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    RacoonFrogDX

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    RacoonFrogDX

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    収納力のない収納スキルなんて、あんまりだ。

    『異世界に召喚されたけど『適性:孫』ってなんだよ!?』(2)「孫…? 孫とは何だ?」

    ハイレム王は不思議そうな顔でそう呟いた。

    「一般的に、祖父からみた息子の子供のことを孫と呼びますが…」

    「そんなことは分かっておる!『孫』とはどんな適性なのかと聞いているのだ!」

    「それは…分かりません、私もこのような表示は初めて見ました。
    詳細にも『期待の孫、まだまだひよっこ。』としか書かれておりません。」

    突如として出現した謎の適性『孫』に、オレを含めた全員が混乱していた。
    一応正確には『孫■』だけど…なんか、文字化けしてるのかコレ?

    「孫って、素質なのか?」
    「素質じゃないと思うけど…」
    「もしかして、珍しい素質なんじゃね?」

    学生たちも、顔を寄せ合ってヒソヒソ話をしていた。

    …君たち、聞こえてるからね。

    「ならば、スキルを鑑定せよ!
    ワケの分からない素質であっても有用なスキルであれば良いのだ!」

    ベルゾーン・ハイレムは険しい表情でアナスタシアに怒号を浴びせた。

    「し、承知致しました!」

    先程から"貧相な男"だの、"スキルが有用であればいい"だの…コチラが驚くほど
    典型的な傲慢悪役ムーブをかましてくる辺りここはあまり良い国ではなさそうだ。

    自分のスキルがどんなものであれ、身を守る方法を考えておいた方が良いかもしれない。

    「ええと…『鑑定』『適応』『格納』『出庫』の4つの力をお持ちの様です。」

    「『鑑定』や『適応』はどうでもいい…『格納』と『出庫』はどんな能力だ?」
    「はい、物体を異空間から出し入れ出来る能力の様です。」
    「『アイテムボックス』系統か…であれば、悪くないな。」

    「あ、いえ…その、それがですね…収容出来る大きさが…」

    アナスタシアの歯切れの悪さに、オレは嫌な予感がした。

    そういえば、学生たちは項目に触れると詳細が読めると言っていたな。
    オレは『格納』という表示に指で触れてみた。
     

    格納:1立方ミリメートル以内の大きさのモノを異空間に格納出来る。


    「『格納』出来るのは、ホコリ程度のサイズに限られるようで…」
    「…は?」

    ベルゾーンは意味が分からないといった具合に顔をゆがめた。

    オレも、ステータス画面の説明に衝撃を受けていた。

    "1立法ミリメートル以内の大きさのモノを異空間に格納出来る"

    いやいやいや、単位がおかしいだろう。
    このサイズに収まるものって、何があるんだ。

    空気中に漂う花粉とか、化学物質とか…その辺りか?

