Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    RacoonFrogDX

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 37

    RacoonFrogDX

    ☆quiet follow

    どこかで燻る不穏と、祖父と孫の報告会

    『異世界に召喚されたけど『適性:孫』ってなんだよ!?』(29)「えっ?」

    想定外の質問に対して、オレはそう問い返すので精一杯だった。

    "クラリスはグラムを知っている"

    でなければこんな質問はして来ないだろう。
    今はこんなだが、グラムは一応ハイレム王国の重臣だ。
    いつ頃からハイレム王の護衛に転向したのかは知らないが、
    式典などで他国の人物と顔合わせをする機会もあっただろう。
    しかしまさか、よりによってこの騎士が顔を知っているとは。

    「ほう、ワシのことを知っておられましたか!
    我が武勇が他国にまで膾炙しているとは、喜ばしいことですなあ!」
    「…?!」

    動揺するオレをよそに、グラムはあっさりと正体を肯定してみせた。
    そしてクラリスはカラカラと笑うグラムをしばし見つめた後、フッとほほ笑んだ。

    「…すいません、どうやら"人違い"だったようですね。」
    「!!??」
    「樹ちゃんっ、公的な聞き取りだからといって緊張し過ぎじゃあ!
    そこは"いや、爺ちゃんはオレの騎士なので…"と訂正を入れる場面じゃろうが!」
    「いや、そんなことこれまでの人生で一度も言ったことないけど!?」
    「ふふっ…耳にしていた通り、本当に祖父と孫同士、仲が良いのですね。」

    思わずグラムにツッコミを入れてしまったが、オレは訳が分からず戸惑っていた。
    場の雰囲気が一気に和んだので危機は回避したのだろうが…今のやり取りの、何がどう作用したのやら。

    「お爺様のお顔が、あまりに"ハイレムの鷹"と似ていたもので…申し訳ありませんでした。」
    「いえ、いえ…名前まで一緒なお陰でよく間違えられるのですよ。
    だから、そんな時は…こうやって誤解をとくことにしているのです!」

    グラムはそう言うと、自分の方へヌルッとオレを引っ張り寄せた。
    異世界に来てから通算四度目のハグ…もとい、ヘッドロックである。


    「ちょちょちょ、力が、強い…」

    オレが猛烈に嫌がっていると、クラリスはクスッと笑った。

    「確かに、"あの"グラム殿ならこんな姿を見せることはないでしょう。
    いつまでも御家族の団欒を邪魔してはいけませんので、私は帰ります。」
    「お勤めご苦労様です!」
    「す、すいません…祖父が変なことを…」

    グラムに羽交い絞めにされたオレを柔和な表情で一瞥すると、クラリスは去って行った。

    「…樹ちゃん、あの者が宿から完全に去るまでは我慢しておくれ。」
    「…? よく分からないけど…」

    ドアが閉じられた後、グラムに耳元でその様にささやかれオレは仕方なく祖父による羽交い絞めに付き合うことにした。
    しばらくしてようやくオレは開放されたが…どう考えてもクラリスが宿を出たあともずっとハグされていた感がすごい。
    "樹ちゃんはカワイイのぅ~、あ~、幸せじゃ~"とか言いながら悦に入ってたし、完全に"宿云々"は方便だな…これは。

    「ふう…お疲れ様じゃったな、樹ちゃん。」
    「えーっと、とりあえず…どういうこと?」

    グラムの方へと向き直りながら、オレは今までの流れについて尋ねた。

    「あの騎士は『審判』を持っておったからな…あの者の意識が我らから離れるまで警戒しておったのじゃ。」
    「『審判』…その言い方だと、スキルか何か?」
    「そう、簡単に言えば"ウソ発見器"のような能力じゃ。
    クラリス嬢は聞き取りの間、ずっと『審判』を発動させていた。」

    ウソ発見器…そんな能力まであるのか。
    まあ、『鑑定』の様に対象の詳細を調べるスキルがあるのだから
    相手の心の中を探る系統の力があっても不思議なことではないか…。

