キャラクター 【チアキ】【ミドリ】【チアキ】
フォンテーヌでも指折りの技術と信頼を誇る、若き機械技師。情熱的で苦労を厭わず、自分の身を顧みずに人々を助けることを信念としている。
【キャラクター詳細】
「彼は少し真面目すぎる」。チアキを知る工場の人々が、毎度口を揃えて語るのがこの一言だ。
仕事を仕事と割り切らず、もはや使命や天職だと信じてやまない態度は、時に人々の首を傾げさせ、時に冷笑を誘う。
しかし、当の本人にとって周囲の反応は取るに足らないものである。
錆びた工具の奥に、それが生み出された頃の火花を見る。
手に取る歯車の形に、大空を撫でながら飛び交う滑らかな翼を見る。
熱せられたばかりの赤銅は、どんなに小さなものにも価値があるということを理解している。
【キャラクターストーリー1】
チアキの腕は確かなものとして、工場の人々からも一目置かれている。
人々はどうにかして彼の弱点を探し出そうとしたが、その端正な顔立ちからは弱点のひとつも見つからず、落胆するばかりだった。
それだけでなく、彼はそんな人々の膿んだ部分に優しく語り掛けてくるものだから、彼の失墜を望んだ人々はえも言われぬ羞恥に駆られるのが常だ。
しかし、そんな彼も人間である。ある時、完璧で非の打ち所のない彼が、食事中ふいに席を外したことがあった。
野菜の欠片を残したまま、その日彼は体調不良を訴えて昼食の時間を全て休憩に費やした。
それだけが、皆の間で通っているチアキの弱点であり、「どんな完璧な人間でも腹を壊すことがある」という認識を彼らに植え付けた。
しかし、この話をする度に、チアキは困ったように笑いながら、いつも決まって話題を逸らす。
【キャラクターストーリー2】
世の中には善人と呼ばれる部類がいるが、チアキのそれは些か行き過ぎた自己犠牲を伴うものである。
ある時、店頭に並ぶ美しい模型にチアキは惚れ込み、薄給を貯めてその日ついに節のある指先に長い間の望みを取った。
しかし突然、背後から泣き出しそうな声を耳にして、チアキはあっさりそれを手放してしまった。運良く模型を手に入れたのは、チアキがかつて暮らしていた場所のような、望めばそれだけ手に入るような服装をした小さな少年だったが、チアキは人々の貴賎は幼い夢に何の関係もないと結論づけた。
その日までに、チアキは超過した労働時間と激しい疲労、そして熱と生活を共にしてきたが、全てを叶えたと思った彼の手に残ったのは空っぽの財布だけだった。そう、彼は幼い少年の夢を叶えるために、金銭を受け取ろうとはしなかったのだ。
夢を護ることの大切さを何よりも知るチアキは、それにできるかぎり応えようとする。そうして時折、自分の向こう見ずな決断力を嗤いながらも、歯を食いしばって奔走し続ける。
【キャラクターストーリー3】
限られた人にしか味わえない楽しみを、大変幸運なことにチアキは身につけている。
無機質な文字が織り成す情景は、チアキを人で賑わう埠頭へ、吹雪く雪山へ、どこへでも連れていってくれる。
油ぎった歯車と向き合う指先は清潔に乾き、染み込むような沈黙に響く紙の音だけが彼の奏でる音楽だ。
紙とインクの匂いは、チアキが幼い頃から最も親しんでいる匂いである。厳格な父が読む書物のほとんどを理解できなくとも、自分に投げかけられる眼差しとほとんど同等のものがそこには向けられていた。幼いチアキにとって、それは父が最も大切にするものと自分とが、同等の価値を持つということの裏付けだった。膝の上で母が読み聞かせてくれた冒険譚の内容を、チアキは今でも諳んじる事ができる。母の冒険譚の締めはいつも、微睡みの中に優しく響くこの言葉で終わっていた。「このお話は、面白かった?」。
文字の意味を捉えることは、時に苦しく難解だったが、チアキにとっては全く苦にならなかった。
赤銅の瞳は機智に富み、その時だけ漂わせる学者の風格は、彼が本来生きてきた世界とその行先を彷彿とさせる。
しかし、チアキはそれをあくまでも娯楽の範囲にとどめ続ける。空想と緻密な文字の羅列は、チアキにとって束の間の「自分を忘れる夢」ではあるが、「自分が叶えたい夢」ではないのだ。
【キャラクターストーリー4】
チアキにとって、彼の夢はただの願望ではない。その実現のために弛まぬ努力と研鑽が必要であることは、何よりも彼自身が理解している。
かつて空は、誰にでも平等に拓かれていた。皆が澄んだ空気の中太陽の光を浴び、天地の恵みを享受することができた。
しかし、今はそうではない。空の翳りは恵みではなく災害をもたらし、それは人々に実害をもたらす一方で、富める人間たちはそれを活かす術を見つけ、知識を秘した。
