石乙散文 乙骨は油断すると飯を抜くぐらい小食だが、意外と料理は出来る。なんでも一時期だーい好きな同級生たちと料理にハマって、その時に必要な技術も身につけたらしい。
中華包丁って刃がデカいから怖いって人も多いですけど、使い慣れるとその重さで切れるから楽なんですよ、なんて言ってそのドデカい中華包丁で野菜をざっくざっく切っていく乙骨はとても目をキラキラさせていて、刀を持って呪霊をざっくざっく切っていく時の目とは全然違う。
とはいえ、先述したとおり、乙骨自身はかなりの小食なのだ。だから必然的に乙骨が作った料理は自分の目の前に出される。
「石流さんがいるオカゲで、思いっきり料理出来て嬉しいです。アフリカを旅していた時に食べた料理の再現とかも試してみたくて、落ち着いたら料理したいなって思っていたので」
そんな風に言われて、俺はオマエの残飯処理係か?と思わんでもないが、乙骨が作る料理はなんだかんだで美味いので、食わせてもらえるなら食うか、と思わんでもない。
そうしてその日出されたのは、薄っぺらいパンと肉じゃがみたいな料理だった。
「これは、パンに付けて食べる感じか?」
「はい、カランガっていうんですけど、ケニアで食べたときめちゃくちゃ美味しかったので!ロコイって調味料使うんですけど、日本じゃ手に入らないので、他のスパイスを混ぜたりして作ってみたらいい感じに出来たので」
「ふーん」
頷きつつ、パンにそのじゃがいもや牛肉の入った具材を乗せて、包もうとする。乙骨は石流が座っているテーブルの正面に座って、その様子をニコニコと見守っていた。
そんな乙骨を石流はチラリと見た。
「……オマエは食べないのかよ?」
「え?」
「オマエが作ったのになんで食べるのが俺だけなんだ?」
眉を捻ってそう言えば、乙骨は「いやいや」と苦笑しながら言ってくる。
「僕はもう、ロコイを調合するので散々味見したからもうお腹いっぱいで」
「なんだそりゃ」
「後は、アナタが美味しそうに食べてくれたら、僕は満足ですよ」
そんな風に言って微笑む乙骨に、呆れたように息を吐き、ほんっとに小食だなと思った。
「一口も食えないのか?」
「え、ああー、一口くらいなら」
そう言ってくる乙骨に、カランガをスプーンで一掬いして、乙骨の方に突き出した。
「だったらこれ食え」
「え?」
「俺だけ食うのも居心地が悪いんだよ、オマエも一口でいいから一緒に食え」
乙骨はキョトンとした目をしつつも、石流に「ん」とスプーンを突き付けられたことで、おずおずとそれに口を付けた。石流もパンに包んだそれをパクリと口に入れた。
「ん……うめぇな」
「はひ……おいひいです、ね」
二人でもぐもぐしながら同じものを食べる。
それも食事の醍醐味だろうと、自分は思うのだ。