お前に、言わなきゃいけないことがあったんだよね。」
    喜八郎は、柄にもなく緊張していた。でもそれが分かりやすいタイプでなくて良かったな、と安心もしていた。きっと首を傾げたのだろう、とその人影の輪郭で分かったが、表情は目を細めないと上手く見えなくて、その顔は相手にはまるで喜八郎が眩しがっているように映っているだろう。
    何だっけ、さっき、言葉を積み上げていたはずなのに、と思った。でも、積み上げたせいで、結局頭に浮かんだのは、最後に置いたあと一言だけだった。
    「お前のこと、好きだよ。」
    思わず最後に「多分」と付け足した。妙に恥ずかしかったからだ。
    すると、ふはっと笑い声が上から降ってきた。居心地が悪くなって、踏子をギュッと抱きしめながら「笑うな」と小さく呟いた。すると、ごめんごめん、と滝夜叉丸の声がする。
    「私も、だ」
    「え?」
    「私も、私が好きだ。」
    何だよそれ、と思ったし、そうでなくちゃな、とも思った。それがなんだか、どうしようもなくおかしくて、ふふふっと喜八郎も笑い出してしまった。
    「おやまぁ」
    どうしようもないな、多分凄く様にならない。事実は小説よりも奇なり、とはよくいったもので、自分たちはあまりにも奇妙さが強すぎる、と思う。
    すると、何を思ったのか、自分の上に影が落ちたかと思うと、ズドン、と脚の上に振ってきた。
    「は?」
    「あはは!」
    してやったり、と言わんばかりに滝夜叉丸が膝の上で笑っていた。どうやらヤツは優秀な忍びらしく、喜八郎に負担がないように落ちてきたらしいが、それはそれとして、驚くものは驚く。
    「知っているか?喜八郎!」
    ああ、いつもの滝夜叉丸だな、と思ったし、話が長くなりそうだな、と呆れもしていた。けれど当の本人はそんなことお構い無しに馬鹿みたいにニコニコと笑って言った。
    「恋とはな、落ちるものなんだ!」
    誰が気づくか、気づかないか、僅かに喜八郎の瞳が、らん、と瞬いた。
    (なんだ、お前は、とっくに落ちてきてくれてたんだな。)
    くのたまの誰かさんに、教えてらやなければなぁ、と思ったりした。恋をすると綺麗になるだなんて、やはり全部、嘘っぱちだったのだ。そんなことを穴の下で土まみれになりながら、喜八郎は考えていた。
    でも悔しいかな、そのボロボロで腹が立つほど鼻高々に笑っているその目の前の男は、喜八郎の目にはいっとう綺麗に見えてしまっていた。
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