人工的な薄煙に汚れた空の上の景色を見ることが出来るのは、限られた人間だけだ。煙ったベールは、かつて手を取り合っていた人々の心にも影を落とした。
だからこそ、チアキはその空をもう一度拓かれたものにしたかった。暗い天井を取り払えば、再び上を向く気力も生まれる。それはチアキ自身が遮ることの無い星空の美しさを知っているからでもあり、反対に灰色のビロードが覆う空の下でも懸命にもがき、命の炎の熱量に触れて、その熱を一帯に解き放ちたいと切望したからでもあった。
「荒唐無稽」「道楽」、その他諸々の言葉は全て、チアキを焚きつける燃料だ。彼は自身の持てる全てのものをそこへ費やした。
そうしてその日、フォンテーヌ技術協会はチアキに判の押された書類の束を手渡した。
【キャラクターストーリー5】
炎というのは常に燃えている訳では無い。突然水をかけられれば、抗っても最後は燻り、消えてゆく。
冷たく無機質にまとわりつくシーツは、まるで死神のように緩やかにチアキを締め付け、末期の息を吹きかける。
チアキは臆病だった。気が優しく、体が弱く、些細なことですぐに傷ついた。燃料として投じてきた数々の心無い言葉は、湿った薪を炎にくべるようなものだった。
だからこそ、チアキは初めて乾いた薪を手にし、そうしてその使い方がわからずにただ突っ立ったままでいた。チアキに温もりを与えたその人は、消えかけている炉の中にぽんと薪を放り投げた後、優しい息吹を吹き込んで、消えかけた炎を灯してくれた。
その時になってようやく、チアキは炎というのは誰かの支えなしでは燃え続ける事ができないということに気がついた。炎が消えかけた時に傍に人がいなければ、火は消える。反対に、凍え死にそうな人間に火がなければ、その人は死んでしまうだろう。
まだ窮地を脱したばかりの凍える体には、太陽の恵みが足りていなかった。不器用な火はいつものお人好しに駆られて危うくそれを燃やしそうになり、慌てて離れてようやく、落ち着く距離を見つけた。彼の心は、双葉のようにあどけなかった。
幸いなことに、その双葉はすくすくと育った。凛と胸を張り、茎を伸ばし、蕾をつけて、チアキの隣を心地良さで満たした。そしてある時、それは突然綻んだかと思うと、ぱっと大輪の花を咲かせてチアキの目の前で咲き誇った。
チアキは毎朝毎晩、常にその花を気にかける。またうっかり枯らしてしまわないよう、そして、花が風にそよいで届けてくれる言葉に耳を傾ける。
「チアキさん、おかえりなさい」
【神の目】
神の目と言っても、それはチアキにとってさほど重要ではない。
上層部でそれなりに裕福な暮らしをしていたチアキには、望むものが手に入る状況は決して珍しい環境ではなかった。
音楽も、芸術も、罪人という演者の行く末も、望めば全てが手に入ったが、チアキの惹かれた音や匂いは、ただそこにいるだけでは手に入らなかった。
上流階級に生まれ育った愛息子は、からくりや玩具といった小さな工具では満足しなかった。
両親と衝突し、生まれついての病弱さや、元来持ち合わせていた争いを好まない性格も、気弱な部分も全てを指摘された後、未熟な若者を待っていたのは怒りなどではなく、「やってやろう」という燃えたぎる闘志だった。
その闘志を貫いた先に、チアキは勝利を勝ち取った。自由、と言うにはあまりにも重いその翼を広げたチアキに神が与えたのは、紅の視線だった。
チアキにとって重要なのは、神の目そのものではない。それは一体どんな意図でチアキに授けられたのか、その力で何ができるのか。
選ばれたものだけが持つ力を、権力として振りかざす人には、決してチアキはなり得ない。
彼はあまりに優しすぎ、そしてその心に燃える信念が曲がることは無いからだ。
【ミドリ】
青果店を営む家の次男坊。その美貌は意図せず多くの人々の心を惑わす。面倒事を嫌い、自分がいかに心の平穏を保ちながら過ごせるかに重点を置いている。
【キャラクターストーリー1】
煤や有害物質に塗れていない食事を口にすることは、多くのフォンテーヌ人、特に下層の人々にとって重要な問題である。
ミドリは人々にそのような食材を届けることを生業としている家の生まれだ。
しかし、フォンテーヌの目覚しい技術発展は、事実は全くそうではないにしても、「実は有害薬品が使われている」というあらぬ噂をかきたてた。ミドリの両親はその事実にほとほと困り、一体どうしたものかと様々な策を練った。
しかし、この出処不明の噂の終焉は、案外早く訪れた。そしてその後、爆発的に顧客は増えた。一体何が彼らをそこまで熱心にさせたのか?
