Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    RacoonFrogDX

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 37

    RacoonFrogDX

    ☆quiet follow

    危機は去ったことにする。

    『異世界に召喚されたけど『適性:孫』ってなんだよ!?』(26)しばらく歩いていると、門番への報告を終えたグラムが戻ってきた。
    たいして時間が経ってないことを考えると、本当に一声掛けただけなのかもしれない。
    スタンピードの報告がそんな簡潔で良いのだろうか…とは思ったものの、当のグラムが
    "報告してきた"と一言だけ告げ、すぐに昼食の話をし始めたので気にしないことにした。
    結局モンストロとの二人旅は極短時間で終わり、街には三人で帰還することになった。



    「じゃあ、早速冒険者登録をしてくるぞい!」

    冒険者証がないと旅をするのに都合が悪いということで、
    モンストロは街に戻ると一直線にギルドへ向かって行った。

    「…普通に見送っちゃったけど、付き添いとかしなくて大丈夫なの?」
    「モンストロもワシ同様『高齢者講習』を取得しておったからな…
    祖父となった段階で人間としての基礎は習得し終わっておるじゃろうて。
    ここに来る間にも、特におかしな振る舞いはなかった…問題なかろうよ。」
    「あのスキル、そういう効果もあったのか…」

    "孫(オレ)と話を合わせる"のであれば、人間社会についての知識は必須である。
    最初から人間であるグラムはともかく、元々モンスターのモンストロは本来ならば
    一般常識的なものから言語や慣習に至るまで全てを一から学ぶ必要があったわけだ。
    しかし"祖父"には『高齢者講習』という"自動学習装置"とも言えるスキルがあった。
    結果モンストロは"祖父"へ変質した段階で人としての基礎を習得し終えていた様だ。
    『高齢者講習』の有効活用例…というより、恐らく最も恩恵を得られる使い方なのではないかと思う。
    更に言えば、グラムもスキルの効果をアテにして『輪奐一新』を試し撃ちさせた可能性があるだろう。
    不発だったらどうするつもりだったのやら。

    「それよりも樹ちゃん、体を動かしたからおなかが空いたじゃろう。」
    「あれ、もうそんな時間?」
    「もうそんな時間じゃよ、主にスタンピードのせいじゃがな!」

    正直、スタンピードよりも出発前の買い物に時間を費やし過ぎた感があるが…。

    あれは"祖父"の過保護っぷりが遺憾なく発揮された出来事であり、よく考えると
    購入した物品は今回使用していない…やはり控えめに済ませておいて正解だった。

    『格納』のお陰で買った物も無駄にならずに済みそう…などとぼんやり考えつつ
    移動していると、間もなく冒険者ギルド周辺に展開している屋台群へと到着した。

    昼食というには中途半端な時間だったため、モンストロを待ちつつ簡単に食事を済ませた。
    というか、死にかけた衝撃が抜けきってなかったのでガッツリ食べる気にもならなかった。

    「タッくーん、冒険者証じゃ!」

    屋台で購入した串焼きを食べ終えた頃、モンストロがニコニコ顔で戻って来た。

    「おかえり、登録は大丈夫だった?」
    「この程度、朝飯前じゃ~!」
    「よしよし…これで憂いなく行動を供に出来るな。」
    「はい、コレ…モンストロ爺ちゃんの分の串焼き。」
    「ほわーっ! 美味そうじゃの~!」

    余分に買っておいた串焼きを手渡すと、モンストロは美味そうにソレを頬張った。
    その様子を見てふとベアレンジャイのスキルに『喰い散らかし』とかいう物騒な
    名前の能力があったのを思い出したが、深く追求するのは止めておくことにした。

    「そういえば、虎風庵に一人追加で泊まれるか聞いておいた方が良いんじゃない?」
    「そこに気が付くとはさすが樹ちゃん…そうじゃな、宿に一度戻らねばなるまい。」

