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    リオセスリ誕生日記念
    リオヌヴィSS

    「新生というにはあまりにも苦く、甘く」

    久しぶりに休みが重なった二人はヌヴィレットの行きつけの☕️で休息をとっていた。すると仲睦まじいカップルが目に入り、思うところがあったらしく……二人がこれからについて話し合う話。

    ※伝説任務、魔神任務のネタバレがありますので注意。了承できる方のみ読んでください。

    #リオヌヴィ
    #wriolette
    wriolette

    新生というにはあまりにも苦く、甘く「仲睦まじいカップルだったな」
    「嗚呼、カーテンの隙間からみえてしまったのは事故だったが……こっちが少し恥ずかしくなるくらいに」
    「あんなことがあったのだ。仕方もない」
    「同感だ。船も滞在者がやっといなくなったからな」

     フォンテーヌも夕暮れ時に差し掛かり、久々に二人の休みが重なったからとヌヴィレットに誘われてリオセスリが訪れたのは老舗のカフェ。100年ほど前は著名人が集まりよく討論や議論をしていたものだと当時を懐かしむヌヴィレットにあんたのお墨付きならと一緒に入って名物のコーヒーを一杯いただいていた。最近では神をやめてフォンテーヌ一の女優と化した誰かもお忍びでよくここのティラミスを食べにくるとの話であり、知る人ぞ知る名物喫茶であることはすぐに納得ができた。彼女が訪れていてバレていないなら機密保持という観点からも信用ができるからこそ久々のデートをこの場所にしたのだなと感心していれば、おそらく同じように静かな場所で一息つきたかったのであろうカップルの会話が聞こえ、思わず店側が客の様子を確認したいと僅かに開けていたカーテンを閉めようとした時二人で顔を見合わせてしまったのである。

    『今日は楽しかったわ。ありがとう』
    『嗚呼、僕もだ……ええとその』
    『次はどこへ連れて行ってくれるのかしら』
    『嫌じゃないのかい?』
    『嫌だったらここまでこないわよ。歌劇場のこの公演を見に行きたいと思っているの』
    『フリーナ様のかい?僕もだよ。その後このレストランへ行かないかい?そこのケーキも絶品なんだ』
    『じゃあ決まりね』

     フォンテーヌが鯨に呑み込まれそうになり、海に覆われたその時、フォンテーヌ人は溶けなかった。新しく人として生まれたために原始大海の水に溶けることはなかった。が、純水精霊であった過去が払拭できるわけではなく、虚偽の噂も流れるもの。あんなに大きな災害があった後、人々の婚姻率も上がった。あの二人にはまだ遠い先の話ではあるがなるかもしれない。大きな災害の後には往々にしてこのような現象が発生しやすく、多分に漏れずフォンテーヌ廷はめでたい書類の処理で暫くてんやわんやしていたというわけである。

    「大勢の人が海に溶けなかったのは良いものの、かと言って被害が何もなかったわけではない。その処理もまだまだ済むのは先だとは思うが」
    「ヌヴィレットさん、あんた寝てるのか」
    「……多少は」
    「……」
    「本当だ。昨日はちゃんとベッドに入った」
    「何時間だ」
    「……三時間」
    「一昔前の戦争の英雄じゃないんだぞ。はぁ……」

    今日は寝かせないとダメだと首を振るリオセスリにバツが悪そうにするヌヴィレット。

    「先ほどの男女はなんの話をしていたのだろうか。ケーキやマカロンなどはこの店でも食べられるだろうに」
    「あれは多分誕生日の話だろう。もし婚姻のデザートの話をするならシュー・ア・ラ・クレームを大量に盛り付ける話が出てくるはずだからな」

     フォンテーヌでは昔から豊穣の意味あいでめでたい席に大量のシュークリームを更に三角状に盛って出す習慣があるが、あのカップルにはまだ少し早い気がする。恐らく二人の予定を合わせて祝いの席をどうするかという話をしていたのだろうと踏んだリオセスリはヌヴィレットが考えていることに気がついた。

