たすけて、たすけて、だれか、いたい、こわい、たすけて
少女は森の中を走る。後ろからは自分を探す怒声が聞こえる。鋭い矢が掠めて裂けた腕が熱い。けれど痛みに足を止めたら殺される。
おとうさんおかあさん私死んじゃうの
目には涙が溢れそうになるが視界が滲めば殺される。
振り返らずにひたすら走る。
しにたくない、しにたくない、こわい、たすけて。
自分を追う声が近づいてくる。
殺される。
無我夢中で走った先、急に足場が無くなった。
「っ?!?!?」
身体がガクンと下降する。枝が刺さり足も捻れた。身体が木の根に叩きつけられる。
痛みに意識が薄くなる。
このまま、ここで死ぬのか。
怖くて痛いのに、どうしてこんなにも懐かしいような、そんな気持ちになるのだろう。死の間際に見る夢なのか。前にも、こうして痛みの中で助けを願った事があるような気がする。いや、そんなはずはない。じゃあこれはいつの記憶だろう。もう何もわからない。ああ、自分という存在がほどけていく。これが、しぬ、ことなのか。
まだ、たくさんやりたいこと、あったはずなのに、それもわからな、く、な
闇の中、誰かが私の手を握ってくれた。小さい頃、母と父と手を握って眠った日の事を思い出した。
「だ、?」
目の前にいたのは初めて見る知らない人。
闇に光り輝く太陽のような金の髪に宝石のような淡く煌めく水色の瞳。
死にゆく自分をエーテル界へと導く神の使いなのか。
それとも彼女が神なのか。
まるで父母が信仰していた太陽神のようで。
彼女はそっと私を抱きしめて自身の名を私の耳元で囁いた。それは私達の間で交わされる密約のようで、私は彼女に差し出された手を握り返した。
鳥の鳴き声、風に揺れる木の葉の音。
重たい瞼を少しずつ開いてみる。頭はまだ白いモヤがかかるようにうまく思考ができない。彼女は片手に力を入れてみる。持ち上げて見上げた右手は思ったよりも小さいと感じた。
持ち上げた手で自分の顔に触れる。けれどもとても奇妙な気持ちだ。自分はこんな生き物だったか、何もわからないのだ。そもそも何もわからないので思考がうまくできない。最初はまず、そうだ、ここは何処なんだというところから。
頭を動かして見てみると、木でできた家の中のようだ。
もう一度身体に力を入れて起き上がってみる。軋むように所々痛い。改めて見回すと置かれている家具が大きい。巨人、とまではいかないがこの家の人々は目を覚ました彼女よりもかなり大きいようだ。
床の軋む音がする。
「まぁ! 目を覚ましたのね」