    部屋が空いてなければ宿を変えねばならない…先方の都合もあるだろう
    ということで、食事を終えたオレ達はひとまず虎風庵へ戻ることにした。



    「問題ねえ、ウチは大概空き部屋があるからな。
    このままバンバン金を落としてくれると助かるぜ!」

    ゼブラにその旨を伝えると、拍子抜けするくらいあっさりとOKが出た。
    大概空き部屋があるのも宿屋としてどうなのかと思うが、非常にありがたいことだった。

    「クマのお爺様がおられたなんて…なんだか親近感がわきました。」

    モンストロを祖父として紹介すると、二人はかなり驚いていた。
    本当は赤の他人だが、"祖父"には違いないので許してもらおう。

    「オレも昔は色んな国を旅したもんだが、熊の因子持ちたぁ珍しいな。」
    「ん…そうなんですか?」
    「少なくとも、オレはモンストロの旦那が初めてだ。」

    この町へ辿り着くまでの間にも少なからず獣人らしき方々は見掛けていたが
    狼や虎、鳥や兎…いかにもファンタジーものに出てきそうなタイプが大半で
    それ以外の動物らしき容姿を持っている人は確かに少なかったような気がする。
    容姿的な偏りについてはよく知らないが、現地民がそう言うのだから熊は実際少ないのだろう。
    というか、モンストロは元魔物なので本当にモンストロしかいない可能性も十分にありそうだ。

    「でも、タツルさんはお爺様の形質を殆ど受け継がれなかったんですね。」
    「たしかに、クマっぽさは全くねえな!本当に血縁か?ってくらいだぜ!」
    「いや、いやいやいやそれを言うならお二方も大概では!?」
    「おっと、言うじゃねえか!コイツぁ一本取られたな!」
    「そ、そうですか?えっと、それじゃあ私達は部屋に戻りますんで…」

    一本取れるほど上手いこと言ったつもりはないのだが、
    話が良い具合に途切れたのでそのまま部屋に戻ることにした。

    「おっと、最後にもう一つ…アンタら、これからの予定は決まってんのか?」

    不意にゼブラに呼び止められ、オレは再びカウンターへと戻った。

    「とりあえず向こう数日はこのままアラタルで過ごしますが、
    それより後に関しては三人で相談して追々決めるつもりです。」

    キラメキドロンのお陰で金銭的な不安は解消されたものの
    冒険者証自体は(諸々の特典的な意味で)持っておいて損はない。
    登録抹消対策も兼ねて冒険者ランクを☆二つに上げておいても良いだろう。
    ただ、今日までが濃厚過ぎたので個人的にはゆっくり休みたい気持ちもあった。

    「もし違う国に向かうなら…あー、例えばハイレム王国とか。」
    「ああ、ハイレム王国にだけは行かないので大丈夫です。」

    ゼブラの口から因縁の名前が飛び出したので、思わず食い気味に否定してしまった。

    「そ、そうか…まあ、それなら問題ねえ…獣の因子を持つ人間にハイレム王国はオススメ出来ねえからな。」
    「と、いいますと?」
    「ハイレム王国は人間主義じゃからな、ゼブラ殿が言いたいのはそういうことじゃろう。」
    「おっと、グラムの旦那はご存じでしたか。」
    「ワシも様々な国を旅してきた身、ある程度は把握しております。」

    実際は旅人ではなくハイレム王国の中枢に食い込んでいた人間なので
    ある程度どころか隈なく知っている筈だが…まあ、これも話を円滑に
    進めるためのウソというやつだ。

    「"人間主義"…言葉の雰囲気から何となく想像はつきますが。」
    「簡単に言えば"獣の因子"を持つ人間はヒトの中でも"格下"って思想だな。」
    「つまり、ハイレム王国では獣人…モンストロ爺ちゃんは勿論、もしかしたらオレも迫害されるかも…って事ですか。」
    「ま、そういうこった。」
    「昔は…先代ハイレム四世の頃はそんなこともなかったんじゃがのう。
    あのドラ息子に代替わりしてから王家は腐る一方…嘆かわしいことよ。」

