石乙散文 寮の部屋にいたら、乙骨からメッセージが来て、「ここに来て下さい」と呪術高専の一角を指定して呼び出してきた。
監視対象の自分をひとりでふらふらさせていいのかよ、なんて思いながら、指定された場所に向かった。それは校舎の一番端の宿直室だった。
明かりが見えたので引き戸を開ければ、中は暖房が効いているのか暖かかった。昼間の気温はまだ高いが、日が落ちれば肌寒くなってきていたので、石流は中の暖かい空気が外に逃げないようにすぐに戸を閉めた。
「……………で?」
そして改めて部屋の中を見る。引き戸を入ってすぐは土間になっていて、段差をあがった先は畳の敷かれて和室になっていた。そこに自分を呼び出した主はいたのだが、部屋の真ん中にあるこたつに両足を突っ込んで丸くなっていた。
「……俺を呼び出して、何の用だよ?」
「こたつあったかいので、いしごーりさんもはいりませんか?」
こたつの上に敷いてあるテーブルにぐでーと身体を預けたまま、自分を呼びつけた乙骨はそう言った。随分と間の抜けた顔だ、こんな姿を見せるのは珍しい。
石流は土間に腰掛けて靴を脱いだ。
「こたつに入るのはいーけどよ、お前はこんなところで何してんだ?」
「今日の宿直担当の先生が急な任務で呼び出されて、たまたま通りがかった僕がその役を引き継ぐことになりました」
「なんだそりゃ、他のセンコーを呼べよ」
呆れたように言いつつも、恐らく乙骨もこたつの魔力に惹かれたに違いない。もしくは、その先生とやらの代わりが乙骨くらいにしか務まらないのか。
とりあえず乙骨の正面に座ろうとすれば、乙骨が石流のジャケットの裾を掴んだ。
「……なんだよ?」
「いしごーりさんはそっちじゃないです」
そう言って石流の腕を掴みぐいっと、自分の背後に引っ張っていく。
「ここ」
「ここ?」
「そこに座って下さい」
何故か自分の後ろに座るよう言ってくる乙骨に、お前の後ろじゃ俺がこたつに入れねぇじゃねぇかと思いつつ座れば、乙骨がぐでーーーと今度は石流の胸に身体を倒してきた。
「……おい」
「やっっぱり、石流さんの筋肉って柔らかくて気持ちいいです」
「……俺はお前の背もたれじゃねぇぞ?」
そう言いながらも、乙骨の左右から足を伸ばして、こたつの中に足を突っ込む。確かに暖かいが、乙骨が邪魔で全然温かくならねぇ。
(……いや、)
自分が来る間、こんな暖かい部屋でこたつに入っていた乙骨の身体は既に温まっていて、その身体を抱き締めれば、湯たんぽのように自分の身体を温めた。
(これはこれで悪くねぇな…)
そう思いながら、ずいっとその身体に体重を掛ければ、乙骨が「むぐ」と呻いた。
「…いしごーりさん、重い…」
「うるせー、お前が俺を背もたれ扱いするなら、俺はお前を湯たんぽ扱いしてやる」
「なんですかそれ」
乙骨がくすくすと笑う。
それに石流も軽く笑って、その身体を再びぎゅっと抱き締めた。