「何だ、今世は虫になってしまったんだね」
祓われた訳ではないから、私は呪霊として世に留まった。
目的は死滅回遊なんて面倒な事ではなく、ただ単に髙羽を探していただけ。
無限にある時間は暇で退屈で仕方がなかったけど、髙羽を探すとなれば無限の時間は助かった。
地を這う芋虫から蛹になって、羽化をする直前の髙羽を見付ける事が出来たのは幸いだ。
早く再会したいなと近くで見ていて、呆れてしまった。
「簡単に私以外に寄生されるなよ、相方」
割れた蛹から出てこようとする寄生蜂を潰して、次の髙羽を探す事にした。
無限にある時間を髙羽を探す事に使うのは、実に有意義な事だった。
最初は虫だった髙羽も、次に会った時は犬だった。
愛情を注がれて幸せに暮らしている髙羽の隣で、早く君と漫才がしたいと言い続けた。
理解しているのか分からないが、ワンと返事をする髙羽に思わず笑ってしまった。
愛された犬の髙羽は、最期の時まで愛されて私に看取られながら死んでしまった。
また次かと思い、犬に転生した髙羽の墓から離れる。
その際、呪術師に見付かったけど雑作なかった。
乙骨や五条悟の足元にも及ばない術師なら、私を祓う事なんて出来ないのだから。
「はぁ、次は何に転生するのかな」
髙羽は次々と転生をするが、中々人間に転生する事はなかった。
ある時は川の底の石に、ある時は花壇の花だった。
花壇の花は踏み潰されて生を終えたから、髙羽を殺した相手は私が丁寧に殺しておいた。
私の相方を殺したのだから、それ相応の罰を受けさせても構わないだろう。
人殺しをしていた私を見て怯えていた髙羽だから、きっとまた怯えてしまうかもしれない。
「君がちゃんと、生まれ変わってくれないからいけないんだ」
どれくらい髙羽の転生を見守ったか分からないが、漸く髙羽が女の胎に宿ったのだ。
嬉しくて嬉しくて、嬉しさのあまり髙羽の母親になる女を無碍にする男を呪ってやった。
髙羽を安心して産み、育てられるように環境を整える。
待ちわびた出産の日は嬉しくて、笑いが込み上げてしまった。
「やっと会えるね、髙羽」
それからの私の日々は、髙羽の成長を見守る時間へと変わった。
産声を上げたその日から、私に祝福と言う名の縛りを与えられた子。
早く大きく育っておくれと願いながら、呪いの見えるその目に私を写して欲しいと焦がれる。
「えっと、だれ?」
「待ちわびたよ、髙羽。もう私のモノにしてもいいよね」
女の手を借りなくとも、私が手を貸せば生きていける位には育った髙羽。
私の永劫の相方であり、私を楽しませてくれる唯一。
声を上げさせる暇もなく、私は待ちに待った髙羽を連れ去ったのだった。