    この手の話はどんな世界にも存在するのだな…と、変に感心してしまったが
    禁忌である異世界転移に手を出したり、差別的な思想を前面に押し出し始めたとなれば
    グラムが急進派としてハイレム五世の暗殺を企てるようになったのも納得の内情である。

    「ちなみに、ローレム王国はどうなんですか?」
    「そんな状態だったら、ここで宿屋なんかやってねえよ。」
    「国ごとに異なる思想があるのは確かですが…今、この大陸で
    人間主義を掲げているのはハイレム王国だけじゃないかと思います。」
    「…それでも繁栄してるんですよね?ハイレム王国。」
    「環境に恵まれてるからな。
    南と東は海、北と西は山っつー防御力の高さ。
    アダマントダンジョンを始めとした"稼げる"迷宮の数々に
    海と山両方の資源を活用した交易と、食料自給率の高さ…正直、
    欠点はその"人間主義"一点だけと言っても良いくらいだからな。」

    話を聞く限り実に魅力的な環境の様だが…仮に今回の勇者召喚で戦力を整えて
    隣国と戦争を起こすつもりであれば、あの王様は本当にアホなのかもしれない。

    各国の事情を少しずつ耳に入れ終えると、今度こそ自室へ戻った。



    部屋の扉を閉めると、オレはベッドに腰かけた。

    「あー、生きてるって素晴らしい…」

    気持ち的に安心すると、ベアレンジャイの襲撃を乗り切った疲れがドッと出た。
    暗殺者は因果関係が割とハッキリしていたが、スタンピードに関しては運である。
    暗殺未遂のニ日後に今度は魔物に殺されかけるなんて、運が悪いにもほどがある。

    キラメキドロンやぬいぐるみモンスターなど、比較的脅威度の低い魔物としか
    遭遇してこなかった身としては、今回のベアレンジャイで改めてその危険性を
    理解出来たのはある意味良い経験だったのかもしれないが…出来れば二度と
    遭遇したくない体験でもあった。

    「タッくん、お疲れ様じゃったのう。」
    「んー…ありがと、モンストロ爺ちゃん。
    グラム爺ちゃんも、守ってくれてありがとう。」
    「なあに、孫のためなら我が身なぞ幾らでも張ってやるわい。」

    謝意を伝えると、二人は嬉しそうに微笑んだ。

    「そういえば爺ちゃん、挨拶の時以外はずっと聞き手に回ってたね。」
    「知識が身に付けているとはいえワシも生まれたばかりじゃからのう…下手を
    打って怪しまれるくらいなら大人しくしておいた方が良いと思ったんじゃよ。」
    「孫を悲しませては祖父の名折れじゃからな…良い判断じゃ、モンストロよ。」

    なるほど…と思ったものの、生まれたてといいつつそれだけの判断力があるなら
    普通に話に参加しても問題なかった気もする。

    「…ところで、明日一日くらいは一休みにしても怒られないと思うんだけど。」
    「勿論じゃ…と言いたいところじゃが、恐らく明日はスタンピードの調査をすべく
    王都から人が派遣される。震源地にいた以上、聞き取りに応じねばならんだろうよ。」
    「やっぱりあるんだね、そういうの。」
    「スタンピードは時空の歪みから混沌が大量に流れ込むことで起こるとも言われている。
    これが原因で後々何かあっても困るからな…ここは、素直に協力しておいた方が良かろう。」

    時空の歪みが原因…となると、勇者召喚が影響してる可能性もあるのではないだろうか?
    …あの王様、本当に要らんことばっかやってるっぽいな。

    「ただ…今回のベアレンジャイのように、ダンジョンの程度に対して
    異常に格上な魔物が出現するのはかなり稀なケースじゃと思うがのう。」
    「初めてのダンジョン攻略でそんな"稀なケース"を引いちゃったのか…。」
    「まあまあ、そのお陰で頼もしい祖父が二人に増えたではないか。
    こういうのは、ポジティブに捉えておくのが吉というものじゃぞ。」

