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    1ru_1sk

    @1ru_1sk

    小ネタとか中途半端なのとかまとめとか🔞とか諸々

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    1ru_1sk

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    ファンタジーな🐯⚔️。
    半獣で魔力持ちな🐯と魔力ゼロだけど何故か魔法耐性バリ強の⚔️が🐯にかけられた呪いだかなんだかを解くために一緒に旅する話にきっとこれからなる🤔

    Beast Heart Stars 明かりは落ちていた。
     広い談話室の、そこにもう誰も居なかったのだ。
     寒い夜だった。
     生憎と暖炉の火は宿主が絶やしてしまっているようで、吐く息ははくりと白い。毛布に包まれば寝れなくもないような、とはいえ手足は冷えるかもしれない温度である。このまま部屋に戻っても良かったが、明日からの旅路を思えば、少しでも睡眠の質は上げておきたかった。元々高くはないのを知っているので、余計にそう考えた。
     そもそも何故降りてきたのだったか。
     好きに使っていい、と部屋を借りる際に教えられた厨房でミルクの入った小鍋を火にかけながら、ぼんやりと未だ鈍足な脳みそが思考する。ゆらと揺れる乳白が、室内灯の橙の中で不思議に浮いていた。白は案外と、空気にとけない。
     馴染むのはこれがミルクであって、完全な白ではなくて、けれどどうしたって部類は白であるから、妙に目に留まるのだろうなァ……。
     小鍋を持つ手にヘラも一緒に握り込んだまま、知覚しているのか分からぬところでぼやく。吐く息と同じだ。寒い夜は特に気に掛る。
     そうだった。寝返りを打った拍子に目蓋が開いて、それで己の息が白かったものだから、ついそのまま意識を起こしてしまったのだ。宿主が起きていたら話でもしようと思った。ついでに暖炉にあたる気で。全て思いつきで、不発に終わった今またこうしてぼんやり気の向いたまま行動を起こしているので、思い出したとして頭はパッとしなかった。細胞を幾千幾億殺しただけだ。いやどうだろう。こんな緩慢な働きでは、それ程も使っていない気がする。正直ほぼほぼ無意識下の戯れごとだ。一人は気楽であるが、その分こうして不必要な癖がつく。
     仄かにミルクの匂いが強まってきた。小鍋と一緒くたに握っていた木ベラを引き抜いて、膜が出来てしまわぬよう、均等に熱が通るように静かにかき回す。ミツを入れるかラム酒を入れるか。ここに来てようやくまともそうな問答をした。中身は仕様もないけれど。
    「ミツを入れて、その酒はおれに寄越せ」
     それだから、まさかそこに返答までつくとは思ってもみなかった。とうとう己は一人で会話をするに至ったか。そんなわけがない。まだ心内で済んでいるだけマシだった筈である。
    「聞いてるか? ……? お前、さっきまで普通に動いてたよな?」
    「――ッ誰だテメェ!?」
     小鍋から抜き取った木ベラを振り向きがてら横に薙ぐと、付着したミルクが放射線上にパッと散った。カカカッ、と硬い音がする。同時に「ヘェ」と感心するような声がして、離れた厨房の作業台になにかが降り立つ気配がした。なんだ、いやに軽い。
    「耐性があるわりに間抜けな思考回路をしてやがると思ったが、ぞんがい動きは悪くねェ」
    「……は?」
    「噂を聞いて興味半分で来てみて正解だったかもな。面白いことになりそうだ」
    「いや、お前それ……はぁァ!?」
     頭は完全に覚醒していた。けれど脳内処理が言語中枢に追いつかず、繰り返し驚嘆だけが口から零れてしまう。
     背後では、クツクツとミルクが煮立ち始めていた。火を止めなければ。思うのに、本能が正面から目を逸らすことを拒んでいる。言葉と共に溢れた息が、真夜中に幾度目かの白を来たした。
     ケモノだ。作業台の上にしゃんと立つのは、白灰に黒い斑のような模様が散りばめられた四本足のケモノ。そのケモノの口が、ヒトの言語を介している。
     木ベラを片手に固まるこちらの様子に気付いて、というよりは、二度目の声量がケモノの聴覚に煩わしかったのかもしれない。小さめの耳がすんと伏せたのに合わせて、顔に皺を寄せたケモノが首を傾げた。
    「……ああ、忘れてた」
