芸能パロ石乙#マーキング
お互いの気持ちを確認して唇を合わせた、その後。
「んっ……」
触れるだけのキスだったそれは、いつの間にか唇を開き、舌を絡め合うものに変わっていた。
「はぁ、ン……ふぁ、はぁ、あ……」
しかも石流が徐々に身体を乗り出してきて、必然的に乙骨は身体を後ろに傾かせて、そのままポスリとソファの上に倒れ込んでしまった。
「っ、りゅう、さ……」
そんな乙骨に石流が覆い被さってきて、更に口付けてくる。
「……憂太」
そして耳元でそう名前を呼ばれて、ゾクリと身体が震えた。普段はあだ名みたいに「ゆう」って呼ぶのに、急にその呼び方はあまりに卑怯だ。
耳朶をペロリと舐められ、そのまま頬から顎に唇を這わされて、首筋にも吸い付かれた。
「んっ……」
思わず乙骨が身を捩らせれば、するりと着ていたシャツが捲られ、石流の手が入ってくる。それに乙骨はぎょっとした。
「ちょ、龍さん…!」
「んー?」
「どこさわって、んですか…!?」
慌てて服の内側に突っ込まれている石流の手を掴みながら、そういえば、石流がムッとした顔を向けてきた。
「…ダメなのかよ?」
「だめって、え……」
「オマエは俺が好きなんだろ?」
「そう、ですけど……でも……」
乙骨はぎゅっと目を瞑った。
「ぼく……明日も、朝早くて…!!」
そう言えば、石流も黙ったまま、ひとつ息を吐き、乙骨から手を離した。
「……分かったよ、映画のクランクアップまで待ってやる」
「すみません……」
内心ドキドキしながら身体を起こせば、石流がペロッと乙骨の着ているシャツを捲った。
そして乙骨が「え」と思っている間に、脇腹の辺りにかぷっと噛み付いたのだ。
「ちょっ…!?」
石流が顔をあげた先には、くっきりと歯形が残っていて、乙骨は口をパクパクとさせる。
「なっ、何やってんですか…!?こんなところにこんなの残したら、人前で着替えられないじゃないですか…!?」
「まぁ、そのためにしたし」
石流はそう言ってペロリと唇を舐めた。その様子に乙骨はげっそりとした視線を向ける。
「……龍さんってもしかして、独占欲強い方ですか?」
「まぁ弱くはねぇわな」
そしてしれっと肯定されてがっくりと肩を落とした。
「もう!じゃあ僕も、龍さんに噛み付かせて下さい!」
「おお好きにしろ」
乙骨の返しに石流は笑ってそんなことを言ってきて、乙骨はムッとしながらも、石流に抱きつき、その胸元にカプリと噛み付いた。
「てっ……マジで思いっきり噛みやがったな…」
顔を離せば、赤い歯形がくっきり残っていて石流が「あーあーあーあー」と言った。
「とんでもねぇところに付けたな……着物なら隠れるが、泰斬(ヤクザ)の衣装だと丸見えじゃねぇか」
「えっ」
石流の言葉に、乙骨はあわあわする。
「龍さん……次の撮影いつでしたっけ…?」
「…明後日だな、それまでに治ればいいんだが」
乙骨がうううと唸りながら「すみません」と言えば、石流は笑って「謝るくらいならするなよ」と乙骨の頭を撫でた。
「ほらほら、明日は早いんだろ、さっさと寝ろ!」
「う、はい…」
「そういやさっきベッドで寝るのを断ったのは、俺が元嫁と寝てるベッドかと思ったからか?そうなら、俺しか寝てねーからベッド使えよ」
「え、う、あ……そうなんですけど、でも……龍さんが普段寝ているベッドとか……僕、寝れなさそう……」
「…………なぁ、やっぱりヤってもいいか?」
「ダメです!!!!」
結局その日は、乙骨はソファで寝ることにした。
#クランクアップ
俺の名前は伏黒恵、元子役で、十代前半はこの世界を離れていたのだが、二十歳を前に俳優業へ戻ってきた。
業界を離れた経緯と戻ってきた経緯はまぁ置いておいて、芸歴はそこそこ長いが、ブランクがあるので、所謂少し子役時代に覚えのある若手俳優みたいな位置にいる。知らないスタッフに恵くん大きくなったねぇ~~なんて言われるのはよくあること。
そんな俺は、とある刑事ドラマの劇場版ゲストキャストに抜擢されてその撮影に参加していた。俺自身の役の撮影は既に終わっていて、テレビシリーズからのレギュラーキャストも続々とクランクアップしていた。
クランクアップすると、関係者から花束を贈呈されるのは恒例だが、そのキャストと関わりの深いキャストやスタッフがサプライズで登場し花束贈呈を行われることもあった。
そしてレギュラーキャストの一人である、乙骨さんのクランクアップにも、一人の共演者が駆けつけたようなのだが、その人に乙骨さんは抱きついてそのままワンワンと泣き始めてしまったのだ。
「あの……すみません、あの人誰でしたっけ…?」
俺は隣にいた同じくゲストキャストの家入さんにそう耳打ちをすると、家入さんは「あれ、分からない?」と言った。
「石流龍だよ」
「えっと……誰役でしたっけ?」
「泰斬っていうヤクザ役だね、ほとんど乙骨くんの役としか絡んでないから、私たちとは共演しなかったよね」
