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    sushiwoyokose

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    sushiwoyokose

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    何度でも擦りたいギュステのバカンスアルユリ いずれスケベシーンを足したい気持ち

    西日の祝福常夏のアウギュステは夕暮れ時になっても暑く、しかし祖国の夏と比べれば空気が乾いていてさっぱりとしている。汗ばむ肌を海風に晒すと、ちょうどよく冷えて心地が良い。長髪を靡かせる友が「中へ戻ろう」と言い出さないのは、きっと彼もこの空気を心地いいと考えてくれているからだろうなんて、勝手な推測を押し付ける。コテージのベランダに二人。何を言うでもなく夕日を眺め続けているが、小波の音以外特に会話もなにもない。沈黙の共有は、何より友愛の証だった。美しい光景を隣に立って一緒に見つめる。それがどれだけ幸福なことか、俺たちはよく知っていた。
    (長閑だ)
    執務室で睨む時計と、アウギュステで見つめる時計とでは針の進みが異なる気がしてならない。楽しい時間というのは往々にしてすぐさま過ぎ去ってしまうものだが、常夏の時間はありがたいことにゆったりと遅く流れている。以前より気を遣うようになったといえ、祖国に戻れば執務に追われる毎日が待っていることだろう。酒も煽らず、言葉もなく、ただひたすらにぼうっと呆ける贅沢なひとときは休暇と銘打った今しか味わえない贅沢だ。深呼吸を一つ、二つ。塩辛い空気で肺を満たし、少しずつ色を変えていく空を眺める。
    静かで、豪勢な宿だった。こぢんまりとしたコテージを一組に一棟丸ごと貸し出すこの宿は、アウギュステでも有数の高級宿であるらしい。あの団長が声を出して驚いていたところを見るに、よほど値が張るのは確かだろう。後から知ったことだが、今回の宿泊費は公費ではなくユリウスの懐から出ているのだそうだ。ずっと礼がしたかったからと微笑むユリウスの笑顔は、澄んだ夕焼けと同じくらい美しかった。いつか一緒に行こうと約束した異国の地を、共に訪れることができたこと。計画通りとはいかなかったが、本場の光華を見せられたこと。無理矢理に手を引いた俺に、彼が礼を送ってくれる喜びも然り。海風に冷えるはずの体は、歓喜に火照って冷めることがない。
    (仕事という名目で来たというのに、笑えるほど何も成せていないな。勉強と称してはいたが、ほとんどユリウスを連れ回すばかりで。思えば初めから、浮かれてばかりいたんだ俺は。……お前も、そうか?)
    問いかけは胸の中に秘めたまま。少し空いていたユリウスとの距離をつめ、柵に寄りかかる体へそっと頭を預けてみる。肩に体重を載せられたユリウスは、一瞬こちらを横目で見やると、鼻を鳴らして俺の腰を抱き寄せてくれた。言葉はやはりない。いいとも悪いとも、綺麗だとか、いい時間だとか、感嘆さえも溢さぬまま。
    「〜♪」
    ふと、足元で物音がする。視線を落とすと、友の腰から抜け出た触手達がビーチの方へ少し体を伸ばし、三匹がかりで砂山を整えているところだった。でこぼこと歪に幾つも頂があるあたり、もしかすると山ではなく城を模しているのかもしれない。赤黒い頭を砂まみれにしながら遊ぶ姿はさながら子供のようである。鋭い牙が覗く口角がにんまりと笑んでいるのは、宿主の心の表れだろうか。
    「太陽が沈んだら」
    「ん……?」
    「食事でもしにいくかい」
    「そうだな。……屋台で買ってここに持ってくるのもいい気がしてきた」
    「ほう、それは名案だね。ちょうど屋台飯というのに興味があるんだ」
    唐突に始まった会話は軽やかに波音の上を滑る。太陽を見つめたままのユリウスを眺めると、薄赤に鋭い斜陽が写ってさながら宝石のようだった。美しい男だ。見目だけの話ではなく、その生き様と、意思を含めて。
    「夕焼けと天秤にかけて……、……、……」
    「かけて、なんだ?」
    「いや……なんでもない。聞かなかったことにしてくれ。とんでもないことを口走りそうになった」
    「いいじゃないか、結局のところこの旅行はバカンスなんだろ。少し浮かれたっていい。――俺は浮かれている」
    先ほど秘めた問いを外へ出してみる。お前はどうだと視線で尋ねれば、ようやく薄赤が太陽から視線を外して俺を見た。夕焼けを眺める彼と、俺を眺める彼とは、まったく同じ輝きを瞳に宿して笑っている。光で居られているのだろうか。彼にとって、俺の雷は。
    「夕焼けと天秤にかけて、私が勝つのかい?」
    「……?」
    「君は夕焼けの空が好きだろう。若い頃など、晴れるたび熱心に空を見に行っていたじゃないか。それが目の前にあると言うのに、君はさっきから私ばかりを見ている」
    「……、……」
    「そんなに、愛されているのかなと」
    気恥ずかしそうな顔だった。何事においても堂々と自信満々な顔をする癖に、愛を確認するときだけはこうして少し弱気になる。腰に回っていた手が不意に離れていきそうになるのを、反射的に掴んで押しとどめた。驚いたのだろう。僅かに見開かれた瞳に写る己の姿を眺めながら、半開きの唇に食らいつく。
    「っ」
    「……そんなに、愛しているんだよ」
    短い口づけを贈って、長い髪を撫でつける。潮風を吸った髪は少し軋んで手触りが悪い。あとで少し手入れをしてやろうなんて思ううちに、ぽかんと呆けていた友の顔が見る見るうちに解けていった。ふにゃふにゃとした笑顔は幼く、無邪気で、嬉しそうだ。
    「私も……、ね。いつの間にか、一人で味わう葡萄酒ではあまり酔わなくなってしまった」
    「ん?」
    「君がいる夜に煽らねば、至上の味にありつけないのさ。……好物の一等が逆転している。君と同じようにね」
    緩やかに頭を撫でる手を、ユリウスは咎めない。心地よさげに目を細めたまま、噛みしめるように慈愛をじっと享受している。
    「アルベール」
    「なんだ」
    「生かしてくれてありがとう。……生きておくものだ。他の何にも配慮をせずに心内を吐き出すのなら、今が一番、幸せだ」
    「……、……、そうか」
    返事は音になっただろうか。ぐっと熱くなる目尻から、雫を零さないようにひたすら歯を食いしばる。揶揄うように喉を鳴らしたユリウスには、きっと俺がひどい顔をしていることなどお見通しなのだろう。見ていないよ、と笑いながら目を閉じ続ける友に甘えて浮かんだ涙をぬぐい去る。
    「~?」
    「うぉ……、おい、やめろ。気遣ってくれるのは有難いがお前、砂だらけじゃないか、こらっ、振りかけるんじゃない……!」
    主たちの会話をわかっているのか、いないのか。乱雑に顔を擦っていると、呑気に遊んでいた触手達が揃って首を傾げながら俺を覗き込んでくる。涙に気づいて慰めようとしたのだろう。砂まみれになった異形たちに絡みつかれ、涙の代わりに砂が顔に纏わりつく。
    「~♪」
    「このっ……、悪戯好きは誰に似たんだ」
    「ふふ、誰だろうねぇ。もう開けてもいいかい?」
    「ぜひ開けてくれ、そして助けてくれ」
    「~♪♪」
    上機嫌に踊る触手達をそのままに、目を開いたユリウスはまず砂まみれの俺を笑った。悠然とした所作で砂を振り払いながら彼の手もまた俺の金糸を撫ぜていく。
    「来年も同じバカンスを過ごそう。約束だ」
    「……! ああ」
    砂の付いた手が頬を滑り、やがて小指に小指が絡まる。きゅうと握られた小さな誓いは、夏の日照りより眩く未来の道を照らしていた。
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    sushiwoyokose

