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    小月 輝

    @ODUKI547

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    小月 輝

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    葬儀屋のお仕事。
    モブランド3展示作品。
    死ネタです。

    #モブランド3

    葬送仕事に敬意を持って向かう。
    一番最初に教えられた、最も重要な事。
    体を清めてから身だしなみを整え、扉に向かって深く一礼する。胸元から取り出したキーリングにかけられたアンティークキーの先端には、緑の魔法石が埋め込まれている。沈んだ色の宝石が一瞬だけ朝日に煌めいて、鍵穴に刺さったキーをゆっくり回す。
    カチャ。
    一人でに開いたドアから、ひんやりとした冷気が頬を撫で上げる。ふつふつと肌が泡立っていくのに背筋を伸ばして、瞼は伏せたまま。ピカピカに磨いた靴先を見ながら、ゆっくりと境界を踏み越える。
    途端に世界が切り離されたように、音を失う。
    霊安室。
    それが男の仕事場だった。


    魔法士の遺体の扱いには、国際法が適応される。魔法士の国際資格に合格した時点で、彼らは誓約書にサインをし、自身の死後の扱いに同意することになる。
    古来から、魔法士という魔法に触れられる器を利用しようとする輩は多かった。死後は勿論、生前でさえも、愚かな迷信や利益に眩んで魔法士の体の一部を奪い、利用しようとする者は後を絶たず。そう言った輩から死後の尊厳を守る為にも、魔法士の遺体の扱いには厳重な対応が求められている。
    魔法士の遺体は、その身体から完全に魂が離れたのを確認の後に、遺族の為に一部の加工した残留品のみを残し、骨も残らず焼かれる事になる。塵すらも残さない徹底さだ。たとえ王族であろうが、大俳優であろうが、ごく少数の例外を除いて、同じ処置が行われる。
    そして、今霊安室に安置されている遺体にも、勿論その処理が行われる。
    重ねた年月が皺となって現れた顔は生気がないが、今にも目を開けそうな瑞々しさが保たれていた。丁寧に櫛削り、整えたであろう白が混じる涅色の髪は、生前と変わらぬままに顔の横で編み込まれている。衣服も装飾品も、彼に相応しいようにと愛情と敬意を持って整えられていた。特徴的なものは、彼の養女が丁寧に肌に塗り込んだという香油だろう。高貴さを表す香りは、遺体に付き物の腐臭を覆い隠すだけでなく、保存にも一役買う魔法が込められた物だった。
    「処置をさせて頂きます」
    丁寧に魂の抜けた身体にお辞儀をして、そばに置かれた黒いファイルを取り出す。
    魔法士本人がサインをする、本人以外には改変出来ない遺体処理の誓約書だ。初めてサインをしてから今まで、何度か書き直された形跡のある羊皮紙に、最後の改変が加わったのは、闘病生活が始まった一年前だという。

    -瞳を媒体に魔法石を二つ作ってくれ。全身の魔力をそこに集めて良い。残りの身体は全て燃やせ。
    魔法石の受取人は娘のレイナ・L・ブッチと夕焼けの草原の第二王子だ。
    レオナ・キングスカラー