    「つまり…何かは分からないけど、オレ達は疑われていたってこと?」
    「否、恐らく聞き取りで嘘をつかれないようにしていたというだけじゃろう。
    残念ながら、冒険者の中にはを…例えば、ダンジョンが封鎖されることを嫌って
    "根源の魔性"の強さを誤魔化して報告するといった話は比較的よくあることなのじゃ。」

    そういえば、元の世界でもいわゆる"追放もの"と呼ばれる創作があったな…そうした作品には
    主人公を迷宮に置き去りにして、ギルドには魔物に襲われて死んだ等の嘘をついて納得させる
    という展開も存在していた。

    思いつく人間がいる以上、実行する人間も存在するだろうことを考えると
    予防策として『審判』を発動しておくのは別におかしなことではないだろう。

    「でも…そうなると、さっきまでのやりとりって大丈夫なの? 結構がっつり嘘ついた気がするんだけど。」
    「大丈夫じゃ、ワシらは"本当のことしか言ってない"からな。
    『審判』は本人が嘘だと認識していることしか対象にならなかったはず。
    故に、樹ちゃんにはベアドルイドを"溺れさせた"と言ってもらったのじゃ。」
    「…あー、確かにそっか…嘘は、言ってない。」

    あの時、グラムはオレとベアドルイドを水の壁で包み込んだ。
    格納で魂を抜かれ…水中で意識を失ったベアドルイドが"溺れていた"ことは確かである。
    喋ってない事実はあるが、喋った内容自体に嘘はない…『審判』の仕様をすり抜けた形だ。

    「…それでもやっぱり、最後の質問はヤバかったんじゃない?
    いきなり"アナタはハイレム王国の騎士ですか?"なんて予想外にも程があるでしょ。」
    「まあな…とはいえ、今回はなんとか上手いこと誤魔化せたと思っておるのじゃが。」

    オレはつい先ほど行われたやり取りを思い返した。
    唐突な質問に頭が真っ白になってしまったが、むしろ今回はそれが良かったのかもしれない。
    クラリスは"嘘をついてない"と判断したからこそ、聞き取り調査を終えて去って行ったのだ。

    「…ん? 爺ちゃん、自分の武勇が知れ渡ってるの…嬉しくないの?」
    「樹ちゃん…今のワシは枕木グラム、樹ちゃんだけの騎士じゃからな?
    ハイレム王の騎士としての武勇が広まってもなーんも嬉しゅうないわい。
    樹ちゃんに労ってもらえる事のほうが、ワシには何億倍もの価値がある。」

    オレを気に掛け、愛でるといった行動は、恐らく祖父としての本心からの行動だろう。
    とはいえ結果的に『審判』のスキルにも引っかからず、場を乗り切ることが出来た訳だ。

    「というか、もしかしてクラリスさんのこと知ってる?」
    「過去に一度、式典か何かで顔を合わせた記憶があってな。
    『審判』はその時確認したが…まさか再会するとは思わなんだ。
    まあ、"本当のことを伝えて誤魔化す"のが今回の立ち回りの肝…
    誰が調査に来ようとも、方針自体が変わることはなかったぞい。」

    あらかじめスキルの存在を教えられていたら変に意識して失敗していたかもしれない。
    例によって綱渡り&いきあたりばったりな作戦だったが、無事乗り切れて一安心である。

    「穏やかに暮らしたいのに、なんでこうハードなイベントばっかり起こるんだろう。」
    「禍福はあがなえる縄の如し…今日がハードだった分、明日は良いことがあるじゃろう。」
    「良いことかー…うーん、例えば?」
    「そうじゃな…明日はのんびり出来そう、とかかの?」
    「それは…うん、まあ、確かに良いことだけどさ。」