答えは非常に単純であった。青果物の質はさることながら、フォンテーヌ人の芸術に肥えた目に、「最近変な噂が流れてて」と憂いた瞳で伝えてきたミドリは非常に美しく映ったのである。
【キャラクターストーリー2】
街を歩いていると、ミドリは必ず数人の女性から声をかけられる。時折男性からも声をかけられることがある。
しかし、街中で見知らぬ人間に声をかけられるという行為は、例えばその人が困っているならばまだしも、特に用もなく隣を歩きたがったり、茶を飲みたがったりしている場合は非常に厄介なものとして処理するに値する。
結果として、ミドリは他人に対して臆病になってしまった。そうすると、今度は物言わぬ人形のようなミドリに対し、人々は勝手に失望し、ミドリの元を去っていく。去っていくこと自体は構わないが、ミドリは人間である。失望の意を一方的に押し付けられる度、ミドリはいつもため息とともに溶けてしまいたくなる。
もしも、街中を野菜のたっぷり入った籠を抱え、それでなくても振り返るような美男子がいたとしても、容易に話しかけてはならない。彼に黙って写真機を勝手に使うことも厳禁である。
美しいものを無理に手に入れようとして、それ自体が脆く崩れてしまうということほど、大きな損失は無いのだから。
【キャラクターストーリー3】
ふわふわとした手触りのぬいぐるみが、部屋中に溢れている。誰もなめを細めるほど愛くるしいものもあれば、およそ大半の人が買わないであろうデザインの数少ない購入者ということを示すものもある。
裁縫を愛する人の部屋でも、かわいいものをこよなく愛する少女の部屋でもなく、ここがミドリの小さな城である。
その大きな体に、愛くるしいものをめいっぱい抱きしめる様子は、彼が普段人々に与え続ける大人びた印象を巻き戻し、純粋無垢であどけない少年へとミドリの時を進めてくれる。その時だけ、ミドリは幼い頃から抱き続けている憧憬を形にして愛する事ができる。
どんな人物を前にするよりもミドリは彼らに対して甘く愛を囁き、多くの人々を虜にするようなその表情で彼らを愛でる。そこでは彼は王国の主として自由に振る舞い、波のように押し寄せる癒しに身を任せながら恍惚の表情を浮かべている。
たとえその城が遠く離れた場所にあったとしても、彼は自分自身の心の中に、そして時折出かけた先で、王国の住人を見つけることができる。
それは、彼の慈愛と童心が余すことなく発揮される瞬間だ。
夢見心地な瞬間が泡のように弾ける時、彼は蕩けるように甘い笑みをすぐさま飄々とした仮面の下に隠し、またいつものように大きな体をぐっと伸ばして歩き始める。
【キャラクターストーリー4】
順調に、そして健やかに育つ体は、その食事によるところが大きい。
一日三食、決められた時間にバランスのとれた程よい量の食事。新鮮な野菜が多いのはミドリの特権である。
かつてミドリは、見るまに大きくなる自分の体の変化に脅えてその幸せから身を遠ざけようとしたが、年相応にエネルギーを求める体はあっという間に燃料切れを起こし、結果として必要以上にエネルギーを充填する羽目になってしまった。
たとえフォンテーヌの一流レストランで長い時間をかけて食事をしなくとも、心は満たされ温かくなる。空腹の恐ろしさを、ミドリはよく知っている。
だからこそ、忙しさにかまけて食事をしっかりと取ることのできない人間を、ミドリは心底心配している。彼らはかつてのミドリと異なり、不可抗力で食事ができていないからだ。
