あの日は、お互い人を殺した後で女だけでは体の昂りを止めることが出来なかった。
そのせいか隠れ家としているあばら屋に着いた時、何も言わずに貪る様に口付けを交わしていた。
お互い止まない熱とか孤独とか不安だとか、色んなものが綯交ぜになった感情をぶつけたかっただけでしかない。
わしの顔を隠していた笠を新兵衛が外すと、髪は黒髪へと戻る。
「以蔵はその髪色の方が落ち着くな」
「赤髪でも、わしの事を判別出来るのは新兵衛だけじゃき」
ふざけて言えば、新兵衛は不思議そうにわしを見つめていた。
「武市先生も分かるだろ。お前のことなら……それより、俺がネコなのか!?」
流れるように新兵衛に乗ると、不本意だと言わんばかりに俺に怒鳴り付ける。
少し考えれば、体格さでわしが受け入れるのは無理だと分かるだろう。
「わしが新兵衛のなん挿れられたら、死ぬに決まっちょるやろ!!悪い様にはせんし」
「お前なぁ。………勝手にしろ」
もう少し言いくるめないと駄目かと思ったが、新兵衛は意外とあっさりと了承してくれた。
諦めたと言うより新兵衛が、気を許したようでわしとしては嬉しかった。
ただその後、武市先生の命で新兵衛を裏切る形となったが。
赤を武市先生が認識出来なくなった時、俺は人斬り以蔵として名を馳せていた。
「新兵衛……これがおまんからのわしへの罰か?」
笠を被ると髪が赤く染まり、誰もわしを認識する事は出来ない。
唯一分かってくれた幼馴染みも決別し、付き合いの短かった新兵衛だけがこの姿の俺を岡田以蔵として認識してくれた。
殺した相手の息の根が止まったのを確認して、笠を深く被り直し長い髪を翻す。
誰もわしをわしとして認識してくれない、辛い、悲しい、
悲しい悲しい、辛い。
「どんなええ女、抱こうがおまんが離れん。なぁ、新兵衛。おまんは、わしを許さんでええ」
だから、代わりにわしを忘れないで欲しいと自分勝手な願いを心の奥へと仕舞い込んだ。