『異世界に召喚されたけど『適性:孫』ってなんだよ!?』(24)死にかけたのは、これで三回目だ。
この世界に来て二週間も経ってないはずだが、さすがに少々危機が多過ぎやしないだろうか。
一回目と二回目は暗殺回避からの追手撃退で、両者は分離出来ない…
ある意味セット売りの危機と言えたが、今回は完全に突発的なスタンピード。
しかも追手であるセブを撃退した二日後の出来事である。
一応すべて切り抜けることが出来たとはいえ、運が良いのやら悪いのやら…。
ベアレンジャイの襲撃から生還したものの、まだ放心状態から戻りきれて
いなかったオレは抜け殻となったベアドルイドをぼーっと眺めていた。
「樹ちゃん、ケガはないかの!? ケガはしとらんかの!?」
駆け付けたグラムは、今にも泣きそうな表情で具合を確認してきた。
「え? あ…うん、大丈夫!」
グラムの迫力に圧倒され、少しずつ体の感覚が元に戻ってきた。
しかし、手を取られ立ち上がろうとすると少しふらついてしまった。
「樹ちゃん。」
「あっ…と、ごめん…大丈夫、大丈夫!」
どうやら完全に腰が抜けていたらしい。
メンタルの貧弱さに多少恥じらいを覚えつつも
オレはなんとか体勢を立て直し、ステータスを開いた。
『格納』スキルの状態を確認すると、格納一覧には
格納中:繝吶い繝峨Ν繧、繝の魂(0%)
と、表示されていた。
ベアドルイドは能力的にオレより明らかに格上だと思われるが、魂は格納出来た。
やはり『格納』は発動さえすれば一撃必殺の確殺手段に成り得る戦い方のようだ。
「…そういえば。」
動揺がおさまってくると、先程『通知』が発動したのを思い出した。
【 孫 ■ 】 適応 鑑定 通知 格納 出庫 返却 時効取得 換骨奪胎
爺たらし 改竄 輪奐一新
確認すると『輪奐一新』というスキルが新たに増えていた。
名前から効果が推測出来る場合もあるが、コレについては全く分からない。
詳細を確認するために、オレはスキル名を指でタップした。
輪奐一新:蟇セ雎。繧堤・也宛縺ォ逕溘∪繧悟、峨o繧峨○繧九
「…あれ、説明が文字化けしてる?」
「樹ちゃん、どうかしたかの? やっぱり今ので体調が…」
「いや、新しくスキルを習得したんだけど、説明が文字化けしてて…」
そもそも適性表示の"孫■"からして文字化け状態である。
他の項目で同じことが起きても何ら不思議ではないが、効果が分からないのはちょっと頂けない。
"孫■"のスキルは予測のつかない効果のことも多いため、詳細不明な状態は余計にモヤモヤした。
「ふむ…それなら、ワシが樹ちゃんのスキルを『鑑定』してみよう。」
「あ…それ、アリかも。」
使い込まれた強力な『鑑定』なら、スキルそのものの説明を読むことが出来るかもしれない。
オレはグラムにスキルを鑑定してもらった。
「…ふむ、なるほど。」
「…どうかな?」
「問題ない、どうやら表示がバグっているだけの様じゃな。」
グラムは鑑定を終えると、次のような提案をしてきた。
「樹ちゃん、『輪奐一新』を熊に使ってみてはもらえんかのう?」
「えっ、ベアドルイドに…? 危ないスキルとかじゃないよね?」
「大丈夫じゃ、非常に便利な能力であることはワシが保証する。」
「えっと、よく分からないけど…じゃあ、『輪奐一新』…?」
グラムの態度に困惑しつつも、オレはスキルを発動させてみた。
瞬間、ベアドルイドの体はビクッと大きく跳ねると
耳障りな音を立てながらその形を変え始めた。
「ちょ、え、何これ…!?」
目の前の光景を呆然と見つめていたが、変形と共に骨や内臓が露出
し始めためオレは慌てて視線を逸らし後ろを向いておくことにした。
「グラム? 何これ?? なんかめっちゃグロいんだけど???」
「心配無用じゃよ、樹ちゃん。
それよりも、こやつの魂の状態を確認してみてはくれんかの?」
「???」
肝心な詳細を教えてくれないため、オレはしぶしぶステータスを開いた。
「は、なんだこれ…?」
格納中(魂):繝吶い繝峨Ν繧、繝の魂(2%)
格納中(魂):繝吶い繝峨Ν繧、繝の魂(17%)
格納中(魂):繝吶い繝峨Ν繧、繝の魂(36%)
『時効取得』が異様な速度で進んでいた。
驚いてステータス画面を眺めている間にも、魂の漂白に至る%表示は
もの凄い勢いで増加していき、あっという間に100%になってしまった。
同時に後方で鳴っていた音も止み、周囲は静寂に包まれた。
オレは何の気なしに一瞬顔を横に向け、再びステータスに視線を向けた。
格納中(魂):
「…え、え?」
オレが一瞬目を離した隙に、ベアドルイドの魂が格納一覧から消滅していた。
当然その間、『出庫』や『返却』といったスキルは使用していない。
「樹ちゃん、もう振り返っても大丈夫じゃぞ!」
グラムに促されて体の向きを変えると、オレは更に驚くことになった。
ベアドルイドが転がっていた場所に、見知らぬ人物が倒れていたのだ。
人、といっても正確には亜人…ゼブラと同じような、獣人系統の"ヒト"である。
不思議な文様で装飾されたフード付きのローブに身をつつんだ男は目を閉じて深く息をしていた。
その体毛は一部が白くなっており、民話なんかに出てきそうな熊の長老…といった印象を受けた。
目のすぐ上の部分の毛は白く、眉毛の様に垂れ下がっており、
顔の輪郭線辺りから外に向かって跳ねた毛も蓄えらえたヒゲの様だった。
「あのさ、グラム…このスキルって…」
「『輪奐一新』は実にシンプルな効果のスキルじゃった。」
グラムは満面の笑みを浮かべながら、オレの方を見た。
「"対象を祖父に変える"…アレはそういうスキルじゃ。」
予感した通りの説明を聞いてオレが固まっていると、
"ベアドルイドだったもの"はゆっくりと体を起こした。
「ふわ~っ、良く寝たの~…おー! タッくん! おはよー!」
「ど、どうも…」
ついさっきまで殺意全開でトライアングルアタックを仕掛けてきていた
凶暴なベアレンジャイの一角が、今度は祖父としてオレに話しかけてきている。
「…めまいがしそう。」
「タッくん、どうしたんじゃ? お爺ちゃんが魔法で治そうかの?」
「ぬふふ…コレで樹ちゃんをより安全に守り抜くことが出来るわい。」
想定外の"祖父"が増えて、オレが頭を抱える一方で
グラムは新たな仲間を見て満足げにうなずいていた。