シャキシャキの野菜とハムの塩気。それらを一緒に閉じ込めてしまうのが、最も効率良く栄養も摂ることができる。それはミドリの得意料理でもあり、同時にすぐに何でも忘れてしまう人々への祝福でもある。
ミドリが作る料理は、なぜか皿の縁に模様として描かれているソースや、長ったらしい呪文のようなものでは無いが、それでも振る舞われた人々を確実に満たし、胃袋を掴んでくれるような力を持っている。
それは、ミドリ自身が食事の大切さを何よりも理解し、相手のことを考えて料理を作ることができるからだろう。しかし、その不思議な魅力に触れることができる人間は極めて少ない。
【キャラクターストーリー5】
ミドリが最も嫌うのは、他人からの無遠慮な視線だけではない。土足で自分のテリトリーに踏み入られることを不快に思わない人はいないだろう。
だが、ミドリがその日出会った人間はそれを簡単にやってのけてしまっただけでなく、意図せずミドリ自身が彼のテリトリーに土足で踏み込んでしまう形になっていた。にも関わらず、彼はそれを上回る形でミドリの元へやってきて、棘のような印象を残して去っていった。その棘は抜こうとすると鋭く痛み、そのままにしていてもズキズキとした疼痛を伴った。医者には到底診てもらうことは出来ず、ミドリはじっくりとその痛みに向き合うことしかできなかった。
やがて、ミドリはその棘を埋めこんだ張本人に文句を言いに行くことを決めた。
だが、その人は今にも命を枯らしてしまう瀬戸際にあった。ミドリはその事に怒り、哀しみ、混乱しながら、ならばと必死になって自分の手で棘を引き抜こうとした。痛みで彼は喚き、血が流れたが、彼は決して手を緩めなかった。
涙と共に棘は流れ、後にぽっかりと空いた空白が、先程までの激闘を空虚なものにしてしまった。貫通したそこに冷たい風が吹き抜け、ミドリは寒さに蹲りそうになった。
そしてその時になってようやく、痛みを埋め込んだ人間はミドリの事の重大さに気がついたようだった。
「すまない」彼は言った。そしてその穴を不器用に修復し、出血多量で凍えていたミドリを必死になって温めてくれた。
空虚さが塞がり、ようやく体が動くようになった頃、ミドリはずっと己を苦しめていた棘をもう一度見つめ直した。
驚いたなことに、それは棘ではなかった。その先端に小さな蕾を揺らしていた。
恋とは、辛く苦しいものである。
しかし、それが初めて実った時、それまでの苦節は栄養となり、愛という名の花に変わる。
【神の目】
祝福と呪いは紙一重である。
神の目は最初、ミドリにとって呪いに等しいものであった。
愛しい人間との繋がりを引き裂かれる痛みを埋めるのに、神の目は何の役にもたちはしなかった。だからこそ、ミドリは己の運命を呪い、何も考えずに祝福のつもりでそれを授けた存在へ濁った眼を向けた。
神の目を手に入れたところで、ミドリの運命は容易には変わらない。街中で無遠慮に見てくる視線も、実家の売上も、何一つ変わらない。ミドリにとって、神の目とはただ緑色をした飾りという程度の認識だ。例え、それがミドリ以外の人にとっては喉から手が出るほどに渇望するものであっても。
贅沢だ、と人々は言うだろうが、それがミドリの紛うことなき本音である。神の目が変えたことといえば、ミドリの環境ではなく、その内なる感情を花開かせたことだろう。
ミドリにとって、至高の贅沢とは手を伸ばせばすぐそこにあるものである。
安定した生活があり、大切な人を守ることができ、それが長く続くことである。
その大切さを気づかせてくれたという点で、ミドリにとって神の目は初めて意味を持つ。