     作業台から前足が落ちる。あまりに自然と落下するものだから、伸ばす手が遅れた。ケモノの身体能力ならば問題のない高さであったやもしれないが、無防備に宙を下る様をじっと見ていられるほど枯れた性根はしていない。投げ捨てた木ベラがカランと鳴った。そういえば、先ほど飛んだミルクからありえない音がした気がする。耳に聞いた落下音に違和を呼び起こされたのと、腕の中にどっしりとした重さが乗っかったのは、ほぼ同時だった。
    「……は?」
    「なんだ、メスかと思ったか?」
     三度零れた放心に近い疑問符に返されたのは、呆れたような、揶揄いのような嘲笑だったが、腹を立てようにも方向性が斜め上をいって立ちどころがない。そも論点が違うのだ。ケモノの身体を支えている筈の腕に収まる大男に、抱く感情はそこになかった。先刻から怒涛に襲ってくる現象と伴う情報量で、頭がバカになりそうだ。
     そう、大男なのである。ケモノを受け止めに走った筈が、直ぐ顔の横で泰然と笑っているのは、己と一見そう歳も変わらぬヒト、のように見える。腕に掛かる重量感も見合ったそれで、決してケモノの軽さではない。オスだとかメスだとか以前の問題だった。
     よく見れば、頭部にケモノの名残りか丸い耳のようなものが覗いている。横目で床を辿ると、違和感の正体が幾つも薄明かりの中を輝いていた。木べらから飛び散った筈の、ミルクの残滓だ。何故か硬い音を立てて床に散ったそれ等は、まるで凍りついたかのように結晶化している。いや、実際凍っているのだろう。困惑の中で、回り始めた頭が漸くと状況を分析し始めたらしかった。
    「……ビースター、」
     半人半獣、その上魔力を持つ選ばれたケモノ。もしかしたら、今晩のいやに冷え込む空気も、元からこの男の仕業なのかもしれない。気温はまたガクンと落ち込んでいるようで、小鍋から上り立つ湯気が部屋の中を妙に霞ませているような気がした。勿論気の所為だ。小鍋が作る蒸気程度で烟るほど、厨房は狭くない。
     兎に角一度男と距離を置かなくては、と理性が急かす。図らずも自ら相手の下へと身を置いてしまったわけだが、そんなことは関係ないのだ。力ずくで退かせばいい。男の身体を支える両手を押し退けるように持ち上げれば、揺らいだ身体が「おっと」とこちらの肩を掴んだ。途端に流れ込む冷気に、ぞわりと体温の下がる心地がする。萎縮して強ばった筋肉が、一度動きを止めた。悴む、という表現が一番正しいのだろうが、まさかこんな一瞬で陥るとは。
    「……耐性があっても、直接触れちゃ凍えるのか」
     難儀だな、と舌を打つ男を見ると、忌々しそうに自らの手を見下ろしていた。なんだ、故意ではないのか? そういえば揶揄う素振りは嫌というほど感じるけれど、殺意など負の感情は感知していない。だから己はのらくらミルクを煮立てていたし、ヒトの言語を話すケモノでも手を伸ばしたのだ。これだけ至近距離にいて、本能は警鐘を鳴らしていなかった。
     本人に危険性はない。けれど、実害は齎されている。
    「……お前、コントロール出来ないのか?」
    「出来ないんじゃねェ。出来なくさせられてんだよ」
     お前を見に来た半分の理由はコレだ。
     男は金色の中に氷のような青を溶かした瞳で、こちらをじぃ、と覗き込んでくる。チカチカと虹彩の内側で弾けるブルーが、恐らく魔力の暴走なのだろうな、と少ない知識でぼんやり思った。
    「〝ユキ〟ヒョウの力を取り戻してェ。協力しろ、ゾロ屋」
     背後ではいよいよ煮詰まったミルクが、子鍋で泡を噴いている。





    「で、なんでおれだ?」
    「魔力ゼロなら五万といるが、その中で影響すら受けねェ耐性持ちなんざ聞いたことがねェ。お前はこっちじゃわりと有名だ」
    「ヘェ……初めて知った」
    「おれの力は全く制御が利かねェわけじゃねェが、見ての通り周囲には影響が出る。協力者が欲しくてもこれじゃあどうしようもねェ。ただでさえビースターは危険視されてるしな」
    「そのビースターに仲間は居ねェのか?」
    「知り合いは居るが……アイツらに協力を頼むくらいなら死んだほうがマシだ」
    「なんか知らんがアレか、縄張り意識みたいなやつか」
    「ちげェ」
    「つーか協力っておれはなにをすりゃいい。おれはお前の傍に居てやれるが、魔力はからきしだぞ」
    「だが、戦えるだろう。ヒトのくせに魔獣なんて二つ名を持つなんざ相当だ」
    「本物の魔獣に言われてもな……」
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