    「誕生日か。そう言えば……前に見た書類でリオセスリ殿の誕生日が近かった気がするが……」
    「嗚呼。今日だな」
    「君の誕生日は……やはりそうか。しかし、前に見た時は違ってきた気がしていてどうしたものかと」
    「俺が決めた。あんたに裁決を下され、監獄に入った日にだ」

     何か引っかかっていたのか言い淀むヌヴィレットにキッパリと答えるリオセスリ。きょとんとする恋人に一回は説明しておくかとばかりにリオセスリはつらつらと事情を話す。

    「養父母が授けた名前と誕生日を使いたくなくてな。過去というのはある日化石みたいに思いもよらない方法で発掘されかねない。それは自分の意識の中かもしれないし、他人の手によるものかもしれないが、どちらも俺はそれが嫌だったから」
    「自ら葬り粉砕したというわけか……すまない。そんなつもりはなかったのだが」
    「あんたになら構わない。悪気があったわけでなし」
    「だからと言っていいわけではないだろう」
    「そもそも対して特にそこまで使うわけでもない。俺の中では書類上必要だから設定しておくかという認識だ。昔は家の各々の子どもの誕生日をいちいち祝っていたら毎日ケーキ三昧だという理由で、クリスマスに纏めて祝っていた」
    「……」
    「まず俺はどこの誰かもわからないからな。原始大海にフォンテーヌ人は溶けなくなった。何も確かめる術など無くなってしまったが……俺は下手をする時フォンテーヌ人じゃない気がするし……いや、今更こんなこと言っても仕方ないが」
    「リオセスリ殿」
    「ん?」
    「最早フォンテーヌ人が原始大海に溶けなくなったとしても、その前に海に潜ったとしても……いや、そんなことは二度としてほしくないという話は前にもした」

     リオセスリが気がつけば硬い顔をしたヌヴィレット。知っている。これは外は天気は悪くならないが、こういう時、彼は静かに怒っているのである。メリュジーヌに何か危害が加えられそうになった時、審判が相当厄介になった時、書類が積み上がりどう見ても終わりそうにない時など、その美麗に書かれた目尻がキッと鋭くなっている時は、美人が怒ると迫力があり、怖いという俗説は本当だったのだなとどこか他人事の様に思うリオセスリだが、これはまた叱られてしまうかと覚悟を決めた時、場違いな声が個室の赤いカーテンを開いて響いたのである。

    「???」
    「こちらご注文いただいていた特製ケーキになります」

     そこには普段着ている服から着想を得たのか白と黒のノクターンといった風合いの変わったケーキではあるが、アクセントにあちらこちらリオセスリが使用する氷元素をモチーフとした雪の結晶が散りばめられているのが美しいケーキであった。その真ん中にはホワイトチョコのプレートでHappy Birthdayと書かれており、予想だにしていなかったリオセスリが固まっていれば、話の腰を折られたヌヴィレットが気が削がれたのか目尻を下げて会話を続け始めた。

    「……祝うかどうか私もしても迷いはあった。だが、それは君の決意と名前を侮辱しかねない行為だと思った。だからこそありきたりに祝うことにした。新生というのならば。君が己のしたことを忘れないというのならば私はその意志を尊重しなければならない」

     大真面目に澱みながら話すヌヴィレット。一方リオセスリは微動だにせず、やはりここは定番の茶葉でも送るべきだったのかとヌヴィレットが早くも己の判断を後悔した時、目の前がいきなり暗くなったことに気がついた。

    「リオセスリ殿……!?」
    「……ヌヴィレットさん……あんたって人は本当に……」

     気がつけばヌヴィレットはリオセスリに抱きしめられていた。VIP席とは言っても喫茶店の狭いボックスの席である。そこに高身長の男二人がひしめき合っているのだから逆に身動きが取れなくなったと思いつつ、大型犬をどうどうと宥めるのに少し時間がかかったのである。

    「……嫌だったらどうしようかと。君は私の話を聞かない時もあるから」
    「……先程の件はすまない。もうしない」
    「仕方ない。今日は祝いの席だから……互いにいい大人だからこそ、非常時に離れていても己同士の責務を全うすると信じていた」
    「本当だったらあんたのところに真っ先に行きたかった」
    「駄目だ。リオセスリ殿にはあの時市民を助ける船があった」

