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    RacoonFrogDX

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    RacoonFrogDX

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    嚙みつき戦隊☆ベアレンジャイ!!!

    『異世界に召喚されたけど『適性:孫』ってなんだよ!?』(23)「畜生共、我らの邪魔をしてタダで済むと思うなよ!」

    グラムは剣を構えながら魔物の集団に向かって駆けだした。
    敵対者が動くと同時に、一列に並んでいたモンスターも陣形を変えた。
    ベアシールダー…両腕からすだれの様に垂れ下がった毛のカーテンが特徴的な熊が一歩前へ
    歩み出ると、鋭い爪を持ったベアファイターと木の枝を携えたベアドルイドが後方へ下がった。

    「はあッ!」

    グラムが剣を振り下ろすのに合わせて、ベアシールダーは両腕を顔の前で構え剣を受け止めた。

    ―モコッ…

    剣が空を切る鋭い音に対して、剣が腕に当たった音は異様に鈍かった。

    「ッ…コイツ、何ということじゃ!」

    剣の勢いは奇妙な弾力の毛に吸収され、鋭い刃はその毛一本さえ切り落とすことが出来なかった。
    直後ベアシールダーは扉を開くように両腕を大きく振るい、グラムを勢いよく殴り飛ばした。
    グラムも空中ですぐに態勢を整えると、着地と同時に後方へ飛び退き近くまで戻って来た。
    "敵"の後退を確認したベアドルイドは、樹の枝を掲げると空中に複雑な図形を描き始めた。

    「ちいッ…強化魔法か。」

    モンスターを睨みつけながら、グラムはぼそりと呟いた。

    「…もしかして、ガッチリ連携してくるタイプのモンスター?」
    「うむ、さすが樹ちゃん…素晴らしい観察眼を持っておる。
    彼奴等はまさしく連携をとってくるタイプの魔性の様じゃ。」

    グラムはベアレンジャイから目を離すことなく、オレの問いかけに返事をした。

    「ベアシールダーの怪しげな動きを見たじゃろう、孫の声援を受けし
    我が剣を一瞬で無効化するとは…何か特異な能力を持っておるのじゃろう。
    そしてベアドルイド…アレは仲間に強化魔法をかけるつもりのようじゃな。
    前衛が敵を留めている間に後衛が味方を超強化、その後全員で一斉攻撃を
    仕掛けてくる…あれらは恐らく、そういう性質のモンスターじゃ。」

    RPGでも定番の戦い方だが、やられる側に回るとなるとたまったものではない。
    モンスターが固まっていなければ弱点を突けば良いのだろうが、連携されると
    その難易度は急激に跳ね上がる…徒党を組んだモンスターがこれ程恐ろしいとは。
    そういう場合は連携を崩すか、連携を取られる前に倒してしまうのが定石だが…。

    「…それって、ヤバいよね?」
    「…そうじゃのう、最悪死ぬやもしれん。」

    グラムは不意に掌を突き出すと、炎の槍を出現させてモンスターへと放った。
    恐らくスキルの『魔術(炎)☆』を利用したものだと思われるが、まさしく魔法攻撃といった感じだ。
    魔法の槍は高速で魔物の元へ飛んでいったが、ベアファイターが身を乗り出して爪を振るうと消えてしまった。

    「…むう、コレも防がれるとは。」
    「今の魔法、なんか凄そうだったけど…あれでも攻撃が通らないとか」
    「うむ…正直予想以上の強さじゃが、今の動きは少々おかしかった…
    糸口が見えたやもしれん。」
    「え、本当に?!」
    「うむ…今の動きは、彼奴等の名前と反していた。」
    「名前…ファイターが防御に回ったからってこと?」
    「正確には、防御役のベアシールダーが動くべき場面で何故か
    ベアファイターが魔法の槍をかき消すのに出ばってきた点じゃ。」
    「そっか…剣の時と同じことが出来るならシールダーが動けばいい。」
    「その通り、つまりシールダーは"動けなかった"。
    あの強力な防御が連続で行えない可能性もあるが、連携に特化した
    モンスターは大抵一芸に特化した個体の集まりじゃ…そのことから、防御が
    連続で行えないのではなく、シールダーが防げるのは物理攻撃のみだと推測する。」
    「成程…魔法に長けてそうなベアドルイドは目下違う魔法を構築中で、
    シールダーは魔法耐性がない…だから、攻撃に特化したファイターが
    力で無理やりねじ伏せたってことか。」
    「樹ちゃん…なんという理解力の高さ…やはり天才じゃ…!」

    これがゲームであればリセットしたり攻略情報を検索したり出来るが、残念ながら
    ここは現実でありモタモタしていたらあっさり殺されてしまう非常に危険な場面だ。
    一人ではないという安心感から辛うじて冷静でいられるが、グラムのように即座に
    相手を分析する余裕はとてもじゃないが持ち合わせていなかった。
    最後、絶妙に締まらなかったものの…これが現役の頼もしさというやつだろう。

    「さて、先ずはどうあれシールダーをどうにかせねばならんだろうな。
    一芸特化型とはいえベアファイターとの力比べは望むところ…そして
    一芸特化型であるが故に、ドルイドは恐らく一番戦闘力に欠けている。
    ワシの持ち味を問答無用で殺してくるシールダーが現状一番厄介じゃ。」

    グラムが 重傷覚悟で突っ込めばシールダーかファイターを
    強引に突破出来るかもしれないが、それはさすがにリスクが高すぎる。
    オレ一人が残されたところでベアドルイドにすら打ち勝てないだろう。

