「なぁ、凪……」
「ちょ、レオ……これ……。どうしたの?」
「どうしたもこうしたも、なんだよこれ!」
風呂上がり。部屋に戻ってくると、クローゼットの中身がひっくり返っていた。
部屋にひとりでいる間、つまらないからと勝手に漁りだしたのだろう。玲王が、クローゼットの中から引っ張り出したパンツやパジャマを見てケラケラと笑う。「高校生にもなってヒヨコ柄って!!」と、今度は腹を抱えて笑い出した。心外だ。ヒヨコに罪はないし、そもそもクローゼットを勝手に開けたのは玲王なのに。
「何ってヒヨコ柄のパンツとパジャマ」
「ブッ……だから、高二にもなってそれはねーだろ!」
バチンと肩を叩かれる。痛い。でも、上機嫌な玲王の顔を独り占めできるのは至福なので、ついつい文句も飲み込んでしまう。それに、久しぶりの脱獄――ブルーロックから出て、各々休暇を取るようにと言い渡された貴重なオフだった。一週間しかないため、こうして二人だけで過ごせる時間は貴重だ。それに、玲王は実家に帰ってしまうと思っていたから、「せっかくだから、お前んちに泊まる!」と着いてきてくれたのは嬉しい誤算だった。だけど、まさかお泊り初日に、こんなに笑われるとは。一応、今日から一週間、付き合って初めてのお泊まりだよね……? と、ちょっとだけ不安になる。初日からそういうことは期待してなかったけれど、こんなに笑われたら"いいムード"に持っていけない。
「父親のものと混ざるから、区別つくようにってヒヨコ柄にされたんだよね」
「だとしても普通は拒否るだろ!」
「別に着れたらなんでもいいし、洗濯物とか片付けるの面倒くさいし……。ヒヨコ柄のものは俺のだって分かるから、親たちも適当によけといてくれたし……」
「だからってお前なぁ……」
玲王がヒヨコ柄のパンツを摘み上げ、じっとパンツを見つめる。暫くそうやって見つめていたが、つぶらな瞳がじわじわと笑いを誘うのか、また笑い出した。
「ヤッベー! 明日はこれ穿けよ!」
「えー、やだよ」
「っていうか、今すぐこれ穿け!」
あとパジャマも! と玲王にグイグイ押し付けられる。
っていうか、これ、一応恋人の下着なんだけど……? それをこんなに目の前で広げるのはどうなの? と思わずにはいられないが、玲王はどうしても着たところを見てみたいらしい。一生のお願いだから! と、小学生みたいなことを言ってお願いしてきた。ぷぷぷ、とおかしそうに笑って。これにはちょっとムッとさせられたし、仕返ししてやりたい気持ちになった。
「……じゃあさ、玲王が着替えさせてよ」
「は?」
「ほら」
ちょっとだけ乱暴に玲王をベッドに放って、その上に乗り上げる。玲王は、え? と呆けた顔でこちらを見上げた。
「凪……? なんか怒ってる?」
「別に、怒ってはないよ」
玲王の指をスウェットのゴムにかける。「早く、脱がせて」と言ったら、分かりやすく玲王の視線が泳いだ。何処となく、空気感が変わったことにも気付いたのだろう。この雰囲気はよくないのでは? と察した玲王から笑顔が消える。代わりに、緊張の色が伝わってきた。
「いつもみたいに着替えさせてよ。ちゃんとヒヨコ柄のパジャマもパンツも着てあげるから」
「……っ」
「あと、ちなみに、今日は勝負パンツってやつです」
ちょっとでも玲王に意識されたくて、こっそりと耳打ちする。
すると、玲王がハッと息を詰めて、困ったように眉をへにゃりと下げた。