    とにかく、心穏やかに過ごしたい。
    明日が平和な日になることを祈るばかりだ。



    。。。。。




    「…おや、随分と早いお帰りで。」

    クラリスが戻ってくると、壁にもたれかかっていた"同僚"が顔を上げた。

    「グラムさんが実に手慣れていてね、想定よりもずっと早く終えることが出来た。」
    「グラム…? ああ、隊長がハイレムの間者じゃないかと疑ってたヤツですか。」
    「ああ、そして実際に会ってみたらなんと顔まで本人と瓜二つ…だが、別人だった。」
    「名前だけじゃなくて容姿まで一緒って…そんなこと、普通あります?」
    「少なくとも『審判』には引っ掛からなかった。
    ついでにカマも掛けてみたのだが、それにも引っ掛からなかったよ。」
    「…そこまで何もないと逆に怪しくないですか? 怪し過ぎません?」
    「デイル、それは君がこの仕事に毒され過ぎている。
    それとも君は、あの冷徹なるハイレムの鷹が、鼻の下を伸ばして
    自分の孫に頬ずりしている姿を見せつけてくると思えるのかな?」
    「…それ、本当ですか? 事前の情報だと孫もそこそこの年齢だった気が…」
    「嘘をつく意味もない、冒険者としての腕は確かだろうが…アレは真性の孫狂いだな。
    …さて、私の揚げ足取りをするのも大いに結構だが…そっちの首尾はどうだったんだ?」
    「…残念ながら、モンストロとかいう爺さんには会えませんでした。」
    「だろうな…聞き取りの際、外出していると言っていた。」
    「は? そういうことは早めに伝えてくれませんかね??」
    「『伝播』も『拡散』も保有してないのでね…まあ、仮に
    持っていたとしても『審判』と同時に使用するなんて無茶な話だ。
    一介の騎士に、あまり魔術師の様な動きを求めないでくれたまえ。」

    クラリスは肩をすくめ小首をかしげた。
    デイルはそんなクラリスを見てハァ、と息を吐いた。

    「まあ、いいですけど。
    あー、しかし…こんなの初めてですよ…範囲広げて街の周辺も
    探してるのにオレの"網"にまったく引っかからないなんてのは。」
    「デイル…君、モンストロさんに嫌われてるんじゃないのか?」
    「会ったこともないのに、そんなワケないでしょ。」
    「冗談だよ…見付からないなら、切り上げてしまって問題ない。」
    「…良いんですか? 正直こっちも怪しさしかないんですけど。」
    「彼等は件の噂とは関係が無さそうだからな。
    今回に関しては、それが分かっただけで十分だ。」
    「…ま、隊長が良いならオレはそれでも構いませんが。」

    デイルは魔法を解除すると、大きく伸びをした。

    「しかし、"ハイレム王の側近グラムがローレム王を暗殺すべく姿を晦ませた"
    なんて…あまりにバカバカし過ぎて検証する必要性すら無い気がしますがねえ。
    暗殺するなら騎士じゃなくて"本職"に依頼すればいい…万が一、ハイレム王が
    殺害を企んでいたとしても、騎士に依頼するなんて普通に在り得ない話ですよ。」
    「無論、そんなことは分かり切っている話だ。」
    「じゃあ、何でわざわざこんな噂の調査まで?」
    「気にすべきは"何故そんな噂が流されているのか"…という点だ。
    まるで、自国にグラムの姿がなくともおかしくはないと主張しているようではないか?」
    「…あのボンボン凡愚王が、自身の護衛でもあるグラム殿を抹殺したと?」
    「ハイレム王国における旧体制派と当代国王の対立の激しさは君も知る通りだ。
    うっかり首が飛んだとしても何の不思議もない…ああそれに、こちらの密偵も
    護衛であるはずのグラムの姿をもう何日も確認出来てないらしい。」
    「何かは分かりませんが、不測の事態が起きていると?」
    「騎士グラムが姿を消したのは確かだろう。
    噂の内容がローレム国を巻き込んでいる点も明確な意図を感じる。
    仮にグラムがローレム国で発見された場合、色々と面倒なことになるかもしれない。」
    「はあ…ハイレム王国に関しては勇者召喚の噂も流れているし、
    戦争だけは勘弁してもらいたいところですがね。」
    「それについては同感だ…おや、ガレットが戻って来たな。
    あの感じだと、アイツもモンストロさんには会えなかったようだ。」