    「…ねえ爺ちゃん、こんなのはどうかな?」

    話を聞いている際、一つ作戦を思いついたオレはそれをグラムに伝えてみた。
    物凄く凡庸で古典的な手だが、これならシールダーを処理出来るかもしれない。

    「…ふむ、試す価値は…大いにある。」
    「良かった…じゃあ、お願いします。」

    作戦のためのアイテムを『出庫』すると、オレはグラムに手渡した。

    「小賢しい魔物共め、これでも喰らえ!」

    グラムはそう叫ぶと再び跳躍し、ベアシールダーに向けて剣を振り下ろした。
    対するベアシールダーも、再び腕で剣を押し留めると両腕を大きく振るった。
    グラムは再び後方へと吹っ飛ばされるが、その顔は不敵に笑っていた。



    「…獲った!」





    ―瞬間、閃光が走った。





    「…!?」



    シールダーの腕で急に火が燃え立つと、そのまま凄い勢いで体全体へ燃え広がっていった。
    ベアシールダーは激しく燃え上がる自身の腕を見て一寸動きを止めた後、激しく絶叫した。

    グラムは突撃した際、斬撃に先行してフラムシードの種入り小瓶を投げつけていた。
    このフルーツの種は果肉と同じ成分の液体に浸けておかないと激しく燃え上がる性質を持つ
    というデンジャラスな代物で、ガランゴン山道で入手して以来持て余していたものであった。
    ベアシールダーにはダメージが通らなかったが、この攻撃の狙いは"種を腕にくっつけること"である。
    斬撃により小瓶は割れ、剣の面を利用して吹っ飛ばされる直前まで種を押し付けることで危険な種は
    見事に燃え上がってくれたようである。

    突然の炎上に動揺したのか、ベアドルイドは魔法を中断し魔法で水を生み出そうとした。

    「させんぞ!」

    態勢を立て直したグラムは地面から砂利を削り取って投げつけ、魔法の構築を阻害した。

    全身が炎に包まれたベアシールダーは、ほどなくして地面に崩れ落ちた。
    魔物はまだ燃えていたが、恐らく死亡したのだろう、その体は崩壊し急速に消え去った。

    「…よしッ!」

    オレは目論見通りの結果が得られたため、小さくガッツポーズをとった。
    …同時に、あまりにも物騒過ぎる果物の存在に恐れおののくこととなった。

    「―――!!!」

    連携が崩れたせいか、ベアファイターは怒り狂い猛烈な勢いでこちらに突進してきた。

    「孫より加護を得た祖父に敵うと思うか、愚か者めが!!」

    グラムは突進を避けるどころかベアファイターの方へ跳躍すると、
    相手が攻撃を放つ間もなく強烈なパンチをモンスターの巨躯に叩き込んだ。
    大人を抱えたまま高い樹の上まで運んで行けるような筋力の持ち主に全力で
    ぶち殴られたベアファイターはベアドルイドの横を猛スピードで通り過ぎ、土壁で磔となった。
    直後、追い打ちのために投擲された剣がその額に深々と突き刺さりベアファイターは絶命した。

    祖父、正に鬼神の如き…セブの時は戦いの様子を覗えなかったが、こうして間近で見てみると
    スキルの効果で超強化されたグラムは常人では不可能な戦い方を実に簡単にやってのけていた。

    ベアドルイドはこちらを睨みつけ唸り声を上げたが、グラムはそれを無視して接近していく。
    追い詰められたベアドルイドはやけくそになったのか、咆哮しながらグラムに突っ込んでいった。

    「自ら死にに来るとは、実に潔い!」

    グラムが魔獣の体を地面に叩きつけようとした瞬間……突如、ベアドルイドの体が消失した。

    「…何ッ!?」

    姿を消したベアドルイドはその直後、突進の勢いを保ったままオレの目の前に出現した。

    「え…」
    「ッ転移魔法…!! 樹ちゃんッ!!!」

    一転、グラムが悲鳴を上げた。



    …ベアドルイドは、魔法に特化したモンスターである。
    スキルには『ベアマジック★』とあるだけで、習得している魔法までは分からなかった。
    モンスターは、一般的に周囲に対して破壊のみをもたらす殺意の塊のような存在である。
    それ故に、魔法使いとはいえ主に移動や逃走の手段として用いられる転移魔法を使って
    くるというのは、正直想定外だった。



    「ッ…格、納ッ!!!」

    モンスターの動きが、妙にゆっくりに感じられた。
    暗殺されかけた時と、追手に居場所を知られた時と同じ恐ろしさが全身を駆け巡った。
    ベアドルイドが飛びかかって来るのを間近に捉えながら、オレは必死でスキルを発動した。

    「ああああああああああああああああ!!!」

    グラムの絶叫が響くと同時に、オレとベアドルイドの間に大量の水が出現した。
    グラムが水の魔法を発動したのだろうか、本当に物凄い量の水が周囲に出現した。



    「…ッ!?」



    モンスターの巨体と一瞬衝突したものの、水が衝撃を弱めてくれたおかげか
    オレは大きなダメージを負うことなくなんとか衝撃を受けきることが出来た。

    魂を格納されたベアドルイドは、水の壁が崩壊すると共に白目を剥いて地面に崩れ落ちた。



    ―『輪奐一新』を習得



    「樹ちゃあああああん!」

    グラムは今にも泣きそうな様子でオレのもとへ駆け寄って来た。

    オレはオレで突然の出来事に酷く動揺し、しばらくの間呼吸を荒くすることしか出来なかった。
    心臓も、爆ぜるのではないかと思うほど激しく脈打っていた。

    倒れたベアドルイドの、ぽかんと開けたその口の中からは
    こちらを睨みつけるかの如く鋭い牙が何本も顔を覗かせていた。
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