    直筆のサインが添えられた洗練された筆跡は故人を偲ばせる。だが、この遺言を見る事ができるのも、魔法士専門の葬儀屋である男だけだった。
    小さく微笑んでいるように見える口元に再度黙礼をしてから、男は魔法石の付いたステッキを取り出した。処置台の周りを囲むように記されている魔法陣に魔力を通す為にトン、トンと地面を突き、低い詠唱を奏でる。古代魔法による処置はそれぞれの葬儀屋に伝わる一子相伝で、男の家系は宝石に特化していた。
    閉じられた瞼を手袋に覆われた指先で開き、白濁しつつも美しい新緑を残した瞳を露出させる。
    円を描く魔法光に囲まれながら、少しずつ、少しずつレオナの体から魔力が瞳に集まっていく。それと同時に魔力を失った足先からカサカサに乾いていく。色を失い、ミイラのように痩せ細っていく体から魔力が集まる瞳は、正反対にキラキラとした輝きを取り戻し、全体的に硬質化していく。白濁が取り除かれ、彩虹の緑が眼球全体を覆っていく。やがて眼球に魔力が満ち、飽和する一歩手前で男は詠唱を一旦止めた。もはや、元が眼球である事も分からない球体の魔法石が眼孔に嵌っている状態になる。白い手袋の指先が、まだ弾力を保っている顔から、ゆっくりと魔法石を取り出していく。側に置いてある台に安置した後に、男は再び詠唱を開始した。残りの眼球に魔力が集まっていく。レオナの遺体は急速に魔力を失い、首を伝って顔にまで乾燥がひろがく。白く、カサカサに乾いた骨と皮だけになった体から装飾品が音を立てて落ちてく。ガシャン、カシャンと金と宝石の擦れる音が響くなかで、とうとうレオナの全身の魔力が眼球に集まりきった。艶のあった涅色の髪の毛は、汚らしい土色にまで貶められたが、宝石と化した眼球だけは眩しいほどに美しく眼孔に嵌っていた。もう一つの魔法石も丁寧に取り出して、男は生前の面影をなくした遺体に、もう一礼した。
    ここからが、男の本業だった。
    魔法陣に魔力を回す。
    ゆっくりと陣から退出して、魔法陣を閉じる。繋がった線が強く空間を隔てる。順々に発光していく記号が炎を呼び込む。白く発光する炎がゆっくりとレオナの遺体を安置してある空間を満たしていく。じわじわと、レオナの体が端から、白い炎に溶けていく。灰すら、塵すら残さず、レオナの肉体が消えていく。空気に溶けていく。空間を満たした炎は、レオナの体を完全に飲み込み、それから幾らかの間、そこに留まった。男の低い詠唱が途切れず、段々と彼の持っているステッキの魔法石が黒ずんでいく。ゆっくりと溜まっていくプロッドには目もくれず、男は淡々と仕事をこなしていった。
    やがて、汗がポタポタと床に垂れる頃、男はようやく詠唱を止めた。同時に空間に満ちていた濃厚な魔力と炎が消えていく。
    魔法が解けた瞬間、引き込むような突風が吹く。空気すらも燃やし尽くした空間には塵一つ残っておらず、レオナがこの空間にいた証は、二つの魔法石以外何も残っていない。
    毎度の事ながら、それに寂しさを感じつつ、男は遺言に沿うために魔法石を丁寧に洗浄し、それぞれを箱に収めた。
    後は、これを然るべき人物に届けるだけだった。



    夕焼けの草原では、盛大な国葬が執り行われていた。
    空の棺には花が添えられ、弔問客の列が離宮の外まで列をなしていた。
    悲しみは忙しさが紛らわしてくれる。
    黒のベールを身につけたハイエナ獣人の女性は、護衛兵からの知らせに大きく耳を動かした。
    「葬儀屋が?」
    「はい。いかがいたしますか?」
    「お通しして頂戴。お父様の遺言にあったわ」
    すぐに部屋までやってきた男は、確かに養父の遺体の引き取りに来た葬儀屋だった。正式には王族ではない彼女にも最敬礼をした男は、二つの箱を取り出した。ご丁寧に魔法認証の陣が刻んであるそれは、受取人しか開けない厳重なものだ。
    「故人の遺品をお届けにあがりました」
    魔法士は死んだら遺体も残らない。残せない。
    そんな事を知らないはずがない。
    それにもかかわらず、懐かしい筆跡で書かれた名前は自分のもので、彼女は涙を堪えきれなかった。溢れた涙もそのままに、震える指先で受け取った箱に添えられたカードを撫でる。
    生まれて最初に受け取った養父からのプレゼントがそこに刻まれていた。
    レイナ・L・ブッチ
    レオナから最初に受け取った名前を、最後に見れるとは思っていなかった。
    指先から吸い取られた魔力が、箱の魔法陣を一周し、箱が解ける。そこにあったのは眩しく光る父と同じ色の宝石だった。
    「……これは、」
    「故人様が貴方様へお残しになった宝石でございます」
    「父の、魔力を感じます」
    「身につけられる形になさるとよろしいでしょう。きっとお守りくださいます」
    「……ッ! ありがとう、ございます」
    石を胸元に抱きしめたまま、涙を堪えきれない彼女に深々と一礼して、男は次の届け先に向かった。
    同じようなやり取りを届け先である第二王子とその父であり故人の甥である人物とかわして、職場に戻る。
    冷たい部屋に入り、置かれたままの黒いファイルに手を這わず。
    故人の名前が書かれたそれを、もう一度見てから、男はファイルを持ったまま部屋をでた。鍵をかけ、また丁寧に一礼する。
    そうして、黒いファイルに刻まれた名前を、丁寧に顧客リストの中にしまった。
    これで、男の仕事は終わりだ。
    そうして感傷に耽る男の背後で、パサリと、新たなファイルが机の上に落とされた。
    新しい、仕事が始まる。
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    小月 輝