    DOODLE何度でも擦りたいギュステのバカンスアルユリ いずれスケベシーンを足したい気持ち
    西日の祝福常夏のアウギュステは夕暮れ時になっても暑く、しかし祖国の夏と比べれば空気が乾いていてさっぱりとしている。汗ばむ肌を海風に晒すと、ちょうどよく冷えて心地が良い。長髪を靡かせる友が「中へ戻ろう」と言い出さないのは、きっと彼もこの空気を心地いいと考えてくれているからだろうなんて、勝手な推測を押し付ける。コテージのベランダに二人。何を言うでもなく夕日を眺め続けているが、小波の音以外特に会話もなにもない。沈黙の共有は、何より友愛の証だった。美しい光景を隣に立って一緒に見つめる。それがどれだけ幸福なことか、俺たちはよく知っていた。
    (長閑だ)
    執務室で睨む時計と、アウギュステで見つめる時計とでは針の進みが異なる気がしてならない。楽しい時間というのは往々にしてすぐさま過ぎ去ってしまうものだが、常夏の時間はありがたいことにゆったりと遅く流れている。以前より気を遣うようになったといえ、祖国に戻れば執務に追われる毎日が待っていることだろう。酒も煽らず、言葉もなく、ただひたすらにぼうっと呆ける贅沢なひとときは休暇と銘打った今しか味わえない贅沢だ。深呼吸を一つ、二つ。塩辛い空気で肺を満たし、少しずつ色を変えていく空を眺める。
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    sushiwoyokose

    DOODLEガイゼンボーガ→→ジータ
    仄かな兆し あるいは萌芽初めて命を屠った日のことを、昨日のことのように覚えている。誰しもが意外と言うだろう。己自身、不可思議である。今や自ら死の溢れる戦を渇望しているというのに、そこに後悔など何もないように思えるのに。何故、あの不気味な畏れを未だ覚えているだろう。
    初めての戦場はそれはそれは酷いものだった。統率はもちろんろくな装備もない。歪んだ鎧を力づくに捻じ曲げながら着込み、刃こぼれした剣を頼りなく握る。どちらも無駄死にした誰かの使い回しだろう。勝ちに行く気持ちなど微塵も、足掻く気持ちだってもちろん。死への恐怖は積もりすぎてあまり感じず、あと三ヶ月もすれば美しい春の花畑が見れたのにとぼんやりした後悔が残るのみだった。
    律儀な開戦の合図はなかった。強いて言えば、偵察に行った味方の兵士がばん、ばん、と遠方から撃たれたその音と血飛沫が合図であった。雄叫びに悲鳴が混じって足音がやかましくなる。混乱に乗じて後退りすれば逃げられたかもしれない。しかし、誰もが前へ進んだ。後ろへ戻れば、春を待つ故郷がある。それを踏み躙られるくらいならば、足止めになろうと言う気概はもしかするとあったのかもしれない。吾輩に宿る微かな覚悟もそれだった。穏やかな故郷がせめて何か守られれば意味もある。だが覚悟という鎧は、貧相な装備の何より早く弾け飛んでしまった。立ちはだかる相手軍は皆足並みが揃っている。戦いに慣れた一振りの太刀筋が、洗練された一発の砲撃が、何か恐ろしい獣のように見えた。
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