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    RacoonFrogDX

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    RacoonFrogDX

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    祖父と孫と、迫り来る悪意。

    『異世界に召喚されたけど『適性:孫』ってなんだよ!?』(19)翌日も引き続きぬいぐるみダンジョンで訓練を行った。
    今日は、昨日手ごたえのあった『改竄』スキルの反復練習と
    より攻撃的なスキルの利用法を試してみる予定になっていた。

    キラメキドロンのお陰でかなり潤った貯蓄を少し崩して買い物をした後、
    オレ達は昨日と同じように平原のど真ん中に佇む迷宮へと潜っていった。
    ダンジョンの様子も昨日と変わらず、ただのぬいぐるみにしか見えない
    モンスターがだだっ広い平原フロアをよたよた歩き回っていた。

    「相変わらず、ダンジョンの中とは思えないような解放感だなあ。」
    「ふむ…世界にはフロアがいきなり海の中だったり、空の上
    だったりするダンジョンも存在していると聞いたことがある。」
    「マジか、いきなり空の上は怖いな…そんなヤバいところ、どうやって
    攻略するんだろ…っと、早速気付かれたか、アイツらも結構目ざといな。」

    オレの視線の先には、雑草の生い茂った地面の上を
    たどたどしい動きで駆けて来るモンスターの姿があった。

    「せっかくだから、試したいことを試してみるか……『格納』!」

    オレがスキルを発動すると、ネコのぬいぐるみモンスターはころんと地面に転がった。

    「昨日は『出庫』の実験を行ったが、今日はどうするんじゃ?」
    「ああ、えっと…上手くいくかな……『格納』」

    オレは魂が抜けたモンスターに向かって再度『格納』を使用した。
    『格納』スキルが発動すると、モンスターの体はその場から消え去った。


    ―『分類別格納(魔物)』を習得


    それと同時に『通知』スキルが発動し、能力の拡張を知らせてくれた。
    ステータス表示を呼び出して『格納』の詳細を確認すると、行が一つ増えていた。



    格納-格納中(魂) :繝後う繝薙ャ繝(0%)
       …
       …
       …
      -格納中(魔物):繝後う繝薙ャ繝(0%)



    ぬいぐるみモンスターの中に小型の個体がいたので思い付いたのだが、
    つまるところオレが試したのはモンスターの体が格納出来るか…という実験だった。
    分類別格納の項目はかなり細かく分かれているため成功の公算はかなり大きかったのだが、
    『格納』は通常のアイテムボックスとは使い勝手が違うため一応試しておきたかったのだ。
    魔物の格納が何の役に立つのかと問われると、今のところ特に思い付かないのだが…何が
    どんな時に役に立つかは分からないためスキルの可能性を広げておくのも大事な事である。

    「ん、体の方にも%表示が出てるな…生き物は基本的に『時効取得』の対象なのかな?」

    確か、虫を格納した時も横の方に%表示があった気がする。
    虫の方は体と魂を個別に…ということはなかったと記憶しているのだが
    スキルを使い込んだことでより細かな使い分けが出来るようになったのかもしれない。

    「で、ここから更に『出庫』!」

    オレは格納したモンスターの魂を破棄してから、再びステータスを確認した。



    格納-格納中(魂) :
       …
       …
       …
      -格納中(魔物):繝後う繝薙ャ繝(0%)



    一覧から魂の表示が消えて、体の方だけが残っていた。

    「使い道は分からないけど、『格納』を使えば倒したモンスターの体を
    崩壊させずに保存出来るみたい…これ、100%になったらどうなるんだろ?」
    「まったく予想がつかんのう、こういうのは地味ながらレアケースじゃ。
    通常の収納系スキルでは、取り込めても出した瞬間から崩壊が始まるが…」

    『秘匿』を停止させて『鑑定』スキルでオレのステータスを眺めていた
    グラムも、この検証に関しては活用方法を考え付きあぐねていたようだ。

    「なにぶん、モンスターの体は崩れ去るのが当たり前じゃからのう。
    取り出しても崩れないのであれば素材として活用出来るやもしれぬ。」
    「うーん…とりあえず、このまま100%になるまで置いておくよ。」

    『格納』スキルの実験を終えると、オレは続けて
    収納系のスキルにおける定番の戦い方を試してみることにした。

    少し進むと、今度は別のぬいぐるみモンスターが襲い掛かってきた。
    柔らかいフェルトの牙で足に噛みついてきたのは、犬のぬいぐるみだ。
    オレはモンスターの体に触れると、『出庫』スキルを発動させた。

    …瞬間、モンスターの体にはナイフが突き刺さっていた。
    重いものや鋭利なものをあらかじめ収納しておき、それを取り出して
    不意打ち的にモンスターを攻撃するのは創作物でよく見る定番の戦い方だ。
    残念ながら、オレは現在元あった場所に返すか手元に出すかしか出来ないので
    遠距離から隠れて得物を落とす、みたいな使い方が出来ないのが少々残念ではあった。
    今の段階ではこうして相手に触れることで、敵の体内に直接武器を出現させるのが精々だ。
    なお、この一撃が致命傷になったのか、ぬいぐるみモンスターは地面に倒れると体が崩れ落ちた。