「というか、乙骨さんの役と絡んでたヤクザって……あのリーゼントのやつですよね……髪を下ろしているから全然分かりませんでした」
「なるほど、髪型もあるかもね」
家入さんはクスクスと笑った。
「伏黒くんは石流さんがあまり好きではない?」
こちらの表情を見てそんなことを言う家入さんに「いえいえ」と慌てて否定する。
「ただ、乙骨さんの役とよく絡んでいたヤクザって…あいつだよなぁって、乙骨さんの役に罵声浴びせたり、乱暴したり…」
「…なるほど、君が気にしてるのはそっちか」
乙骨くんのファンなのかい?と聞かれて、ちょっと眉を捻った。
「ファンというか、あの人の演技が好きなんです。ああいう風に俺もなれたらなって思ってます」
「なるほど、目標なんだ。確かに乙骨くんの演技は面白いよね」
家入さんはそう言ってまた乙骨さんたちの方を見た。釣られて俺も見れば、泣いている乙骨さんを石流さんが「大丈夫かよ」なんて笑って頭を撫でていた。何というか、その撫で方が、慣れてる感じがすごい。
「……あのふたりって、そんなに仲がいいんですか?」
乙骨さんのクランクアップに合わせて、他の現場で先にクランクアップしたあの人を呼んだということは、あの人はそれくらい乙骨さんにとって重要な人なのかと思ってしまったのだが、家入さんには意外そうに「知らない?」と言われた。
「あのふたり、SNSではわりとセットで人気があるんだよ」
「え、SNSで??」
「そうそう、乙骨くんのインスタに石流さんはよく出てくるし、石流さんのインスタの前半はほとんど乙骨くんだしね」
「何ですかそれ…」
スマホを操作して家入さんが「ホラ」と見せてきた画面には確かに、ふたりの仲良さそうな写真ばかりだった。乙骨さんの転た寝している寝顔写真とかあって、ナンダコレとんでもねぇなと思ってしまった。
「…こんなことに、なっていたとは…」
「伏黒くんは、SNSやってないんだっけ?」
「事務所に止められたし、俺もいいやと思ってやってなかったんですよね…」
石流さんのインスタを辿っていくと、最初は乙骨さんや乙骨さんとのツーショばかりだったが、次第に別の写真や自身のオフショットも増えている。最近はそんなに仲良くなさげなのか…?と思っていれば、家入さんが俺の思考を察したようにふふんと笑った。
「確かに、最近はこの二人がセットの写真はあまりあがらなくなったんだけどさ」
「いや俺は別に何も」
「でも微妙に匂わせっぽいのがちょいちょいあがるんだよね、この背景の小物とか、乙骨くんの写真にもあるなぁって……どういう風の吹き回しなんだろうかね」
イタズラっぽい笑みでそう言ってくる家入さんに知るかと思って視線をスマホから外した。
その先には例の二人がいて、落ち着いてきた乙骨さんに、石流さんが何か耳打ちしていた。
『今夜な』
俺には何故かその口がそう言っているように見えてしまって、更には直後、乙骨さんの顔が真っ赤に染まったのも見えてしまって。
(うわぁ……ガチじゃねぇか……)
俺はそれを見なかったことにした。
#約束の夜の翌朝
身体の気怠さを感じながら乙骨が目を覚ませば。
目の前に石流の寝顔があって思わず「うひっ」と声を声をあげてしまった。
(え、あ、なんで、りゅうさんが…)
そう思って周りを確認すれば、自分は石流と同じベッドの上で寝ていて、しかも石流に抱き締められた状態だった。更に室内を確認すれば、自分の部屋でも自宅ですらない、ここは、石流の家の寝室だ。
(……あ、そうか……ぼく、昨日、龍さんと…)
昨日、この場所で石流としたことを思い出し、恥ずかしさに顔が熱くなる。身体がダルくて、あらぬところに違和感があるのも、そのせいなのだろう。
(なんか…ほんと、信じられない、あの石流龍とこんな関係になっちゃうなんて…)
昔から大好きで憧れだった。役者になってからは怖いかなと不安に思ったこともあったけれど、なんだかんだで優しくて、機械には疎いから自分の手を借りないといけなくて、そんなお茶目なところもあって。
『──憂太』
そして、昨晩の姿を思い出して、また顔が熱くなってしまう。あんな熱を持った視線で見つめられたら、溶けてどろどろにされてしまう。実際、昨晩はよく分からなくなってしまって思考が蕩けるくらい、気持ち良くさせられた。
(……入れられる方のセックス…初めてだったのに、一晩で身体を作り変えられちゃったみたいだ)
するりと、石流の身体に擦り寄った。一応服は着ているけれど、薄いシャツ一枚だけだから、石流の逞しい身体はくっきりと浮き出ていて、暖かくて柔らかくて、たまらない。
(好き……好きです……)
そっと身を乗り出して、まだすぅすぅと寝息を零している石流の唇に口付けた。触れるだけのキスではまだ目を覚まさなくて、その後も何度も啄むようなキスをした。
少しでも、自分のこの気持ちが伝わるように。
それから数分もしないうちに、目を覚ました石流に逆にキスを返されてそのまま、朝から盛ってしまったのは、ここだけの話。