    …経緯は遺憾ながら、祖父が増えたことは戦力的な意味で安心感が増したのは確かだ。

    「タッくん、もしかしてお昼寝かの?ワシも一緒にお昼寝するぞ!」
    「あれっ、いつの間に?」

    声がした方を見ると、いつの間にかモンストロがベッドに寝そべっていた。

    「これ、モンストロ!抜け駆けは許さんぞ!」

    それに気づいたグラムも、いそいそとオレの隣に腰かけた。
    当人の返事も待たず、二人とも既に川の字になる気でいるらしい。

    「はあ…ベッドひとつに三人はさすがに厳しいから、他のベッド寄せようか。」

    筋肉量の多いグラムは平熱が高そうだし、熊であるモンストロもかなり温かそうだ。
    脱水症にはならないよな?…などと思いつつも、横になるとすぐに眠りに落ちていった。





    ―『魅了』を習得
    ―『偽装』を習得
    ―『秘匿』を習得




    。。。。。





    「―遅い!追加で密偵を送ろうかと思っておったところだ!」

    人払いを済ませ、一人だけになった部屋の中でハイレム王は虚空に向かって怒鳴りつけた。

    「すいませ~ん、ターゲットがローレム王国はアラタルの町まで
    逃げてたもんで、探すのにちょっと時間が掛かっちゃいました~。」

    部屋の上方、天上の暗がりからセブが姿を現した。

    「ローレムだと!?あの貧弱そうな異世界人が万に一つグラムから
    逃げおおせたとしても、この短期間でアラタルまで辿り着けるとは…」
    「ですから、グラムさんが裏切ったんですよ。」
    「なんだと!?」
    「グラムの旦那、前線からは退きましたが能力的には普通に現役ですからね。
    あの人なら山を越えてアラタルまで向かうくらい、なんてことないでしょう。」

    セブからの報告を受けて、ハイレム五世は目を一瞬見開いた。

    「…奴は、何故裏切った?」
    「そりゃベルゾーン様がぼんくr…悪政を敷きすぎているので愛想が尽きたそうです。
    一足先に隠居させてもらう、とか言ってたのでこの世から隠居させてあげましたがね?」
    「ふんッ!ならば良し…何やら裏でこそこそ動き回っていたようだが、無意味だったな!」
    「つーかベルゾーン様、
    最初からグラムの旦那に勇者召喚の罪を被せて処刑する気だったんデショ?
    こんな念入りに追跡する必要ありました?指名手配とかで良かったのでは?」
    「馬鹿が、キサマとて本気でアレが楽隠居する気でいたとは思うまい。
    潜伏されて、何がしか事を起こす力を蓄えるつもりだったのは目に見えている。
    恐らく、勇者召喚の話を聞いて己の行く先を察したのであろう…故に裏切った。
    殺害した証拠は持ち帰ったのだろうな?」
    「はーい、そこは抜かりなくー。」

    セブは胸元から赤黒く変色した装備品を取り出すと、無造作に床に転がした。

    「…確かに、この鎧はあの老害のものだ。
    このよく分からんデザインの服も異世界のものに相違ない。」

    ハイレム五世はそれらを一瞥すると、すぐに背を向けた。

    「ありゃ、もう良いんですかぁ?」
    「誰が好き好んでアレらの持ち物を検分すると?
    キッチリ処分しておけ、報酬の受け渡しはいつもの方法で行う。」
    「了解っすー…それでは、またのご利用お待ちしておりまーす!」

    セブはハイレム王に向けた"お土産"を拾い上げると、天井の暗がりに消えていった。

    「(予定していた道筋からは逸れたが、より穏便に計画を終わらせることが出来た。
    グラムさえ消えれば残りの急進派共は有象無象…もはや我が前に障害はなくなった。)」

    ベルゾーン・ハイレムは静かになった部屋の中で、ほくそ笑むのだった。

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator