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    monarda07

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    monarda07

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    これがあったから、ぐだ子じゃないとダメだったという。(他にも理由はあるけど、それはエピローグで)
    なお、
    ロキ「協力者」
    テウル「“彼”」
    魔王「“あいつ”」
    は全員同一人物を指してます

    イミテーション・パンドラピトス⑦【第六幕】
    それからどれくらい走っただろうか。
    いよいよ出てくる悪魔たちも増え、かつ一体がどんどん強くなっていく。というかこの世界の悪魔たちは、悪魔と名はついているものの、正体は神霊や妖精の類いではないだろうか。と、立香は思っていた。どうも根本的な部分から違う世界のようだが、それでも共通している部分はある。たとえるのなら、タヌキとアライグマは全く違う生き物なのに似たような姿をしている……という感覚だろうか。閑話休題。

    (あれ……急に統率が取れ始めてる……?)

    先程までは、突然の襲撃者にあたふたしていた悪魔たち。反撃もまちまちで連携できていないような感じだったのだが、ある一線を踏み越えた直後から突然組織的な反抗に転じてきたような印象を受けた。

    ……と、いうことはつまり。彼らを指揮している者が現れたということか。

    「っ……やってくれたな」

    怒りと焦りを圧し殺したような声。あの時聞いた魔王の声ではない声の主はが、若い男性のようだ。
    ザッとブレーキをかけて立ち止まる。朴を背に庇いながら、立香は洞窟の奥から現れた人物をじっと見つめた。

    「こんな所にまで侵入を許してしまうなんて……まずったかな。騎士團にこれほどまでの機動力がある團員がいたなんて情報、仕入れてなかったんだけど」
    「……あなたは」
    「でもまあ────カルデアのマスター。なるほど、君ならありえる話か」

    現代にそぐわない、神官のような裾の長い衣装を見に纏った青年。前髪の左部分だけに銀のメッシュが入った長い黒髪。
    そして……時間神殿にて微笑む“彼”の面影がある顔立ち。
    右半分は仮面で隠してあったが、剣呑な光を宿した黄金の瞳に射殺されそうになる。

    間違いない。彼は、魔王軍の軍師。名を──

    「ちょっと待って。なんで、カルデアのことを……」
    「それについては君が知る必要はない。けど、ごめん。せっかく来てもらった手前、中々言いにくいんだけど……あいにく我らの王は休息の最中だ。謁見は控えてもらおうか。お前たち! 侵入者を捕縛しろ。王に近付けさせるな!!」

    軍師が手を上げると、悪魔たちが一斉に襲いかかってくる。
    だが立香も黙ってはない。簡易召喚で召喚したサーヴァントたちと共に、襲いかかってくる魔王軍を退けていった。
    そして最後の一体を倒し終わったとき。

    「これで、どうだ!」
    「…………くそ。まさか“彼”が召喚していなかったサーヴァントばかりなんて……」
    「……?」

    軍師がボソリと漏らしたひとこと。
    “彼”……? いったい誰のことだろう。この軍師自身のことでも、魔王のことでもなさそうだ。
    では、いったい誰のことだ。まさか魔王軍にはもう一人、人間の協力者がいるのだろうか。

    「ねえ、貴方……」

    立香が軍師に疑問をぶつけるべく、口を開きかけたそのとき。


    「なんの騒ぎだ」


    場の空気が、一気にズンッと重圧を伴ってのし掛かる。
    さほど声を張り上げていたわけでもないのに、よく通る声だ。どこか気だるげな、それでいて命令慣れした者の言葉。そこにいるだけで、思わず平伏してしまいそうになる。オリュンポス……いや、平安京での伊吹童子以来だろう。腹の奥を殴られ、頭の中身を直接握りつぶされそうになるような威圧感は。
    にわかに周囲がざわめきだし、軍師は慌てて振り向いたかと思えば途端に目を見開いた。その頬に冷や汗が伝う。
    粛々と、まるで処刑台の前に立たされた罪人のような空気を纏いながら、軍師は壁に背を着け頭を垂れる。
    その瞬間、洞窟の奥から青い光が翻った。と同時に、ぬっと現れたのは……魔王。

