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    RacoonFrogDX

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    RacoonFrogDX

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    それはそれ、これはこれとしてお礼を言うのは大切だ。

    『異世界に召喚されたけど『適性:孫』ってなんだよ!?』(9)モンスターの襲撃、という異世界らしいトラブルはあったが
    グラムが速攻で撃破してくれたお陰で誰も負傷することなく山道を抜けることが出来た。
    ゴカドの町は山道からさほど離れておらず、オレ達は当初の予定通り日が落ちるまでに
    目的地へと到着することに成功したのだった。

    「お二方、今日は本当にありがとうございました!」

    マリアンは知人の元へ向かうということで、挨拶もそこそこに別れることとなった。
    お礼は要らないと伝えたのだが、彼女は「明日、また伺います」…と譲らなかった。
    同行者と別れると、オレ達は適当な宿屋を探し後はそこで過ごすことにした。

    「順調順調、この調子なら明日の夕方までにはアラタルに到着出来そうじゃ。」

    グラムは上機嫌で、コケリコという
    ニワトリっぽい生き物のローストをほお張っていた。

    「これでハイレム王国からは脱出できたってことですよね?」
    「まだ油断は禁物じゃが、
    ハイレム領内に留まっているよりかは確実に安全じゃろう。」
    「そうですか…良かった…」

    グラム以外に暗殺者や密偵などが放たれる可能性はあるだろうが、
    とりあえず"ハイレムから脱出する"という目標を達成したことで
    オレは肩の荷が下りた様な気持ちになった。
    こうして着実に安全圏へと歩みを進めることが出来ているのは
    グラムの働きに依るところしかない、感謝しないといけないだろう。

    「そういえば、マリアンが話していた神話についてなんですが」
    「ああ、この世界の成り立ちに関する伝承のことかの?」
    「そうです…あの時は概要を何となく理解するくらいが
    精々だったので、もう一度詳細を聞いておきたいと思いまして。」
    「ふむ…孫の頼みなら断る理由もない、幾らでも話してやろう。」

    グラムは軽く咳払いをすると、改めて異世界の創世神話を教えてくれた。



    …先ず、世界には混沌があった。

    全てのモノが無秩序に行動し、ぶつかり合っていた。
    ある時そうした混沌を一つずつ分類し、整理するモノが現われた。

    それが神である。

    神は時間をかけて世界を整え、秩序をもたらした。
    あらゆる事象に意味が与えられ、世界は世界と成った。

    しかし、安寧は長くは続かなかった。
    今度は整頓されたモノ達の間で争いが起き始めたのである。
    神はあらゆるモノの中で最も非力であり、最も知恵のある
    "ヒト"を自身の代わりに世界の指導者として役割を与えた。
    "ヒト"たちは神に従って世界を整理し、秩序を維持した。

    しかし、安寧は長くは続かなかった。
    今度は支配者となった"ヒト"の間で争いが起き始めたのである。
    能力無き者が指導者となり、力ある者が虐げられる世界である。
    神は一計を案じ、"ヒト"に自分たちの力が見える奇跡を与えた。
    こうして"ヒト"は自分たちの能力に応じた役割を持つことが
    出来る様になり、世界には再び秩序がもたらされた。

    しかし、安寧は長くは続かなかった。
    自分たちの力が目に見える様になったことで、
    今度は力ある者が力無き者を虐げるようになったのだ。
    神は一計を案じ、今度は力なき者に様々な才能を与えた。
    こうして力なき者は力ある者と対等に渡り合える様になり
    世界は再び秩序を取り戻した。

    しかし、安寧は長くは続かなかった。
    力ある者となき者が混じり合い、あらゆる"ヒト"が才能を
    持つようになると、世界は明確な判断基準を失い再び混沌に陥った。
    神は、今度はヒト以外の"モノ"にも世界の指導者の役割を与えた。

    しかし、上手くいかなかった。
    力ある者しかいなくなった世界では、誰が最も優れた
    指導者であるか決めるために争いが起こり始めたのだ。

    万策尽きた神は、世界をやり直すために災害をもたらした。
    災害の力は凄まじく、ソレを産みだした神さえ滅ぼしたが
    世界は結局滅びることはなかった。

    生き残った力ある者たちは再び混沌へと還った世界を開拓し、
    現在の世界が生まれたのである。



    「こんな感じじゃな。
    地域や国によって差はあるが、大体こんな流れのハズじゃ。」
    「ありがとうございます、勉強になりました。」

    グラムは古い伝承を語り終えると、コップの水を少し飲んだ。
    改めて聞いてみたが、やはりスキルやモンスターといった
    特異な存在はこの世界を創世主…神様の置き土産のようだ。

    世界を安定させるべく様々な種族にスキルやステータス閲覧といった
    特殊な権限を与えたが上手くいかず、最終的に世界をやり直す目的で
    モンスターなどの災厄を産みだしたというのが神話的な解釈らしい。

    というか、万策尽きたから世界を滅ぼそうだなんて結構過激な神様だな。
    まあ、滅ぼそうとした結果自分の方が先に滅んでしまったようだが。

    「…あれ? となると何でモンスターがアイテムを落とすんですか?
    モンスターって、基本的に人間を害する目的で生まれたんですよね?」

    人間絶体滅ぼすマンが人間の役に立つものを落とすというのは
    モンスターの役割と照らしてみても明らかに矛盾している気がする。

    「ああ、それは…魔物の体内が混沌で満ちているからだといわれておる。
    魔物は世界の外側に存在する"混沌"が世界の内へと落下してきたもので
    外見と性質のみが定義された曖昧な存在だというのが通説なのじゃがな、
    その"混沌"は衝撃によって多様な状態に変質すると言われておるのじゃ。
    創世神話において神様が混沌から様々なものを分類したような感じで。」

    「…つまり、倒した時の衝撃によってモンスターの体内に
    存在する"混沌"がアイテムに変質してるってことですか?」

    「そういうことじゃな。
    ただ、混沌からアイテムが生成される過程はいまだ解明されておらぬ。
    故に"コイツを倒せばコレが手に入る…"という感じでもないのじゃよ。
    まあ、モンスターごとに出現しやすいアイテムの傾向はあるらしいがの。」

    そこまで言い終えるとグラムの顔は急に曇り、オレにとある事情を告げた。

    「召喚の儀も、同じような理屈が適応されるが故に行われることがある。」

    「…!」

    "勇者召喚"…オレが、この世界に来るきっかけとなった儀式だ。
    実行したハイレム五世のせいで、オレは現在逃亡生活を送っている。

    「世界を跨いで人間を召喚すると、時空が大きく歪むという。
    その強い歪みの影響がこの世界へと呼び出された者に及ぶことで、
    いわゆる"勇者"は強力なスキルを獲得することになるとされている。
    異界からの召喚は、本来なら世界が危機に瀕した際に行う最終手段で
    平時は国家間で結ばれた国際条約で使用自体が禁忌とされておるのじゃ。」

    あのクソ王、世界的な禁忌をあんなライトなノリで実行してたのか…
    正直軍備の増強くらいしか目的が思いつかないので、ハイレム王国は
    ガチで隣国に戦争でも仕掛けるつもりなのかもしれない。

    …そして、オレの『孫■』という素質や物騒なスキルも
    恐らく召喚の影響で獲得した力なのだろう。

    「グラムさんは、儀式の実行計画について知ってたんですか?」
    「直接は知らなんだ、何せ、この前話した通り信頼されてなかったからのう。
    ただし、そういう噂は聞いていた…確信したのは樹ちゃんに会った時じゃな。」
    「…そうですか。」

    オレは深く息を吸い、ゆっくりと吐きだした。
    そういう事情があるのであれば、オレの暗殺は単なる"無能の処分"ではなく
    例えば、隣国に勇者召喚の罪をなすりつける…などの思惑もあったのかもしれない。
    グラムは考え込むオレの様子を見て、少し不安そうな表情になった。

    「あ、すいません…ええと、グラムさんを責めるつもりはないので大丈夫です。
    確かに殺されかけましたが、今はそれ以上にたくさんの支援を頂いていますし。」

    オレが慌ててそう答えると、グラムは"ホッ"と小さく息を吐いた。

    「…時空があまりに大きく歪み過ぎると、双方の世界が崩壊すると言われておる。
    だからこそ本来は最終手段としてしか利用を許されておらん危険な儀式なのじゃ。」

    以前、グラムに他の転移者について質問をしたとき
    "異世界から来た話は聞くが帰った話は聞かない"と言われたのも、この辺に原因があるのだろう。
    元の世界に戻る手段が仮に存在していたとしても世界間を移動するリスクがあまりにも高すぎる。

    話を聞いていると私利私欲で儀式を行ったハイレム王に改めて怒りが湧いてきた。
    ただ、あの男を糾弾するにせよ、復讐するにせよ、今は確実に無理な話だ。
    オレはこみ上げてきた感情をなんとか抑制して、気持ちを切り替えた。

    「話してくれてありがとうございました
    明日に備えて、今日はもう寝ることにします。」

    オレはグラムにそう声を掛けると、席を立った。

    「おやすみなさい、ええと…グラム、爺ちゃん。」

    …先程オレは、グラムからは暗殺されかけた以上の支援をしてもらっていると伝えた。
    この世界に召喚されてまだ三日、いくらなんでも赤の他人を"お爺ちゃん"と呼ぶのは
    抵抗があったものの…感謝しているという意味を込めて一度くらいそう呼んでみても構わないかもしれない。
    グラム本人も"お爺ちゃんと呼んでくれない"と言っていたくらいなので、呼んで怒られることはないだろう。
    とはいえいざ言おうとすると葛藤と緊張が生じ、お爺ちゃんと呼んだ今も猛烈な後悔と恥ずかしさがあった。

    オレは恥ずかしさで耳が熱を帯びるのを感じながら、逃げるように二階の寝室へと戻った。

    グラムはポカンとした表情でオレを見ていたが、すぐに慌てて後を追いかけて来た。
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