    渋い顔で遠方から歩いて来る仲間の姿を認めると、クラリス達は彼を迎えに行くのだった。


    。。。。。



    モンストロが戻って来たのはオレ達が夕飯を食べ始める直前のことだった。
    もしかして道に迷ったのではないかと心配していたのだが、さすがにそんなことはなかったらしい。
    聞き取り調査や隠れていたことをリミカ達の前で話すのは憚られたため、
    オレ達は食事を済ませると、休憩もそこそこに寝室へと戻ることにした。

    「もう今日は帰って来んのかと思っとったぞ。」
    「ワシも帰れんかもしれんと非常に焦ったわい。」

    オレ達と別れた後、モンストロは町から少し離れた場所にある森へと向かったそうだ。
    『黒い森の老獪』で自身に迷彩をかけ、樹の上までよじ登ってダラけていたのだが…

    「急に魔術的な気配を感じたゆえ、野生の熊力を発揮して気配を消しておったのじゃ。」
    「…野生の熊力に関してはスルーするとして…魔術的な気配って?」
    「ワシは『魔力感知』で、魔法が使われたことを感知することが出来るんじゃ。
    感度を上げるとアレもコレも拾って鬱陶しい故、普段は使わないようにしておる。」

    普段って、まだ生まれて間もないじゃないか…などと言うと話が脱線しそうなので
    その言い回しについても敢えてスルーして、オレはモンストロに話の続きを促した。

    「気配を消さないといけないって、そんなヤバい魔法だったの?」
    「恐らく『千里眼』や『望遠鏡』といった、探知するタイプの魔法じゃろうなあ…
    町に向かう程気配が濃くなっていたゆえ、誰かが何かを探していた可能性が高い。」
    「…グラム爺ちゃん、気付いてた?」
    「残念じゃが、ワシもすべてのスキルに精通しているわけではないのでな…。
    それに、それらだけではないが『千里眼』や『望遠鏡』…ああ、『審判』も含めて
    複雑で強力なスキルを持つ者は珍しい…使用者の負担も大きい故、ピンポイントで
    対策してなければそんなものが使われているとは思わんじゃろうな。」

    勿論、オレもそんなことには気が付いていなかった…というか
    ハイレムからの刺客がその手のスキルを保有してなくてよかった。

    「無論、捜索対象はワシではなかったのかもしれんが…
    タイミング的に警戒せざるを得なかったというワケじゃ。
    結果、夕飯ギリギリに宿へ駆け込む羽目になってしもうた。」
    「聞き取り自体は一時間も掛かんない内に終わったんだけど
    こっちも色々あって、お爺ちゃんを迎えにいけなかったんだ。」

    聞き取り調査でグラムの正体がバレそうになったのは本当に参った。
    なんとか回避出来たが、外出は時間を空けてからということになり
    調査の後は夕方頃まで部屋の中で過ごしていたのだ。

    「構わんよ、最終的な勝者は我らじゃからな!
    そして明日はタッくんとスイーツパーチーじゃ!!」

    …そういえば今朝、別れ際にそんなことを伝えた気もする。
    異世界のスイーツも気になるし、明日はみんなで甘味巡りに勤しむとしよう。

    「前線に立っている時は甘味なぞ殆ど縁がなかったからのう…ワシも楽しみじゃわい。」

    グラムも顔をほころばせてテンションを上げていたのだが、
    75歳のお爺ちゃんの胃はスイーツに耐えられるのだろうか。
    どうでもいい疑問が思い浮かぶ中、その日の夜は更けていった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator