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    CMYKkentei

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    以前書いた綾滝のアフターストーリー的な浜三木。こちらも気分で更新するので気長に楽しんでいただけたら助かるのと、綾滝やらそれ以外要素も入るかも知れませんのでご了承ください。

    #浜三木

    君を知らずに100年生きるより⑤「守一郎!今日は待ちに待ったデートの日だ!気合いを入れろ!!」
    「おー!!!」
    ここにもし、タカ丸でも居たのならば「体育祭じゃないんだから」とツッコミでも入っただろうに、生憎出発前の長屋の部屋には2人きりだ。2人きりで、デート前だというのにロマンはからっきし感じられなかった。三木ヱ門がうっかりタカ丸の前で弱音を吐いたあの日、朝食を食べてみるみるいつもの調子を取り戻す様を見て、タカ丸は若干引いていた。
    三木ヱ門はそんなこと気にする様子もなく、腹に決めたことがあった。それは、この「恋人ごっこ」を絶対に良いものにし、守一郎が満足をして、本当の恋へと向かって行けるようにする、ということだった。
    きっと、守一郎が満面の笑みを浮かべたら、自分のちくちくと疼く痛みも収まるだろうと思った。自分は1人でも平気だけれど、守一郎にはそれは似合わないから。
    「団子屋は街から少し外れてるみたいで更に四半刻ほど歩くみたいなんだけど…」
    「なんだ、てっきり一刻ほどかかるかと」
    ケロッと、近くだな、と言ってのけたのが守一郎には少し面白かった。会計委員というと、まるで内務的に聞こえるが、三木ヱ門が所属するのは「地獄の会計委員会」である。日々鍛錬を欠かさず、ギンギンに忍者しているその会計委員会委員長は自他ともに厳しく、所属している生徒はもれなくその鍛錬に巻き込まれている。たった30分歩くぐらいなんの問題でもなかった。
    「たしかに、すぐかも、三木ヱ門と話してるとさ」
    それから彼は「今朝のユリコはどうだった?」と尋ねた。そう、今日は調子が良くて、全て命中し、その勢いにも精彩があった。そのことを守一郎にも話したいと思っていた。
    「実は!」と明るく切り出して、興奮のままに今朝のこと、それからサチコや鹿子の最近の様子まで身振り手振りを用いて話した。
    (田村、何言ってるか分からないんだよな)
    ふと、昔の事が過ぎった。まだ淡い水縹の制服を纏っていた時だった。まだ火薬の取り扱いの免許が無かった頃で、自分の火器などもひとつも持っておらず、先輩などが持っていたり、倉庫にあるものに頬を上気させていた。
    あれが、カノン砲、指をさしながらそう話していた時だった。今はもう学園を去った同級生が三木ヱ門に、そう言った。呆れたように、聞きたくないと言わんばかりに。
    その時の自分はというと、バカにされたような気がして、持ち前の負けん気で殴り掛かり、勝って、相手を大泣きさせたことを記憶している。後悔はしていないけれど、理解は求めなくなった。自分の好きなものを、自分を否定するより、自分の好きなものが好きだった。
    ただ、踏鋤をバカにされた喜八郎を庇った滝夜叉丸を見たのを、忘れられなかっただけ。
    「守一郎は、つまらなくないか?」
    何となく尋ねてみた。三木ヱ門の話に相槌をうっていただけだった彼はいきなりの質問に「えっと」と言葉を探すような素振りを見せた。つまらない、と言われたらどうしようと、聞いておいて一抹の不安がよぎった。
    「俺さ、火器のこと詳しくないから、三木ヱ門が話す度に新しい発見があって面白いっていうか……カノン砲とかファルカン砲とか、かっこいいなって思うし」
    「うん」
    「あと、三木ヱ門が楽しそうに話すから、俺はそれも好きだな!」
    にかっと音がしそうな笑顔だった。じわじわと、肌が温かくなるような心地がして、夜に手を握って貰った時みたいだと思った。

    それからすぐに、守一郎は前をみて「あっ!」と大きな声をあげた。
    「みて、三木ヱ門!団子屋が見えた!三木ヱ門と話してると楽しくて本当にあっという間だったな!」
    守一郎と出会って嬉しかった。楽しみだった。誰かと同じ部屋になるのが待ち遠しかったのに、まるで、その日が昨日のことのように思い出せるのに。
    (本当に、「あっという間に」すぎてしまった。)
    もっとゆっくり時間が過ぎたらいいのに、と思った。でも守一郎は三木ヱ門の手を取って駆け出した。団子屋についてしまう、そしたら?団子を食べ終わるまでで、それから街へ行くまで、その後は学園に帰るまで、そしてデートが終わるまで。全てが有限である事が身にしみた。
    (それと、恋人ごっこが、終わるまで)
    楽しもう、そう思っても、まるで刻刻と時間に迫られているようだ。こんなに流れるみたいに時が滑り落ちていくなんて知らなかった。
    「三色団子とお茶のセットがある!俺はそれにしようかな。三木ヱ門は?」
    「じゃあ私も、あと…追加でこれも」
    お品書きをみてあれこれ指をさした三木ヱ門を、守一郎は驚いた様子で見ていた。「お腹すいてた?」と尋ねられたが首を振って否定する。それから、頷いておけば良かったかも、と少しだけ後悔した。
    いつもみたいに、腹が満ちたら元気になるかと思った。2本、3本、4本、腹に収めた後の串が皿に並んでいっても、妙にスカスカとした胸の気持ちだけが満ちない。
    「三木ヱ門、あとは持ち帰ろうよ」
    そっと守一郎が制した。
    「本当に、美味しかったんだ、守一郎」
    「うん、そうだね」
    本当に、団子は美味しかった。でも、もしかしたら、もうこの団子屋には来れないかもしれないと思った。だってここは自分にとって、「守一郎と来た団子屋」になってしまったから。
    団子を包んで、立ち上がった。守一郎が三木ヱ門を見て、笑って片手を差し出した。ここから去ったら「団子屋」の予定はもうおしまい。
    でも、手を握って歩きたいと思った。守一郎の手は温かくて心地がいいから。外は暑くて、互いの手は汗ばんでいても。
    「三木ヱ門はさ、いつも街のどこを見に行くの?」
    「うーん…」
    街といったら古書店、文具、それぐらい。あまりにも色気がないし、「デート」で向かうところでは無いし、守一郎が女の子と出かけた時の参考になんてなりはしないだろう。
    「櫛…かんざしとか……」
    「えぇ、嘘だぁ」
    少しいたずらっ子のような言葉だった。守一郎はそんな話し方もするのか、と思ったし、手はぎゅっと握られたような気がした。
    「三木ヱ門のこと教えてよ」
    きっと、守一郎に手を引かれた女の子がいたとするなら彼が好きでたまらなくなっただろう。本当は、彼に練習なんて必要無かったのかもしれない。このままだったら自分だけが恵まれすぎている。
    「本や、文房具を見たりしてる。」
    「いいなぁ、三木ヱ門のおすすめはどこ?」
    「路地を入ったらおじいさんかひっそりとやってる古書店がある。無愛想だし、ほこりっぽいんだが、たまにいい本がある。」
    「おっ、じゃあ案内してよ。」
    だめだ、とは言えなかった。拒否したかったのは自分だけのものを彼に晒してしまった後を怖いと思ったから。でも「良い」と思ったことを知って欲しいとも感じている。
    少しだけ先を歩いていた守一郎が歩幅をせばめて、三木ヱ門が先を歩くように促す。次は守一郎が誰かの手を引いて先導し、この道を歩くのかもしれない。そんな姿を見たらきっと自分はこの瞬間を思い返すだろう。
    暖簾をくぐって開けっ放しの引き戸から店内へと入った。ちらり、と店主の黒目だけが動いてこちらを見ていた。三木ヱ門が小さく頭を下げると、そばで守一郎はもう少し深くお辞儀をしていた。
    「古書ってさ、甘い匂いするよね。俺少し好き。」
    守一郎は声の大きさに配慮したのか、口元に手をやってヒソヒソとこちらに話しかけてきた。ほこりの香りだと知ってる。でも、自分も同じで入ってきたとき、わざと鼻で息を吸いこんで、「ここに来た」と感じたりする。
    「わかる。」
    雨の匂い、草の舞い上がる空気、硝煙や本の間にちらちら舞うほこり。全部キラキラとして、芳ばしかったり、甘かったり、そういう香りがする。誰かに言うこともなかったし、時には疎まれるものだ。だから、そういうのも嬉しいと感じる。
    それから、それを思うとき、守一郎を思い出しそうで恐ろしいと思う。