     洪水の最中それは一羽の鳩にもなりえる重大な仕事だと説き伏せればわかってはいるのだがと言うリオセスリ。リオセスリもヌヴィレットが歌劇場でフォンテーヌの未来を左右する審判をしていたことも知ってはいる。彼女が喝采と非難を浴び続けていたことも。そしてフォンテーヌの全てをこの最高審判官が総括したことも。
    災害の爪痕は酷く残るもの。水が全てを生み、全てを洗い流す。予言は訪れた。皆が皆平気そうな顔をして日常を過ごそうとしているが手一杯なことも知っている。
     そんな渦中の恋人が“ヌヴィレット”個人として贈り物をくれたら嬉しいに決まっている。どうにもにやけてしまう頬をなんとか誤魔化そうと抱きついていれば、胸の中の恋人は何かいいたげにしていることに気がつき、そっと互いに正面を向いた。

    「リオセスリ殿。先ほどの話だが……君はどこの誰かわからなくとも良いと言ったが、それはいつか気になるものだ。忘れていたとしても、気に留めないようにしたとしても、いつかは」
    「……そうか」
    「嗚呼。忘れて良いわけもなく、忘れられるものでもない。

    だから……私は忘れない。

    ならば私が改めて認めよう、君は望まれて生まれてきている」

     ヌヴィレットから聞いた話は衝撃的なものであった。かつてのフォンテーヌ人の起源。今でこそ人間ではあるが、原始大海の水に溶けてしまう理由を。そして前にその件の海を泳いで溶けなかった自分。現役に飛び込んだわけではないから確証は持てないが自分は恐らく、もしかしたら。

    「大体君には責任をとってもらわなければ困るのだ。400年も人として関わることのなかった私の意識を……その……人寄りにしたというか……ある意味不埒ではあるのだが……」

     だがその話は暫くは考えなくてもいいかもしれない。少なくも目の前の恋人を困らせても困るし、一番認めて欲しい人がわざわざ言葉にしてくれているのだから。先程までキリッと決めた癖に、途端にもにょもにょと恥じらうように縮こまる腕の中の美人。一体何回この人は自分を惚れさせれば気が済むのかと額に手をやれば、そっとこちらを上目遣いで伺ってくる。普段は鋭い視線と厳粛な顔つきで審判を下すというのに、今日はどう見ても顔つきが幼く、昔馴染みの彼女ならばそんな姿も知っていたのかもしれないと嫉妬してしまうが、それはそれこれはこれ。今はただこのひと時を味合わなければ。そう思いつつもソロソロ退店の時間も迫るかも知らないと話を続ける。この可愛い恋人は家に帰っても堪能できることを思い出したからだ。

    「そうだな……責任を取らなきゃいけない。こんな綺麗な手に傷をつけてまで料理をしてくれたみたいだからな」
    「気がついていたのか」
    「俺に散々説教していたが、眠いのに料理なんてしないでほしい。慣れてないんだろう?」
    「モンドから良い酒が手に入ったので……君は肉料理が好きだからローストビーフと赤ワインや合うものをと……だが市販のものは味が濃すぎて……」
    「あんたの舌は上品だからな」

     むっとした顔をするが、実は何か夜な夜な仕込んでいたのは知っているし、スープが好きなのにわざわざ具材を煮込んだり焼いたりしているのをいつもの如くのハウスで見ていたのだから期待もするというもの。
     そっと頭を撫でてくる年上の美しい恋人。まさか自分に人としての感覚は抜けているが、こんなに素晴らしい恋人が出来て、一緒に日常を過ごせるなど、思いもよらなかった。

    「あんたを好きになってよかった。公爵の地位を貰った日以来また生まれ直した気分だ」
    「大袈裟と言いたいが……君が満足するならばそれでいい」

     フォンテーヌは生まれ変わった。人が日々を過ごしてゆく都市に変わったのだ。その中でまた生まれ直したと今を噛み締めることの出来る二人は小さく微笑んだのであった。
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