    「王……」
    「なんだ。お前が侵入者を許すなんて……珍しいこともあるものだな」

    淡々と事実だけを述べている。
    自らの配下を責めているわけでもなければ、立香を褒めているわけでもない。というか、眼中に置かれていない。

    「申し訳、ありません」
    「別にいい。下がれ、テウル」
    「い……いえ、しかし……」
    「──下がれって言ったのが聞こえなかったのか」

    ギロリ、と。引き込まれそうになるほど美しい、青い瞳が軍師を睨め付ける。ほの暗い熾火のように燻り、荒ぶる嵐の中を舞う刃のような鋭さを湛えたそれを向けられた軍師の顔が瞬く間に強張った。

    「出過ぎた真似を……」
    「もういい。朴さん……と、足元でうろついている奴らを下げさせろ。邪魔だ」
    「は……かしこまりました」

    うやうやしく頭を垂れ、軍師は自らに課せられた任を黙々とこなしていく。
    今のやり取りから見ても、魔王は軍師に操られているようには見えない。むしろ、軍師は自らの命でさえ省みずに魔王への忠義を貫いているのが見て取れる。

    やっぱりエレミヤの発言を疑ったのは正しかったようだ。
    しかし、だからこそ疑問が残る。

    「で? お前はどこの誰だ。名を名乗れ」
    「っ……わたしはカルデアのマスター。藤丸立香です」
    「────は?」

    瞬間、空気がさらに重くなった。もはや息をすることさえ困難になるほどだ。
    朴は軍師が庇ったお陰でなんとか心停止だけは免れた。それを確認して、立香は冷や汗を滲ませながら魔王と向き合う。
    余裕綽々で口元にはうっすらと笑みが浮かんでいるが、その実内心は穏やかではない。魔王の本気の殺気をまともに食らったせいで、金縛りにあったように指一歩動かせられない。気を抜いた瞬間、縊り殺されてしまいそうで、瞬きでさえ許されずに立ちすくむしかなかった。

    「女、今、何と言った? カルデアのマスター、藤丸立香と言ったか?」
    「え……そうですけど……? それが、なにか?」

    ふつ……と、何かの糸が切れたような音がした気がする。
    だがその静寂も長く持たなかった。一拍の間を置いて、凄まじい重圧がこの場にいる者全てに襲いかかる。


    「テメェ……俺の目の前でその名を騙るとは良い度胸してんじゃねぇか。だったら当然───覚悟はできてんだろうな」


    ミシリ。
    空間がたわんだ。この時間軸そのものが揺れだすような感覚には、嫌になるほど覚えがある。
    ビリビリと肌が痺れるほどの殺気。人類という存在に対して、本能的な恐怖を植え付ける存在の……

    「っ!?」

    それらは全て、眼前の魔王から発せられているもの。立香は今まで何度も、何度もこの感覚を味わってきた。

    「まさか……!」

    あふれでていた青い炎が、ズルリと泥のように濃度を増して彼を覆い隠す。
    と思いきや、まるで繭が割れるように青い炎のベールが剥がれ、再度現れた魔王の姿は先ほどとは一変していた。
    青い鉱石を捻ったような、巨大な獣冠(つの)。悪魔のそれとは一切を画する禍々しさ。長く伸びた髪は、毛先に向かうにつれて青いグラデーションがかかっている。よく見ると、どうやらそこだけ炎になっているらしい。触れればただでは済まされないと思うような、そんな恐ろしささえ覚える暗い青。
    何より、いるだけで存在を圧迫されるような、この感覚は。

    「そんな……ビースト!?」

    ──人類悪浸蝕──

    クラス・ビースト。ナンバリングは謎だが、眼前にいる“魔王”は、間違いなく人類悪に分類される存在だったのだ。
    苦境に立たされながらも、どうにか応戦する立香。一瞬の判断が勝敗を分ける。召喚したサーヴァントが、どうにかトドメの一撃を食らわせた。
    心臓に直撃。通常のサーヴァントであるなら霊核の破壊は退去に繋がるが……一筋縄でいかないのがビーストという存在。
    カチカチと時計の秒針が動くような音がしたかと思ったら、強烈な光が視界を奪う。
    何とか目を開けたが……そこには、無傷のままで無感動にこちらを見ている魔王の姿しかない。

    (再生……ううん、復元してる!?)

