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    r__iy1105

    田中新兵衛に心を狂わされた
    禪院直哉は可愛いと思う

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    r__iy1105

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    これの続き
    https://poipiku.com/664679/7208251.html
    軍パロ。遊郭に落とされた武先生と軍人の田くんの話

    散り逝く2嫌がるかと思えば、田中君は眉一つ動かさずに上に跨がる私を見上げているだけだった。
    普通の男であれば、屈辱的だと言う様に私を振り払うだろう。
    「嫌なら振り払ってもいいんだよ」
    「嫌ではないので。ただ、先生。お御足が見えております」
    着物の隙間から見える私の足を気にするだけで、現状については何も言う事がないらしい。
    確かめると言ったのは私だが、これはこれで田中君の貞操が心配になる。
    「田中君。普通であれば、男が男に押し倒される現状は屈辱的な事だ。況してや君は、男に跨がれている。それを許すのか?」
    私の発言に田中君は、視線を逸らさずに小さくそう言うことですかと呟いた。
    何かを理解したのか、田中君は畳に手をついて起き上がる。
    同時に私も上から降りて向き合う様に座り、田中君の言葉を待っていた。
    「先生。私は、武市先生であれば構わないです。これが他の人間であれば、刀に手を掛けていました。現に武市先生が失脚されてから、上官に誘いを受けましたが全て断っております」
    上官からの誘いを断るのは、上下関係の厳しい軍においてまず無理である。
    田中君には私の持っている全てを教えていたが、そう言った事を教え忘れたかと思い返す。
    だが、最初に田中君には教え込んだはずだと記憶していた。
    「軍において、上官命令は絶対だ。田中君、それでは君の立場が」
    「力で黙らせました。それに、こんな事を言っては先生にご迷惑かと思いますが」
    珍しく言葉を濁し、私から目を逸らす田中君を不思議そうに見つめる。
    「君からの事を迷惑だと思った事はないよ」
    そうでなければ、こうして幕末を共に生き抜く事は出来なかった。
    田中君と共に生きられる道を模索して、代わりを立てて長州との密約を交わして逃げ切ったのだ。
    今更、私に遠慮する事はないだろう。
    そう思っている私の前で、膝に乗せた手をきつく握っている田中君が目に入った。
    力んでいる理由が分からないが、爪が食い込めば刀を握る手が痛くなる。
    少しでも力が抜ければと言う様に、田中君の手に手を重ねた。
    「っ武市先生っ!!」
    しかし、その手は力を抜く訳でもなく私の手は振り払われてしまった。
    押し倒すよりも手に触れた事の方が、田中君にとっては嫌だったのだろうか。
    頭に疑問だけが浮かび、私の手を振り払ってしまった事に青褪めている田中君が目に入る。
    「も、申し訳御座いません!武市先生!!」
    「私も君が考え悩んでいるのに、軽率な事をしてしまった。君が謝る事ではないよ。それで、私の迷惑になる事は何かな」
    振り払われた手を着物の袖に隠すと、田中君は深呼吸をしてから言葉を吐き出した。
    「……男に組み敷かれるのであれば、最初は武市先生が良い。そう思うちょります……」
    言い切った田中君は、手で顔を隠して目に涙を浮かべていた。
    何を言えば、田中君を傷付けないのか私には分からない。
    男が男に抱かれても良いと思うのは、自分が敬っている男であると小耳に挟んだ事があった。
    田中君は私の義兄弟でもあり、元は部下でもあるのだ。
    その手の気持ちを抱くのも仕方のない事であり道理でもあろう。
    泣きそうだった田中君の目から涙が溢れ落ち、拭おうとした手をまた止められてしまった。
    「こげん汚かきもっを持ったおいに、触れやんな」
    気持ちが昂っているのか、薩摩弁で話す田中君に首を横に振った。
    「君は汚くないさ。現にこうして、遊郭に落とされた私を探し出してくれたじゃないか」
    「じゃっどん」
    「君は何より美しい」
    泣かないでくれと言葉を続けて、私は田中君をもう一度押し倒した。
    ここは遊郭であり私はここの男娼で、君は私を買ったのだ。
    「何一つとして間違いはないさ」
    何か言いたげな田中君の口を塞ぐ様に、唇を重ねる事にした。

    ◆ ◆ ◆

    朝日が射すよりも前に、田中君は私と共にしていた布団を抜け出して行くのが分かった。
    言葉を交わさずに別れるのもどうかと思い、起き上がって私に背を向ける田中君の名前を呼ぶ。
    「田中君」
    「はい、先生」
    軍服を着ながら振り向いた田中君に、何処か安心している自分が居た。
    何と無くこちらを振り向かずに、声だけが返ってくるのではないかと思っていたからだ。
    一先ず安心して、身勝手ではあるが約束を取り付ける。
    「また来るといい」
    「次は軍内部の情報をお持ちいたします。俺には、やはり先生の地位は重いです」
    困った様に眉を下げて笑う田中君に、申し訳ないなと思いながら立ち上がった。
    そのまま田中君の元へと近付き、顔を耳に寄せて小声で指示を出す。
    「大佐と少佐には気を付けろ。中佐は私の味方だ。それでは田中君、また来てくれると嬉しいよ」
    顔を離して、男娼と客の様な会話に見せ掛ける。
    直ぐ様私の意図に気付いた田中君は、客の様に振る舞って部屋を後にして行った。
    まだこの遊郭に、誰が敵で味方かは分からない。
    だから大っぴらに軍についての会話をするのは、ます控えた方がいい。
    準備されていた煙管に手を伸ばし、煙を燻らせながら障子窓を薄く開ける。
    軍服を着た田中君がこちらを振り向き、一礼してから去って行くのを姿が見えなくなるまで見つめていた。
    「魑魅魍魎の巣だ、充分に気を付けてくれ。新……」

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