    「うむ、これはそれなりに応用が利きそうな使い方じゃな。
    スキルで格納できるサイズが大きくなれば色々出来そうじゃ。」
    「でしょ? 短めの槍なんかを収納出来れば、柄の長さの分だけ遠くから攻撃出来たりさ…
    まあ、現状どう頑張っても近接攻撃なんだけど、万が一の時に少しは抵抗出来るかもしれない。」

    時間を割いて地道に実験した結果、この二日間で攻撃手段と呼べるものは確実に増えたはずだ。
    実験したかったことも試し終えたため、この後は昨日から引き続いて『改竄』の訓練を行った。



    「ふう、結構頑張った気がするな。」
    「そろそろお昼にせんかの? お弁当は鮮度が命じゃ。」

    ダンジョンの外に戻ったオレ達は、適当な木陰で昼食を食べることにした。

    「…それにしても、本当に人が来ないんだね。」

    町で買ったサンドイッチを頬張りながら、オレはグラムに話しかけた。

    「初心者向けといえど、アラタル自体が郊外の町じゃからなあ…初心者といえど
    同じ初心者向けならもっと便が良いとこを選ぶし、有益なアイテムを得られない
    という点でもこのダンジョンは旨味はゼロに等しい。」
    「オレみたいな人間にはありがたいけど、本当に超初心者向け…利点がないわけか。
    そりゃ門番もあくびするわな…楽な仕事かもしれないけど、一日中立ちっぱなしは
    地味にしんどそうだな。」

    そんなことを話していたせいかは分からないが、
    遠くの方で門番が大きなクシャミをして、鼻を拭っているのが見えた。

    「そういえば、ここってボスはいるの? 迷宮の主というか、そんな感じの。」
    「一応いるぞ、メガロシリーズと呼ばれる大きなぬいぐるみモンスターじゃ。
    体が大きい分攻撃力もそこそこあるが、ダンジョンに出現する
    大型モンスターの中では文字通り"最弱"じゃろうな。」
    「それくらいなら、オレでも倒せるかな…?」
    「樹ちゃんなら大丈夫じゃ! 飯を済ませたら、ワシと一緒に倒しに行こう!」

    グラムが軽いノリで討伐に行こうと言い始めたので、オレは慌てて押し留めた。

    「いや、さすがに今日これからはちょっと…!
    一応、初めてのダンジョン攻略になるし、行くなら万全の体調で挑みたいな。」
    「獅子は兎を狩るのにも全力で挑むという…それならば、また明日挑もうぞ。」

    もうすこし日を開けたかったのだが、ヤル気満々のグラムに逃げ道を封じられてしまった。
    かくしてオレは、異世界生活初の…もとい、人生初のダンジョン攻略に挑むことになった。

    「(一応、主と従の関係のはずだけど…なんかずっと振り回されてる気もするな…)」

    昼食を終えると、町までのんびり歩いて戻った。
    グラムは着の身着のままでも問題ないと言っていたのだが、念のために装備を揃えて
    おきたかったためスキルの訓練は切り上げてそちらの準備に時間を充てることにした。



    「おう、今日も早いな。」

    虎風庵に戻ると、ゼブラが店番をしていた。

    「ははは…というか、ゼブラさんがカウンターにいるの久々に見た気がします。」
    「リミカが、買い出しに行ってくれてるんでな。
    その間はオレが看板娘ってことだ…安心しな、夕飯はちゃんと作ってやるから。」
    「楽しみにしてます、今日は何ですか?」
    「ヌピャルタの煮付けだ!」
    「あー、えっと…楽しみですね……では、部屋に戻りますんで…」
    「おっと、待ってくれ…その前に、ちょっとだけ良いか?」
    「? どうかしましたか?」

    取り留めのない会話を終えて二階に上がろうとすると、
    ゼブラは不意に神妙な顔つきとなり、オレ達を留めおいた。
    近くに…とジェスチャーをしたため、三人で顔を寄せ合う。

    「実はな…お前らを探してるってヤツが来たんだ。」

    ゼブラは眉間にしわを寄せながら、そんなことを告げてきた。
    一瞬、グラムの目つきが鋭くなった気がした。

    「はて…ちなみにそれは、どんな方でしたかな?」
    「パッと見なんてことないフツーの旅人って感じだったんだがな。
    そいつ、オレが適当にはぐらかしてると魔法を使ってきやがった。」
    「えっ…魔法って、いったい何の?!」
    「多分、精神感応系の魔法だな。 魅了とか、洗脳とか。」
    「せ、精神感応…!? そんなの食らって大丈夫だったんですか!?」

    話の予想外の展開に、オレは目を丸くした。

    「ま、そこはご覧の通りな。
    商売人は大概魔術耐性のスキル持ちか、大枚はたいて耐性を付与してくれる道具を購入
    してるもんだが…ウチは小せえ宿だから大した道具は持っていないと踏んだんだろうな。
    だが、残念ながらオレもリミカも耐性持ちだ…牙剥き出しにして凄んだら逃げてったよ。」