    ひと通り、古書店をぐるぐると回って、棚の隅から隅まで指をさして話をした。たまに、声が大きくなりそうになって、二人で口の前に人差し指を立てた。
    「また来いよ」
    三木ヱ門の勧めで、守一郎は二冊の本を店主の男に差し出した。ぶっきらぼうな老人はそれを受け取り、いつものようにしばらく眺めてから金額だけを告げる。それを聞いて守一郎が小銭を取り出す間、店内に回していた視線を店主に向けると、彼は珍しくこちらを見ていたらしく目が合った。それから、ちょうどを手渡した守一郎と三木ヱ門を見回して、ひとこと、そう言ったのだ。
    「はい」
    「はい!また来ます!」
    返事を聞いて満足したのか、ふいっと視線を外し、その老人はいつもの無愛想に戻った。初めて言われた、と思いながら隣を見ると、守一郎も肩を竦めて楽しそうに笑っていた。
    「日が落ちはじめたな」
    「本当だ!そろそろ帰らなきゃいけないな。」
    店から出ると、風景は僅かに橙色になっていた。ここから、宵闇に変わるのはすぐなので、帰路は少し急ぎ足にならなければならない。古書店の時間も、おしまいだ。そして今から、デートもおしまい。
    「守一郎、帰ろう。」
    「ねえ、三木ヱ門。」
    来た時のくせで、つい三木ヱ門は守一郎の手を取った。だから、守一郎が立ち止まった時に、一緒に足が止まってしまった。またざわざわと嫌な感覚がある。
    (大丈夫、次も、次の休みも、約束をすればいいだけだ。)
    「三木ヱ門、やっぱり恋人ごっこはおしまいにしよう。」
    次も、次の次も、おしまいの前には結局、形無しになってしまうのだと、無情さが夕刻の風と一緒に肌に染みるようだった。
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    CMYKkentei

    MAIKING以前書いた綾滝のアフターストーリー的な浜三木の続き。こちらも気分で更新するので気長に楽しんでいただけたら助かるのと、綾滝やらそれ以外要素も入るかも知れませんのでご了承ください。
    君を知らずに100年生きるより②「私は田村三木ヱ門だ。これからよろしく、守一郎。」
    明朗にそう言った少年の虹彩は、燃える火のように真っ赤だった。そのせいか、それとも初対面の緊張と興奮か、差し出された手を握った時に「熱い」と思ったことを今でも鮮明に覚えている。胸がうるさく音をたてて、聞こえてしまうかも、もしかしたら口からまろび出てしまうかもしれないなんて子供みたいに考えていた。そんな自分の気持ちを知ってか知らずか、三木ヱ門は嬉しそうに笑っていた。

    そこからの忍術学園での生活は目まぐるしく、たくさんの出会いや出来事があった。曽祖父と暮らしていたり、ひとりぼっちで籠城していた頃に比べたら信じられないぐらいに騒がしくて、めちゃくちゃで、楽しくて、ずっと前から居たような気もするし、あっという間だった気もした。尊敬する先輩も、かわいい後輩も出来たけれど、やはり「同級生」という存在は特別で、三木ヱ門から聞いた滝夜叉丸と喜八郎の友情関係に憧れを持ったりしていた。
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