    少なくとも、役に立ちそうな能力ではないことだけは理解出来た。

    「えっと、マクラギさんだっけ…きっと何か使い道があると思います。」

    完全に冷え切った空気を打ち破り、お団子頭の少女が声を掛けてきた。

    「あ…えっと…なんか、スイマセン。」

    思わず謝ってしまったが…
    これは恐らく、異世界ものでよくある"ハズレスキル"に違いない。

    何故『孫■』のスキルが『格納』なのか、関連性は全く見出せないが
    使えなさそうという予測に関しては全員の見解が一致しているだろう。

    「…」
    「…」
    「…」

    重苦しい空気と、再びの沈黙。

    ハッキリ言ってこの流れはマズい。

    "ハズレスキル"といえば追放されるか見捨てられるか…
    最悪殺される場合だってあるのが、創作物でのパターンだ。

    実際問題有能な人材を狙って召喚を行ったのだから、無能な人間を
    後生大事に扱ってくれるなんて話は…どう考えても無理筋だろう。

    ほぼ確実にクソ人間っぽいハイレム五世ならば、なおさらあり得ない。

    「皆様、一度外の様子を確認したくはありませんか?
    ご希望であれば、異界の技術や物品もお見せ致しますが。」

    この空気に耐えかねたのか、アナスタシアは突然そう提案してきた。

    「あ…そうですね、外の景色なんかは異世界である証拠としては
    かなり有効だと思いますし…聞きたいこともまだ沢山ありますから。」

    バレッタを着けた少女も空気を読んだのか、同調した。

    こうなっては、もうどうしようもない。

    「あの…」

    オレはおずおずと口を開いた。

    「マクラギ様、どうかなさいましたか?」

    アナスタシアは腫物を扱うかのように、言葉を選んで返事をしている様だった。

    「自分でもステータスを確認してみましたが、恐らく私では貴方がたの役には立てないと思います。
    少しばかり生活費を下されば後は細々と生きて参りますので、それで手打ちにして頂けないでしょうか?」

    捨てられる前に自分から離れる…被害を最小限に抑えるにはそれしかないだろう。
    オレだって、聞きたいことは山ほどあるのだが、それは一旦置いておくしかない。

    「マクラギ様…」

    アナスタシアはどこかホッとしたような様子で、ハイレム王の方をちらりと見た。

    「フン…自分が役に立つかどうか、推し量る程度の知恵は持っている様だ。
    いいだろう…だが、無能が身近で暮らしていると思うと不愉快極まりない。
    我がハイレム王国からは出て行ってもらおうか。」

    追放か…さすがに城下町に住んでも良い、なんてことにはならなかったか。

    「ひえーっ、怖っ…!!良い感じの適性があって助かった~!」
    「てか、私女子なのに適性"格闘家"ってヒドくない?」
    「現実の異世界は漫画みたいに甘くないってことか…」
    「…元の世界には帰れるのかしら…?」
    「とりあえず今は大人しくしておいた方が良い。」

    学生達は例によって好き勝手に盛り上がっていたが、

    「ちょっと、酷くないですか!?勝手に召喚しておいて使えなかったら追放なんて!」
    お団子ヘアの女の子だけはオレの心配をしてくれていた。

    …ありがとう、だけど恐らくコレが今打てる最善手だと思う。

    追放はされたものの、これで首の皮一枚繋がったのではなかろうか。

    オレが心の中で胸をなでおろした瞬間、ハイレム五世がとんでもないことを言い出した。

    「ああ、そうだ…追放ついでに道案内を付けてやろう。
    国を出るまでの監視役というワケだ、感謝するが良い。」

    前言撤回、これは国境辺りで殺されるパターンかもしれない。
    オレの顔は自然とこわばった。

    処遇が決まってからの流れは実にスムーズだった。

    学生組とは引き離され、金貨入りの袋を渡されると速やかに城の外へ叩き出された。
    無情にも門が閉ざされていくのを見届けると、オレは城に背を向けて歩き始めた。

    賑やかな街の様子を眺めながら、街の出口を目指す。

    不思議な文様が描かれた看板、見たことのない食べ物、いかにも"冒険者です"といった粗野な風貌の人物、
    水晶の様な石から湧き出る水…いきなり異世界に転移させられた挙句追放された身としては複雑な気持ち
    だったが、こういった明らかに元の世界とは異なる風景を眺めるのは楽しかった。

    さすがに日本語は使われてなかったが、不思議と理解出来た。

    ステータスを開いた際に『適応』というスキルがあったので、その影響だろうか。
    何にせよ、異国の言語がスムーズに理解出来るのは非常にありがたいことだった。

    「格納…出庫…」

    オレは歩きながらスキル名を呟いてみたが、特に何も起きなかった。
    ステータスを開いてみたが、城内で確認した時から変化は無かった。

    ハッキリ言って何を格納するための能力なのか分からないが、いざという時には役に立ったりするのだろうか。

    オレは街の出口に向かう間に何度もスキルの発動を試みたが、目に見えて『格納』が発動した様子はなかった。


    。。。。。


    適応:異界の言語を分かりやすい形で自動的に相互翻訳する。
    また、異界で暮らしていくための免疫、耐性等を獲得する。

    鑑定:対象の情報を視覚的に表示・確認することが出来る。

    。。。。。
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