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    RacoonFrogDX

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    RacoonFrogDX

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    グラムお爺ちゃんのやさしい魔法講座

    『異世界に召喚されたけど『適性:孫』ってなんだよ!?』(16)怒涛のスキル拡張から一夜明け、オレ達はカウンター越しにゼブラと対峙していた。
    『格納』の成長以外にもう一つ重要な変化があったため、まずはそれを済ませることにしたのだ。

    「オレもリミカが生まれる前からこの宿ァやってっけど、
    一週間も連続で泊まってくれた客はあんたらが初めてだ!
    何か良い稼ぎ口でも見つけたってかァ?」

    カウンターには明日以降の宿代四日分が横一列に並べられていた。
    使役したキラメキドロンのお陰でかなりの金額を入手出来たため
    オレ達は引き続きこの宿を拠点とすることにしたのだった。

    「ちょっとお父さん、失礼でしょ!」
    「ワッハッハ、すまんすまん! ま、オレは代金さえキッチリ
    貰えりゃ一週間でも一か月でも泊まってもらって結構だけどな!」

    ゼブラは銀貨を回収するとカウンターの奥へと消えていった。
    尻尾がユラユラ揺れており、どうやらかなりご機嫌なようだ。

    「ちょっと、私に謝ってどうするの!
    …あっ、と…すいません、うちの父が失礼しました!」

    リミカは父親に声を張り上げた後、慌てて当事者達に頭を下げた。
    この調子だと、粗雑な父親の言動をフォローする機会も多そうだ。

    「ああ、いえ、気にしてないので…構いませんよ。」

    オレがそういうと虎風庵の看板娘はホッとした顔で頭を上げた。
    稼ぎ口というか不労所得には変わりないので個人的にはなんとも
    微妙な気持ちだが、いわゆる汚い金ではないので許してもらおう。

    「すいません、いつもあんな感じで…でも、一週間も連泊して下さる方は
    本当に初めてなので、お父さんも舞い上がっちゃったんじゃないかと思います。」

    リミカが言うには、虎風庵は周辺の宿とは異なり殆どの客が連泊しないらしい。
    食べてみれば美味しいものの、味以外は完全にゲテモノなヌピャルタ料理もだが
    ゼブラのああいうストレートな物言いにも流行らない原因があるような気もする。
    とはいえ、その辺りの推測はさすがに伝えず宿を出ることにした。



    「今日はどうするの?」
    「路銀稼ぎはキラメキドロンで充分じゃから、冒険者ランクの
    更新を目指して無理をしない範囲で依頼をこなしていくとしよう。」

    冒険者ギルドにやって来たオレ達は、昨日同様初心者向けの依頼を吟味した。
    グラムが依頼をこなす場合は採取よりも討伐や狩猟の方が早いということで
    今日は害獣の討伐依頼を受けることになった。

    「…それでは、林に現れたエテコールの討伐を貴パーティにお任せいたします。
    報告期限は本日中となっておりますので、時間の経過にはお気を付けください。」
    「はい、了解しました。」

    慎ましく暮らすぶんにはお金の心配が殆どなくなったため、冒険者ギルドでは
    冒険初心者向けの害獣駆除依頼を一件だけ受注して町の外に位置する林へと向かった。
    昨日とは異なり常識的な依頼を受け方をしたお陰か、受付嬢の反応も実に淡々としていた。



    林に着くとグラムがそわそわした様子でオレを見てきたので、ものは試しと
    声援を送ってみたところ、雄たけびを上げながら林の奥へと突入していった。

    グラムが帰って来るまでスキルの練習に励もうかと思っていたのだが、
    頼りになる祖父は五分と経たずに猿の様な獣の死骸を携えて戻って来た。

    受けた依頼が一件だけのため、昨日よりも更に自由時間が増えた形となったが
    今日はグラムから魔法を教わる予定になっていたため、これは都合が良かった。

    「それでは、かわいい孫のためにお爺ちゃんが魔法を教えてあげよう。」

    グラムは背負ってきたカバンの中から木札と筆記具を二組取り出し、地面に広げた。
    並べられた二枚の木札のうち、片方の札にのみ不可解で複雑な文様が描かれていた。

    「魔法を扱うには、まず魔法の仕組み自体を理解する必要がある。
    樹ちゃんはこの世界の創世神話を覚えておるかのう?」
    「最初に混沌があって、神様が混沌から色んなものを分類した…って話だっけ?」

    「その通り…そこで語られているように、この世界では混沌こそが万物の起源とされておる。
    既に形が定められた法則、つまり自然法則上においては自然法則に則った事象しか引き起こせない。
    しかし形が定まっていない法則…混沌からならば、理論上どんな現象でも引き起こすことが出来る。
    神様の真似をして混沌から何らかの事象を形作る作業、それがこの世界での魔法というワケじゃな。」
    「ワケじゃなって…そんな難しそうなこと、簡単に出来るんだ?」

    「無論、簡単ではない。
    いわゆる"スキル"は魔法を発動するために必要な手順をすっ飛ばして特定の事象を引き起こしてくれるが
    スキルによる補助がないのであれば、その木札に描かれているような文様を使いたい魔法ごとに記憶して
    完璧な形で描き上げなければならんからな。」

    残念な話だが、グラムの説明を聞く限り魔法の習得は一筋縄ではいかないようだった。
    元の世界でも魔術と言えば魔導書に複雑な魔法陣…そして入手困難な道具に精密な儀式と
    実行するとなると面倒そうなイメージがあったが、まさか異世界でも似た様な状態だとは。
    もう少しこう…手をかざして「ファイア!」って言えば簡単に火球が飛ぶみたいなものを
    想像していただけに、これは少なからず衝撃だった。

    「でも、それだけ難しい技術であっても…たしか爺ちゃんは何種類か魔法が使えるよね?」

    以前ステータスを見た際に、グラムが水や炎といった魔術系のスキルを保有しているのをオレは覚えていた。

    「そうするだけの価値があるから、実際に苦労して覚えた…と、いうだけじゃ。
    例えば水の魔法は飲み水は勿論料理にも活用出来るし、火の魔法は野営や乾燥にも使える。
    とりわけワシは軍人であったから、この手の緊急時に使えるスキルは習得必須じゃったぞ。」
    「ああ、なるほど…職業柄覚えないといけないってパターンもあるのか。」
    「うむ…ちなみにそうして方法を覚えても、それがスキルとして定着するかどうかは
    また別の話で…他のスキル同様覚えてから更に使い続ける必要がある場合が殆どじゃ。」

    「…なんか、適性以外のスキル習得って本当に"修行"しないといけないんだね。」
    「それ故に、どうしても必要な場合を除いて、通常は相性が悪そうなスキルの習得に
    時間を掛ける者は少ないのじゃ…ステータスの適性欄である程度予想は立てられるが、
    何ヶ月と時間を費やしたが習得出来なかったとなれば正にくたびれもうけじゃからな。」
    「そっかあ…となると、爺ちゃんは血の滲むような努力をしてきたってことだね。」
    「うむ…そしてそのお陰でこうして樹ちゃんと旅が出来ているワケじゃ、ムフフ。」
    「お、おう…」

    オレは話を聞き終わると、改めて二枚の木札を見た。
    様々な記号と複雑な線形、異界の文字が組み合わさった独特の文様。
    これを何種類も完璧に記憶する…というのはかなり骨が折れそうな作業だが
    神様の真似事と例えられるくらいなので、このくらいはまだやさしい部類なのかもしれない。

    ただ、急ごしらえでも会得出来るようなものではなさそうなので
    自分の身を守るための手段は何か別の方法を考えた方が良さそうだ。

    「確かに習得までは大変じゃが、利点を挙げておくと魔法の発動自体は
    "文様を描くことが出来れば道具がなくとも使える"…という点があるぞ。」

    グラムがそう言って空中を指さすと、指をさした辺りに突然水の塊が出現した。

    「えっ!?」
    「今のは、頭の中で文様を"思い描いて"魔法を使ったんじゃ。
    スキルとして登録されない場合でも習得していることが相手に
    バレないと考えれば切札としても十二分に機能し得るじゃろう。」
    「な、なるほど…!」

    オレが素直に感心すると、グラムは満足げに微笑んだ。

    「ものは試しじゃ…樹ちゃん、一回文様の模写をしてみなさい。」
    「うーん…それじゃあ一度、やってみようかな。」

    オレは差し出された木炭を受け取ると、木片に模様を模写してみることにした。


    …そして数十分後。


    まあ、分かっていたことだが…完成した文様はかなり歪でガタガタだった。
    そもそも、木炭を使って文様を描くという行為自体今回が初めてのことだった。
    自分に絵の才能があれば、もう少し上手に描きうつせていたのかもしれないが。

    「うむ、初めて描いたにしては充分上手な部類じゃ。
    最初から上手くやれる者はおらんぞ、天賦の才があるのであれば別じゃが
    一朝一夕で習得できる技術ではないのだから気長に練習を続けることじゃ。」
    「…ちなみに、この木札でも魔法は使えるの?」
    「魔法を発動したい方向へ木札を向けて、使いたい魔法の
    イメージを思い浮かべながら木札に意識を集中させるんじゃ。
    これは水の魔法の文様じゃから、それを念頭にやってみなさい。」

    グラムに促され、オレは木札から綺麗な水が湧き出るイメージを浮かべ意識を集中させた。
    すると…木札からはとんでもなく汚い泥水が、勢いもなくびちゃっと地面にこぼれ落ちた。
    これは完全に失敗といっていいだろう。

    「樹ちゃん、初めての魔法で水が出ただけでも十分凄いことじゃぞ。」

    グラムはそう言うが…よく考えたら今のグラムは孫を甘やかすことに命を懸ける
    眷属としての"祖父"なので、最大限評価基準を下げた状態でこの評価だとすると
    普通に評価した場合間違いなく論外レベルの出来だろう。

    この世界での安全がもう少し確保されてから練習を始めるのはアリかもしれないが、
    今の段階ではスキルを応用して攻撃技に転用する手段を探した方が良いと思われた。
    追手が差向けられている可能性を考慮すると、時間の掛かる技術習得は今は悪手だ。

    とはいえ、今日の特訓は自分から言い出したことである。
    しばらくグラムから魔法の指導を受けた後、キリの良いタイミングでオレは町へ戻ることにした。

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