    倒した、と思った。いや確かに致命傷を負わせたはずだ。なのに、瞬きの間に傷は全て消え去って、魔王は何事もなかったように佇んでいる。
    これはもう再生というレベルの話ではない。復元だ。どんなカラクリかは知らないが、仕切り直しをしないとマズイ。

    (とにかく、なんとか突破口を見付けないと……!)
    「おい、ちょっと待て」

    ほんの僅かな隙が命取りになる。それが戦場だ。
    想定外の事態に慌てた結果、あっという間に首を掴まれ岩壁に叩き付けられた。

    「かはっ……」
    「何でお前が、そいつらを使役できているんだ?」

    そいつら、とはいったい誰だ。
    一瞬だけ困惑したが、すぐに誰のことか思い当たる。おそらく魔王は、先程立香が簡易召喚した巌窟王や酒呑童子のことを言っているのだろう。
    魔王の表情には今までに無い焦りと困惑が滲み出ていた。そこに先程までの、身が千切られるような強い殺意は見られない。首を掴まれてはいるが、本気で殺すつもりが無いらしいのがその証拠。ほとんど添えるだけになっている。
    それによくよく観察すると、その手は震えていた。まるで、信じられないものでも見たかのような……

    「だってそいつらは、“あいつ”の──」
    「“あいつ”……?」

    何かひっかかる物言いだ。
    そのとき、立香が不意に思い出したのはロキが言っていた『外部の協力者』という存在。
    なぜロキの協力者が脳裏に浮かんだのかは分からなかった。が、魔王の言う“あいつ”と無関係だとはどうしても思えなかった。

    立香の困惑を他所に、魔王はその青い瞳を揺らがせて。恐る恐るといった風にいくつか質問を投げ掛ける。

    「……なあ、お前。もしかしたら男の兄弟の名前を名乗ってるのか?」
    「はぁ!? 失礼な! わたしは一人っ子ですが!?」
    「じゃあ、あれか。二代目ってことか。先代のマスターの名前を名乗ってるのか?」
    「違いますけどぉ!? わたしには兄弟はいないし、冬木からずっとカルデアのマスターとして戦ってきましたけど!!」
    「……マジかよ」

    プチン。と電源が切れるような音と共に、先程までの重圧が綺麗に消え失せた。
    変身が解除されたように魔王の頭上から獣冠が消え、姿が元の少年のものに戻る。

    「これがジンルイシのシューソク? ヘーコーセカイ? って奴か。なるほど……カルデアのマスターが女…………そういう世界もあるのか……」
    「???」

    くしゃりと前髪をかきあげて、頭痛をこらえるかのように固く目をつむる魔王。
    やがて肺から空気を全部追い出してしまおうとする勢いで息を吐きだし、近くで待機していた自分の軍師に向かってひとこと。

    「はぁ…………おい、テウル」
    「お呼びですか、我が王」
    「そこの……カルデアのマスター……と話しすっから。朴さんとこいつの分の寝床を準備してやれ」
    「判りました」

    気のせいか「カルデアのマスター」の部分だけ早口だった気がする。なんとなく気恥ずかしいようだ。
    呆れたように踵を返して戻っていく魔王の後を、立香は小走りになって追っていった。
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    monarda07

    MAIKINGぐだキャストリア大正パロの出会い編前編
    契約結婚2(前編)────二年前、倫敦。


    (わあ……綺麗だなぁ……)

    高い塀で囲まれた大きな建物の中で、煌びやかな光がくるくると踊っている。それを遠目に見ながら、少女は──アルトリアは目を輝かせた。
    それは本当に偶然だった。今日の寝床を探すために倫敦の暗い影を歩いていたら、たまたま迷い込んでしまった人間の縄張り。聞きなれた言葉の中でも目立つ、聞きなれない独特な言葉。島国の宿命としていまだ濃い神秘が飛び交う大英帝国付近の国の言葉ではない。意味が分からないが、辛うじて言語だとわかる声が飛び交っているのに気付いて「そういえば」と思い出した。
    アルトリアが迷い込んだのは、遥か東の果てにある「二ホン」とかいう小国の「タイシカン」とやらだ。ほんの数十年前まで外国との親交をほとんど絶っていたからか、神秘がいまだに色濃く残っているらしいその国は。アルトリアたちのような人ならざる者──”隣人”にとって、とても居心地の良い場所に違いないだろう。あまりにも遠すぎるため、容易に移住できないのがなんとも残念だね、などと。彼女を遠巻きにしながら、これみよがしに仲間と楽しくおしゃべりしていた妖精たちの会話を思い出す。
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