髙羽から好きだと言われて、私は短くそうと返した。
千年間、体を移し替えていたが、引く手数多だったのは変わらなかった。
だから、髙羽から告白された時に軽く溜め息を付く。
相方である君もかと思いながらも、私は淡々と告白の返答をした。
「私は、君の事を相方以上には思えないよ」
「そっか。ごめんな、聞いてくれてありがとうな!これからも、相方としてよろしく」
告白した髙羽は、何処かスッキリした顔をしていた。
チクっとした胸の痛みに首を傾げつつ、髙羽との相方関係が保つなら、それでいいと思っていた。
だって私を楽しませてくれる唯一の存在なのだから、相方で居てくれなければ困る。
「君は私の唯一なんだからさ」
そんな事があってから、暫く経った頃だったと思う。
「羂索、俺帰りに予定あるから」
「最近多いけど、ピンの仕事は受けるなって言ったよね?」
最近、髙羽が一人で先に帰る事や残る事が多くなった。
ピンの仕事の話は聞いていないし、テレビもラジオも配信もない。
なら、秘密裏に行われている企画か何かだろう。
そろそろ探りを入れてもいい頃合いだと思って、髙羽に聞いてみる事にした。
すると髙羽は、あーと視線を逸らしながら言い淀む。
やっぱりピンの仕事かと思って目を細めると、髙羽がもごもごと口を開いた。
「あー、その。恋人出来てさ。今日は、デートなんだよね」
「は?」
思っていた以上に大きな声が出て、自分でもびっくりした。
髙羽に恋人って、何。
だって、髙羽は私が好きだった筈だった。
だから私に告白だってして来たのに、何で他の人間に現を抜かしているのか意味が分からない。
「だから、そろそろ帰らないとぉおお!?」
そそくさと帰ろうとする髙羽の襟を掴んで、思い切り引き寄せた。
急に近くなった私の顔に、髙羽が一瞬だけ視線を向けて直ぐに逸らした。
耳を見れば赤く染まっているし、やっぱり私の事が好きだと言う事がひしひしと伝わってくる。
「ねぇ!君さぁ!私の事が好きって言ったのに、知らない奴と付き合ってんの!」
「いや、だって、羂索。俺の事フッたじゃん!?」
「諦めないでよ!そこは、振り向かすとか努力するモノじゃないの?」
自分で言っていても理論的じゃないのは分かっているし、私が髙羽の事をフッたのだ。
それは変わらない事実ではあるが、だからと言って髙羽が私を諦める理由にはならない。
こんなに簡単に私を諦めて、どこの馬の骨とも知らない人間に現を抜かすなんておかしな話だ。
「髙羽は、私が好きなんでしょ?簡単に諦められる様な気持ちだったわけ?それな、君にがっかりだよ」
「……羂ちゃん。あのね、俺。気持ちを伝えてフラれたら、きっぱり諦めて相方として隣に居ようって決めてたんだ。だからさ、ごめんね。そろそろ時間だし行くから」
襟を掴んでいた私の手を髙羽が掴んで離させて、襟を直してからリュックを掴む。
「じゃ、羂索。またね」
そのままリュックを背負って、髙羽は私の方を振り向く事なく部屋を後にした。
「たか……」
引き留める言葉が見付からずに、部屋を後にした髙羽に伸ばした手は空を切るだけだ。
「……あれ?もしかして、本気で髙羽を好きだったのか?」
真っ直ぐに私を見つめたた髙羽の目は、揺らめく事はなかった。
人は動揺や感情が揺れ動けば、目に出てしまう生き物だ。
それがなかったと言う事は、つまりそう言う事なのだろう。
『きっぱり諦めて相方として隣に居ようって決めてたんだ』
頭の中で反芻する髙羽の言葉に、胸の奥を鋭い刃物で突き刺されている様に痛い。
グサグサと言葉がナイフになって、胸を何個も貫いていく。
「気付くのが遅すぎた……」
ズルズルとその場に座り込んで、髙羽をどうにか取り戻す方法を考える。
髙羽の反応を見るに、まだ私の事が好きなのだろうだから間に合う可能性が高い。
だからもう一度、私に振り向かせればいい事ではある。
簡単な事なのに、私にはその方法が分からない。
千年生きて来た中で、振り向かれなかった事はないのだ。
「え?どうすればいいんだろ。分からない?この私が分からない?」
ドロっと縫い目から液が染み出て、ズキズキと脳が痛む。
「髙羽。あの言葉は撤回するから、もう一度私を好きになってよ」