    DONE嘆きの島産モブの帰省話
    モブランド2展示
    嘆きの島に雨は降らない。海の中にあるくせに、遠い先祖の土地と同じく水資源に乏しい島は、無機質な潔癖さに満ちている。住んでいた時には何も思わなかったのに、久しぶりに足を踏み入れた故郷は、知らない人のようだった。まだ来ない迎えにぶつけるように靴底で地面を強く踏む。カンーッと鳴るこの地面の音も、外にはない物だ。一見石畳に見えるのに遥かに滑らかで歩き易い塗装された地面。円形に敷き詰められた模様の外には、迎えが来ないと出れない。
    小さい頃は格好良いと憧れたカローンが囲む中でジュナはもどかしく首輪を引っ張った。魔法力の乏しい両親から生まれたジュナはなぜか豊富な魔力を持っていた。ヒューマン種の保持魔力は年齢と共に増加する傾向がある。両親がせめてプライマリーまでは、と偉い人に掛け合ってくて、ジュナは小学校に上がるまでは両親のもとで暮らす事が出来た。だが、この海底の島は、魔法力を持つ人は住めないのだ。ジュナは泣き喚きながら全寮制の名門プライマリーに送り込まれ、こうして偶にしか帰郷できない。里帰りの度に付けられる魔力制御装置の首輪を窮屈に感じたのも、島の外に出たからだ。
    1956

    小月 輝

    DONEガーデンバース忘羨のタグで花の日のお祭りに参加した時のお話
    花を編む起きた時に感じるのは満たされた幸福感だった。
    ぬるま湯に浸るような心地よい寝床で目を覚まして、一番に目に入るのが美しい夫の寝顔である事にも慣れてしまう程の時間が過ぎた。ゆっくりと藍忘機に体重をかけないように起き上がり、くわりと大きく欠伸をする。半蔀から差し込む光はまだぼやけていて、明朝というにも早い時間に魏無羨が毎日起きているだなんて、この世でただ一人を除いて誰も信じないだろう。藍家の家規で定められている卯の刻起床よりも早い、まだ草木も鳥も寝静まっている時間だ。もちろん時間に正確な魏無羨の美人な夫もまだ寝ている。
    毎晩あんなに激しく魏無羨を苛んでいるとは思えない静謐な寝顔に、思わず頬が緩むのをおっといけないと押さえて、だらしなく寝崩した衣を更に肌蹴る。魏無羨は美しい夫の顔を何刻でも見ていられたが、今はそれよりもすべき事があるのだ。腕や胸、内腿まで、体のあちこちに咲いている花を摘んでいく。紅梅、蝋梅、山茶花、寒椿に芍薬、色とりどりに咲き乱れる花々は魏無羨が花生みである証であると同時に、昨晩藍忘機にたっぷりと水やりをされた証でもある。栄養過多になると、魏無羨の体は花を咲かせる事で消費するのだ。だから、毎朝、一つずつ丁寧に摘んでいく。
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