【過去編】那由多VSアクラシア④千星の手が文字を綴る。
はじめに綴った文字は〝喜〟
その文字は真っ直ぐに吸い寄せられるようにアクラシアに飲み込まれた。
アクラシアは文字が触れた胸の位置を触るが何も怒らない。しかし、次の瞬間大きく視界にノイズが入る。
「く………な、んだ、コレ………は」
「イデアが言ったんだ……俺に、俺達に大好きって……」
アクラシアの視界に欠損が生まれる。
電気系統がうまく繋がらず四肢を動かす信号が鈍る。
ハッとすると直ぐ目の前に千星がいて慌てて鞭を振るうがそこにはもう姿がなくまた自分の体に〝怒〟の感じが吸い込まれていく。
「んなこと、今まで一回も言わなかったのに、……あいつ笑ってた。壊れされてるのに……笑ってたんだぜ」
アクラシアの欠けた視界でも分かるほど千星の表情が苦く微笑む。苦しそうなその表情をアクラシアは理解できなかった。一介の人形が壊れただけだと言いたかったが音声機能が正確に働かない。
「俺もバカだよな……。会長ばっかに責任を押し付けてさ……俺が壊したなんて……俺が原因だったなんてこれっぽっちも考えなかった……」
ポンとアクラシアの肩に千星の手が触れる。そして同時に〝哀〟の文字が体に吸い込まれた。
「政府に喧嘩売んの、正直怖いって感情しかなかった。皆行くしついていくしかないって気持ちできたけど……。やっぱり俺、もっかいアイツに、イデアに会いたいから……悪いけど、お前には負けねぇ」
千星の強い眼差しがアクラシアを突き刺す。
それと同時に最後の文字である〝楽〟の文字がアクラシアに吸い込まれていった。目の前にいる千星は吹っ切れたようなスッキリした顔をしていたがアクラシアは何も理解できなかった。体の中の電気信号が狂い、視界もどんどん白くなっていった。すると一つの声がアクラシアの頭の中を通り過ぎる。