俺でさえも忘れていた誕生日に、直哉は丁寧に食い物を俺に手渡してくる。
仕事があるからと言えば、誕生日分の金を手渡していた。
「たまには、物でも寄越せよ」
別に何が欲しいと言う訳でもなかったが、毎回食い物か金と言うのも味気がない。
貰った金を数えながら言ったのもあって、直哉の表情なんて一切見ていなかった。
「……甚爾君に物あげても、どうせ置いてくやん。それに、物なんあったら甚爾君には邪魔やろ」
「どう言う意味だよ」
「今日は俺も色々あるんよ。だから、これで帰るわ。甚爾君、生まれて来てくれて有り難うな」
首に巻いていたマフラーを巻き直し、直哉はさっさと俺の元から離れて行った。
直哉から物を貰った記憶を思い出そうとしたが、あの家の事を思い出しそうになって止めた。
どうせあいつの事だから、次は物を持ってくるだろうと思っていた。
それが去年のやり取りだったが、今年も直哉は食い物を持って来たのだ。
「甚爾君、誕生日おめでとうな。これ、プレゼントな」
「……」
受け取ろうとしない俺に、直哉が不思議そうに見上げてからハッと気付いた様に慌て出す。
「これだけやと足りんかったかな、金も渡すから好きなの買ってええから」
プレゼントを脇に挟んで、財布から金を出した直哉に思わずムッとした。
俺もこの後、仕事があるから長居は出来ない。
「貰えんなら貰っとく」
金と一緒に受け取った食い物を片手に、直哉に背を向けて歩き出した。
直哉も直哉で忙しいらしく、それ以上の追及もなくすんなり別れる事となった。
珍しく仕事場まで一緒に来た時雨に、直哉から貰った食い物を渡す。
既に包装されていた紙は破り捨てたのもあって、箱の中身が分かる様になっていた。
だからか、受け取った時雨が外装の箱を見て声をあげる。
「高級もつ鍋の元か。いい物貰ったじゃねぇかよ、甚爾」
「たまには物にしろって言ったんだけどな」
「貰って文句言うのも甚爾らしいが、お前に物渡してもな」
「どう言う意味だよ」
直哉と同じ事を言う時雨に、思わず問い掛けた。
すると時雨は、呆れたように答え始める。
「売られるか捨てられるかのどっちかだと思われてんだろ、だからこう言う消え物が一番お前には合ってんだよ」
「流石に直ぐには売らねぇよ」
「ほらな、売るつもりではあるんだろ。なら、これが一番だろ」
言われてみればそうだと理解出来たが、それでも何と無く心の中でモヤが残っていた。
だからしなくて良かったのに、ターゲットを殺して減額と時雨に言われるは目になった。
「お前なぁ、殺すなって言っただろ」
「誕生日だから許してくれよ、時雨ちゃん」
「それなら、お前のプレゼントで手打ちしてやるよ」
「なら減額でいいわ。返せ、それ」
預けておいた直哉からのプレゼントをちらつかせる時雨から、奪い取って減額について了承した。
目を見開いて驚く時雨を尻目に、直哉から貰ったプレゼントを片手に帰路に着く。
あの家に居た時は、大晦日のくそ忙しい時期で祝われる事すらなかった。
寧ろ、無いものとして扱われていたのだから当然の対応ではある。
でも唯一こうして祝ってくれたのは、直哉だけだった事を思い出す。
「あ……」
俺があの家を出る前に、直哉がポツリと呟いた言葉があった。
「甚爾君、これも置いてくん?」
「必要ねぇから置いてく」
「……そっか。なら早いけどはこれにするな。風邪、引かんでね」
必要最低限の荷物だけを持ってあの家を出るしかなかったから、直哉から貰った物は置いてきた。
必要無いと最初に切り捨てたのは、俺の方だった。
「あいつも、律儀に覚えてなくていいのにな」
思い出した記憶と共に、吐き捨てるように呟いた。