    ゼブラはそう言いながら、実際に歯を剥き出しにして二カッと笑ってみせた。
    外見がまんま虎のゼブラに凄まれたら、正直言ってかなり恐ろしい。

    「あの…というか、自分のスキルの話…オレ達に話しても良いんですか?」

    この世界の住人は、基本的に自分のステータスを何らかの方法で隠していることが多い。
    ステータスは自分の個人情報であり、それを曝け出しておくメリットが何もないからだ。
    スキルに関してもいざという時の切札となるため冒険者同士でパーティを組んだ時でも
    必要最低限の情報共有だけ行うのが慣例となっている…とは、グラムの言である。

    「アンタらは見るからに人が良さそうだからな、そんでもって、たぶん口も固いタイプだ。
    …その表情は図星だな? 根拠はないがオレの直感は昔からよく当たるんでな、ガハハハ!」

    なんだか、予想してたよりも適当な根拠だった。
    …自分で言うのもなんだが少なくとも自分では悪人じゃないと思っているし、
    スキルを他の人に話すつもりもないのでゼブラの直感は当たっているのだが。

    「…っと、話が逸れちまったな。
    一応聞いてみるんだが、アンタら、なんかヤバい奴らに目ェ付けられてンのか?」
    「心当たりはありませんなあ…何か人違いや勘違いをしていたのでは?」

    不審者がハイレム王の追手である可能性は高かったが、当然話せるわけもなく。

    「まあ、普通にそうだよな…なんかソイツ、
    えらく具体的な背格好を知ってたからちょっと引っかかったんだ。
    ああ、それなら全然構わねえ、気を悪くさせたらすまなかったな。」
    「いえ、大丈夫です…じゃあ、私たちは部屋に戻りますね。」
    「おう、ごゆっくり!」

    密談を終えて、オレ達は改めて二階の自室へと戻った…そして
    当然の話だが、顔を突き合わせて緊急会議を開く羽目になった。

    「ねえ、今の話…」
    「うむ、確実にハイレム五世の手の者じゃろう…なんと執念深いことじゃ。
    ついでに追手が誰か、という点に関しても何人か心当たりがある…暗愚王め。」

    祖父になってからは常にニコニコしていたグラムが、
    部屋に戻ってからは青筋を立ててかなり険しい顔をしていた。
    どうやら相当おかんむりのようだ。
    対してオレは人生で一番不安になっていた。
    ある程度覚悟はしていたが、唐突にその時がやってきたのだ。

    「…ゼブラさんにウソついちゃったけど、大丈夫かな?」
    「樹ちゃん、"大丈夫かな?"ではなく、大丈夫にすれば良いのじゃよ。」
    「ええと…撃退するってことだよね?」
    「うむ…あ奴は追い返したと言っていたが、ワシらのことはバレたものと
    見なして問題ないじゃろう…よって、今から件の者をどう処理するか考え、
    今晩より実施する。穏便に処理するためには樹ちゃんの協力も不可欠じゃ。
    …やれるな、樹ちゃん?」

    …これが経験の差というものなのかもしれない。
    オレにとっては二回目の命の危機なのだが…グラムは実に
    落ち着いた様子で方針を固め、オレの目を見てほほ笑んだ。

    「…自分の命が掛かってるから。
    相手が殺し来るのであればオレも全力で抵抗するよ。」
    「それでこそ我が孫…さ、作戦会議といこうではないか!」

    精神感応系の能力が暗殺者にどの程度効果があるのか分からないが、
    "人間相手には使いたくない"という考えも、自分の命が掛かっているのであれば話は別である。
    はっきり言って絶体絶命なのだが、これまでのすべてを無に帰させないためにも全力で抗わなければならない。


     
     【 氏 名 】 枕木樹

     【 種 族 】 ヒト

     【 年 齢 】 29

     【 適 性 】 孫■

     【 職 業 】 期待の孫■

     【 能 力 】 体力:☆☆
             知力:☆
             防御:☆
             俊敏:☆☆
             耐性:★☆☆☆☆
     
     【 孫 ■ 】 適応 鑑定 通知 格納☆ 出庫 返却 時効取得 換骨奪胎
                          
             爺たらし 改竄 財布(小)



     【 氏 名 】 枕木グラム

     【 種 族 】 祖父

     【 年 齢 】 75

     【 適 性 】 祖父

     【 職 業 】 祖父(騎士)

     【 能 力 】 体力:★★★★★
             知力:★☆☆☆☆
             防御:☆☆☆☆
             俊敏:☆☆☆
             耐性:☆☆☆☆
     
     【 祖 父 】 祖父と孫 高齢者講習 溺愛 孫パワー 衰え知らず 孫の声援
             
             老骨の意地 おみとおし 虫の報せ お小遣い 孫と一緒

    【 騎 士 】 体力★ 馬術★ 剣術★ 槍術☆ 話術☆ 体術☆ 弓術☆ 盾術☆

             魔術(水)☆ 魔術(炎)☆ 魔術(癒)☆ 騎士道★ かばう☆ 気配察知☆

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