かき氷ガラガラくじでかき氷の機械が当たった。
何かないかと覗き込んだ蜜柑の家の冷蔵庫には、これまたいつか抽選で当たったカルピスの原液があった。
蜜柑はこんなもの持って帰ってどうなるんだとぶつぶつ言っていたが、シロップがあるなら作るしかあるまい。冷房が効き始めるまで、かき氷を削ることにした。
「そういえばあったな」
「当たったの結構前じゃねえか。カルピス飲まねえのかよ、せっかくおまえにやったのに」
「押し付けた、な」
「押し付けてねえよ!カルピス美味えだろうが」
蜜柑が持ってきた氷を機械の中に入れ、取手をぐるぐる回す。削られた氷がきらきら、ぱらぱら器に落ちてゆく。なかなか溜まらない。鍛えているはずだが、腕が疲れてきた。
「代われ」
「貸せ」
声が重なる。蜜柑はせっかちだ。
交代した蜜柑は取手を回し始めた。先程よりさらさらとした氷が山を作っていく。
かき氷は、中盤からは積もるスピードが早くなるのだ。しかも最初の方はがりがりと硬い。大変なところを削ってやったのは俺なのだから、楽勝じゃないかみたいな顔をしないでほしい。
「もうカルピス掛けていいか?」
「まだだ」
「もういいだろ」
「短気は料理に向かない」
「ことわざか?」
「格言だ」
「誰の」
「俺の」
短気は蜜柑の方だし、料理なら俺の方が上手いし、そもそもかき氷は料理ではない気がするし、冗談ならば。
「相変わらずつまんねえなあ、蜜柑ちゃんは」
釈然としない顔を笑ってやる。蜜柑がむすりと手を止めた隙に、氷が積もった器を掠め取ってカルピスのボトルを傾けた。半透明の白い原液が氷を溶かしていく。蜜柑はこちらをちらりと睨んだが、何も言わず器をセットし自分のぶんを削り始めた。
遠慮なく先に食べようとしたが、スプーンが無い。立ち上がって勝手に戸棚を漁り、箸立てから掬う部分が広いものを引っ張り出す。長細くて先が小さい、メロンソーダやかき氷にぴったりなあの洒落たスプーンは無いらしい。カレーに似合いそうな大きめをもう一本引き抜き、戻るとちょうど二つ目の氷の山が完成していた。
「カルピス掛けてやるよ。薄めか?薄めだろうな、おまえは」
「待て、自分でやる。おまえの目分量は信用できない」
「カルピス薄いと寂しいだろうが」
「薄くていいんだ」
よこせ、とボトルを奪われる。
なにが楽しいのか分からないような量をちらちら氷の山に降らせる様は、かき氷に対してもカルピスに対しても冒涜だと思えたが、こんなところで蜜柑の噴火を引き起こしても面倒なので黙ってスプーンを自分のかき氷に突っ込む。
ざくりと音を鳴らして白い山から分離された透明な欠片たちを口に入れる。スプーンの冷たさに続いて柔らかな甘みを舌が感じ取った直後、きんと頭が傷んだ。一口で食べ過ぎたらしい。冷てえ、と声に出しそうになりすんでのところで引っ込める。見ると、蜜柑も眉を顰めて静止していたので、まあいいかという気になる。
食べ終えた後、そのまま機械を戸棚に仕舞ってやろうとしたら怒られた。
「氷しか使ってねえだろ。氷って水なんだぜ、知らねえのか。常識だぜ」
「使ったものは洗う。常識だ」
洗うのは蜜柑なので別に構わないが、マメなやつだと思う。仕舞われたかき氷機に再び出番が訪れるのは、きっとまた来年だろう。